X−メン X-MEN

監督:ブライアン・シンガー
出演:パトリック・スチュアート、イアン・マッケラン、ヒュー・ジャックマン、ファムケ・ヤンセン
    アンナ・パキン、ハル・ベリー、ジェームズ・マーズデン、レイ・パーク

超能力を持つがゆえに孤独で憎悪される対象となったミュータントという存在が出現した。「ミュ
ータント登録法案」を発案して彼らを弾圧しようとする反ミュータント派の上院議員ロバート・ケリ
ーのような人間もいた。そんな中、人間と共存共栄を望むエグゼビア教授率いる一派『X−メン』
と、人間をミュータントが支配する社会を作ろうとする、マグニートー率いるミュータント・テロリス
ト集団の戦いが始まる。

この作品の全編を、超能力を持ち、普通の人間とは違っているミュータントたちの哀しみが彩っ
ている。

少年時代のマグニートーが第二次世界大戦中のポーランドでユダヤ人として弾圧され、両親を
強制収容所に連れ去られるシーンで始まる本作。怒りと哀しみのあまり、彼には金属を曲げて
しまうという超能力が出現するのであった。

次に登場するエピソードは、触れた相手の精気を吸い取ってしまい、相手の能力も一時的に奪
うことができるという力を持つ少女ローグの物語だ。彼女が恋人に初めてキスをしようとして唇が
触れたとき、相手が昏睡状態に陥ってしまう。初めて自分がミュータントであるということを知り、
ショックのあまり家を出てさすらう彼女の危機を救ったのはもう一人のミュータント、ウルヴァリン。
彼は全身の骨格を超合金で覆われており、手の甲から激痛を伴って飛び出る超合金の長い爪
も移植されているという、これまた悲劇的な存在だ。

このように社会的に疎外さたミュータントたちの深い悲しみと情念が中心に据えられた作品であ
り、アクションはほとんどおまけのような感じになっている。原作の『X−メン』は個性的なミュータ
ントたちの超能力合戦というのも大きな特徴で、この映画でも、ミュータントたちがそれぞれその
特殊な能力を発揮する場は与えられていて、それを見るだけでも観客は楽しめるといえば楽しめ
る。だが、人物的な描き込みが迫力を持って伝わってくる存在なのは、前述のマグニートー、ロー
グそしてウルヴァリンだけというのは、ちょっと物足りないような気がする。

特にマグニートー一派のミュータントたちは、単に特殊な能力を持つ化け物としか描かれていな
くて、ミュータントとしての哀しみや人間的な部分を、全くと言っていいほど表現していないので、
非常に薄っぺらな感じを受けてもったいない。悪をしっかり描いてこその、正義のヒーローなのだ
から。よって、憎しみの裏付けもないため、ミュータント同士の戦闘シーンにも迫力が出なくなっ
てしまっている。

これらの欠点を補っているのが、ウルヴァリンのダークヒーローぶり。ミュータントではあるのだが、
『X−メン』という集団に加わることを拒む一匹狼的な存在感。ローグに寄せる複雑な感情。肉体
を何者かによって改造されてしまったという悲劇性。非常に魅力的なキャラクターである。ミュータ
ントの中でもさらにはみ出し者の彼の苦悩を、続編でもっと見たいという気にさせられる。悪役の
総本山マグニートーも、見せ場は十分。アメリカの自由の女神を見ながら「この国は自由と平等の
国だと信じてやってきたのだが、そんなものは存在しない」と言い切ったときのイアン・マッケラン
の狂気を孕んだ、圧倒的な演技には鳥肌が立つほどだ。(しかしなぜか終盤ではマグニートーは
エグゼビアとチェスをしているというのが微笑ましいというかなんというか)

この作品は、続編を想定して作られているので、話そのものは完結しないまま「続く」という感じ
で終わってしまっている。そして、ローグやウルヴァリン以外のミュータントたちは、ただその特殊
な超能力を少しずつお披露目しただけ、というような登場の仕方なので、どうしても物足りなさが
残ってしまうのは仕方ない。本作は、『X−メン』シリーズのプロローグという感じで受け止めるの
が適切な作品であろう。

監督:阪本順治
出演:藤山直美、佐藤浩市、岸部一徳、中村勘九郎、大楠道代、牧瀬里穂、豊川悦司
    内田春菊、國村隼

実家であるクリーニング店の2階に引きこもり、35歳になってもミシンを踏むことしか
できない、さえない女性吉村正子。急死した母親の葬儀の夜、美人だけど嫌味な妹由
香里になじられて正子は彼女を殺害、香典を手に逃避行の旅に出る。逃亡先で正子
は労務者に処女を奪われたり、自転車の乗り方を覚えたり、リストラされたサラリー
マンに恋をしたりして、すこしずつ女性としての魅力を身に付けていく。そして、最後に
流れ着いた大分県でバーのホステスにかくまわれた正子だったが…。

名女優・藤山直美が映画では初の主演作ということで、圧倒的な存在感を見せつけ
てくれる。冒頭、ミシンを踏む彼女の、生きているのに死んでいるかのようなよどんだ
表情が、逃避行を続けていくうちに女らしく、生き生きとしてくる。美しくなってくると言
ってもいいほどだ。妹殺しの犯人が警察の目を逃れて各地を転々とするという物語そ
のものは決して明るくないが、藤山直美のキャラクターの魅力もあってコミカルで爽や
かな印象すら残る作品となっている。大体、半ば強姦された後で「まあいいか」なんて
自分で納得してしまうようなキャラクターに説得力を持たせられるような女優は、他に
は絶対あり得ないだろう。彼女が自転車に乗る練習をしていて派手に転ぶ様、走って
逃げるときのバタバタした足音。足音に力を感じさせるキャラクターだ。こんな彼女なら、
きっと逃げ切れるのではないかと観客に思わせるところは、実にうまい。

正子は、逃亡先でいろんな人に出会う。借金取りに追われるラブホテルのオーナー。
リストラされ、妻子にも逃げられたサラリーマン。かの福田和子をモデルとしている、
同じく逃亡犯の女。足を洗おうとしてなかなかそれができないヤクザの青年。その姉
で、手首に傷があるバーのママ。みんな過去や傷を抱えて生きている。彼らはみな、
社会からはみだしているのだが、それぞれが、正子に出会うことによって、それぞれ
の人生に決着をつけていくのだ。そして、正子も彼らに出会ったことで、変わっていく。
人とまともに触れあうこともできなかった彼女は、人に影響を与え、愛されるようにまで
なっていくのだ。

しかし、苦い物語である。正子が「普通の人」のように人々とコミュニケーションを取れ
るようになり、人間関係を築くことができるようになるには、妹を殺すという犯罪行為が
伴わなければならなかったのだから…。人を殺した以上、当然のことながら警察は彼
女を指名手配し、追ってくる。バーのママと友情を築いても、好きな人に出会えても、正
子はそこから逃げなくてはならない。逃亡先から電話してきた正子にママが伝えた言
葉が胸を衝く。「逃げて、逃げて、逃げ切って、お腹が空いたらご飯を食べて、どこでも
いいから生きていて」。ヤクザの抗争で弟を失ったばかりの彼女の言葉はあまりにも痛
切だ。そして、正子は何が何でも逃げ切る決心をする。ラストの、度肝を抜かされるシー
ンは、正子の生きる力の凄まじさを感じさせられ、同時に鮮烈、かつ爽やかな印象を残
す。

主演の藤山直美はもちろんのこと、よくぞここまで、という豪華な出演陣が、揃いも揃
ってすねに傷を持つキャラクターを見事に演じている。彼らの演技を通して見えてくるの
は、社会的には弱者、クズとさえ見られてしまう人々に対する限りない愛情だ。なかで
も、バーのママを演じた大楠道代のもろさと優しさ、そして強さを同居させた女っぷりに
は誰もが惚れることだろう。人間は愚かだけど、でもそんな愚かな人間をいとおしく思う
作り手の思いが伝わってくる映画となっている。

リプレイスメント The Replacements

監督:ハワード・ドイッチ
出演:キアヌ・リーブス、ジーン・ハックマン、リス・エヴァンス、ブルック・ラングトン

あと3勝でプレーオフに出られるという大事な時期に、NFLの選手はみなストライキに入
ってしまった。困ったワシントン・センティネルズのオーナーはかつての名監督ジミーに、
代理のチームを作ることを依頼。新しいチームを構成するのは、イギリス出身のサッカー
選手や服役囚、元相撲取り、そして学生選抜に選ばれながらもシュガーボールで大失
敗をしたため引退したシェイン。スト破りと選手たちに非難され、しかも最初はバラバラで
どうなることかと思われたチームだったが、やがて勝利を重ねていく。しかしあと1試合と
いうところでストライキも終わった。シェインの代わりに、スター選手マーテルが復帰し、
彼の居場所はなくなってしまうのだったが…。

NFLのスター選手たちがストライキに入ってしまったため、代わりに出場する4試合だけ
の代理選手(リプレイスメント)たち。たとえ彼らは勝ち進んでも、4試合が終わってしま
ったらチームから去らなければならない。プレーオフの大舞台にでられるのは、スト中の
主力選手たちだ。だけど、そのわずかな期間だけでもスポットライトを浴びて、一度は捨
てたフットボールへの夢を見てみたい。というわけで、いろんなところから選手たちが集
まってきた。

前半はコメディタッチで物語が進んでいく。代理選手たちは、揃いも揃って個性派ばか
り。イギリス人の元サッカー選手で、キックは天下一品だがギャンブル好きが災いして
店を乗っ取られそうなナイジェル(リス・エヴァンスが最高に楽しげに演じている)。刑務
所でスカウトされた服役囚。スモウレスラーのフミコ(なぜ男なのにフミコなんでしょう)。
フットボールのセンスは抜群だが耳の不自由な青年。そして、一度だけの大失敗から
自信を失って引退した元フットボール選手のシェイン・ファルコ。チアガールもストに入っ
てしまったことから、ストリッパーのお姉ちゃんたちが代わりを務める。練習シーン、試
合のシーンもライブ感十分で、楽しく見ていられる。

こんな彼らだから、一試合目はうまく行くわけがない。負けを喫した後チームメイトたち
で入ったバーで、スト中の主力選手たちに絡まれ彼らは留置場行き。ところが、彼らは
このままでは終わらないぜ、と刑務所で堅く誓い合い、そして往年のダンスヒット「I Will
Survive」に合わせて踊る。なんとも楽しくて爽やかなシーンだ。それからは、ジミー監督
の巧みなリードもあって、代理選手たちは自分自身の恐れや不安を相手チームにぶつけ
て、本気になって戦い始める。

キアヌ・リーブスは今回、本来は抜群の才能を持っているのに一度の失敗でくじけてし
まい夢を諦めてしまった男を演じている。気は優しく、チームメイトの信頼もある。だけど
その優しい性格が災いし、たった一度の失敗で自分に対する自信を失って「決定力に
欠ける」という烙印を押されているのだ。その迷いを抱えた性格は、フットボールに対し
てだけでなく、彼自身の生き方姿勢にも影を落としている。こんな等身大のヒーロー像
は観客にもきっと共感できるものであろう。

この映画は「2回目の挑戦」がテーマとなっている。ファルコ、そしてチームメイトたちは
一度は人生に失敗をしている。だけど、人生のチャンスは1度だけではない。失敗すれ
ば、もう一度挑戦すればいいのだ。代理選手たちは、4試合という短い期間だったけど、
全力を尽くして人生にチャレンジした。4試合目が終わったら彼らはまたグランドを去る。
だけど、彼らの人生は、この経験で確実に変わった。2回目のチャレンジをものにして、
一つのことを成し遂げた彼らは「自分に対する自信、誇り」を取り戻し、これから素晴らし
い人生を送ることができるだろう。そう確信させる、爽やかなドラマだ。ストーリーは定石
通りで新味はない作品ではあるが。