完全犯罪 Best Laid Plans

監督:マイク・バーカー
出演:アレッサンドロ・ニヴォラ、リース・ウィザ−スプーン、ジョッシュ・ブローリン

ニックは父が亡くなったため、故郷であるトロピコという冴えない田舎町に帰り、リサイクル会社
で鬱屈した毎日を送っている。そこで大学の同級生ブライスに再会。ブライスは大学教授として
この街に招かれて意気揚々としている。飲みに行った二人は一旦別れたが、ブライスからニック
に緊急の要件があると呼び出しの電話がかかってきた。ブライスの豪邸の地下室には、猿ぐつ
わを噛まされ、縛られた女が一人。バーでナンパした女とベッドインしたら、彼女が「レイプされた
」と騒ぎ出し、困り果てたブライスは彼女を縛ったのだという。しかしその女は、実はニックの恋人
リサで、これは二人の計画の一部だったのだ。しかし、彼らの計画の歯車も狂いはじめる…。

どこかほの暗い映像が、アメリカのつまらない田舎町の、どうしようもなく陰鬱な雰囲気を巧みに
表現している。ニックもリサも、こんな街から出ていきたくて仕方がない。特にニックは、父が亡く
なったというのに、期待していた遺産がほとんどなかったということを知って絶望する。ここを二人
で出ていくためにうまい話に乗っても暗転し、さらにその絶体絶命の状況から抜け出すために、
鼻持ちならない友人を騙してもいいと考えるようになる心理がうまく描かれている。同じ大学を出
ているのに、自分は肉体労働をしていて、ブライスは大学教授で豪邸に住んでいる。しかも、話
せば話すほど、ブライスは傲慢で嫌なやつであることが暴露されてくる。こんな奴だったら罠には
めてもいいや、と観客も思うようになる。

ここでリサに一芝居打ってもらって彼をだまそうとする。最初は計画はうまく行きそうだった。ピン
チになっても、何とかうまく切り抜けることができた。が、ブライスもただの嫌味な男では終わら
ない存在だった。一つの罪を上塗りするためにまた嘘を重ね、状況は坂を転げ落ちるように悪く
なる。話は二転三転し、息をもつかせないスリリングな展開で、意外な方向へと物語は走り出
す。そして、最後にはあっとおどろくどんでん返しが待っていた。このオチには、正直言ってやら
れた、と思った。

リサを演じているリース・ウィザースプーンは相当クセモノの女優だ。ふっくらした体と、童顔に
似合わない鋭すぎる視線はどこかクリスティーナ・リッチを思わせる。金髪で胸が大きく、丸顔
だけど、ちょっと長すぎてしゃくれたアゴが、彼女を美人女優からはちょっとずれた存在であるこ
とを主張している。恋人のために好きでもない男と寝るハメにもなるが、ただの従順な女の子で
はなくて、何を考えているのかわからない、腹に一物を抱えているちょっと怪しい女だと思わせ
るのだ。そんな彼女が猿ぐつわを噛まされ、縛られている姿はかなりそそらされる。殴られて唇
が切れ、化粧が流れたひどい顔になってしまっても絵になる存在だ。この作品の成功は、彼女
のキャスティングによるところが大きいと思う。

この映画は、キャラクターの性格設定よりも、緻密な脚本と、独特のうらぶれた雰囲気やスタイ
リッシュさを重視した作品である。プライスを脅す犯人が経済学好きであるという設定もなかなか
面白い。ただ、脚本の良さやキャスティングにくらべて、演出がやや弱く、テンポや派手さに欠け
る点が惜しい。

スリー・キングス Three Kings

監督・脚本:デビッド・O・ラッセル
出演:ジョージ・クルーニー、マーク・ウォルバーグ、アイス・キューブ、スパイク・ジョーンズ

1991年3月。湾岸戦争が終わって停戦となり、砂漠地帯にあるキャンプの兵士たちは帰還の
準備を進めている。そんなとき、降伏したイラク兵から、アーチー・ゲイツ少佐はイラクがクウェー
トから奪った金塊の在処を示した地図を入手する。ゲイツは、トロイ、チーフ、コンラッドを誘ってキ
ャンプを離れ、金塊を手に入れようとする。そんな彼らがイラクの村で見たものは…。

戦争が終わり、戦場にいた兵士たちは喜びながらも、戦ったという実感が薄い。彼らはベースキ
ャンプで流行の音楽に合わせて大騒ぎ。二枚目のゲイツは女性記者とアバンチュールを楽しむ。
「戦争」という言葉とはかけ離れた、軽いノリの兵士たち。降伏するイラクの少年兵士をこともな
げに射殺して、「戦争で初めて人を撃った」と言うトロイ。湾岸戦争では、多国籍軍の死者はほと
んどいなかった。「正義の戦い」のためにイラクまでやってきたのに、どこか物足りない気持ちを
抱いていた彼らは、おもちゃのボールを投げては撃ち落とすという遊びに夢中だ。

そんなかる〜いノリの彼らが、金塊を手に入れてリッチになるべく乗り込んだイラクの村。そこは
多国籍軍の援助を受け、フセインに反抗している反体制派の村であったが、イラク軍によって多
くは捕らえられ拷問されたり殺されたりする。その村であっけなく金塊を手に入れたゲイツたちだ
ったが、反体制派の女性が幼い娘の目の前で殺されるところを見て、彼らはある決心をする。

前半の明るくポップな描写は至極快調。砂漠の強い陽射しを感じさせる、コントラストの強い映像。
集束爆弾を踏んだ牛がバラバラに飛び散る描写の鮮烈さ。肉体に銃弾が食い込む様子を描いた
シュールさ。地図はなんと捕虜の尻の穴に隠されていた!村でイラク軍が隠し持っていたのは、
クウェートから奪った金塊、そして携帯電話、パソコンやオーディオ製品、ブランド物の服。金塊を
運び出すのに役立ったのは、丈夫なヴィトンのバッグ。イラク軍から人々を救い出すために使った
のは、ロールスロイス、キャデラック、日産インフィニティのコンバーチブルなどの高級車。捕らえら
れたトロイは、イラク兵にマイケル・ジャクソンについて質問される。西洋の物質文明が、中東の国
にまで侵入し、政治的・宗教的イデオロギーよりも大きな影響を与えているところを皮肉に描いて
いて面白い。トロイへの拷問が、西側の国が中東地域を重要だと考える第一の原因である石油を
飲ませるという方法なのも、とてもブラックだ。戦争という現実を飛び出して、無許可離隊してまで
クウェートの金塊を横取りするという行為によって一攫千金を狙った彼らの行動も、もちろんアナー
キーだ。

ただ、イラクの反体制派人民が虐待されている様子を見て、急に正義感に駆られるという展開は
いささか唐突だ。同じことをするにしても、もっとアナーキーで偽悪的になってほしかったな、という
気がしてしまう。前半のブラックなユーモア感覚が失速してしまっているのだ。どうも「アメリカの正
義感・良心」を振りかざしてしまうと鼻白んでしまうのである。

もちろん、この映画には当時のアメリカの政策への批判が含まれてしまう。アメリカを中心とした多
国籍軍は、イラクの反体制派をけしかけ、フセイン失脚のクーデターを起こさせようとしていたが、
最終的に西側は彼らを見捨ててしまい、反体制派は軍によって弾圧されてしまった、という事実は
かなり知られている。この作品では、このアメリカの動きを批判し、良心に目覚めた兵士たちがた
った4人でイラクの人民と共に戦うという筋書きだ。心意気は大変よろしい。でも、結局「アメリカ人
の正義感バンザイ」になってしまっている。とにかく金塊を持ち帰ってリッチになろう!という心理か
らイラクの人民を助けよう、という所に行き着くまでの心境の変化を起こさせた葛藤をもっと見せて
欲しかった。

このように批判をしてしまったが、この作品の姿勢は大変好ましい。アメリカ政府の批判をブラック
ユーモアで描いている点。西洋の物質文明がイデオロギーよりも大きな力を持っている点。そして、
敵役のイラク軍兵士も決して悪人ではなく、一人の人間としてちゃんと描かれているところだ。この
作品で一番インパクトがあったのは、捕らえられたトロイと、彼を拷問するイラク兵との対話。お互い
の、この戦争に対する思いが正直に吐露される。イラク兵が「世界ではたくさん紛争が起こっている
のに、中東地域にだけ介入するのはなぜだ(1991年なので、ボスニア紛争はまだ起きていない)。
それは石油があるからだ」と訴えるし、また多国籍軍の爆撃で幼い娘が死んだときの様子を映像
で語ることにより、トロイも、もし自分の家が爆撃されて妻や子が殺されたらどうなるだろうかと想像
し、実際に彼の家が爆撃され妻子が倒れる映像が画面に現れる。このような描写は初めて観るも
ので非常に斬新な演出である。戦争映画で、ここまで自分が戦っている相手の身にもなって考える、
という作品は少ない。

批評精神旺盛で斬新、すごく志の高い映画であるだけに、惜しいと思ってしまった。後半のアメリカ
人の正義感バンザイ、という唐突な展開さえなければ満点に近い点数を上げられたのに。いい映画
だと思うし、ぜひ見てもらいたい作品ではある。

真夏の夜の夢 A Midsummer Night's Dream

監督:マイケル・ホフマン
出演:ルパート・エヴェレット、ミシェル・ファイファー、ソフィー・マルソー、キャリスタ・フロックハート
    ケヴィン・クライン、スタンリー・トゥーチ、クリスチャン・ベール、サム・ロックウェル

かのシェイクスピアの有名な戯曲を、19世紀初頭のイタリア、トスカーナ地方を舞台に移した作品。
自転車が日常生活の中で使われるようになったり、蓄音機が出現したりして、少しずつ世の中にも
開放感が出てきた時代。公爵の娘ハーミアはディミトリアスと婚約していたが、彼女はライサンダー
と恋におちていた。ハーミアとライサンダーは駆け落ちしようと森へと出かけた。ディミトリアスに片思
いのハーミアの親友ヘレナは、彼らの駆け落ちをディミトリアスに告げ、二人も森へ。さらに、大根役
者のボトムはリハーサルを行うため、演劇仲間と森へ出かける。その森では、妖精たちが宴を行って
いた。妖精王のオベロンは、女王タイタニアと喧嘩をしているところ。オベロンはいたずら好きの妖精
パックに命じて魔法の赤い花の汁をライサンダーの目に垂らすのだが、ライサンダーは目覚めて一
番最初に見たのがヘレナだったため、彼女に恋し、大混乱が起きるのであった…。

トスカーナ地方の美しい自然の中、妖精たちのファンタスティックな宴が繰り広げられる。オベロン役
のルパート・エヴェレット、タイタニアのミシェル・ファイファーと妖精の王たちは美男美女揃いで、目に
も快い。でも、人間たちはあくまでも人間くさいのがミソ。いたずら好きのパックを演じるのがハゲた
おじさんスタンリー・トゥーチというのは異色だが、かえってユーモラスに感じられていていい。そして、
ヘレナ役は「アリー・マイ・ラブ」のキャリスタ・フロックハートで、アリーそのままの役柄を楽しそうに演
じている。魔法の花の汁のせいで恋敵になりいがみ合うヘレナとハーミアが、泥の沼に落ちてしまい、
さながら泥レスのように全身泥まみれになって取っ組み合う場面はすごくおかしい。「チビ」「旗竿のよ
うな痩せっぽち」と親友同士が罵り合うところは、笑っちゃいけないのだけど大笑いしてしまう。

やっぱり役者だなぁ、と思わせてくれるのが、大根役者ボトム役のケビン・クライン。家庭そっちのけ
で芝居に熱中する彼は、森の中、パックのいたずらでロバに変えられてしまい、さらに魔法の花の汁
を目に入れられたタイタニアに恋されてしまう。ロバに変えられても、ちゃんともともとのケビン・クライ
ンの顔がわかって、間抜けだけど愛嬌がある感じがするのがいい。無事に人間に戻り、帰ることが
できた彼が、劇団の仲間たちと演じる舞台(ロミオとジュリエットのような悲劇)がまた最高におかしい
のだ。白塗りで女装したサム・ロックウェルやら、壁に扮した役者とか、もう腹を抱えて大笑いしてしま
う。

舞台を19世紀に移したことで、とても生き生きとしていて、新鮮で楽しいシェイクスピア作品になった
と思う。自転車や蓄音機といった小道具も効果的に使われているし、中世から近代へと変わりつつあ
る時代ということで、時代の変わり目特有のフレッシュさが感じらられる。キャラクターの中で面白いの
はヘレナ。彼女は、ディミトリアスに恋しているのに相手にしてもらえず、自分は醜くて魅力に乏しい存
在だと思ってしまっている。パックのいたずらで、ディミトリアスもライサンダーも彼女に恋するようにな
っても、バカにされてしまっていると思いこんでいるくらいだ。しかし、彼女も最後には本当の恋を知る
ことで自分に対する自信を取り返すのだ。

とても有名な原作がある作品なので、大きく予想を覆されるような映画ではない。しかし、夏の夜に
美男美女たちが繰り広げる、めくるめく恋の大騒ぎ、華やかなセット、ヴェルディやメンデルスゾーン
の音楽、そして笑いと、とっても贅沢で楽しい作品。