監督:ジェームズ・フォーリー
出演:チョウ・ユンファ、マーク・ウォルバーグ、リック・ヤング、ブライアン・コックス
ニューヨーク市警(NYPD)15分署の管轄はチャイナタウン。ここで、チャイニーズ・マフィアの
犯罪に目を光らすのは、ニック・チェン警部。不法入国の若い中国人女性たちが連続して殺
された事件を捜査すると共に、爆破事件を起こした新興勢力「福建ドラゴン」の組織を壊滅す
べく捜査に当たっていた。アジア人ばかりのアジア犯罪取締班に、一人の若い白人警官ダ
ニー・ウォレスが配属されてきた。最初なかなか溶け込めず、チェンにもつらく当たられるウォ
レスだったが、やがて二人は強い絆を結んでいく。しかしながら、チェンはチャイニーズマフィ
アの一大勢力「トン」の大物リーと癒着していた…。
アメリカの中の中国人社会に飛び込んだ若い警官ウォレスは、異文化の中で苦闘する。こ
こでは白人である彼がマイノリティなのだ。弁護士を辞めて警官になった彼は、NYPD15分
署の中でも異色の存在。彼とコンビを組んだチェンは、彼に厳しく当たり、なかなか気を許さ
ない。しかしながら、持ち前の正義感の強さを発揮したウォレスはチェンの危機を救い、二人
は友情という絆で結ばれていく。
チャイナタウンは独特の掟が存在する場所であり、マフィアとの付き合いなしでは、捜査もう
まく行かない。したがってチェンはマフィアと癒着している。チェンは、「ウォレスだけには手を
出すな」とリーに言う。自分は悪に染まってしまったが、彼にだけはクリーンでいて欲しかった
のだ。が、ウォレスにも弱点はあった。彼の父は元警官だったが汚職が元で職を追われ、今
はギャンブルに溺れ借金取りに負われる身分なのだ。その弱みを見逃さず、すかさずつけ込
んでくるのが、マフィアの恐ろしいところである。やがて、お互いのことを信頼していいのか、
疑心暗鬼になっていき、善悪の間で揺れる二人だった。
職務と友情、正義感と父親への愛の板挟みとなって苦悩する若い警官を好演するのはマー
ク・ウォルバーグ。繊細な感情表現も的確に表していて、実にいい役者に成長している。そし
て、清濁あわせのみながらも、ウォレスには父親のような愛情で接する汚職警官のチョウ・ユ
ンファは持ち前のカリスマ性を発揮。二人の葛藤、苦悩、そして絆を描いた脚本もよく練られ、
あっと驚く真相も用意されている。ラストでウォレスがチェンに示した態度には思わず涙してし
まう。近年珍しいほどの、男臭いドラマだ。
しかし、どうしても、警官対マフィアの物語でチョウ・ユンファが出演しているとなると、「男たち
の挽歌」シリーズと比べられてしまうのが宿命。警察の内幕ものとしても大変良くできている
けれども、あの香港ノワールの傑作に込められた情念には及ぶべくもない。何より残念なのが、
チョウ・ユンファのアクションの見せ場が、冒頭10分程度しかないということだ。やっぱりどうし
ても彼が二丁拳銃で思いの丈をぶちまける様、そして男気をこれでもかと発揮したところを見
たい、ユンファ兄貴の熱い想いに泣かされたいというのが、ファン心理である。同じ脚本で、ジ
ョン・ウーなんて贅沢は言わないから、ツイ・ハークかリンゴ・ラムが監督していたら、きっとす
ごい作品になっただろうから、惜しい。
また、チャイナタウンの内部があまりにもネガティブに描かれているのが、気になってしまう。
まともな中国人は、警察官しか登場しないわけだから。でも、やっぱりチョウ・ユンファはかっ
こいい!銃の構え方一つ取ってもサマになる。今回は悪のワイルドな魅力も発揮しているし、
ファンとしては、彼の活躍している姿を見るだけで満足。
監督・脚本:塚本晋也
出演:塚本晋也、真野きりな、中村達也、村瀬貴洋、井川比佐志、鈴木京香
恋人を拳銃自殺で失った合田。彼は拳銃と死に取り憑かれ、拳銃を手に入れるために夜の
東京を奔走する。不良グループにボコボコにされた彼は、そのグループの中でやはり死に魅
せられた少女千里に出会う。不良グループの少年たちは、暴力、そして死すらもゲーム感覚
で捉えていた。そして、不良グループ同士の戦いが始まり、合田もその中に身を投じる。
塚本晋也独特の尖った感覚が発揮された、ひりひりするような緊張感あふれる一本。無国籍
な夜の都会で、死の誘惑、絶望感が疾走する前半のシャープさは実に強烈だ。拳銃に取り憑
かれた合田は、恋人がその命を絶った銃と同じものを手に入れるため、夜の街、ヤクザや怪し
げな外国人と交渉するが、なかなかうまくいかない。しかし、同じものを手に入れないとダメだ
という強迫観念から逃れることができない。中でも、彼が戦争映画の銃弾が放たれる場面ば
かりを見て、自分でも手作りの銃を構える場面は血が騒ぐほどのスタイリッシュさ。彼の中の
狂気がこちらにもうつってきそうで、コワイ。不良少年たちは、合田の世代とは全く違った常識
で生きている。そんな10代の少年たちと、中年のしょぼくれた男が戦おうとすること自体、狂
気の沙汰なのだが、そんな狂気に彼を陥れた、悲しみと絶望の深さ、喪失感を思うと、もう痛
くて仕方ない。
同じように死に取り憑かれた少女千里。しかし、彼女に本当に死の意味が分かっているのか
どうかはわからない。何を考えているのか全く理解することのできない存在ではあるが、やが
て合田と彼女の心は通じ合うようになる。奪われた拳銃を取り返すため、合田と千里が携帯
電話で連絡を取り合いながら走るシーンは、ひたすら美しい。ラスト、ようやく恋人の死を乗り
越えることができた合田、生きることを選んだ千里、二人が全く違う方向へと駈けて去って行く
場面は、不思議な爽快感がある。
果たして、千里たちのような不良少年の軍団が今の東京にあるのかどうかは疑問。あんな黒
ずくめでカッコいい、しかし古典的な不良グループの存在というのは、もはやノスタルジーの世
界にしか存在しない気がする。でも、とにかくかっこいいのだ。なんといってもリーダーを演じた
ブランキー・ジェット・シティの中村達也が体現する闇と暴力、その迫力と存在感がすごい。彼
らが横並びに歩いていく画面の美しさにはもうしびれてしまうしかない。真野きりな演じる千里
は、なぜあれほどまでに死に魅せられ、そして合田と心を通い合わせるようになったのか、説
明はほとんどない。映画としてもこのあたりが少々中だるみしている。それでも、彼女もまた、
存在感は強烈である。ちょっと宇宙人っぽい顔立ち、長くて細い手足と独特の表情。彼女が大
きく手を広げて合田を包み込む場面のどこか母性を感じさせるポーズには、心を動かす何かが
ある。
この作品は、具体的な物語そのものよりも、一つ一つのシークエンスの、闇に支配された画面
の美しさ、緊張感、そしてその場面に流れる感情の奔流に陶酔する、そんな映画である。死と
暴力の果てに見えた、ヒリヒリするような愛と、再生。闇そして絶望の中から生まれた希望。観
る者にも、生きる力を与えてくれる作品である。ノイジーな音楽も最高。
ニコラ Nicolas
La Class de Neige
監督:クロード・ミレール
出演:クレモン・ヴァン・デン・ベルグ、ロックマン・ナルカカン、イウ・ヴェローヴェン、フランソワ・ロイ
ニコラは12歳になっても、おねしょの心配をしている内気な少年。医療機器のセールスマンを
している彼の父親は彼に並々ならぬ愛情を注ぎ、学校のスキー教室に参加するにも、事故を
心配してみんなと同じバスではなく、車で送るほどであった。着替えを車のトランクに忘れてし
まって、いじめっ子のオドゥカンにパジャマを借りるハメになったニコラ。クラスメイトにも心を開け
ない彼は、やがて現実と夢の区別が付かなくなってしまい、恐ろしい夢ばかり見るようになる。
そして、彼の悪夢の一つが、現実となった。
序盤から、ニコラの父親がとても異様な印象を与える。かつて、ニコラとその弟を遊園地に連れて
いった父は、ジェットコースターにニコラが乗ることを止め、「一人になってはいけない。子供を誘拐
しては、内臓を抜き取る臓器密売人がいるからだ」と話してニコラを心の底から震え上がらせ、恐
怖心を植え付ける。父の手首には、自殺未遂の痕がある。
スキー教室に行く際も、昨年バスの事故で子供たちが死んだ話を持ち出して、ニコラだけはバス
に乗せない。過剰な父の愛情がもたらす支配に対して、ニコラは父に対してある種の憎しみを抱
く。スキー教室の宿泊所のテレビに、父親が事故に遭って無惨な死体になっている映像を見るし、
父親がテロリストに射殺される夢も見る。しかも、彼は現実と夢や妄想の区別が付かなくなって
しまうのだった。
雪に覆われたこの場所でニコラが見る悪夢の一つ一つが、美しくも恐ろしい。彼が夜寝られず、思
わず読んでしまった怪奇譚『猿の手』によって引き起こされる想像には、戦慄を覚えるほどの恐怖
を感じた。3つ願いを叶えてくれる「猿の手」で願いをしたニコラの両親は、その結果ニコラを恐ろし
い目に遭わせたのに、彼を受け入れようとしないのだ。本当は両親に愛されていないというニコラ
の意識の反映である。バラバラにされてしまったニコラの姿は思わず脳裏に焼き付く。
そして、雪深いこの村で、子供が誘拐され殺されたという事件が、スキー教室の生徒たちを震え
上がらせる。そして、そのことは、ニコラにまた新たな妄想を起こさせる種となるのだ。唯一、学校
で仲が良くなった少年オドゥカンにその妄想を打ち明けたことが、思わぬ結末を招く。彼が心の奥
底深く願い続けたことが、ついに現実となってしまったのだ。その結末は、一般的にいえば悲劇な
のだが、ニコラにとっては、それが一つの救済となる出来事であった。
ラスト、教師に連れられてドライブインに入ったニコラが目撃するのは、美しい女性と、その赤ん坊、
そして彼女の夫。ニコラが手に入れようとしても、手に入れられなかった関係だ。しかし、その幸せ
そうな親子を見ることで、彼はこれまでの不幸な親子関係から脱出して、新しい人生に歩き出すこ
とができるようになるのだろう、そう願いたい。
美しくも恐ろしい、青みを帯びた雪山の映像。『シンプル・プラン』しかり、『ファーゴ』しかり、『スウィ
ート・ヒアアフター』しかり、雪には、どこか人を狂わせるものがある。現実と妄想の間を行き来して
区別できなくなったニコラの心理が、まさしく悪夢のような恐怖で、じわじわ迫ってくる。その端正な
恐怖が、引っかかったトゲのように心に残る、作品。ニコラ役クレモン・ヴァン・デン・ベルグの美少年
ぶりも、この静かな恐怖を増幅するものである。