エリン・ブロコビッチ Erin Brockovich

監督:スティーブン・ソダーバーグ
出演:ジュリア・ロバーツ、アルバート・フィニー、アーロン・エッカート、ピーター・コヨーテ

エリン・ブロコビッチは実在の女性で、全米史上最大の和解金額を手にした人物。元ミスコンの
女王だけど、バツ2で3人の子供がいて、学歴も貯金もキャリアもなく、ミニスカートと胸の谷間
が最大の武器。そんな彼女が、押しかけて強引に雇ってもらった法律事務所で、たった1枚の
書類から公害事件を暴き出す。

ストーリーそのものはさほど派手でもなく、単純なものだ。一人の女性が、公害をもたらす大企
業と戦って、結果巨額の和解金を勝ち取るというサクセス・ストーリー。彼女がふとしたことから
公害に気づき、工場のそばに住む住民たちに会いに行ったり、水道局にデータを取りに行ったり、
毒物学の教授に話を聞いたり。地道な作業、そして住民たちへの説得、合意の取り付け。主人
公がエリン・ブロコビッチという女性でなければ、そしてジュリア・ロバーツというスターが演じた
のでなければ、地味な社会派映画として終わっただろう。

この映画が成功した原因は、ヒロインであるエリン・ブロコビッチの強烈なキャラクターを中心に
据えたことにあると思う。お金も学歴もない子持ちの独身女性。普通に考えれば、マイナス条件
ばかりを備えていた。だけど、彼女は、それらのマイナス点をすべてプラスに逆転させたのだ。
たしかに、ハンディを抱えてはいるけど、彼女は、ロースクール出身のエリート弁護士が持って
いないものを持っている。それは、ガッツとバイタリティだ。

エリンは交通事故の裁判で知り合った弁護士エドの事務所に、無理矢理押し掛け、強引に雇っ
て貰う。自分自身、そして子供たちを養うために必死だから、カッコつけてなんていられない。な
んとかして、「土地の調査」という仕事を探し出して、自分がここにいる意味を見つけだす。でも、
事務所の女性たちに嫌われても、自分の好きな派手でセクシーな服は着続けるというプライドは
あった。そして、子供たちを抱え苦労しているからこそ、公害に苦しむ人々の話に真剣に耳を傾
けることができ、彼らの信頼を勝ち取ることができたのだった。

ガッツとバイタリティの他に持っているものは、ナイスバディと、3人の子供、そして心優しいバイ
ク野郎のボーイフレンドだけ。
そんな彼女が、この仕事にここまで真剣に取り組むことができたのは、これまでは学歴がないと
いうことで世の中からバカにされてきた彼女が、地域住民から尊敬を勝ち取ることができ、初め
て自分に対してプライドを持つことができたからだ。

エリンという女性は、派手で、口が悪く、そして我が儘なところがある女性だ。こんな人がまわり
にいたら、嫌な女だと思うかもしれない。ところが、彼女を演じたジュリア・ロバーツの力量もある
と思うが、全く嫌味がなく、気持ちの良い元気なお姉ちゃん、という印象を与える。とにかく本音
爆発で毒舌家、場合によってはとても下品なことまで言うのだけど、彼女の切る啖呵には思わ
ず快哉を叫びたくなる。彼女の生き方が、本音で世の中の矛盾を告発し、大企業と対決できる
という勇気を持った、一本筋が通ったものであるからだ。

結末はあらかじめわかっているものではあるけれども、映画の終わり方のひねりは実に上手い。
そして、一見地味な素材を見事にエンターテインメントに仕上げることができたのは、ジュリア・ロ
バーツの魅力もさることながら、彼女が働く弁護士事務所のボスを演じるアルバート・フィニーの
軽妙な受けの演技もあるだろう。最初は、来るべき隠居生活のことばかり考えていて、まるで彼
女を相手にしないエドは、やがて彼女と名コンビを組み、口の悪さまでうつってしまったほどだ!
彼らのやり取りはまるで夫婦漫才のようで、とにかく笑える。ジュリアも、世界のスターとか、お嬢
様とかでなく、こういうちょっと下品な労働者階級のお姉ちゃんというのが一番合っている気がす
るし、本来の魅力を発揮できている。

ミッション・トゥ・マーズ Mission To Mars

監督:ブライアン・デ・パルマ
出演:ゲイリー・シニーズ、ティム・ロビンス、コニー・ニールセン

西暦2020年。火星に着陸した一行が謎の砂嵐に巻き込まれ、一人を残して全員死亡、残る一
人ルークも連絡を絶ってしまう。ルークを救出するために、火星に向かった宇宙飛行士たち。同じく
宇宙に夢を馳せていた妻を失ったばかりのジム。操縦士のウッディそしてその妻テリーという仲む
つまじい夫婦、そして科学者のフィルという4人が、6ヶ月かけて火星に向かった。彼らが火星で見
たものは…。

なんだかとんでもない底抜け作品を観てしまった、というのが率直なところ。序盤の火星での大嵐
の後に出現した人面岩、一体アレはなんだ!ビジュアル的な衝撃という意味では、ラストに登場す
る神田うの似の宇宙人も無茶苦茶ヘンだ。そして、細かい点をツッコミ出すときりがなくなってしま
うほどの脱力作品。

3人もの仲間が命を落としてしまった火星へ、危険な救出ミッションに出かけたというのに、クルー
はみな恐ろしいほど緊張感がない。宇宙船に乗っているとき、数回危機に陥るが、警報装置の声
がやたらたるくて、緊張感を思いっきり削いでいた。ほとんど酸素がないのに、まわりから注意をさ
れてもヘルメットをかぶらないで作業するジム。大事故が起きても、みんな平静なのはとってもヘン。
地球や宇宙ステーションとのやり取りもほとんどなくて、なんか不自然。

ウッディとコニーが仲がよいのはいいんだけど、奥さんを亡くしたばかりのジムの前でいちゃつくの
はいかがなものか。無重力状態を生かし?ヴァン・ヘイレンの「Dance The Night Away」に合わせ
て脳天気に踊っているし。2020年でも、ヴァン・ヘイレンはまだ人気があるのだろうか?そもそも
地球にいたときから、果たしてこれは20年後の近未来なのだろうか、と思ってしまうほど、現代と
何も変わっていなかった。そもそも、夫婦で仲良く宇宙にいくのってなんだかイカン気がする。とっ
さの時の判断も鈍るだろうし、新婚旅行じゃないんだから、と思っていたら、予想通り、愛が試され
る場面があった。夫婦の愛のために、他の人の命まで危機に陥れちゃダメでしょう。

なんか宇宙ものの割には、わくわくさせれる発射シーンもないし、たるくて緊張感がなく、肝心の火
星に到着するまでやたら時間がかかっているというのが、ダメなんだなぁ。そして、最後には宇宙の
起源がとってつけたように説明され、それを聞いて簡単に洗脳され、あっちの世界へと旅立ってしま
ったゲイリー・シニーズ。もはや茫然とするしかない。途中で監督がデ・パルマからエド・ウッドに替わ
ってしまったという説もうなずけてしまうほどだ。

でも、宇宙船の造形といい、宇宙服のデザインといい、ビジュアルは昔の宇宙映画とほとんど変わら
ないこともあって、なんか古典的で懐かしい、出来の悪いけど笑えるSF作品を観たという風に思えば、
腹も立たない。ツッコミまくるという楽しみかたができたわけだし、そういう意味では見て損はない作
品だったのかもしれない。

エニイ ギブン サンデー Any Given Sunday

監督:オリバー・ストーン
出演:アル・パチーノ、ジェイミー・フォックス、キャメロン・ディアス、ジェームズ・ウッズ、デニス・クエイド
    LLクールJ、マシュー・モディーン

鬼コーチ、トニー・ダマトが率いるアメリカン・フットボールのチーム「マイアミ・シャークス」は、連戦連
敗。彼は、商業主義最優先の若き女性オーナー、クリスティーナとも衝突。危機に陥ったチームを救
ったのは無名の新人選手ウィリー。だが、あっと言う間にスター選手となった彼の存在は、新しい問
題を生み出すのであった。

すべてが過剰であるといっていい映画だ。もともと、アメリカン・フットボールというスポーツそのもの
が、マッチョで暑苦しい、脳味噌まで筋肉でできているアメリカを象徴するような競技であるというこ
ともある。きっとオリバー・ストーンはアメフトを通してアメリカを描こうとしていたのだろうと思うのだけ
ど。流石オリバー・ストーンと言うべきか、尋常ではない、狂った作品といえる。

鬼コーチを演じるアル・パチーノは、「インサイダー」に続き、全編暑苦しい演技で怒鳴っているばか
り。彼はひたすら、体育会的な精神論ばかりを説く。急速にスターダムにのし上がった若き選手ウィ
リーが、チームワークよりも何よりも、勝つこと、そして自分がナンバーワンになることが大事だと語
っているのを聞いて呼びつけ、説教する。大事なのは勝つことだけではなく、男としていかに戦った
ということ、そして仲間をどれだけ大切に思うか、ということ。自分のためにだったら命すらも投げ出し
ていいと仲間に思われるような存在になれ、と。実際、選手の中には、これ以上プレイして負傷すれ
ば死ぬか半身不随になる可能性が高いと言われながらも、そうなっても構わないと考えてプレイする
ヤツまでいる。ダマトもそうやってアメフトだけの人生を送ってきたためか、妻子に捨てられひとりぼっ
ち、フットボールをとってしまったら何も残らない、ある種狂ってしまった男となっている。

そんなふうに、精神論、根性論を暑苦しく説教するダマトだが、チームのオーナーであるクリスティー
ナには、「あんたは年なのよ」と言い放たれてしまう。彼女は、ダマトや選手たちと違って、特にアメフ
トを愛しているわけではない。チームを父親から引き継いだ彼女は、フットボールは商売の道具としか
考えていないのだ。花形ポジションのクオーターバックには、ベテラン選手でこれまでチームに貢献し
てきたキャップよりも、チームワークは乱してしまうけど華々しいウィリーを重用したがる。しかし、彼女
は彼女で、男ばかりの世界で精一杯背伸びし、女らしさを捨て、突っ張って生きているのだ。

試合を重ねていくうちに、ようやくチームワークの大切さに気がついた選手たちが勝利をもたらすとい
う、ストーリー全体の骨格はさほど目新しいものではない。アメリカン・フットボールという国民的スポ
ーツを取り巻くいろんな人々の思惑や当事者の葛藤、そしてフットボールでしか生きられない、他に
は何もないダマトという男の生き様もというのもメーンのテーマではあると思う。でも、この作品の魅力
というのはそこに留まらない。

この作品の過剰さ、過激さはなんといっても試合のシーンに最大限発揮されている。肉体がぶつかる
たびに起きる、重々しい轟音は、砲弾が当たった音のように聞こえる。骨がきしむ音、飛び散る汗。異
様なまでに多いカットの数。まるで戦争映画の戦闘シーンを観ているかのようだ。地面を這うカメラと、
時折挟み込まれる別のカット。圧倒されて言葉を失うほどだ。血反吐やゲロがぶちまけられ、終盤で
は、なんと目玉まで飛び出るという過激さ。かと思ったら、雨の中試合を戦うところなどは「七人の侍」
を思わせるようなリリカルでスタイリッシュな映像を見せつけてくれたりして。ロッカールームでは、オ
ーナーである若くて美しいクリスティーナがいるというのに、平気で大きなちんちんを見せつけたり、彼
女を口説いて見せたりしていてほとんど嫌がらせである。しかしそうやって映像表現で遊んでいる部分
が楽しくて、長い上映時間の間も全く飽きることはなかった。最後のオチの付け方も鮮やかで一杯食
わされた気分。