白い刻印 Affliction

監督・脚本:ポール・シュレイダー
出演:ニック・ノルティ、ジェームズ・コバーン、シシー・スパイセク、ウィレム・デフォー

雪に閉ざされた田舎町に住む警官ウェイドはつらい人生を生きてきた。娘は離婚した妻がを引き
取ったが、面会に行っても娘は彼になつかない。彼の父グレンはアル中で、ウェイド、そして弟
ロルフが子供の頃、彼らを容赦なく殴った。ロルフはやがて街を出て行き、都会で大学教授に
なったが、ウェイドは町に残った。狩猟期にこの町で、組合の幹部トワンブレーが事故死すると
いう事件が起きる。独自に捜査を進めるウェイドであったが、父親に暴力を振るわれた暗い過去
が甦り、そんな自分も父親の血を引き継いでいるということに慄然とする。彼が幸せになりたい
と思う一心でしたことが、悲劇を引き起こしていく。

これは、ウェイドという人間が、運命、そして父親から受け継いだ血と暴力の呪縛という強烈な
ものに戦いを挑んだ、一つの崇高な闘争の物語である。

ウェイドが望んだのはたったひとつ。愛する娘の親権を得て、温かい家庭を築くこと。そのため
には恋人のマージと結婚をして、金持ちの男と幸せな再婚生活を送っている妻から娘の親権を
取り返さなくてはならない。マージを両親に紹介しようと、父親の家に寄ったウェイドは、ボイラ
ーの事故で死んでしまった母親の姿を目の当たりにする。父親のことが心配になり彼はマージ
とともにこの家に住むことになるのだが、それが悲劇の始まりだった。普通の幸せを求め、娘に、
そして恋人に深い愛情を持っているごく平凡な男が、このことをきっかけに犯罪者へと変貌して
いく。

ウェイドの脳裏には、幼い頃父親から受けた仕打ちが悪夢のように甦る。年老いた今も、父親
は相変わらず酒を飲んでは暴れている。ウェイドはあれほど憎んだ父親と同じように酒に溺れ、
暴力を振るう人間となってしまった自分に気づき愕然となる。どんなに父のことを憎んでいても、
ウェイドはその暴力性を引き継いでしまった。その悲しくも恐ろしい運命。抗おうにも、体の中に
刻み込まれてしまった刻印のようだ。幸せになろう、この運命の呪縛から逃れようともがくことに
よって事態は悪化し、さらに坂道を転げ落ちるように人生の暗闇へとウェイドは落ちていってしまう。

グレンはそんなひどい父親ではあるが、しかし息子を、そして妻を愛していた。ウェイドの母親の
葬式の時に集まった子供たちに対し、酔っぱらったグレンは「おまえらは、この女の髪の毛一本
の値打ちすらない」と悪態をつく。そしてラスト、グレンの「お前を愛している。お前は俺と同じだ」
という言葉にウェイドは逆上し、取り返しのつかない事態が起こる。父として、子として愛してい
るがゆえに、二人の間の憎しみはより深いものになっていたのだ。その業の深さといったら…。

なつかない娘や別れた妻によって引き起こされた惨めな感情。勝つ見込みの薄い親権裁判。
耐え難い歯の痛み。それに加えて、同居した父との軋轢。悪夢のような過去。それらですでに
イライラが頂点に達していたウェイドは、トワンブレーの事故が実は殺人事件なのではないか、
事件の裏には陰謀が隠されているのではないか、黒幕は雇い主ではないかという妄想を抱く。
妄想はエスカレートし、ウェイドは苦悩し追いつめられる。幸せになろうとして、一生懸命やった
ことのすべてが裏目裏目に出てしまい、そして彼はすべてを失う。

この作品でアカデミー賞主演男優賞にノミネートされたニック・ノルティの演技は鬼気迫るものが
ある。ウェイドは孤独な戦士の顔をしている。地道に一生懸命生きてきたのに、もがけばもがくほ
ど事態は悪化し追いつめられていく様子が表情に刻み込まれていく。唯一彼の味方となってい
た心優しき恋人マージが怖じ気づき、彼の元を去っていくときに彼が見せた痛哭の表情は、この
上なく悲しいものである。そして、オスカーの助演男優賞をこの作品で受賞したジェームズ・コバ
ーンの、老いてなお見せる鬼親父ぶり。酒を飲んでは暴れ、お前は一生俺の呪縛から逃れられ
ないんだと言いたげな憎々しい表情。お前を愛しているんだと言ったときの、愛情とは裏腹に暴
君ぶりを感じさせる狂ったような笑顔。深い皺の刻まれたその表情は深い業を感じさせ、背筋が
寒くなるほどである。

救いのない、悲しい物語である。雪に閉ざされた、世界から取り残されたような町で起きた親と
子の悲劇は、ギリシャ悲劇を思わせる荘厳さがある。心を凍らせるような悲劇ではあるが、どん
なにひどい状況にあってもなお、愛と幸せを必死に求め、血の呪縛に抗おうとする人間の心の
気高さを感じさせ、心を揺さぶる作品となっている。

シーズ・オール・ザット  She's All That

監督:ロバート・イスコーヴ
出演:レイチェル・リー・クック、フレディ・プリンツJr、キーラン・カルキン、ポール・ウォーカー、アンナ・パキン

学園で一番のモテモテ男ザックは、プロム・パーティを目前に彼女に振られてしまう。彼はやけ
くそになって、学園で一番ダサくて冴えない女の子を、プロムのクイーンに選ばれるほど美しく
仕立てるという賭けに応じる。選ばれたのは黒縁メガネをかけた根暗なレイニー。果たして6週
間の間にレイニーは変身することができるのだろうか?

これまで散々繰り返されてきた、「冴えない女の子が変身する物語」。話の筋は予測通り進ん
でいって陳腐なほど。しかしながら、とっても魅力的な作品となっている。一つ一つのディテー
ルの描き方がとても丁寧だからだ。

冴えない女の子が変身する物語の場合、これまでの彼女を否定的に描いていることが多いの
だけど、この映画は決してそのような単純な筋をたどっているわけではない。
ヒロインのレイニーは顔かたちが不細工だから、冴えないのではない。彼女は周囲に対して頑
なに心を閉ざしているから、暗いから不気味がられたりするのだ。でも、前半の「ダサくて冴え
ない」レイニーにもそれなりの魅力はある。彼女は社会問題に強い関心がある上、絵を描くの
に夢中で芸術的な才能を持っているし、アングラ演劇に出演するなんて意外な一面もある。ち
ゃらちゃらしている同級生たちと違って、硬派なところがあるのだ。これで、まわりの人たちに心
を開き、可愛い格好さえすれば彼女はすごく魅力的になるわけである。そして、そのきっかけを
与えたのがザックだったわけだ。

ザックはザックで迷っていた。彼はハンサムでスポーツも万能、成績も優秀で、いくつもの有名
大学の入学許可を手に入れていた。しかし、彼の生き方は常に父親に干渉されてきた。沢山
選択肢を手に入れたという恵まれた状況にあって、自分の進路を選ぶことができなくなってい
た。果たして自分の人生はこのままでいいのか、と迷っていた。そんなときに出会ったレイニー
は、しっかりと自分を持っていて、自分のやりたいことがハッキリしていた。彼女との出会いを
通じて、ザックも自分の生き方は自分で選べるような人間に成長できた。

頑なに閉ざされていたレイニーの心を開くことができたのは、彼女の生き方に敬意を持って接
したザックとの出会いもあるけれども、彼女の家族−父親と弟の存在も大きかったと思う。最初
彼女の家にやってきたザックをレイニーは邪険に扱うが、ザックはまず弟と仲良しに。弟サイモ
ンは補聴器をつけた小柄ないじめられっ子だけど、そんなことにはめげず明るくていい子だ。学
生食堂でいじめられていた彼を、ザックが助けるというエピソードは、レイニーが彼に好感を持つ
ようになった理由の一つと言えるだろう。
また、プールの掃除人という地味な仕事に携わり、レイニーが同級生たちにバカにされる理由
のひとつになっている父親も、好人物だ。彼は地味な仕事をしているが、その仕事に誇りを持
って生きている。ザックがレイニーに接近したのは賭けのためだったと告白したため、再び自分
の殻に閉じこもろうとしたレイニーの心を開こうと説得し、ラストでは二人の恋を盛り上げるため
に活躍したお父さんはとても素敵だった。

もちろん、この手の映画には欠かせない、青春アイドルたちの魅力について述べないわけには
いかない。レイニーを演じたレイチェル・リー・クックは童顔でとにかくかわいらしい。ザックの手
で変身する前の彼女ですら、「メガネを取ったらさぞかし可愛いに違いない」と思わせるのが、
ちょっと逆効果になっているけれども。小柄だけどスタイルもいいし、変身後の可愛さといったら。
ザックは学園中の女の子たちが寝たいと思っているくらいだから格好良くないと話にならない
わけだけど、確かに美形だ。それも、いかにもアメリカ人といった感じの健康的な美貌よりは、
やや翳りを帯びて繊細な感じがするのが、個人的にポイントが高い。悩める青年という感じが
して、この物語には似つかわしい。脇役では、レイニーの弟を演じるキーラン・カルキンと、レイ
ニーが唯一心を開いている太っちょのジェシー役のエルデン・ヘンソンという「マイ・フレンド・メ
モリー」コンビや、ザックのおしゃまな妹役アンナ・パキンも好演。サラ・ミシェル・ゲラーがカメオ
出演していたり、アッシャー・レイモンドとクレア・デュヴァルという「パラサイト」組や「遠い空の
向こうに」のオタク少年を演じた俳優がいじめっ子の役で登場、となかなか豪華な出演陣だ。

この映画の白眉はなんといっても、プロムのシーン。アイドル映画にふさわしく、ミュージカル
映画かマサラ・ムービーを思わせる華やかさだ。プロのダンサーが大勢出演したダンス・シー
ンがとにかく見事で、見せ場がたくさんあってまったく飽きることがないし、ノリも最高。アメリカ
映画でこれだけちゃんとしたダンスシーンがあるのを観たのは久しぶりだ。最高に楽しくウキウ
キさせられて、映画を観たという醍醐味を感じさせてくれる。

話の筋は読めるし、単純な内容の青春映画なのに、キチンと真面目に作られているし、もはや
青春時代が過ぎ去ってしまったような私の年代の人間にもとっても楽しめる作品。映画はスト
ーリーが大事なのではなくて、どうやって見せるのかが重要なのだと改めて実感。

あの子を探して 一個都不能少

監督:チャン・イーモウ
出演:ウェイ・ミンジ、チャン・ホエクー

中国・河北省の小さな村で代用教員を務めるのは、13歳の少女ウェイ・ミンジ。あるとき、教
え子の一人で10歳の腕白な少年ホエクーが町は出稼ぎに行かされ、行方不明に。ウェイは
生徒たちの協力を得て町へ出て、必死に彼を捜し求めるが…。

この映画が始まったあたりでは、この物語は一体いつのものかはわからなかった。舞台とな
っている小学校は古くてみすぼらしい。田舎にあるため先生もなかなか来てくれないし、ミン
ジが代わりを務める前任の先生も、半年くらい給料を払って貰っていないというくらい、村には
お金がない。そして、この学校ではすでに10数人も生徒が辞めているとのこと。家が貧しい
たため、小学生ですらも、出稼ぎに行かされる、それが、現代の中国の現実なのだ。

そんな辺鄙な田舎町の小学校で、代用教員として赴任してきたウェイ・ミンジ。生徒たちとほ
とんど年齢も離れていないし、中学だってろくに出ていないのだ。しかも、彼女はものすごく
仕事に燃えているというわけではない。一ヶ月間の仕事の給料として50元、そして一人も生
徒が減らなかったら10元上乗せしてもらえるという約束で働いている。教えるといっても、本
を黒板に書き写し、それを生徒たちに写させるだけで、あとは生徒たちが教室から抜け出さ
ないか見張っているだけ。ただ、生徒たちが一人でも減ったら上乗せ分がもらえないので、
減るようなことがないように必死になっていた。

まず、一人の足の速い少女が、スカウトされて街の小学校へと転校していった。街の学校に
転校できるということは、少女にとってはとても幸せなことなのに、必死になって阻止しようと
するミンジ。彼女は少女を連れていくバスの後ろを走って追いかける。走っても追いつけるは
ずもないのに。そして、今度は腕白小僧のホエクーが、家の借金を返すために街に出稼ぎに
行ってしまった。ミンジは、なんとしても彼を連れて帰ろうとする。その強い意志に圧倒される。

ミンジがホエクーを探して、彼を連れて帰ろうとするのは、もちろん彼が帰ってくれば給料の
上乗せ分の10元が目当てだったからだ。でも、街に行くにはバスに乗らなくてはならない。
当然バスの運賃がかかるわけだけど、そんなお金があるはずはない。必要なお金はいくら
で、それを稼ぐにはどれくらい働けばいいのか、教室で計算することが数学の授業になって
いくところは面白い。そしてミンジと生徒たちはそのお金を稼ぐため、頼まれてもいないのに
煉瓦運びの仕事をして、工場長に叱られながらもお金を手に入れる。しかし、街までのバス
運賃は片道20元もするのだった!実は、この時点でミンジの「10元を得るためにホエクー
を連れて帰る」というもくろみは成立しなくなっている。それでも、ミンジは街に行こうと必死
になって、ついに出発してしまう。お金を稼ぐのに一緒に働いた生徒たちを裏切らないため
に。

ヒッチハイクで街までたどりついたのはいいけど、そうそう簡単にホエクーは見つからない。
なけなしのお金をはたいてミンジは紙と墨汁を買い、尋ね人のチラシを徹夜で書き上げるが
それは徒労に終わってしまう。一文無しの彼女は、2日間もテレビ局の前で局長を待つ。
屋台の食べ残しの食事を食べ、野宿する姿には、涙を誘われる。そしてついにテレビ番組
に出演できた彼女。インタビューされても何も話すことができなかった彼女が、長い沈黙の
後堰を切ったように泣き始めるシーンでは、思わずもらい泣きしてしまった。これまで彼女が
なめた辛酸が、その表情から痛いほど伝わってきたのだ。

この映画は、現代中国のいろんな姿を伝えていると思う。田舎は貧しいのに、都会は日本
と変わらないほど栄えていて、裕福だ。都会と地方の格差はかくも大きい。10元のために
生徒を減らさないようにするミンジの姿は、13歳の少女にも及んでいる拝金主義を伝える
ものだ。この映画には、とにかくよくお金の話が出てくる。彼女が都会に出てきて、テレビ
局の前で2日間も待っていても取り合わない受付の女性の姿は、中国にはびこるお役所
的な体質を象徴している。しかし、悪い面だけではない。はぐれてしまい一人さまようホエ
クーに対して、かわいそうに思って食べ物を恵んでくれる人はたくさんいた。そして、テレビ
で学校の窮状を訴えたミンジに対して、多くの善意が寄せられ、田舎の小学校は校舎を
建て替えることもできたし、ホエクーの家の借金は返済され、彼は無事学校に戻ることが
できたのだ。

この映画の出演者は全員素人だ。ミンジ役の少女が素晴らしい。リンゴ色のほっぺた。
決して美少女ではないけど、意志の強さが伝わってくる顔。愛想も良くなくて、とにかく生
きるのに必死である。どこか『ロゼッタ』のヒロインを思わせる。そんな彼女が都会で大変
な思いをして、意志の強さはそのままに、優しい心を持った人間に成長していく様子が見
えるのが好ましい。そして、ホエクー役の少年のかわいらしさ、多彩な表情はとても魅力
的。思わず彼に「がんばれ」と言いたくなる。他の生徒たちも、とにかく生き生きしていて、
とてもいい表情を見せてくれる。ラスト、学校に贈られた色とりどりのチョークを使って、生
徒たちは一字ずつ黒板に字を書いていく。貴重品であったチョークを使って字を書いていく
彼らのうれしそうな顔。また、日本人で漢字がわかるから、というのもあるんだけど、それ
ぞれの字の持つ意味を考えて観ると、深いものを感じる。こうやって子供は人生を学んで
行くんだな、と思った。