監督・脚本:コリン・ナトリー
出演:ロルフ・ラスゴート、ヘレーナ・ベリエストレム、ユーハン・ヴィーデルベリ
スウェーデンの田舎町に住む農夫のオロフは、40歳になっても女性を知らず、しかも
文字も読めない。唯一の友だちはアメリカ帰りの青年エリック。そんな彼が、家政婦を
新聞広告で募集する。やってきたのは、都会的で洗練された美女エレン。不器用なが
らも控えめに愛情を表現するオロフ。エレンも、純朴で心優しい彼に惹かれていく。しか
しエレンは秘密を抱えてきた。
北欧の短い夏は美しい。波打つ緑。一日中日が落ちることがなく、低い太陽の光が赤
く照りつけて影が長く映る。豊かに水を湛えた湖で、愛馬に水浴びをさせるオロフ。乳
搾りをするオロフ。その姿を見ているだけで、彼が好人物であることが見て取れる。そ
んなところにやってきたのが、エレン。美しくまだ若い女性が都会からこのようなところ
に一人でやってくること自体が、少々「わけアリ」な感じがする。しかし、この美しい自
然に囲まれ、素朴なオロフと過ごすうちに、エレンは心が癒される気がしたに違いない。
オロフは、文字が読めない、しかも女を知らない自分に負い目を感じている。唯一の友
人エリックはアメリカ帰りで赤いスポーツカーを乗り回す伊達男。半分嘘臭い自慢話を
聞かせ、文字の読めないオロフの代わりに買い物に出かけたりしているが、そのことを
いいことにお金をチョロ任せたり、借金をしては返さなかったりする。一方、エレンは、純
朴なオロフの中に、本当の男を発見する。自分に自信を持ってと励ます。少しずつ接近
する二人。そんな二人の関係に苛立つのはエリックだった。エリックも決して悪いヤツで
はない。本当にオロフのことを友だちと思っていたのだが、オロフが彼よりもエレンを大
事にし始めたのに嫉妬を感じ始めていたのだ。しかし同時にエレンにも淡い思いを抱い
ていた
エリックとオロフが一緒に競馬に行くことになっていた日、約束を忘れてエレンにドレス
を買いに行ったオロフ。自分をオロフがこれまでのようにかまってくれないのでエリック
は腹を立て、エレンに対して疑惑を持つようになった。一方エレンは、エリックという人
間の胡散臭さに気づいていた。訳知り顔をしているけど、彼はまだただのガキであって、
本当の大人の男とはオロフのことであると彼女は確信していたのだ。
文字が読めなくて女を知らないことがコンプレックスになっていたオロフ。心に傷を抱え
たエレン。この二人が知り合うことによって、お互いの心を癒していく。愛とはこんなに
も素晴らしいものだと改めて実感する。不器用なオロフの愛情表現が好ましい。亡くな
った母の話を聞かせたり、一生懸命家のことを説明したり、彼女に好意を持って貰おう
と心を砕いている。牛の乳の搾り方を教えるときの体勢はドキッとさせるほど色っぽい。
つい、エレンの着替えているところへ入ってきてしまって赤面する彼もなんだかかわい
い。そんな彼の気持ちに優しく応えようとするエレン。ついに気持ちを抑えられずにオロ
フは愛を告白する。エレンを抱こうとするのだが、何しろ初めてなのでうまく行かなくて
悩む。それでもエレンの温かい励ましによって、思いがけず激しい衝動が生まれ、愛を
表現することができたオロフ。初めて知った愛の歓びに打ち震えるオロフ。沈まない太
陽が差し込む寝室で、結ばれて満ち足りた顔の二人がとても素敵だ。男と女は愛し合
うのがとても自然なことだと思えてくる。
しかし思いがけず彼女の秘密がエリックに知られることになる。「愛しているわ」と仕事
に出かけるオロフに優しくキスを送ったエレンがとてもせつない。彼女は置き手紙を残
すがオロフには読めないので、エリックに読んで貰う。エリックが読んだ内容は、オロ
フには信じられることではなかった。オロフは「おれはバカじゃない」と言った。エリック
とエレンのどちらを信じるか。オロフは、エレンを信じることにしたのだ。文字とか、人の
話とか、表に見えることではなく、彼は自分が感じたこと、思ったことを信じた。そして、
彼は正しかった。文字が読めなくても、真実というのはわかるものなんだと思った。彼
には、その手紙には本当は何とかいてあったのかが理解できたのだ。
短い夏が過ぎ、夜が長い季節となる。愛を一度知っただけに、長い夜はオロフにはつ
らくて寂しい。しかし、信じ続けたことが、ついには実を結んだのだった!ここでまた、
愛の素晴らしさを改めて感じることになった。
「愛」と「信じること」という極めて原始的なテーマの作品だけど、オロフとエレンという
魅力的な大人のキャラクターが上手く表現されているし、自然の美しさが、人生讃歌を
歌い上げている。大人の素敵なラブストーリーだ。
監督:ロマン・ポランスキー
出演:ジョニー・デップ、エマニュエル・セニエ、レナ・オリン、ジェームズ・ルッソ
書物の探偵ともいうべき古書商のコルソは、ある依頼を、本のコレクターであるバルカ
ンから受ける。その依頼とは、17世紀の悪魔の書「ナインス・ゲート」の、現存する3部
のうち、バルカンがコレクター仲間であるテルファーから譲り受けた1部以外の2部につ
いて調査し、その真贋を判断することであった。本の元の持ち主であるテルファーは自
殺し、その妻リアナはコルソの元を訪ね誘惑する。「ナインスゲート」を預かったコルソの
友人バーニーは、殺され、本の挿し絵と同じ状態で吊されていた。残り2部の「ナインス
ゲート」を求め、コルソはスペイン、ポルトガルそしてパリへと旅し、持ち主を訪ねる。しか
し他の2部の「ナインスゲート」の持ち主は奇怪な死に方をし、本からは挿画が破り取ら
れる。そして、行き先々で現れる謎の女。
ポランスキー久々の新作は、悪魔崇拝をテーマにしたもの。もともと澁澤の「黒魔術の手
帖」などを愛読していた私にはとても興味深かった。果たして、ヨーロッパの匂いがプン
プン漂う怪しい作品に仕上がっている。しかも、本の中に潜む魔物というのが、面白い。
ハッキリ言って、物語の整合性はぐちゃぐちゃである。あれだけおおっぴらに連続殺人事
件が起きているのに、警察は全く動く気配がない。探偵コルソはお金だけを信じている
男だったのが、この「ナインスゲート」という書の悪魔の魅力に、どんどん引き込まれなく
てはならないのに、そういう描写はない。なんかよくわからないけどバルカンに依頼され
ているから、いっぱい謝礼がもらえるから探しているだけ、って感じなのだ。本をめぐる物
語なのだが、本の中身=文章ではなく、その中の挿画が物語の核心を握っているという
のもなんだかなぁ、である。連続殺人事件の犯人すらも、なんとなく類推はできるけど明
示はされていなかったりする。
突っ込みどころを探したらきりがないほどだ。犯人は本ごと盗めばいいのに、ご丁寧に
挿画だけを切り抜いて残りの高価な本を焼き捨ててしまう。本のコレクターなのに。持ち
主を毎回殺す必要だってないと言えばない。なぜ死の直前にテルファーはバルカンに
この本を譲ったのだろうか?いくつもの疑問符がわいてくる。でも、奇妙な魅力のある
作品だ。
まずキャスティングが強烈。テルファー夫人のリアナを演じるのは、もはや『存在の耐え
られない軽さ』というよりは『蜘蛛女』の印象が強烈なレナ・オリン。今回も、『蜘蛛女』
に近いキャラで、コルソを誘惑して寝た後で噛みついたりひっかいたり。怪しい金髪黒
人のボディガードとシケ込んだり、意味のないところで裸体を見せたり。いい年のハズ
なのにやたら色っぽい。対抗するもう一人の謎の女には、ポランスキーの女エマニュエ
ル・セイナー。これがまたぶっとい眉毛が強烈なインパクトを残し、しかもいつもカジュア
ルな服装をしているけど全然似合わない。最近の流行なのか、カンフーがやたら強いし、
人間離れした動きで飛んだりして笑わせてくれる。やぱり彼女はラストのように、全裸
で炎をバックに、笑い声を上げながら騎乗位でやってくれなくっちゃ。「ナインスゲート」
の挿画に描かれている悪魔そっくりなのが笑わせてくれる。さすが変態ポランスキー。
ディテールにも凝っている。テルファー版ナインスゲートの元の持ち主である双子の印
刷屋の怪しさ、胡散臭さも良いし、ラストシーンの古城の凶悪なまでの禍々しい感じ
は、ヨーロッパ人にしか演出できないだろう。悪魔降臨の儀式はまるで『アイズ・ワイド
シャット』の乱交パーティみたいで笑わせてくれた。
バルカンやリアナは悪魔に魅せられ、3つの「ナインスゲート」を集めることで悪魔を呼
び出そうと企んだ。しかしながら、悪魔というのは、本を集めたり、儀式をしなくても実は
すでにこの世に降臨していたのであった。3冊の「ナインスゲート」は悪魔への扉を開く
鍵に過ぎなかったのである。そして、思いがけない人物に、悪魔は取り憑いたのであっ
たのだ。悪魔を信じる者が扉を開くのではなく、知らず知らずのうちに悪魔に魅入られる
人間こそが悪魔の扉を開けるのだと、この映画では物語っている。そして、「ナインスゲ
ート」に魅せられたコルソこそが適任だったのだ。
監督:ポール・ウェイツ
出演:ジェイソン・ビッグス、タラ・リード、シャノン・エリザベス、ナターシャ・リオン、
ミーナ・スヴァーリ、クリス・クレイン
ティーンエイジャーだったことがある人だったら誰だって、ロスト・ヴァージンもしくは童貞
を捨てたくて仕方ない時期があったに違いない。この映画では、頭の中はセックスのこ
とでいっぱいの4人組の男の子たちを中心に描いている。彼らは3週間後に迫ったプロ
ム(卒業パーティ)までには童貞を捨てたい。そのためにチームを組み、あの手この手で
ガンバルのだけど…。
エッチなネタが満載で、とにかく何も考えずに大爆笑できる映画。中でも最高に笑わせ
てくれるのが主人公ジム。彼が一番ロスト・ヴァージンに一生懸命で、部屋でコンドーム
の付け方を練習したり、アノ感覚がアップル・パイにそっくりだと聞いて母親の手作りの
アップルパイを思わず使ってしまったり、大きくなった息子を靴下に隠そうとしたり…。そ
して決まって最高にばつの悪いときに踏み込んでくるのが、お父さん。このお父さんがと
ても理解があってエロ本を買ってきてくれたり、セックスについて教えてくれようとするん
だけどかみ合わない部分が、お腹が痛くなるくらいおかしい。かわいそうにジムは自分
のストリップショーをインターネットで全校生徒に流されるなんて赤っ恥まで掻かされるの
だけど、このように果てしなく恥ずかしいのが青春というものなのかもしれない。
ほかの少年たちも、高校に代々伝わるセックス・マニュアル片手に頑張ってみたり、な
かなか最後の一線を許してくれない彼女を一生懸命口説き落としたり、友だちのお母さ
んと初体験してしまったり(このときに「ミセス・ロビンソン」が流れるのは洒落が効いて
いてなかなか良い)。いろんなことがあって恥も掻いたけど、かけがえのない青春を過ご
したという甘酸っぱさが感じられて好ましい。
下品なだけが取り柄の映画ではない。主人公以外の3人の少年たちや、女の子たちの
キャラクターもしっかり描かれている。高校を卒業して、これまでは恋人として仲良くやっ
てきても、大学に進学して離ればなれになったらどうするの、という青春ストーリー特有
の問題も扱っている。最後のプロムでキレイに大団円を迎えることができる構成もなかな
かうまい。
タラ・リード、シャノン・エリザベス、ナターシャ・リオン、ミーナ・スヴァーリといった若手
女優も皆かわいいし、真面目なラクロス選手を演じたクリス・クラインはキアヌ・リーヴス
似のハンサム。これだけ笑えて、しかも目の保養にもなる作品を観られて、かなり得した
気分。
監督・脚本:ジェイソン・フリーランド
出演:マイケル・ルーカー、セルマ・ブレア、ウィリアム・サッソー、ケヴィン・コリガン、
ハロルド・グールド
アルコールで警官をクビになったブラウンは、車の回収屋として働く傍ら、探偵稼業を
行っている。ある日太ったゴルフのキャディ、ファット・ドッグが彼に仕事を依頼する。17
歳の妹ジェーンをユダヤ人の金持ちソリーKから連れ戻してきて欲しいというものだ。ソ
リーKを追跡するうちに、ブラウンの職を奪った張本人、LAPDの幹部であるキャスカート
もこの件に関わっていることが明らかになる。ブラウンは、復讐のためのまたとない機
会が訪れたと色めき立つが…。
ファット・ドッグに約束された金。彼に似ず美しい17歳の妹。そして何よりも、彼の職を奪
ったキャスカートへの復讐のチャンス。ブラウンはこの仕事に飛びつく。メキシコ人に襲わ
れたり、死体の山を目撃したりして、この仕事がとてもヤバいものであるということに気が
つくが、ついついこのチャンスに執着してしまう。地獄への扉を開いてしまったことに気が
つかずに。
原作は、あの「LAコンフィデンシャル」のジェームズ・エルロイ。この映画は、やや洗練さ
れた語り口となっていた「LAコンフィデンシャル」とは異なり、エルロイ作品の持つうらぶ
れた、ドロドロした情念が漂っている。酒で焼かれたような声のブラウンによるモノローグ
が流れていて、今時珍しいような昔風のハードボイルド作品となっている。
冒頭、場末のストリップ小屋で酒を呷りながら、放心した表情のブラウン。彼を演じるマ
イケル・ルーカーの面構え、そしてしゃがれた声も、いかにもエルロイ作品にふさわしい、
どうしようもない男という雰囲気をプンプン漂わせている。ここにかぶさるモノローグから、
この場面は実はラストシーンにつながっているということがわかるのだが、なかなか洒落
た構成だ。
アル中で、警察をクビになり、精神を正常に保つために探偵事務所を開いているブラウ
ン。しかし探偵とはいっても、ほとんど開店休業状態で、本業はしがない車の回収屋。人
間のクズといってもいいくらいのどうしようもない男だ。しかし、そんな彼も、従弟のウォル
ターだけは可愛がっていたし、プライドというものは一応持ち合わせていた。彼を陥れた
キャスカートを滅ぼしたいという願望が、そのちっぽけなプライドの表れであるが、それゆ
え彼は破滅への道をたどることになってしまう。
ハードボイルドらしいやるせなさがこの作品の全編に漂っている。いくつもの犯罪に手を
染めながらも金だけは手にしたブラウン。しかしジェーンはソリーKとの人生を選ぶ。
彼が一番大切に思っていた従弟ウォルターは麻薬中毒で死んでしまい、その葬儀で彼
はひどく取り乱し、泥酔状態で棺にすがりつく。彼はどうしようもない人間のクズだが、優
しい一面も持っていた。ブラウンは心が渇いていて、寂しがり屋でセンチメンタルな男な
のだ。渇きを癒すためにどうしようもなく酒を飲む。メキシコで犯罪行為を行った後、ホテ
ルの部屋で酒を浴びるように飲み、こぶしで鏡を割り泥酔するシーンは特に胸に残る。と
んでもない災難に巻き込まれてしまったわが身のふがいなさを嘆き、心に浮かんでくる思
いを酒でうち消そうとする彼の姿には、思わずシンパシーを感じてしまう。
他の登場人物にしても、格好いい人や善人なんて一人もいない。スターも一人もいない。
太って不潔そうなファット・ドッグは金だけはなぜか沢山持っている。少女と爛れた生活を
送るユダヤ人の金満老人。唯一ブラウンが大事にしている従弟のウォルターは麻薬中毒。
LAPDの警務部長キャスカートはいかにも嫌味で汚職にまみれた上司という風情だ。
薄汚く地味な作品ではあるけれども、小説でジェームズ・エルロイの世界に惹かれた人や
ハードボイルドの好きな人には必見。『ヘンリー』や『ボーン・コレクター』が印象的だった
マイケル・ルーカーの演技は非常に印象的だ。赤いロールスロイスを乗り回して愛人宅
(二人の関係も、いかにもエルロイらしいオチがある)から音楽学校に通うジェーンを演じ
たセルマ・ブレアも、やや出番は少ないが魔性の少女を好演している。