東京国際レスビアン&ゲイ映画祭
踊るのよ!フランチェスカ Franchesca Page |
監督:ケリー・セーン
出演:ヴァーラ・ジーン・マーマン、タラ・レオン、ロッシ・デ・パルマ
映画祭のオープニングにふさわしい、超ゴージャスで楽しいミュージカル・コメディ。なんと
いっても主人公は芸達者なドラッグクイーンなんだから!
ラスベガスでショーガールをしていたリタは、その夢を娘のフランチェスカに託していた。超
おデブなリタと違って、フランチェスカは可愛らしい娘に育っていた。しかしながら、フランチ
ェスカは音痴で運動神経ゼロ、その上度胸もない。ブロードウェイミュージカルのオーディシ
ョンに送り込んでも大恥をかいただけ。しかし、そんなフランチェスカを主役で採用するという
連絡が入る。それは、悪徳プロモーターのヴェロニカの陰謀だったのだ。
フランチェスカの母親リタを演じるのは、ドラッグクイーンのヴァーラ。彼女の存在感が強烈。
顔はキュートといってもいいのだけど、体重は100キロを超えているのではないかというお
デブ。しかしその巨体をこれまた60年代風のポップでキュートな衣裳に包み、踊るとなぜか
とっても絵になるのだ。彼女の歌うのは、甘いポップスだったり、ディスコナンバーだったりキ
ャバレーの雰囲気漂う妖しい歌だったり。その芸達者ぶりには思わず舌を巻いてしまう。そ
のヴァーラとタメを張るのが、このブロードウェイミュージカルのプロデューサー役を演じるロッ
シ・デ・パルマ。アルモドヴァル映画の常連である、ピカソ顔女優といえば誰だかわかる人も
多いだろう。もともと持っている強烈なルックスに加え、ここではビッチで淫らな女を演じてい
る。若い美青年をはべらしてペット扱いし、シェールも真っ青のものすごいスケスケ衣装をま
とって身をくねらす姿態は夢に出てそう。そして彼女は、邪魔者をどんどん消していってしま
う悪魔のような女なのだ。
脇役も充実している。まるで「イヴのすべて」を思わせるかのように、若くてきれいな新人が
出てくることを恐れているトップ女優がいる。彼女はお高く止まっていて嫌味な女なのだが、
予想通り、ヴェロニカの陰謀の犠牲になる。リタの友だちのおばさんドラッグクイーンも芸達
者でとっても楽しい。しかしなんと言ってもこの映画の楽しさを決定づけているのはリタ役ヴ
ァーラの魅力だろう。娘に、自分の実現できなかった夢を託し、彼女を猛特訓するのだが、
結局自分自身の夢を実現してしまうのだ!しかし、彼女(彼?)だったら絶対スターになっ
てしまうだろうな、というカリスマ性、インパクト、キャンプでゴージャスな雰囲気を漂わせて
いる。その独特の、毒々しいけど可愛い魅力は、一度見れば決して忘れることのできないも
のだ。
80分という小品だけど、何も考えずに楽しむことのできる、エンターテインメント性満載の
作品。まさに楽しいミュージカルの舞台を観ているような気分にさせられる。
Tell Me Something カル |
監督:チャン・ユニョン
出演:ハン・ソッキュ、シム・ウナ、ヨム・ジョンア
「接続」のチャン・ユニョン監督、「8月のクリスマス」で共演したハン・ソッキュ、シム・ウナ
の新作は、なんと血みどろのサイコスリラー!だった。
連続して3件のバラバラ殺人事件が発生する。しかも、一緒に発見されたのは同一人物
ではなく別の犠牲者の体の一部という猟奇的なものだ。捜査線に一人の女性スヨンが浮
かび上がる。彼女は3人の犠牲者全員と、かつて恋人関係にあった。刑事のチョは彼女
から情報を聞き出そうとするが、彼女は心を閉ざしたまま。やがて彼女の悲しい過去が
明るみに出るが…。
儒教の国韓国でこのようなショッキングな映画を撮ることができるということにまずビック
リ。とにかく全編血みどろに彩られ、まるでダリオ・アルジェントを思わせるような鮮血の
美学すら感じさせる作品なのだ。血の量が半端じゃない。冒頭から死体を切り刻んだり
するし、生首も出てくる。これらがとてもリアルにできているものだから、こういうスプラッ
タ系が苦手な人にはおすすめできない。これだけ死体が出てくると、血や死体そのもの
に対する作り手の異常なまでのこだわりすら感じてしまう。
中でも、すっかりトラウマになりそうなのが、バラバラ死体が黒いゴミ袋に入れられ、いろ
んなところに放置されるということ。黒いゴミ袋を見ると反射的に死体だ!と反応してしま
うようになるのだ。エレベーターの中に放置されたゴミ袋を子供がいたずらした結果、大
量の血と死体が噴き出て一面血の海になる所など、現実性と非日常性が入り交じって
まさに悪夢そのものだ。
ヒロインであるスヨンの心理がこの作品の大きな鍵を握る。犠牲者3人と関係があったと
いうことで、普通だったらさぞ多情な女と思われ、真っ先に容疑者になるところだが、その
清楚な面持ちと傷ついた様子から、そして、彼女が画家であった父親から性的に虐待さ
れていたという過去も明らかになったことから同情を受ける。被害者の体が、解剖学の知
識があるとおぼしき人物によって、医療用のメスで切り刻まれていることから、彼女は容
疑者リストから外される。しかし犯人と疑われた人物までもが被害者となって死体の数が
増えていき、謎は深まっていくのだ。
美しく不幸なスヨンに惹かれていくチョ刑事。ストーカーに追われる彼女を自宅に匿うが、
同時にひょっとして彼女が犯人か、という疑いも捨てきれない。深く葛藤すると共に、なか
なか解決されない事件に苦悩する。このあたり、さすがにハン・ソッキュの演技力は光っ
ている。
そして、衝撃的な結末が待っているのだが、すべての謎が解決されるわけではない。非
常に手の込んだ、謎が謎を呼んでしかも結果の与えられない作品となっている。このあ
たり、映画としての完成度が低いと評価するのか、それとも悪夢のような迷宮ミステリー
が魅力的な作品と考えるのか、評価が真っ二つに分かれそうな作品である。とりあえず
謎についてのヒントを求めてリピーターが出そうな映画にはなっている。陰影に富んだ映
像もとてもスタイリッシュ。
レスビアン&ゲイ映画祭
男生女相 Yang+Yin |
監督:スタンリー・クワン
出演:スタンリー・クワン、ジョン・ウー、レスリー・チャン、エドワード・ヤン、アン・リー、
チェン・カイコー、ツァイ・ミンリャン、ティ・ロン、ホウ・シャウシェン
スタンリー・クワンが、英国映画協会に依頼を受け、映画生誕100年を記念して制作した
インタビュー集(以上、プレスからの受け売り)。
中国語圏の映画史を、同性愛からの観点で語っていて、そして実際の映画の映像を引
用したりしていて、とっても興味深い内容になっている。インタビューに登場するのも、上
記のように中国語圏を代表する映画監督や俳優たち。第2次世界大戦以前の中国語映
画なんて初めて見たが、その時代にあって、あけっぴろげなセクシュアリティの表出がと
ても爽快な作品もある。
いくつかの章に分かれているが、興味深いのは、服装倒錯を挙げた章。まるで宝塚スタ
ーのように、男装の女優がいて、同性愛者であることも隠さなかったけどずっとトップスタ
ーであり続けた話とか、「さらば、わが愛」への言及もある。「さらば、わが愛」といえばも
ちろんレスリー・チャンなのだが、彼にスタンリー・クワンが「あなたはナルシストですか?」
と質問するところでは、場内は爆笑していた。
また、ジョン・ウーへのインタビューでは、男同士の、友情以上の絆について語らせてい
る。「男たちの挽歌」のチョウ・ユンファとティ・ロンの関係や、「狼/男たちの挽歌最終章」
のユンファとダニー・リーの間の関係などについてだ。ジョン・ウーは「映画は作り手の手
を離れたらそれは観客のものとなり、どのように解釈されてもかまわない」と答えていた。
が、同時に、これらの男同士の熱い絆というのはアメリカでは、インディペンデント作品で
は描けてもハリウッドでは描くことができないと話していた。道理で「M:i-2」は主人公と
敵役の間の感情が十分描けていなくて、情念の欠けた作品になっているわけだ。
スタンリー・クワン自身は、父親への複雑な感情も大きなテーマとしている。早くに亡くな
った父親への思い。また、中国の家族制度では、かつての日本のように男子が優先され
るため、姉妹たちは学業を諦めて彼の学費を稼いだのだった。父親への感情という側面
はツァイ・ミンリャンの作品にもよくでてくるモチーフである。また、アン・リーの「ウェディン
グ・バンケット」も中国人の家族観が、同性愛という観点を通じてよく現れている作品だ。
そして、最後にスタンリー・クワンはこの作品の中で、自ら母親に語りかけるという形で
同性愛者であることをカミングアウトする。彼の言葉を豪快に笑い飛ばしつつ受け止める
母親の姿がとても印象的だ。セクシュアリティという面だけでなく、中国語圏の映画史を
知る上でもとても面白く興味深い作品。