監督:ソフィア・コッポラ
出演:キャスリーン・ターナー、ジェームズ・ウッズ、カースティン・ダンスト、ジョシュ・ハートネット
1970年代、アメリカ。郊外に住むリスボン家。父親は高校の数学教師、母は厳格で敬虔な
クリスチャン。そして、金髪に薔薇色の頬を持つ美しい五人姉妹が住んでいた。末娘のセシ
リアが自殺未遂をした末、ホームパーティの夜窓から飛び降り命を絶つ。新学期が始まり、
次女のラックスがパーティの夜に朝帰りしてしまったことから、姉妹は家の外に出ることを禁
じられ、そしてある晩、残された全員が自らの命を絶ってしまうのだった。
繊細で美しい映像、美しい五人姉妹。全員が命を絶ってしまうという悲劇を描きながらも、少
しも重苦しくならない作品だ。青春真っ最中、美しい花の盛りに死を選んでしまうほど彼女た
ちは追いつめられていた、というわけではなさそうだ。彼女のたちの母親は並はずれて厳格
で、狂信的といってもいいほどであった。娘たちが一対一でデートすることや男性と車で外出
することも禁じ、そしてラックスが約束を破り朝帰りしたときには、4人全員に学校にすら行か
せない。挙げ句の果てには、彼女たちが大事にしていたロックのレコードを焼き捨てさせるな
んてことまでさせてしまう。
でも、そんなことだけが原因で彼女たちがみな死んだ訳ではないのだと、この映画では言っ
ているのだと思う。外出を禁止されたからといっても、奔放なラックスは家の屋根の上で男の
子をとっかえひっかえセックスしていたくらいだし、逃げ出そうと思えば逃げ出させたのだ。
彼女たちが死を選んだ理由なんて描かれていない。ただ、彼女たちが閉じこめられていた部
屋の中に漂う甘美な空気、ちょっと野暮ったいけれど可愛らしい服、ピンクのブラジャー、通
販カタログ、この小宇宙を見ていると、なんとなくわかってくるような気がする。自分たちの甘
くて美しくて儚い時を永遠に止めたかったのではないか、と。彼女たちの母親を演じたキャス
リーン・ターナーを見ていると、10数年前は美しくてセクシーな女優の代名詞だった彼女が、
今ではすっかり太ってオバサン化している。美しさの儚さを思いきり感じさせられてしまう。
そんな彼女たちを崇拝していた近隣の少年たち。姉妹が家の中に軟禁されたときには、望遠
鏡で部屋を覗き、彼女たちの「私たちを助けて」という信号を受信し、電話越しにレコードをか
けて会話をした。だけど、彼らには、彼女たちのことが全然わかっていなかったのだ。この年
代、男の子より女の子の方が大人だと言うけれど、たしかにそんな感じはする。姉妹は少年
たちに助けを求めているかのように見えたけど、実際には彼らの方が、少女たちを眩しく感じ、
憧れ、生きる支えにすらしていたのだった。
少女たちが遺した日記やノートなどの遺品を見ながら、二度と帰らない彼女たち、そして青春
を思うしか為す術のない少年たちだった。そこには、彼女たちが作り上げ、誰にも踏み入れさ
せなかった小宇宙が存在していた。
この映画は、ほかの映画とは違う独特の雰囲気を持っている。普通、映画というものは登場
人物の心理やキャラクターを丹念に描いていくものだ。だけど、ここでは、ジョシュ・ハートネッ
ト演じるトリップ以外は役名もなく、誰が誰だか説明もされていない。人格を与えられていない
も同然だ。少年たちの描写ほど極端ではないにしても、姉妹にしても先に死んだセシリアと、
中心に描かれているラックス以外のキャラクターは極めて不明瞭。独特のふわふわした雰囲
気が終始漂い、まるで一つの夢を見ているようなファンタジックな空気に包まれている。
深い感銘を与えてくれるような映画ではない。登場人物のキャラクターに感情移入できるよう
には作られてはいないからだ。でも、キャロル・キング、ハート、ELO、トッド・ラングレンなど70
年代の名曲を聴きながら、しばし意味のあるようなないようなノスタルジックな感傷にいっとき
ひたるらせてくれる作品となっている。
監督:阿部勉
出演:三浦友和、渡辺えり子、片岡鶴太郎、名取裕子、平山綾、いかりや長介、野際陽子
阿部寛、小林稔侍
突然リストラされ、家族で妻の実家の和菓子屋に転がり込んだ富士夫。再就職も菓子作り
もうまくいかず、パパの影は薄くなるばかり。そんなある日、一家はテレビ番組『しあわせ家
族計画』に出場することに。「家族の夢」のため宿題のピアノ曲を懸命に練習する富士夫で
あったがいっこうに上手に弾けない…。
実在の人気テレビ番組の企画を映画化。最近流行の安易な「テレビ番組の映画化」という
企画に見えるけれども、この作品はそんなものではない。諸般の事情で2年間もお蔵入り
していたという不憫な映画なのだ。
富士夫パパは何をやらせてもダメなお父さんだ。仕事はリストラされ再就職もままならない。
妻の実家の和菓子屋に世話になるものの、手先が不器用でお菓子作りもうまくいかない。
元同僚には騙されかけて、人だけはいいものだから虎の子の200万円を渡してしまう。た
だ真面目で優しいだけが取り柄。川尻家の他のメンバーもそれぞれ問題を抱えている。長
女はもともと登校拒否で、転校先の学校でもいじめられる。長男は父親譲りの運動音痴。
妻の実家の和菓子店も不振で、舞い戻ってきた元の弟子に売り上げを持ち去られる始末。
そんな八方ふさがりの一家が、テレビ番組に出演することになった。しかし、全くピアノに触
れたことのない、しかも手先が極端に不器用な父親が一週間でピアノをマスターするという
かなり無茶な課題をこなさなければならないのだ。
古典的なホームドラマで、結末も大方読めるような物語。ところが、この予定調和的な雰囲
気がなぜかとても心地よいのである。最初は父親に対して冷たい目を向けていた家族。し
かも、彼はどんなにピアノを練習してもうまく行かない。ところが、一生懸命父親が頑張る姿
を見て、少しずつ彼を見るまわりの目が変わっていくのだ。見ていると、なんだかとても温か
な気持になって、観客もダメお父さんを思わず応援してしまう。
そして、この作品の良さは、とってもテンポがいいことにある。母親が、自分の両親の和菓
子店の中に弁当屋を開きたいと言いだし、家族全員で反対するのに次のカットでは弁当屋
が開店している。この場面の省略法は『丹下左膳余話・百万両の壷』をちょっと彷彿させる
ものである。場面と場面の間に余計なカットがなくて、パッパと話が進んで小気味よい。し
かも次の場面で一体何が起こるのか予測もつかないのが楽しい。ラスト、テレビ番組に出
演して一体どんな結果が待っているのかも全く想像できないし、最後のカットの止め方も小
粋。
小規模な公開の小品なのに、キャストも豪華。ダメパパ役の三浦友和は相変わらずとても
うまくて、本当にダメパパにしか見えない。渡辺えり子の母親も、いかりや・野際の両親も
味わい深い。片岡鶴太郎の持つ独特のくどさも効いている。こんなにひっそりと公開される
なんてもったいないような佳作。