ビヨンド・ザ・マット Beyond the Mat |
監督:バリー・W・ブラウスティン
出演:テリー・ファンク・Jr、ミック・フォーリー、ジェイク・ロバーツ、ヴィンス・マクマホン
大人気のプロレス団体WWF(ワールド・レスリング・フェデレーション)を中心に、プロレスの世
界で生きる熱い男達を追ったドキュメンタリー。
このドキュメンタリーでは、3人のレスラーの姿を追う。まずは、日本でもおなじみのテリー・ファ
ンクJr。あの傑作漫画「プロレス・スーパースター列伝」にも登場した彼は、もう50歳を過ぎ初老
の域に達していて、娘達も結婚した。32年間のレスリング生活で、体はもうボロボロだ。引退を
考えながらも、それでもリングに立ち続け、引退声明を出して何回か引退しているのに、それを
全部撤回している。彼をそれほどまでにリングに駆り立てるのは一体なんなんだろう。名声も富
も手にして、楽に暮らそうと思えば暮らせるのに、ボロボロになった老いた体を引きずってリン
グに上る彼を見て、プロレスの魔力を感じるのである。
ミック・フォーリーは、レスラーではあるが非常にクレバーな男であり、家に帰ればよきパパでも
ある。紳士的な彼がひとたびリングに上がると、異様なヘッドギアを身に付け、まるで自殺願望
でもあるかのように、ものすごく高い位置から落とされ血だらけになる。彼は妻と幼い子供ふた
りを自分の試合のリングサイドに招くが、父親がズタボロに傷つけられ、パイプ椅子で滅多打ち
にされ、流血し気を失う姿を見て、子供達は泣き叫び、妻は子供達を連れて耐え切れずに会場
を後にする。試合前には、対戦相手のザ・ロック(「ハムナプトラ2」でおなじみ)のことを「パパの
お友達だし本気じゃないんだ」と言っていたのに…。そして、彼は引退を決意するのである。こ
のあたりの家族の物語には、ホームドラマのような味わいがある。
ジェイク"ザ・スネーク"ロバーツはかつてWWFで一世を風靡したレスラーであったが、麻薬で身
を持ち崩し一時期リングを離れていた。しかし、もう一度リングに復帰する。全盛期の見る影も
ない衰えた体でスターを演じつつ、トレードマークのヘビを連れてのドサまわり。彼もまた、栄光
の過去を引きずりながらもリングから離れられないのである。プロレスという魔物に魅入られ、
いつしか全てを失いそうになっている彼が、我が子と対面して涙を流すシーンは心に痛い。
これら、プロレスに体も魂も捧げ尽くした男達の生き様は強烈だが、さらに強烈な人間がいる。
それは、もちろんWWFのオーナー、ヴィンス・マクマホンである。この男は、プロレスは見世物で
あり、興行であり、エンターテインメントであるということを誰よりも信じている。冒頭、新人レスラ
ーにがゲロをいつでも吐けるのが特技だと聞いて、目の前で吐かせる。「ゲロが出るぞ、ゲロが
出るぞ吐くぞ!」と無理矢理。そして、リングネームに「ザ・ピューク」(ゲロ吐き)とつけるのであ
る。なんとも凄すぎるお目見えの仕方だ。彼は、最強の悪役を登場させる必要があると力説し、
なんと、自分自身が悪役レスラーとなるのであった!そりゃ〜、オーナーが最強の悪役だという
のは真実だが、そこまでやる経営者というのは聞いたことがない。しかし、ちゃんと鍛え上げら
れた肉体を持っていて、試合後はロッカールームで血を流しながら、家族に囲まれて傷を縫合
するミック・フォーリーの前でガハハと笑い「これがショービジネスだ」と言うのだ。ぶっ飛んでい
る。この映画には登場しないが、実際、マクマホンの妻や娘までもがリング上に登場していて、
痴話喧嘩を繰り広げるのだから、視聴者参加番組も真っ青である。WWFのプロレスって、実は
ホームドラマなんじゃないか?
このように、肉体を痛めつけながらの究極のエンターテインメントの光と影、栄光と狂気があま
すことなく描かれていて、なんともいえない凄いものを見せられた気になる。究極の悪役である
はずのヴィンス・マクマホンもショービジネスに振り回されながらも、必死に生きている人間なん
だな、とちょっといとおしくなってしまう。
さて、先日友人の家でWWFを観たのだが、それは、アメリカの同時多発テロ直後でしばし中断
していた興行が再開したときの録画を放送していた。ヴィンス・マクマホンがブッシュの地元テ
キサスで、スターレスラー達を並ばせてその前で演説していたのだが、ブッシュなんかよりよほ
ど上手いのだ。流石だな。でも、演説の後は、相変わらずもうこってりと凄すぎる、芝居がかっ
ていて、笑いながらも興奮させられるプロレス中継に変わっていたのだが。この映画も面白い
が、WWFそのものはもっと面白い!