純愛譜  Asako in Ruby Shoes

監督/脚本:イ・ジェヨン
出演:イ・ジョンジェ 橘実里 余貴美子 栗田麗 キム・ミニ ダンカン 柳ユーレイ 大杉漣 

ソウルに住む公務員のウィンは、薬指の感覚を失い仕事の報告書が書けなくなった。
彼は日常を忘れるためインターネットの世界に夢中になる。恋した女性ミアがレズビ
アンであることを知り虚脱感に襲われた彼は、サイトの中で見かけた、ミアによく似た
女性‘靴を履いた朝子’にのめり込みファンレターを送る。一方予備校生の彩は、寂し
さと満たされない気持ちから、日付変更線の上で息を止めて死ぬ決心をする。飛行
機代を稼ぐためインターネット上の覗き見サイトに‘靴を履いた朝子’と名乗って出演
する。サイトの発信地であるアラスカに向かうウィンと、死ぬために日付変更線を越え
る飛行機に乗り込んだ彩は同じ飛行機に乗り合わせていたが…。

不思議な感覚に囚われる作品だ。二人が目指すアラスカの空気のように清らかに澄
んだ、端正な映像で綴られている。特に東京の彩の日常生活の描写を切り取った画
面の美しいことといったら…。東京の住宅街をこれほど端正に映した映像はついぞお
目にかかったことがない。ソウルに住むウィンと、東京に住む彩は、なかなか出会わ
ないが、東京のパートとソウルのパートを異なるカメラマンが撮影しているため、映像
の上でもきれいに切り分けられている。二人の接点は、インターネットのサイトの上だ
け。しかし、そこでも会話を交わすわけではなければ、ほとんどお互いの存在にすら
気がついていない。

一見恵まれた境遇の彩が、死を考えるほど思いつめ追い込まれているとは、この設
定だけでは想像できない。仲の良かったおばあちゃんが死んでしまって、家族はバラ
バラ、自分をわかってくれる人が誰もいないというほんの小さな不幸だけ。だけど彼女
が死にたいと思う決意の堅さは、よく伝わってくる。誕生日の日に日付変更線の上で、
かつて彼女の祖父が死んだときと同じように息を止めて死にたいと願った彼女は、飛
行機に乗る旅費を稼ぐために、いつものバイトに加えて覗き見サイトのアルバイトを始
め、息を止める練習を繰り返す。死に魅せられ憧れる少女の生硬いストイックな強い
想いが、彼女の平凡な日常の繰り返しからもストレートに伝わってくるのだ。繊細で
意志の強い彩になり切った橘実里は、映画初出演とは思えないほどの輝きをスクリ
ーンに刻んでいる。赤毛のウィッグを被り、大好きな赤い靴を履いて、バーチャルな
空間に漂う彩は、このサイトに出演することで、これまでの自分をその空間に置き去
って生まれ変わっていく。日付変更線を越えるときにも、彩はこの赤い靴を履いて息
を止めようとするのだが…。

一方のウィンも、満たされた生活をしているとは到底いえない。公務員として退屈な
日常を送る彼は、ミアという赤い髪の美少女に片思いをする。彼はミアの着替えを覗
いたり、ミアが出た直後の女子トイレに忍び込み残り香を嗅いだり、彼女の写真をア
ダルト映像と合成して自慰行為を行ったりする、変態一歩手前の段階まで彼女を狂
おしく想う。そして、ミアへの想いが叶わないことが判ったとき、彼はインターネットの
覗き見サイトでミアに似た赤い髪のウィッグをかぶった「靴を履いた朝子」こと彩を見
ることに夢中になるのだ。ウィンは生気のない、本当にどうしようもない男なのだが、
それでも、朝子に夢中になるだけのパワーは持ち合わせていて、辞書を引きながら
英語でファンレターまで出すのだ。その行為は、ミアに恋したときにただ影のように
付きまとうだけの彼からは明らかに進歩していた。

このように、現実と折り合いがつかない淋しい二人が、言葉を交わさなくても、それど
ころかお互いの気配に気がつかなくても、それぞれの孤独な魂を響かせて、日本でも
韓国でもない場所でめぐりあう。めぐり合ったところで、物語は終わるが、それは、ま
た別の物語の始まりを告げている。恋愛の感情や高ぶりは描かれていないが、これ
まで、それぞれの日常生活を淡々を積み重ねていくことによって、彼らが最後に出会
うのは必然であり、運命であったということを感じさせてくれる。二人の出会いのシー
ンですらも、盛り上がるわけでなく淡々としているのは、かえって清清しい余韻を残し
てくれる。

もう一人魅力的なキャラクターは、粟田麗演じる彩のもう一つのバイト先の先輩。手
首にいくつも傷があるけれども、前向きで元気な女性。クローゼットの衣装ひとつひ
とつに、実物大の自分の顔写真を切り抜いてセットしておくというお茶目さ。外国人
のボーイフレンドとカジュアルに付き合い、妊娠すると子供を育てるお金を稼ぐため
に、セクシーなボンデージに身を包んでショーに出演する。強そうに見えて、でも脆
いところもあって、そんな自分をちゃんと認めているところがとても素敵だ。彩の意
志の強さは、彼女とのふれあいを通してさらに堅いものになり、そして、ラストに死
ではなく生を選ぶところも、間違いなく彼女に影響された結果であろう。

恋は負けない Loser

監督/脚本:エイミー・ヘッカリング 
出演:ジェイソン・ビッグス、ミーナ・スヴァーリ、グレッグ・キニア、ダン・エイクロイド

小さな田舎町からニューヨークの大学に進学したポール。貧乏でダサく純朴なポール
は、周囲のチャラチャラした学生達から浮いていて「負け犬」とバカにされる。だが文
学で同じクラスを受講しているドーラだけは、彼に優しい。彼女もアルバイトで学費を
稼ぐ苦学生なのだ。ポールはドーラに恋心を抱くが、やっと親しくなった彼女はハンサ
ムな文学部のオルコット教授と付き合っていた。誰に対しても“いい人”でありつづけ
るポールに、果たして幸せはやってくるのか?オルコット教授に都合のいい女扱いさ
れているドーラは真実の愛に目覚めるのか?


またアメリカンな学園青春モノか、と侮ってはいけない、切なくて胸がきゅんとする愛
すべき映画だ。「アメリカン・パイ」でおなじみのジェイソン・ビッグス演じる主人公の姿
がもう泣けて泣けて。真面目で素朴なポールは、奨学生のため一定の成績を修めな
いと退学になってしまう。ところが、ルームメイトとなった3人組の学生がもうどうしよう
もない遊び人ぞろい。プラダとか毛皮とか着ている、髪の毛サラサラのチャラ男くんた
ちで、寮の中で日夜ドンちゃん騒ぎ、ポールは落ち着いて勉強も出来ない。彼らはリ
ッチで親の寄付金のおかげで入学できたものだから、気楽なものだ。その上、田舎
者で垢抜けないポールをからかったりいじめたり。彼らは、堅物の彼が邪魔になって
寮から追い出すだけでなく、彼の引越し先にも現れてはまたそこでパーティ三昧。で
も、とことんお人よしのポールは、嫌とはいえない。なんでこんなにいい奴なんだ、と
イライラしちゃうほど。

そんな彼が知り合うのが、ドーラという娘。彼女はブロンクスから遠距離通学する苦
学生で、授業料を払うためにランジェリーパブで酔客相手に働いている。客に愛想を
振り撒けないのでクビになってしまい、一生懸命アルバイトを探す姿が涙を誘う。なん
とか自活したいと歯を食いしばって頑張っているのだけど、頑張りすぎていて背伸び
ついでに文学部の教授オルコットと付き合っている。ところが、このオルコットというの
が、また最低な男だったりするのだ。(最近は薄っぺらなハンサム役があまりにも似
合いすぎているグレッグ・キニアが演じているというのも、はまりすぎ)ドーラが若くて
可愛いから付き合っているだけであって、彼女を都合のいい女扱い。全然愛してなん
かいない。隠れて浮気するだけでなく、生徒に脅迫されて点数を水増しすることまで
しているとんでもない先生だ。だが、ドーラはひたすら健気で、彼好みの女になろうと
無理をしている。こんな男にひっかかっちゃダメだ!

そんなポールとドーラの恋は、ほろ苦くて甘酸っぱい。お気に入りのバンドのコンサ
ートに彼女を誘ったものの、ドーラは例のチャラ男たちにヘンなクスリを飲まされて
酩酊し、来られなかった。コンサートの最中も、座る人のいない席をちらちら見るポ
ールの姿の切なさよ。まるで爆風スランプの「大きなタマネギの下で」のような光
景だ。
お金のない二人のデートは、パンを失敬して公園で食べたり、ブロードウェイ/ミュ
ージカルに忍び込んでタダで観てしまったり。この演目が、劇中でも映るアラン・カ
ミング出演の「キャバレー」というのが、またすごく趣味が良くて、こっちまで得した
気分。でも、デートをしても、ドーラの心はオルコットの方を向いているというポール
の片思いが哀しい。彼女が遊びに来るのを期待して、ポールがレンタルビデオ店
で「女の子と観るなら何がいい」と聞いたら出てくるのが「ピアノ・レッスン」だったり
するという小ネタも効いている。学園生活では絶対に勝ち組になりえない二人を、
勝たせてあげようという心意気が全編から伝わってくる。

寮を追い出されたポールが住むのが動物病院で、たくさんの動物達の面倒を見な
がら生活していたりと、設定の一つひとつがとっても可愛くて洒落ている。ドーラ役
のミーナ・スヴァーリはちょっとチープでパンクっぽい、だけどキュートなファッション
が似合っていて新しい魅力を見せてくれているし、ジェイソン・ビッグスのピュアさを
感じさせる瞳には説得力がある。チャラ男3人組はとてもセクシーでモードっぽいお
洒落さんで、彼らの衣装は目の保養になる。(が、基本的にキャラクターの描き分
けがされていないところが、邪魔にならなくてよい)最後の「ドーラは卵子提供を止
め、卵をポールのために育てている」という締めのナレーションも上手い。

主人公二人のあまりの健気さや一生懸命さが、台詞の一つ一つから伝わってきて、
思わず「頑張れ!チャラ男たちに負けるな!ヘンな男に騙されるんじゃない」と彼ら
を応援したくなってしまう。ありがちな物語に、輝きが加わる魔法の瞬間が体験でき
る、可愛くてウェルメイドな映画。東京ではお台場の映画館での単館上映と不憫な
扱いだったが、ゆりかもめに揺られてそこまで足を運ぶ価値は十分あった。