ピストルオペラ 

監督:鈴木清順
出演:江角マキコ、山口小夜子、韓英恵、永瀬正敏、平幹二朗、沢田研二、加藤治子

謎の殺し屋組織“ギルド”のランキング、ナンバー3、通称"野良猫"皆月美有
樹は、ギルドの代理人・上京小夜子から仕事を依頼された。「…アタシのオト
コ」と拳銃を愛する皆月は、ターゲットを狙うが、逆に狙われ、別の殺し屋を撃
ち殺す。皆月は、再び上京から殺しを依頼される。依頼人はギルド自身。標的
は、殺し屋のランキング、ナンバー1の"百眼"。しかし、誰もこの殺し屋の顔を
知らない。皆月は、徐々に追いつめられていく。ギルドの他の殺し屋たちは、
次々と笑みを浮かべた顔で死んでいく。皆月に"百眼"から招待状が届く。対
決の時が迫っていた。その場所は「世界恐怖博覧会」…。

鈴木清順、なんと長編では10年ぶりという新作である。今年はレトロスペクティ
ブやDEEP SEIJUNなど回顧上映もあり、期待は否が応でも盛り上がるばかりの
ところへ、満を期しての公開。できあがった作品を観ると、これがまた、期待通
りのヘンな映画であった。

なんといってもビジュアルセンスは素晴らしい。特に樋口真嗣によるタイトルバ
ックでの極彩色が乱舞するところへEgo Wrappin'の曲がかぶさるところは身震
いするほどのスタイリッシュさ。「刺青一代」の襖のシーンを髣髴させるような徹
底的に作り物、ハリボテっぽいセット、色使いや構図も健在。立体感も全くなく
て、ニセモノぽい空間作りは観ているだけで楽しい。美術の木村威夫はすでに
80歳を超えているというのに、センスは相変わらず研ぎ澄まされている。

登場する殺し屋たち一人一人の設定はけったいで笑わせてくれる。だってジャ
ージ姿で車椅子を巧みに操る殺し屋「生活指導のセンセイ」なんか、本当に車
椅子バスケットの選手だということで凄くカッコいいし、カタコトの日本語を話す
ガイジンの「無痛の外科医」とか、ま〜よくもまあこんなにヘンなキャラを設定し
たものだ。見る影もなく太ったジュリーは冒頭東京駅でいきなり死んで、むくん
だ死に顔を見せ付けるし。

主要登場人物たちは、一人一人、人格を持っていなくて、なんだか妖しいオブ
ジェか人形のように見える。演技のうまさは問題にされていなくて、ビジュアル
がとにかく最重要視されているのだ。山口小夜子の美しさたるや、物の怪かバ
ケモノのようで、とても人間とは思えない。全く老けていないし、年齢も国籍も不
詳、人魚の肉でも食べたんじゃないかと思うほど。立ち居振舞いやポーズの取
り方も絶妙でうっとりと見とれてしまった。江角マキコは、和服にブーツ、黒髪と
いう扮装が似合っていて、色気がないところも含めてビジュアル的には非常に
良い。ただし、台詞回しは壊滅的にダメだ。「チュウチュウ蛸かいな」と言わせ
ているのに、滑舌がまったくなっていないのである。喋らないキャラだったら良
かったかも。

それにしても、清順は食えないジジイだと思った。この映画、当初はあの伝説
のカルト作品「殺しの烙印」の続編とされていて、実際に殺し屋に順位がつい
ていたり、「殺しの烙印」での宍戸錠が演じていた役の老いた姿を平幹ニ朗に
演じさせたりしているのだ。だが、ここでの平幹二朗はすっかり衰えた老残の
姿をさらしている。「殺しの烙印」パート2、颯爽とした宍戸錠を期待していた人
たちに強烈なしっぺ返しをしたという訳だ。しかも、恥ずかしげもなくロリコン趣
味を全開にしちゃって、おしゃれな映画を期待して集まった若い婦女子を引か
せようとしている。また、この10歳の美少女韓英恵が、可愛いだけでなく、なん
とふくらみかけた胸まで見せてしまっているのだから、驚きだ。

でトーリーも、言うまでもなく、わけわからない。難解とされる「夢二」や「陽炎
座」の方がまだまだ理解できそうなほどのデタラメぶり。しかし、後半に挿入さ
れる、加藤治子が一人語る三島由紀夫の首、そして山口小夜子が語る国旗
の話は、惚れ惚れするほどであり、鈴木清順の国家観をうかがわせるもので
素晴らしかった。

『子供の頃、デパートのお子様ランチの楊子の先についた小さな旗を
 集めるのが好きでした。今でも地球上のあらゆる国の旗を見るとジ
 ーンと胸に来るんです。あの木下恵介さんの「カルメン故郷に帰る」
 でアメリカかぶれした高峰さんと小林さんの彼方向うに日の丸が翩
 翻とひるがえるのを見た時、涙がとめどなく流れましたワ。それが
 夢では…高峰さんと小林さんの向うに花火が上り、はじけたと思う
 と、日の丸、星条旗、ユニオンジャック、トリコロールと次々に青空
 に拡がるのですが、どの旗もどの旗も血まみれ、泥まみれ、糞ま
 みれ…御免なさい、はしたない言葉を使って、でも本当に臭い臭い
 血の臭い、ヘドロの臭い、腐肉の臭いがするのよ。火に焼かれ落ち
 て来る旗も…ドイツ、ロシヤ、イタリー、スペイン、カナダ…一つとし
 てまともな旗はありませんのよ。どうゆう事なんでしょう。高峰さんと
 小林さんは陽気にカンカンを踊っています。厭な予感のする夢で、
 もう見まい見まいと思ってもつい又見て了うんですよ』

山口小夜子が、クルマの上にまたがり、衣装を広げてポーズをとりながら、
あの美しい口から「糞まみれ」なんてはしたない言葉がこぼれてしまうのだ
から、凄いインパクトがあった。マイクまで見えているし。このシーンが見ら
れただけでも、この映画を観てよかったと思ってしまったのである。

これだけ無茶苦茶やっても許されるのは、清順だけだと思う。こんなに見事
にケッタイでワケわからないけど、目の保養になる映画を観ることの贅沢さ
よ。一つだけ文句を言わせてもらうと、最後の世界恐怖博覧会というのは、
どんなに凄いものが出てくるのか期待していたのだが、出てきたのは山海
塾風の白塗り暗黒舞踊で、それだけは想像力の貧困さを感じてしまった。
これだけ美術センスもバッチリな映画なのに、ここですべてパーだな。その
トホホ観も、いかにも清順ぽいといえばそうなのだが。そして、桜の花びらが
舞うラストシーンも、清順作品のお約束に従ったものといえよう。お見事だが
二度目は許されないだろうな。