監督:ヤン・ユノ
出演:チェ・ミンス、チャ・スンウォン、ユ・ジテ、キム・キュリ、パク・サンミョン
釜山市全域に謎の火災が頻発。消防隊員のサンウは、自分をかばって死んだ親友の
死によって、無謀なまでの救助活動に駆り立てられていた。後輩のヒョンテは火への
恐怖に押しつぶされそうな毎日を過ごす。同僚のミンソンは同一犯による放火の疑い
を持っていたが、捜査はなかなか進まない。通報でガソリンスタンドに急行する隊員た
ち。現場で、サンウは群衆の一人、オーケストラの指揮をするように大きく腕を上げた
若い男に目を止める。その男、ヒスが哀れむような笑みを浮かべた瞬間、ガソリンタン
クが爆発、巨大な火柱が人々を呑み込んだ。サンウはヒスに対し絶望的な闘いに挑
んでいく。
消防士の活躍する話というと、ニューヨークのテロで大勢の消防士が亡くなってしまっ
た悲劇を思い出さずにはいられない。この映画も、命がけで炎と戦う男たちの戦いを
描いている。映画としては、敵が強大であればあるほど盛り上がる、というわけで、彼
らが戦う相手である火の描写は凄まじいものがある。CGではなく本モノの火を使って
いるというのは、実際に目にするとやっぱり違うな、と思う。ゴーっという轟音、全ての
物を焼き尽くし破壊していく神のような火。生き物のようにとぐろを巻き、自由自在に動
いている様子は、否が応でも恐怖感を増幅させる。撮影スタッフでやけどを負ってしま
った人もいたというが、俳優達もスタントなしで、よくもまあこんな恐ろしいところで撮影
できたものだと思った。実際に火の圧倒的な力、恐ろしさ、酸素が奪われ、熱くなり苦
しくなっていく様子までもがきちんと演出されているのも立派だ。ちょっと焼死体の描写
がグロテスク過ぎる嫌いはあるけれども、とにかく「焼死という死に方だけはしたくない
ものだ」と思わせてくれるのと、これだけ強大な敵に立ち向かっている消防士というの
は、本当に勇気のある人たちなんだな、と実感させる。
誰が主役なのか、明確に焦点を絞っているわけではないので、ドラマ部分が分散して
しまっているのが惜しまれる。親友であり同僚であった消防士を、自らの判断ミスで殉
職させてしまったサンウが主人公なのだろうが、彼の存在感は正直言って薄い。ただ
し、その親友の死が彼に深い影を落とし苦しめているのはよくわかる。彼の後輩である
ヒョンテも、目の前で人が死ぬところを見てしまってからは、火を怖がるようになってい
るし、サンウの殉職した親友の恋人だったミンソンももちろん、傷ついている。
そして、もう一人トラウマを抱えているのが、今回の敵役ヒスである。ヒスは少年時代
に親に虐待され、放火して親を殺したことで少年院で育った。火は彼にとっての救世
主なのであった。そして少年院を出た後、自分と同じように虐待されている子供達を
ケアする病院内の施設で働いている。しかし、深く傷ついている彼は、虐待された子
供達を本当に救うのは、死しかないと考え、子供達を虐待した親達を放火によって殺
した上で、病院そのものも焼き尽くしてしまおうと考えたのだ。
同僚を次々と業火によって失い傷ついたサンウ、そして少年期の忌まわしい過去によ
って傷ついたヒス、二人の男たちの叫びが、この映画のタイトルである「リベラ・メ=我
を救いたまえ」と響き合っている。ただし、サンウの苦悩が、意外とサラリと片付けられ
てしまっていたり、他の消防士たちのエピソードも多く描かれているので、結果的には
サンウは目立たなくなってしまっているのだ。ヒスも、虐待によって深く傷つけられてい
るのはよくわかるのだけど、それがなぜ、彼が可愛がっている子供達までも死へと導こ
うとしているのかが理解しにくい。子供達を虐待する親を憎む気持ちは良くわかるけれ
ども、だからといって、関係のない消防士や、その親達の隣近所にまで結果的にとは
いえ犠牲を強いるのは到底納得できない話だし、そのあたりのエクスキューズも説明
されていない。、ヒスは、かわいそうな人だけど、幼児虐待の犠牲者だからといって、
それだけでは、放火魔として人を殺しまく理由にはなっていないぞ。
ただ、ヒスを演じたチャ・スンウォンは文句なしの大熱演。子供達と接しているときの優
しそうな、慈愛に満ちた表情と、その合間にも時折見せるうつろな瞳。放火した後の、
虚無的な、憐れむような微笑、そして苦悩。傷つき苦しみぬき破壊されてしまった魂の
哀しみと狂気が良く伝わってくる。
この映画で、ぐっときたのがクライマックスの、病院の放火のときのシチュエーション。こ
の日はちょうどクリスマス・イヴで、非番の消防士が家族をクリスマスのディナーに連れ
て行く。消防士の給料は安いので、最初に入った店は高すぎると、別の店に移るために
クルマに乗り込む一家。ところが、放火された病院が大火事になっているため、渋滞し
てクルマは動けない。火事であることを知った彼は、非番であるにもかかわらず「お父さ
んは消防士なんだ」と大火災に飛び込んで、帰らぬ人となってしまうのである。「反則王
」では冴えないレスラーを演じていた鈍臭い風貌であるパク・サンミョンの、なんという格
好よさ!その男気に思わず涙があふれた。きっと、世界貿易センタービルの救助活動に
向かって命を落とした消防士たちも、こんな感じだったんだろう。
ドラマ部分の中途半端さはあるし、最初からヒスが放火犯であることがわかっているゆえ
サスペンス部分は盛り上がらない。が、炎の描写の圧倒的な迫力と、チャ・スンウォンの
カリスマ性を感じさせながらも繊細な演技、さらには消防士たちの人間性を描いていて、
韓国映画の持つ高いポテンシャルは十分に感じさせる映画である。