リメンバー・ミー  同感

監督:キム・ジョングォン
出演:キム・ハヌル、ユ・ジテ、ハ・ジウォン、キム・ミンジュ、パク・ヨンウ

学生運動が活発だった1979年のソウル。ソウンは同じ大学に通う先輩
トンヒに片思い。トンヒを盗み見するうちに偶然壊れた無線機を貰うこと
になったソウン。皆既月食が起きた夜、無縁機から男の声が聞こえてき
た。インという名の彼は、ソウンと同じ大学に通っていた。話していくうち
に二人は違う時代を生きている事に気が付く。彼らは1979年と2000年
という21年もの時の中を交信していたのだ。二人は無線機を通して交流
を深めていった。 ある時インと話していて、ソウンは将来トンヒが、自分
の親友ソンミと結婚することになる運命だと知る。そして、インの父の名
前はトンヒだった…。

ヒロインのソウンが暮らす1979年の描写の端正さに、心が洗われてしま
った。お嬢様っぽいファッションが似合い、中山美穂に少し似ているけど
ずっと清楚なソウンの片思いは、今の時代のドラマには見られないような、
彼の姿を見ただけでもう心臓が破れそうになるほどのひたむきなもの。彼
の行動に一喜一憂する彼女の、みずみずしい表情を見ていると、自分の
初恋を思い出してしまう。この時代には、アマチュア無線機というちょっと
古めかしい道具が良く似合い、柔らかい光に包まれた情感豊かなキャン
パスの風景がとても美しい。そして、1979年は、同時に、政治の季節で
もあった。

一方で、21年後の現代を生きるイン。ハイテックで熱帯魚の水槽がある
お洒落なマンションに暮らす彼は、いかにも今風の男の子。彼に恋する
ソ・ヒョンジという女の子がまとわりついてきても、つれなくしてしまう。21
年の時を隔てて生きている二人は、同じ大学に通っている、20歳の男女。
時代も、性格も全く違うけど、無線機から聞こえてくるお互いの声を通し
て、想像力を働かせ、いつしか同じように笑ったり悲しんだりするように
なるのだ。

本当にソウンが1979年に生きていることを確認するために使われた事実
が、朴大統領暗殺事件で、そのことを調べたことがきっかけで、韓国の近
代化の歴史をインが学んでいくというのも興味深い。大統領暗殺事件を
ニュースで知って涙を浮かべるソウンの姿も印象的だ。

しかし、何よりも美しいのが、ソウンがトンヒへの恋をあきらめることである
ということに、この映画の切なさがある。ソウンではなく彼女の親友ソンミ
が、トンヒと結ばれ、そしてインが生まれるのだ。ソウンの恋が成就してし
まったらインはこの世に存在しないことになってしまう。インとソウンとの関
係は恋とはいえない淡い思い。だけど、このとき、彼女は彼のために、身
を引くことを決意し、母親のような強さを身に付けるのであった。

「今日、彼の存在を心から消したの」とインに語りかけるソウン。そして、
「人は香りを持って生きているの。そしてその香りを感じながら生きている。
死んでからも香りを放つ人もいる」と話しながら、懐かしい匂いのするキャ
ンパスを歩き、二人が待ち合わせて会えなかった時計塔を見上げる彼女
の清々しい表情。恋を断ち切った彼女には悲しみの影はなく、新たに強さ
としなやかさを身に付けているのが見て取れる。そんな彼女を祝福するか
のように舞い降りる雪と、運命を受け容れるかのように、両手を広げて身
に受ける彼女。「香りはどんどん豊かになって永遠に放たれる。私には彼
の香りが伝わってくる。彼と私、同じものを感じて生きている。同じ哀しみ、
同じ歓び、同じ香りを感じながら生きている。1979年の喜びは、2000年に
も感じられるはず」ここで、もう涙が止まらなくなってしまった。人の人生は
儚い。でも、こうやって香りを放ちつづけることで、この世の中からいなくな
ったとしても他人の人生に影響を与えて生きていくことができれば、それは
なんて素敵なことなんだろう。

2000年に生きるソウンに会いに行く決心を固めるイン。41歳になった彼女
は独身だったが、英文科の教授として凛々しく美しく生きていた。言葉は
交わさない。でもインに、今日のことをわかっていたかのように優しく微笑
むソウン。

無線機を壊そうとして、大学の守衛に見つかったイン。守衛は「時の流れ
は壊せないものだ」と、すべてを見通したかのように言う。ソウンは、恋心
を消したことで、インという存在を守り抜き、時の流れを壊さないでくれた。
だけど、彼女と出会ったことで、インは自分の存在のために心を砕いた存
在がいてくれたことを知り、違った明日に向かって踏み出せた。そして、
ソウンはインと知り合って、ただの恋する純情な乙女が、自分から輝きを
放ち香りを放つ美しい女性に変わっていったのだ。時の流れは壊れなく
ても、二人の胸の中には豊かな香りが残った。タイムパラドックスが生ん
だ、あまりにも清らかで胸に残るラブストーリー。そっと胸の中にしまって
おきたい、いとおしい物語。