アタック・ザ・ガスステーション! Attack the Gas Station! |
監督:キム・サンジン
出演:イ・ソンジェ、ユ・オソン、カン・ソンジン、ユ・ジテ、パク・ヨンギュ
「なんとなく」ガソリンスタンドを襲撃した若者4人組。味をしめた彼らは、「退屈だな」と
再びスタンドを襲撃しに行く。ところが、ガソリンスタンドには次から次へと客がやってき
て、彼らは慣れない給油をさせられる羽目に。さらに、人質に取ったバイト店員をいじめ
ている悪ガキどもがやってきたり、傲慢な警官や、生意気な出前持ち、高慢ちきな女な
どいろんな人たちがこのガソリンスタンドで騒動を起こしていく。しまいにはヤクザ軍団
や出前部隊やら警官隊やらが集結し、一大事になっていくが…。
韓国は、日本の体育会的な、上下関係の厳しい性質が濃厚な国なのだそうだ。この映
画の面白さというのは、ヒエラルキーの下の者が、上の者をやっつけていく下克上の感
覚にある。4人組の一人ムデポ(無鉄砲)は、まずは人質に取ったガソリンスタンドの社
長と店員たちに「ドタマ伏せろ!」と頭を床につけて体をアーチ型にするというキツイ体勢
を取らせる。これは韓国の伝統的な体罰だということで、ムデポは学生時代、散々この
体罰を受けさせれたことがトラウマになっていたのだ。そして、次にガソリンスタンドのバ
イト店員をいじめていた学校のボス連中がガソリンスタンドにやってきたもんだから、4人
組は彼らをボコボコにした上、いじめられっ子店員と番長を対決させたら、なんと店員の
ほうが勝ってしまったのだ!今度は店員が番長たちに威張り散らす番だ。また、スポー
ツカーで颯爽と現れたタカビーな整形美女は、ムデポにしりとり野球拳を強要され、下着
姿にさせられてしまうのが笑える。
そうやって、何も知らずにガソリンスタンドにやってきた連中がみなひどい目に遭ってしま
うのだが、ひとつ面白いエピソードがある。4人組のうち元ミュージシャンであるタンタラは
人質のうち4人に、食事中のBGMとして歌を歌えと強要する。ところが、彼らが歌うラップ
がとてもキマっていて、給油に訪れた音楽プロデューサーに彼らはスカウトされるのであ
る!
そうこうするうちに、ガソリンスタンドには、番長の仲間や、4人組に無茶な注文をされたこ
とで腹を立てた出前持ちの軍団(なんか出前持ちが軍団を作っているということだけです
ごくおかしい)や、整形美女が通報してやってきた警官隊、さらにはヤクザまでやってきて
大騒ぎ。たった4人が引き起こした襲撃事件がこんなに大事になるとは!このあたりの描
き方がコミカルで本当におかしい。
最初のうちは、ただなんとなくガソリンスタンドを襲った若者たちが、単なる頭悪い不良集
団にしか見えないのに、そのうちだんだん彼らが魅力的に見えてくるから不思議だ。確か
にスタンドを襲うのは乱暴な行為だけど、残酷な描写はまったくないし、そのうち彼らの過
去のトラウマが見えてきたり、意外と彼らもいい奴じゃん、みたいなのがとぼけたユーモア
の間から見えてくるのである。この襲撃事件を通して、彼らは自分に対する自信を取り戻
していくのだ。
一人一人のキャラクターの描き方が個性があふれていていい。リーダー格のノーマークは
元野球選手だということだけど、もう雰囲気からして、いかにもストイックでスポーツ選手
っぽい。そして逃げるバイクに向けて見事な投球を決めるのである。絵描きを目指してい
た金髪でスタイリッシュなペイントは、ガソリンスタンドの看板にヌードを描いてご満悦だし、
音楽がないとキレるロンゲのタンタラは、ガソリンスタンドの社長に歌を強要するが、社長
が歌うのはチョー・ヨンピルのド演歌(だけど、社長役の俳優は歌手だったということでか
なり歌がうまい)。ムデポはお仕置きを強要したと思えば、人質同士ガチンコ勝負をさせ
たり、整形美女にしりとり野球拳をさせたりと、手を変え品を変え、良くこれだけのことを
思いつくもんだ。彼らは一人一人トラウマを抱えているわけだけど、こんな犯罪行為に出
たのはそれらのトラウマのせいだ、と言い訳にしているわけではないのに好感が持てる。
正直、この「下克上」の構図が明確になるまではちょっとテンポがもたついて退屈なところ
がある。だけど、ガチンコ勝負あたりから急に盛り上がってきて、最後のクライマックスな
んてもう最高にノリノリで笑えて、かつ爽快だ。前半、もう少しエピソードを減らして短くす
れば、もっと引き締まって面白い映画になったんじゃないかと思うが、生き生きとしていて
楽しい時間を過ごすことができた。
マレーナ Malena |
監督:ジュゼッペ・トルナト−レ
出演:モニカ・ベルッチ
第二次世界大戦期のシチリア。少年レナ−トは、村で一番の美女マレーナに恋する。そ
れは声をかけることもできない、ただ遠くから見つめているだけの切ない片思い。マレーナ
は出征した夫を一途に想っていたが、彼が戦死したという知らせが届き、彼女はどんどん
不幸な道をたどり始める。
時代に翻弄される美しい女性。彼女に片思いをする少年の、初めての恋ということだけで
押し切った映画。しかも、マレーナにはほとんど台詞は与えられていない。彼女は体にぴ
ったりとした服を着て、村の人々の視線を浴びながら歩いているだけなのだ。徹底的に
少年側の一方的な視点でのみ語られている。もっとはっきり言ってしまえば、初めて往来
でマレーナを見かけ、思わず半ズボンの前がムクっ、となって以来主人公の少年は自慰
行為ばかりをずーっとやっているのだ!彼の思慕は、彼女の部屋をこっそり覗き見したり、
彼女のパンティを盗んで、それを一晩かぶって寝たりといった、完全にストーカーじみた行
為にまでエスカレートする。彼の父親は、マスばっかりかいている息子は病気なんじゃな
いかと彼を部屋に監禁までする始末。うん、たしかにお猿さんみたいにオナニーばっかりし
ていたら親は心配するよな。
片想いが、究極の純愛へと昇華されていく様子は良く描けていると思う。それが直性欲(し
かも自慰行為)に結びついていくところはいやはやなんとも、だけど。20代後半とおぼしき、
しかも圧倒的に美しい女性を目の前にすると、まだ12歳の少年は、一人の男性としては
決して見てもらえないだろうと思い、ただ妄想の世界で遊ぶしかない。この妄想というのが
またものすごいんだけど。マレーナのたわわな乳房を想像し、彼女と話したり、くちづけした
りするのをひたすら夢見るのだ。最初のうちはほほえましいと思ったのだけど、そのうち「い
いかげんにしろ」とうんざりしてしまったのは、自分が女性だからだろう。レナート少年の視
線も男たちの視線も、「視姦」としか言いようのない、舐めるようなものであったので、観て
いるこちらまでかなり恥ずかしくなってしまった。そして、「少年の目から見たマレーナとい
う女性」を表現することがこの映画の目的になっているんで致し方ないのだろうけど、マレー
ナ自身は何を考え何を感じていたのかはさっぱりわからないので、美しくてかわいそうなお
人形にしか見えないのが物足りない。
夫が戦死してからというものの、マレーナはどんどん堕ちていく。彼女の美しい肉体目当て
に、多くの男が群がってくる。しかし、本当に彼女を幸せにしようと思って近づいてくる男は
いない。彼女の幸福を祈っているのは、われらがレナート少年だけなのだ。彼女を愛してい
たかのように見えた男どもは、最後にはいとも簡単に彼女を捨てた。空襲で父親を失い、生
活の術を失ったマレーナは、ついにナチス相手の娼婦にまで身を落としてしまう。時代の流
れとはなんと残酷なことだろう。
そして、田舎町のいやらしさというのが、これでもか、とばかり描かれている。こんなひなび
た村にはふさわしくないほどの圧倒的な美女は、村中の噂の的となっていた。女たちは、逆
立ちしたってかなわない彼女の美しさに嫉妬し、「あんな格好をして町を歩くなんてなんて淫
らな」と口々に言うが、そんなふうに思うほうがよほどいやらしいのにね。私だったらマレーナ
のような美しい女性が近くにいたら「なんて綺麗なの」とうらやましく思うことはあっても、あれ
だけ綺麗だったらモテて当然だし嫉妬するなんてバカなまねは絶対しないと思うんだけど。
男たちも「でへでへ」という感じの下卑た視線でしか彼女を見ていない。本当にこの村の人々
は全員そんな風に思っていたんだろうか?それは、ファシズム政権下のイタリアにおいて、
全体主義的な思想に人々が染まってしまっていたからなのかもしれないが、この映画では、
そこまで政治的な情勢が突っ込んで描かれているわけではない。
まあ、とにかく、マレーナはあまりにも美しくてセクシーだったために、この戦争という狂った
時代背景もあって人一倍不幸になってしまうのであった。マレーナ自身も、自分の美しさを十
分自覚していなくて、その美しさをみせびらかすように町の中を、キャットウォークを歩くスーパ
ーモデルさながらに歩き回り、戦時下にあっては華やかな服装をして(今の時代からすれば、
特に派手というわけではないのだけど)わざわざ敵を作るようなことをしているのでちょっと愚
か。しかも、夫を失ってからは隙だらけで男に簡単にだまされる。だけど、彼女は生きていくた
めに仕方なく男に頼らざるをえなくなったわけで、別に悪いことをしていたわけではなかったの
に、この仕打ちを受けるとはかなりひどい話だ。
そして、集団心理の恐ろしさが出ているのが、ファシズム政権が敗れ連合軍がシチリア軍に
やってきたシーンだ。さっきまでムッソリーニ万歳と言っていた民衆が、手のひらを返したよう
に星条旗を振って熱狂するのである。衆愚とはまさにこれらの人たちのこと。ナチス相手の娼
婦をしていたマレーナは広場に引っ張り出され、裸にひん剥かれ、殴る蹴るのリンチを受けた
上丸坊主にしてされてしまうのである。その残虐なことといったら、女囚モノ映画も真っ青であ
る。私も報道写真で、ナチスに占領されていたパリが解放されたとき、ナチスに荷担した女性
たちが同じような目に遭った様子を見たことがあった。だけど、パリだったらもともと「ナチスに
占領された」ところだから女性たちが売国奴として罵られるのは仕方ない面はあるけど、イタ
リアは枢軸国側だったから、別にマレーナが売国奴扱いされる筋合いはないと思うのだ。しか
も怖いのは、マレーナをリンチしていたのがみんなおばはんばかりだということだ。こんなこと
するから、陰険でますます不細工になるのよね〜。ホント女の嫉妬は恐ろしいものだし、人の
性格って顔に出るんだな。
このリンチシーンのところまでは、「まあオナニーシーンとモニカ・ベルッチのお色気シーンばっ
かりだけど、少年の一途な恋心はよく表現できているしまあこんなものかな」と思っていたんだ
けど、リンチのあまりの残酷さに思いっきり引いてしまった。しかも、リンチされるマレーナを、わ
れらがレナート少年はただ遠巻きに見ているだけで、彼女を守ろうとしないのであるのがちょっ
といただけないなあ。いくら神様に「マレーナをどうかお守りください」と祈っているからといって、
神頼みだけしてればいいってもんじゃないわよ。集団の熱狂の前では、やめろと言う勇気は出
ないものだろうけど、案外彼のマレーナへのピュアな思いというのも嘘なんじゃない、と受け取
ってしまったのだ。
一年後、前よりもずっと地味になって、夫の手を引きながらマレーナが戻ってきたときの、村の
人々の薄気味悪い反応というのもとってもいや〜な感じ。自分たちがやったことを棚に上げて、
彼女に媚びている姿といったらもう醜いったらありゃしない。レナートはなんだかブスなガールフ
レンドがいるし。マレーナもあんな仕打ちを受けた村によく帰ってくるな、と思うけど、彼女はずっ
と強くなったんだろうな。そういう救いがあったのは、ちょっと良かったけど。あんな下品な村の
人たちに比べれば、彼女はずっと誇り高い女性であったというわけだ。
多分男性が見たら、自分の初恋の思い出が甦ってきて涙、涙なんだろうけど、デートで女の子
と観にいったら、気まずくなる可能性がかなり高いと思うな。彼女が、あのリンチシーンで間違
いなく引きまくるだろうし。まあ、モニカ・ベルッチはとにかく圧倒的に美しいし、シチリアの自然
も、モリコーネの音楽も素晴らしいので、それだけでも観る価値はあると思うんだけど、感動を期
待して観にいかないように。