テイラー・オブ・パナマ The Tailor of Panama |
監督:ジョン・ブアマン
出演:ピアース・ブロスナン、ジェフリー・ラッシュ、ジェイミー・リー・カーティス、キャサリン・マコーマック
イギリス、MI-6のスパイであるアンディ・オズナードは、女性問題やギャンブルで身を持ち崩し、
僻地であるパナマに飛ばされる。そこで彼は、現地の事情に詳しい英国人ということで、仕立
て屋のハリー・ベンデルをマーク。ベンデルはパナマ政府の要人や銀行家などの顧客を抱え
ており、現地の事情に詳しいに違いないとアンディは推察したのだった。ベンデルは腕も良く、
パナマ運河委員会に勤める妻のルイーザ、そして二人の子供に恵まれ幸せに暮らしているよ
うに見えた。が、実は借金して買った農場が火の車であり、さらに、彼は放火事件を起こして
投獄されたという過去を妻に隠しているのであった。ベンデルの弱みを握ったアンディは、彼を
半分脅し、金をちらつかせることで情報収集活動をさせるのだが、ふとベンデルが口に出した
ことが、やがて大きな国際問題に発展することに…。
ピアース・ブロスナンといえば007、ジェームズ・ボンドである。そのイメージを見事に逆手に取
った映画だ。ジェームズ・ボンドといえば、確かに女癖は悪いが一流のスパイで、スーパーヒー
ローである。だけど、ここでブロスナンが演じるアンディ・オズナードは、女にだらしないスパイと
いうことだけがボンドとの共通点であり、悪知恵だけが働き金に汚い三流スパイなのである!
よくもまあ、ブロスナンもこんな役を引き受けたものだ。女大使館員をたぶらかすなんて朝飯前。
ベンデルの妻ルイーザにまで堂々と手を出そうとするものだから天晴れである。(それをピシャ
っと拒絶できるのは、ジェイミー・リー・カーティスくらいだろう)日本では消費者金融の広告にも
登場しているブロスナン独特の、安くて胡散臭い雰囲気が満ち満ちていて、ある意味たまらな
い。
傑作なエピソードが一つ。アンディが指定したところにベンデルがノコノコ出かけていくと、そこ
は娼婦がうろつく場末の連れ込み旅館で、アンディはなんと振動するベッド(よく日本のラブホ
にもあるやつ)の上でブルブル震えながら「何か情報はないのか」とベンデルに迫るのである!
もう笑い死にするんじゃないかと思うくらい笑ってしまったよ。そんなたいそうな情報なんて持っ
ているわけもないベンデルは、部屋のテレビに映し出されているポルノビデオの中国人女優
を見て、「中国がパナマ運河の権益に重大な関心を持っている」と思わず出任せを言ってしま
い、そこから大いなる災厄が始まるのだ。
ベンデルが苦し紛れに口走った法螺話が、いつしかどんどん膨れ上がって戦争一歩手前にま
でなってしまうという馬鹿馬鹿しさが最高に笑える。ベンデルの友人の、今は単なるアル中の
元革命家は「静かなる抵抗」なる架空のグループのリーダーに仕立て上げられる。どこまでも
欲の皮の突っ張っているアンディは「静かなる抵抗を支援するための資金」と称して大金をせ
しめ、それに気がついた大使の口を封じるためにまた金を渡し、さらにアンディに資金を渡す仲
介役のMI-6のお偉いさんも、さらに資金提供元の米国国防省に金額を上乗せして上前をはね
ようとしたりして、みなさんどこまでも欲張りだ。どんどん運動資金は吊り上がっていく。一瞬だ
け登場の、「こんなときを待っていたんだ!」と思わず武者震いし、戦争をやりたくて仕方ない
アメリカのタカ派将校役のディラン・ベイカーにも大笑い。基本的にこの映画はバカ映画なのだ。
かくして、そろいもそろって私腹を肥やしたがっている英米のお偉いさん、パナマ侵攻をしたくて
たまらない好戦的な軍人たち、諸悪の根源である金に汚くて忠誠心はゼロの三流スパイといっ
た皆様のおかげで、一人の仕立て屋が口走った出任せが大変なことを引き起こしてしまうとい
うなかなか壮大なブラックジョークの映画となっている。
映画のオープニングでは、実に巧みな手さばきで注文紳士服の仕立てを素早く行っているベン
デル。基本的には実直で地道に生きている善良な職人である。アル中になってしまった友人が
かつては立派な男だったゆえに、親切にしてやっているし、妻や子供のことはこよなく愛してい
る。だが、妻にも言えない犯罪者だった過去、そして借金。都合の悪いところは嘘で塗り固め、
しかも自分を実際以上に見せようとする法螺吹きの性質があった。そもそも、彼が営む洋服店
が、ロンドンの名門洋服店からの暖簾分けだというのも真っ赤な嘘。たしかにベンデルの顧客
は大統領をはじめ政財界の首脳が多いが、だからといって、彼らの秘密を握っているわけでは
ない。でも悲しいかな、ベンデルはついつい見栄を張ってしまって、ありもしない大統領のもらし
た秘密なんて物を捏造してアンディにホイホイ喋ってしまう。アンディは、悪知恵だけは働く男な
ので、このあたりを聞き出すのが抜群に上手いだけでなく、ベンデルの、自分をより良く見せた
いという欲望をかなえてくれる男でもあったのだ。
自分を良く見せたいがために、つかなくてもいい嘘を上塗りし(アンディに出会う前から、嘘で塗
り固めた生活をしていたわけなのだが)自らを窮地に追い込む男の悲哀を、ジェフリー・ラッシュ
は本当にリアリティを持って演じている。悪人にも、気の弱い善人にも見える彼の独特の風貌
が、ベンデル役にぴたりとマッチしているのだ。
そう、この映画は、「嘘」の落とし穴というのがテーマなのではないかと思う。ベンデルが苦し
紛れについた嘘、アンディが私腹を肥やしてトンズラしようと企んだためについた嘘。そしてこ
の二人の人物がそもそも生きている上でついてきた嘘の数々…。これらの嘘の積み重ねが
招く結果はエライもんだが、しかし深刻な話ではなく笑い話になっているのが、人を食ってい
ていい。本当にアンディの嘘を信頼して軍隊まで出動させるほど米軍も間抜けだとは思えな
いけど。
もったいないのは、やがてお互いの化けの皮が剥がれたアンディとベンデルがぶつかり合うシ
ーンが、林の中のカーチェイスくらいしかなくて、ベンデルはアンディを問い詰めることもできな
かったというところ。せっかく二人の曲者役者が騙して騙されて、キツネと狸の化かし合いとい
う面白い関係を描いているのだから、ますます二人のガチンコ対決が見たかったものだ。お互
いが相手のことをいったいどういう風に考えていたのかも、表現されていなかったのが物足り
ない。これだけ大ゴトになってしまったというのに、二人とも最後の必死さが足りないよ。もっと
アンディもぶざまなまでにじたばたしてほしかったな。深刻になるような映画ではないので、こ
んな風に軽く終わってしまってもいいのかもしれないけど。
ジャニスのOL日記 Janice Beard 45WPM |
監督:クレア・キルナー
出演:アイリーン・ウォルシュ、パッツィ・ケンジット、リス・エヴァンス
ジャニスは、彼女を出産したときから、心の病にかかって外に出られなくなってしまった母親の
治療費を捻出するために、スコットランドからロンドンに出てきて派遣OLに。しかし半端じゃな
いほどノロマでドジな彼女は、どこでもすぐに職場を首になってしまう。見かねた幼友達のヴァ
イオレットの紹介で、自動車会社に派遣されたジャニスは、メールボーイのショーンに一目ぼ
れ。だが彼には、ある秘密があった…。
「アリーmyラブ」がちょっと入った感じの、オフィスを舞台にしたOL奮戦記。しかし、さすがイギ
リス映画だ、と思ったのは、「アリー」のようなゴージャス感が微塵もないところ。美人といえば、
ジャニスが働く秘書課のお局室長役パッツィ・ケンジットだけだし、彼女もかつて「リーサル・ウ
ェポン2」や“エイス・ワンダー”時代の可愛らしさがすっかり過去の話になってしまっているの
が悲しい。そして、ヒロインであるところのジャニスがまたホントにブス、としか言いようがない
のだ。不細工な上にドジでノロマな亀だし。その上、強烈な妄想癖があるし、入社初日からオ
フィスの中でビデオカメラを廻し、座席をキャラクターグッズで飾り立て、髪型を変えて来た同
僚に「似合っていないわ」と言ったり本当に困ったチャン。こんな娘が自分の部署にきたら、間
違いなく私はいじめると思う。とにかく、ジャニスの大ボケとトロさにはもう呆れっぱなし。
何一つとりえがないジャニスだが、いいところは少しだけあって、外に出られなくなって引き
こもってしまった母親を思う気持ちが人一倍あるということ。彼女の妄想と虚言癖は、母親が
見られない広い世界を知ってほしいという気持ちと、辛い現実を逃れるためのものであった。
そして、あたり構わずビデオテープに収めるのも、母親に送るため。こんなに素敵な部屋に住
んでいるの!と住宅展示場を自分の部屋に見立てた映像を送ったり、なかなか涙ぐましい努
力をしている。そんな苦労をしているのに、まったく暗さを感じさせず能天気な彼女は、ある意
味とってもえらい。
彼女のノロマでトロいところはそう簡単に直らないが、とりあえず一生懸命頑張っているという
のもえらいといえるかもしれない。幸い、頑張っているところが少しは認められた結果、「あな
たを見ていると私の新人時代を思い出すの!」という怖いお局様のジュリアとトイレで抱き合
うシーンはなかなか感動的。ジャニスは産業スパイ事件に巻き込まれてしまうが、自分に降
りかかった嫌疑を晴らし会社の危機を救うために必死に奮闘する。その結果、仕事上のサク
セスをつかみ、さらに母親の引きこもりが解消されるというエンディングはいい。ジャニスは相
変わらず虚言癖バリバリで、キャリア志向もゼロ、成長なんか全然していないのに、その純粋
な性格のおかげで幸運の女神様に微笑まれるという終わり方も、説教くさくなくて好感が持て
る。
ただ、このようなOLコメディものにしては、あまりテンポが良くなくてもたつくのが残念。まるで
トロいジャニスの性格が乗り移ったような作品になってしまっている。かといって、イギリス人
特有のブラックユーモアが効いているわけでもないし、お局ジュリアの性格や描写も類型的。
何より決定的なのが、とにかくジャニスに魅力がなさ過ぎることだ。「ブスでとろくて変わった
女の子」というキャラクターありき、の話なんだけど、それらの要素が許容範囲をはるかに超
えていて、ものすごくイライラさせられるのだ。やっぱり映画なんだから、本物のブスじゃなく
て、『デンジャラス・ビューティ』のサンドラ・ブロックとか、『ゴーストワールド』のソーラ・バーチ
のように「演じている女優さんは本当は綺麗なんだけど、不細工な役を演じている」だったら
いいんだけど、ね。『ベティ・サイズモア』のレニー・ゼルウィガーのキャラも、同じように妄想系
ヒロインが暴走する話なのだが、決して美人ではないレニーが、たまらなく魅力的だった。主
人公に恋すること、感情移入ができないと、かなりつらい。メールボーイ役のリス・エヴァンス
も好きな俳優なんだけど、ここではその個性的な魅力はあまり発揮できていない。
センターステージ Center Stage |
監督:ニコラス・ハイトナー
出演:アマンダ・シュール、イーサン・スティーフェル、サシャ・ラデツキー、ゾーイ・ザルダナ
スーザン・メイ・プラット、イリア・クーリック、ピーター・ギャラガー
アメリカン・バレエ・シアター(ABT)の名門バレエ学校、アメリカン・バレエ・アカデミーにやっ
とのことで合格したジョディ。しかし、すでにこの学校で長年学んできたモーリーンなど、他
の生徒たちのレベルに彼女はなかなか追いつけない。決してバレリーナ向けではない骨格
の彼女は、退学勧告を受けるほどの劣等生だった。そんな時、街のダンススタジオで踊っ
たジョディは、ABTのプリンシパルでありスターのクーパーに、生き生きと踊っている姿を見
られ、憧れの彼と一夜を過ごすがあっさり失恋。そして厳しい練習に励みながらも青春を謳
歌する生徒たちに、卒業公演の日が迫ってきた。ABTやプロのバレエ団に入ることができ
るのは、ほんの一握り…。
実在のバレエ学校を舞台にした、青春ドラマ。ヒロインのジョディとクーパー、そして卒業公
演でからむチャーリーの3人は、プロのバレエダンサー。特に男性二人は、ABTのプリンシ
パルということで、びっくりするような高度な技を決めてくれるし、練習シーンでも、卒業公演
でもダンスシーンはしびれるほどの凄さで、バレエ好きの私は大喜びしてしまった。他のキ
ャストも実際のプロのバレエダンサーを起用しているので、彼らが実際にスターになるため
努力している様子と、映画がオーバーラップしていて、またとないリアリティと勢い、躍動感
を生んでいる。
物語はまさに王道青春ドラマで、少女漫画にもありそうな物語。ヒロインのジョディ、実力は
あるのに反抗的なヒスパニック系のエヴァ、そしてステージママに育てられた優等生のスー
ザンという3人のキャラクターがきちんと描かれているのがいい。特に、ABTの広報担当とし
て働く母親に、果たせなかったバレリーナの夢を押し付けられるモーリーンはせつない存在
だ。他のすべてを犠牲にして、バレエしかなかった彼女が、普通の男の子である恋人を見つ
け、親の期待に押しつぶされそうになりながら、拒食症になってしまってついにバレエを捨て
るまでの道のりには胸を締め付けられそうになる。モーリーンを演じるスーザン・メイ・プラット
がまた、顔が驚くほど小さくて華奢な体型の儚げな美少女で、とても寂しそうな表情で繊細
にこの役を演じているのが印象的。
反面、ヒロインのジョディは確かにブロンドでとても美人なのだけど、役柄上そうなのだがバ
レリーナとしてはやや肉付きが良すぎて、ダンスのテクニックもやや劣るように見えてしまう。
(卒業公演を見ると、本当は上手なのがわかるのだけど)それなのに、恋にうつつをぬかし
て、スターダンサーのクーパーにのぼせ上がったり、気分転換で遊んでいたりすることが多
いのがちょっと…である。大体公演中のプリンシパルにステージの袖から話し掛けるなんて
しちゃいけないのだ。そのほうが、いかにも彼女が普通の女の子っぽく見える、ということな
のだろうけど。あと、少なくとも、設定上は実力が落ちるということなのに、振り付けのクーパ
ーと寝たということもあって卒業公演の主役を張れるというのも、違う!と思ってしまうのだ。
かくのごとくヒロインの設定のミスがあるのだが、全体的には青春映画としてウェルメイドで
あるといえる。ボロボロになったバレエシューズを、生徒たちが一生懸命縫って修理する場
面。血豆だらけになった彼らの足先。実力はあるのに態度が悪いために、卒業公演ではそ
の他大勢の群舞を割り当てられてしまったエヴァが、消灯時間が過ぎても一人練習するシ
ーン、暗い窓に映る彼女のシルエットの、詩的なまでの美しさ。彼女を嫌いながらも、その
人知れぬ努力に感嘆してサポートする厳格な教師ジュリエット。生徒たちが目標に向かっ
て必死に努力するディテールが、挫折や大人の世界のドロドロも少し交えて、丁寧に描か
れている。
卒業公演のクーパーが振付けた作品。バレエの中に現代性を盛り込むのはいいのだけど、
それがハーレーダビッドソンだったり、ジャミロクワイの音楽だったり、摩天楼だったりする
のはものすごくベタベタでかなり気恥ずかしい。でも、そのような恥ずかしさを取り入れた
ことで、バレエというどちらかといえば伝統的に見られる世界に、躍動感と普遍性が与え
られた。バレエなんて…という観客にも、十分に楽しめる作りになっている。青春映画とい
うのは、いつだってちょっとこっぱずかしいのが、胸に甘さを残してくれるものなのだから、
ダンスシーンだって少々ベタになっていてもいいじゃない。ジョディが行くダンススタジオの
シーンや、サルサクラブなどバレエ以外のダンスシーンも楽しくて、終わった後はとても爽
やかな気分になれた。