魚と寝る女  The Isle

監督:キム・ギドク
出演:ソ・ジョン、キム・ヨソク、ジャン・ハンソン

釣り場のある大きな湖。一人の女が、この釣り場の管理人をやっている。湖には、いくつかの
小屋が浮かんでいて、釣り客はそこで釣りをするだけでなく、数日間寝泊りをし、売春婦を呼
んでセックスをすることも出来る。女は、小舟で釣り客達を小屋まで送り届け、食料や酒、女、
求められれば自分の体も提供する。若くて凄惨な色気のある女だが、ひどく無口で無愛想で
淋しいこの場所に一人で暮らしている。この湖に、一人の男がやってくる。男は恋人を殺して
自殺するためにここへきたのだ。男を追って警察がやってくるが、女は男を湖に隠して匿う。
男は女の体を求めるが、彼女は拒絶し、彼は若くて可愛らしい売春婦を呼んで代わりにセッ
クスする。が、やがてふたりは結ばれて…。

薄紫色に煙る山間の湖。霧がたちこめる水墨画のような美しい風景の中に、ぽつんぽつん
と浮かぶ小屋舟。そこに住み着く、湖と同一化した女。この設定を見ただけで、やられた、と
思った。これだけで、もうこの映画は成功したようなものである。神代辰巳のロマンポルノと
か、安部公房の「砂の女」タイプの情念地獄の物語だ。

世間から隔絶されたこの世界は、悪夢のようでもある。人はここにやってきて、釣りとセック
スを楽しみ、浮世を忘れる。女は黙々と彼らを小屋に運んでいく、三途の川の渡し守のよう
な存在にも思える。この女がとにかく凄い。最後まで一言も喋らずいつも不機嫌な表情を浮
かべている。意志の強そうな野性的な顔立ちと伸びやかな肢体をしていて、凄みのある美
しさを持っている。それだけでなく、この女はまるで湖と同一化している魚のようなのだ。湖
の中を驚くような速さで泳ぎ、時々気に入らない釣り客を湖の中に引きずり込んだりするの
である。男が娼婦を呼んでセックスするときには、トイレ代わりの穴からぬっと顔を覗かせ、
嫉妬に燃えたぎる表情を見せ付ける彼女の、恐ろしいこと恐ろしいこと。人間というより妖
怪のようだ。

そんな女に魅入られたのは、逃亡犯の男。彼は針金細工を手作りするような繊細な男性な
のだが、恋人を殺して死に場所を求めてきて、死のうと釣り針を何本も飲み込む。男を匿う
女は彼の口に引っかかった釣り針を一つ一つ外していくのだが、観客席から「ギャー」とい
う悲鳴が上がるほどのとてつもなく痛い、痛すぎる描写だ。さらにもう一回、もっともっと痛い
失神してしまいたくなるほどの強烈過ぎる描写があるのだが、それはこれから観る方のた
めに伏せておく。心臓の弱い人にはお勧めできない。SMなんてものでは説明できない、あ
まりにも強烈過ぎる愛なのだ。自分を徹底的に傷つけてしか表現できない、言葉なんかで
は絶対に語れない究極の愛。

女はこの男に心底惚れる。ふたりは世の中から隔絶された湖の上の小屋で、相変わらず
言葉も交わさないまま愛し合う。ふたりで釣った魚の身をそいで食べ、身をそがれた魚を
湖の中で泳がすが、身をそがれてもなお泳いでいるその姿は、自分を傷つけ身をそがれ
てもなお、求め合うこの男女の行き場のない激しすぎる愛を象徴しているのだ。

この湖は不思議な場所である。人々はこの湖の上で魚を釣り、それを食べ、セックスをし、
そして排泄する。水の中に排泄物が落ちていく描写や、女が殺した人間の血が広がって
いく描写は、この湖が人の営みの終着点であることを表わしている。男に惚れた娼婦に
強烈な嫉妬を覚えた女は、この女を結果的に殺して湖に沈めてしまう。湖の濁った水の
中を娼婦の死体が漂う描写も、なぜか非常に美しい。彼女を殺してしまったことで、女は
追い込まれるのだが…。水はすべての源であり、そして終着点。観念的過ぎるのが惜し
まれるラストも、それを語ろうとしているのではないか。

台詞をほとんど用いないで、俳優の演技と湖の幻想的な光景だけで、叫び声を挙げてし
まうほどの凄まじい愛と情念を描ききった演出に、拍手である。凄い映画作家が現れた
ものだ。

ドリヴン Driven

監督:レニー・ハーリン
脚本:シルベスター・スタローン
出演:シルベスター・スタローン、キップ・パルデュー、ティル・シュヴァイガー、バート・レイノルズ
    ジーナ・ガーション、エステラ・ウォーレン

引退したカート・レーサー、ジョー・タントに、チームオーナーのカールから声がかかる。現
役復帰と喜んだものの、それは頭角をあらわしつつある若手レーサーのジミーがスランプ
に陥っているため、立ち直らせるサポート・レーサーとしての仕事を意味していた。そのジ
ミーはライバルのドイツ人トップレーサー、ブランデンバーグと別れたソフィアと交際を始め
るが、結局彼女は元のさやに収まる。また、マネージャーをしているジミーの兄はジミー
を思い通りに操ろうとしていて、ジミーの精神状態は最悪に。いかにジョーはジミーを立ち
直らすことが出来るのだろうか?


ひさびさに頭をカラッポにして観ることができた映画。誰もスタローン主演&脚本、レニー
・ハーリンが監督だなんて映画に深みを求めていないのだから、これでいいのだ。カート
レースの時速400キロのド迫力、豪快にクラッシュして吹っ飛ぶマシーン。女をめぐって争
った挙句唐突にストリートレースを繰り広げお姉ちゃんのスカートはめくれてパンツ丸見え
になるわ、マガジンスタンドで紙類を撒き散らすわ。世界各国を転戦して、レースクイーン
の違いなどのお国柄を見せてくれたり、すごく頭が悪そうなところが面白い。とことん派手
でバカで、薄っぺらにしながらもちゃんと楽しめる映画を作るのって、案外難しいんじゃな
いかと思う。普通は、妙にウェットな泣かせどころをはさんだり、作家性を出そうとするもの
だが、この映画はその点えらく潔くそういう要素を排除しているのが気持ちいい。

脚本が久々にスタローンの手によるものだということで、どうしたって、「栄光の過去を持
つ男がどん底から這い上がって復活する」という物語になるだろうと予測される。ところが、
この映画はスタローン主演と謳っていながらも、スタローンは全くでしゃばらず、若いキッ
プ・パルデューをサポートし、老練なバート・レイノルズのために尽くすという控えめな役
柄の中に渋みを持たせているので、好感が持ててしまう。結果的にお話はあってないよ
うなものになっているし、スタローン脚本作品に見られるような男の熱いドラマ的な部分
は薄まってしまっている。が、レニー・ハーリン特有のドハデさ、スピードの陶酔感が、話
の空疎さゆえ際立つのだから、それはそれでよいのだ。

役者の選び方にしてもそうだ。キップ・パルデューもエステラ・ウォーレンも演技は全然ダ
メだが、見栄えはいいのでキャラクターとして配置するには問題なし。演技力を要求され
るような役柄じゃないし。その上、明らかにシューマッカーをイメージしたとしか思えない
ティル・シュヴァイガー、老練な指導者がよく似合うバート・レイノルズ、ビッチな女がぴっ
たりのジーナ・ガーション、そしてラテン系の色男メモ、と面構えが魅力的な役者をそろえ
ているのである。派手で大味な映画はこうじゃなくちゃ。エステラ・ウォーレンに意味不明
のシンクロナイズド・スイミング(しかも舞台は日本)をさせるというシュールな場面まで用
意されていて、サービス精神があるのか、馬鹿なのかよくわからない。

たとえば土砂降りの雨が降るドイツグランプリ。スタローンの代わりにサブに入ったメモ
が変な色気を出した結果、大事故が起きる。メモのマシンは吹っ飛び、近くの川の中に
突っ込む。マシンは燃料が漏れていて、メモはマシンの中に閉じ込められていて脱出で
きない、という大ピンチだ。そこへ、トップ争いをしていたキップ・パルデューはなんとレー
スを放棄して助けに行ってしまうのである!現実には絶対ありえない話だが、映画の中
ではアクセントとして機能しているし、ギリギリセーフでメモを救出した後はマシンがドカ
ン!と大爆発、というのも打ち上げ花火として効果的だ。

スタローンはしばらく低迷期が続いたようだが、この作品での彼の役柄のように、ほか
の役者のサポート役として縁の下の力持ちとなると案外魅力的なんだな、と思った。こ
れからの彼の生きる道としては、悪くない。これまでにないような役柄に挑戦するという
のも、一つの大きな賭けであり、チャレンジだが、その点においては彼はこの映画では
成功していると思う。