助太刀屋助六

監督・脚本:岡本喜八
出演:真田広之、鈴木京香、村田雄浩、仲代達矢、岸田今日子、岸部一徳

頼まれもしないのに他人の仇討ちの助太刀を買って出る流れ者の助六が、そ
うとは知らずにまだ見ぬ父・梅太郎の仇討ちに巻き込まれていく一大事を、笑
いあり、涙ありで描いた痛快時代劇。

冒頭から唐突に助六こと真田広之が大暴れするシークエンスがなんとも楽しい。
真田広之の体の柔らかさ、機敏さにコミカルな味が加わって、その魅力が全開
爆発している。それにかぶさるのは、岸田今日子の「この男、気が狂っているの
ではない」という人を食ったナレーションだというのもふるっている。

仇討ちの助太刀場面に一瞬登場するのは、佐藤允、天本英世、竹中直人、嶋
田久作、伊佐山ひろ子とこれまた豪華な面々。なんという贅沢な役者の使い方
だろう!

なんといっても、この映画は役者が素晴らしい。真田広之がこんなに飄々として
いて、ピュアでユーモラスな演技ができるとは!古武士の風格を漂わせつつもニ
ヒルな仲代達矢。可愛らしいやり手婆の岸田今日子。寡黙な中にいい味を出す
小林桂樹。そして、友達思いだが権力の手先でもある人間の悲哀をかもし出して
いる村田雄浩。鈴木京香は年齢設定よりはちょっと老け気味ではあるが、これま
では都会的なイメージがあったのに、ここではうぶで元気のいい田舎娘もできる
んだ、と思わせてくれる。イヤミな役人がぴったりの岸部一徳、「大誘拐」以来の
風間トオル、助六のお嫁さんになりたがる可愛いタケノコ役の山本奈々など、本
当に細かいところまで気を使ったキャスティングだ。

中でも本当に素晴らしいのが仲代達矢。棺桶屋で仇討ちを前に、つとめて冷静
にしようとしていても、自らの戒名を書く手の震えが止まらない。初めて出会う我
が子(しかも助六は気がついていない)を見つめるときのなんとも言えない哀しみ
と喜びの混じった表情。正々堂々と死ぬ前に見せる、深い瞳の嘆き。同じ岡本
喜八作品でも『大菩薩峠』では仲代達矢は人を斬りまくるが、ここでは、滅び行く
本物の侍の美学を見せ付けてくれて惚れ惚れする。

88分という上映時間の中にタイトに収まった内容。しかし、とってものびのびと、
自由な印象を受ける映画である。主人公助六は、やくざな助太刀稼業をしてい
る自由人で風来坊。庶民にはご法度の絹の着物を着てめかしこんでいる洒落者
である。それに対して幼馴染でガキ大将仲間だった太郎は、番太という権力の
手先。これまで上州の田舎で地道に生きてきた太郎が、破天荒な生き方をする
助六に再会して、自分の生き方を考え直す。ラスト近く、事の成り行きを隠れて
見守っていた民衆が、助六を撃った役人どもに石を投げて屋根から落とし、集ま
って行くところは、権力の横暴に抵抗する庶民の気持ちが受け止められて気持
ちいい。

そして、最初から最後まで首尾一貫としたテンポの良さ。仇討ちや出生の秘密
といったテーマとは裏腹の、飄々とした軽さ。父・梅太郎の墓石で錆びた刀を研
ぎ、棺桶に隠れたり、屋根に軽々と登ったり、玄関からぶら下がったりと飛び回
る助六=真田広之の身のこなしは見事。楚々とした美人の鈴木京香が実は石
投げの名人でもあるお転婆娘だったり、赤い長襦袢を着てひらひらと舞っていた
のは、実はやり手婆のオトメ=岸田今日子だったりするといった意外性も楽しい。
そんな風にふざけているようにも見える。が、助六の母の墓に供えてあった黄
色い野の花を、自分の棺桶に投げて去っていった梅太郎には、思わずほろりと
させられてしまう。そして、助六が父親の仇討ちではなく、父親に頼まれて仇討
ちの助太刀をするという発想の転換の柔軟さも、意外とたくさん人が死んでしま
うこの映画に、血生くささを感じさせない要素である。そして、期待に応えてくれ
た爽快かつユーモラスな結末へ…。

深みがあるとか、歴史に残る作品とか、大傑作というのではない。だけど、ふっ
と肩の力を抜き、ワクワクドキドキして、笑って、泣いて、気持ちよく観ていられる
映画というのは今どき貴重なのではないかな。これが岡本喜八、77歳、6年ぶり
の作品とは思えないほどの生きの良い、粋な映画だ。

もう一つの主役が、あの愛すべき馬鹿映画『ジャズ大名』以来のコンビとなる山
下洋輔のジャズだ。監督に、「エンドクレジットの終わりまで客を立たせない音
楽を書け」と厳命されたそうだが、この心地よく洒落ているジャズと林英哲のド
ラムは、いつまでも聴いていたい気がする。時代劇にこんなにジャズが似合う
とは。映画の飄々としたテンポのよさをさらに際立てている。