殺し屋1

監督:三池崇史 脚本:佐藤佐吉
出演:浅野忠信、大森南朋、Alien Sun、SABU、塚本晋也、KEE、松尾スズキ、寺島進
    國村隼

安生組のヤクザ垣原は、いたぶりいたぶられることをこよなく愛するSM偏狂の若頭。
失踪した親分が、年齢不詳のジジイ率いる殺し屋に消されたことを知り、殺し屋「イ
チ」を追い始める。原色の街・新宿歌舞伎町を舞台に、全身金髪、顔中傷だらけの“
ピアスのマー坊”こと垣原と、残虐な殺し屋だが、泣き虫のイチとの宿命の対決。さ
らにその裏ですべてを操るジジイ…。

残酷描写も、度を過ぎればコメディになってしまうということを、描いている映画だ。残
酷表現の一つの極北に到達したと言ってもいい。よくもまあ、こんなにいろんな残酷
描写を考えついたものかと思うほど凄い。寺島進が天井から皮膚を引っ張られる形
で吊るされ、さらにてんぷら油までかけられるなんていうのは、ホントとんでもなく痛
そうなのだが、たかが拷問のためにここまで凝ってしまったということに、笑ってしま
うし、昨年度の毎日映画コンクール助演男優賞を受賞した寺島がここまで馬鹿馬鹿
しいほどカラダを張った演技をしてしまったということにも感心。そのほかにも、木下
ほうかが真っ二つに縦に裂けてしまったり、美女エイリアン・サンの足が切断された
り、いろんな人がバラバラになって手足が散乱していたり、凄いことになってはいる
のだが、あまりにも凄すぎて、もう笑うしかない。それなのに、お正月の晴れ着を着
ていた観客の皆さんは、終始凍り付いていて、笑いをこらえるのに大変だったわ。
そして、様々な残酷描写にも、独特のオリジナリティ、スタッフがきっと知恵をひねり
出して創意工夫してきた形跡が感じられるのも、サービス精神と受け取っておこう。

上記のあらすじの通り、垣原が1に対して抱く歪んだ愛、ジジイが1に対して抱く歪
んだ愛、1が垣原に対して抱く歪んだ愛という愛情のトライアングルの物語だ。1を
演じる大森南朋がとにかく素晴らしい。すごく弱虫で泣き虫でどうしようもないイジメ
られッ子の1だが、あの衣装に身を包んだら最後、彼に敵う者はいない。アンディ・フ
グのかかと落としにそっくりな一撃で、その場はバラバラ死体の山になってしまうの
だ。彼を慈しむジジイの言葉をすべて信じ、操られてしまう1の純粋さ、切なさと言っ
たらもう。あまりにも過剰すぎる、憎しみと表裏一体の愛がここには渦巻いているの
だ。最後、微笑みながら落下していく垣原の表情も忘れがたい。

垣原というキャラクターもとっても面白い。浅野忠信って決してうまい役者だとは思わ
ないのだが、今回は、普通の役者が演じたら芝居がかってしようがない役を、とても
自然体で演じている。最後に1と対決するシーンの前に「てってー的に絶望してえよ、
マジで」と彼は言うのだが、それこそが、1に対する愛情の表明なのである。そして
もちろん、ジジイが演じる不気味なジジイの怪しげな存在感を忘れてはならない。モ
ロ肌を脱いだときの不自然なまでに隆々とした肉体には思わず大笑いしてしまった
が、ホント塚本晋也って、本職は映画監督のクセに、そこらへんの本職俳優よりずっ
と演技が上手いことに感心してしまう。本職は監督、といえばもう一人、SABUも出演
しているのだが、ただ一人「本当にいい人」を演じていて、「いい人」が陥りがちな落
とし穴にはまってしまった人間を好演している。

もう一つ特筆すべきなのは美術だろう。垣原の蛇皮っぽい玉虫色のスーツ。全身金
髪傷だらけの彼が羽毛の中に埋もれているカットの美しさ。やくざの事務所というに
は美しすぎる、深紅のダークなインテリア。悪趣味ギリギリ一歩手前の、無国籍、謎
過ぎる美に満ち満ちている。でも、決戦が行われる高層アパートって、どう考えたっ
て、フルーツ・チャンの「メイド・イン・香港」を意識しているでしょう。

この残酷絵巻についていけるか、観客の感性と倫理観が試される踏絵のような映画
だと思うのだった。三池崇史の、神をも恐れぬ実験精神に拍手。