アメリカン・バレエ・シアター メトロポリタン・オペラ・ハウス公演2004

メトロポリタン・オペラ・ハウス 
2003年秋のABTシティセンター公演ですっかりニューヨークで観るABTの虜になってしまった私。しかも最初、ヘスス・パストールが「白鳥の湖」でロットバルトを踊るというではないか。ABT版(ケヴィン・マッケンジー振付)の白鳥は、ロットバルトが二人登場し、一人はハンサムでセクシーな紳士、もう一人はカブリモノの悪魔で、紳士ロットバルトをへススが演じたらしいのだ。そういうわけでいてもたってもいられなくなって早速航空券を手配し休みを取ってニューヨーク行きの準備をしたのだが、ABTが発表したキャスティングには彼の名前はなかった。残念だが、まあ彼が全く出演しないということはないだろうし、ABTの全幕ものを観られるというだけでワクワクする。

ABT「白鳥の湖」


キャスト

6月15日  マルセロ・ゴメス&ヴェロニカ・パールト
6月16日昼 デヴィッド・ホールバーグ&ミシェル・ワイルス
6月16日夜 マキシム・ベロツェルコフスキー&イリーナ・ドヴォロヴェンコ
6月17日  アンヘル・コレーラ&アシュレー・タトル
6月18日  フリオ・ボッカ&ニーナ・アナニアシヴィリ
6月19日昼 イーサン・スティーフェル&ジリアン・マーフィ
6月19日夜 マルセロ・ゴメス&パロマ・ヘレーラ

マッケンジー版は異色の白鳥で面白い!


ABT版というかケヴィン・マッケンジー版の「白鳥の湖」がまた普通の白鳥と違っていて面白い。ロットバルト役はふたりのダンサーが演じて、正体はカブリモノ系悪魔なのだが、セクシーで妖しい紳士という世を偲ぶ仮の姿をしていて、オデットが娘姿で登場。オデットはこのイケメン紳士に騙されて白鳥になったという設定。(白鳥がまるで「おまる」のようなお姿で、ロットバルトの首の動きで羽を動かしているのがご愛嬌)そして3幕では、またまたイケメン紳士姿で登場して、お姫様たちを誘惑してまわり、派手なソロも踊る。黒鳥のパ・ド・ドゥではオディールにいろいろ吹き込んだりする。まるでAMPのスワンのストレンジャーみたいなキャラクター。へススがやったらさぞかし魅力的だっただろうに、残念。
しかしロットバルトを演じたダンサーはそれぞれ素敵だった。特にフリオ・ボッカとニーナのときにロットバルトを演じたのが、なんと2回ジークフリート役を演じたマルセロ・ゴメスなのだ!ジークフリート役の時にはイノセントで端正な貴公子なのに、ロットバルトではダークでセクシャル、文字通り悪魔的な魅力の持ち主を楽しそうに演じていた。もう一人特筆すべきなのが、カルロス・モリーナ。長身で美脚の持ち主の彼は、実にエレガントなダンサーで紳士役が似合う。

もう一つ特徴的なのが、王子の友人役。プティパ版よりも重要な役柄となっており、パ・ド・トロワもさることながらソロも多く、見せ場も多い。今回はソリストの中でも実力派のゲナディ・サヴァリエフが演じることが多かった。(他には、とにかく容姿も踊りも美しいことこの上ないデヴィッド・ホールバーグ(一度王子も演じている)と他の日にはロットバルトも演じたサシャ・ラデツキー) 残念ながら怪我でこの役では出演しなかったが、身体能力ではピカイチのプリンシパル、エルマン・コルネホもキャスティングされていた。パ・ド・トロワにはあともう一人プリンシパル、シオマラ・レイエスもキャスティングされるなど、さすがスター集団のABT、なんとも贅沢である。


キャストによってこんなにも違う!


そういうわけで、「白鳥の湖」は古典の中でも本来はさほど惹かれない演目なのだが、マッケンジー版のアレンジが面白いのと、ABTらしく各ダンサーの個性が際立っているので、大変面白く観ることができた。同じ演目でも出演者によってこんなにも違うということを、改めて実感。観る側も目が肥えているのか、出来不出来の差がはっきりとお客さんの反応にも出た。今回はロシア系のオデット役が踊りなれているのか、圧倒的に魅力的だったと思う。ニーナ、イリーナ、ヴェロニカが優雅で感情表現が繊細に出来ていて素晴らしかった。(回転は圧倒的な脚力のジリアンやパロマが凄かったが)

ヴェロニカ・パールトはキーロフ出身の若手ソリスト。まだ20代前半のはずでステージを降りた素顔はとても可愛らしいのだが、貫禄のあるダンサーだ。目の大きな美人で、腕の表現力が素晴らしい。胸が大きく、また顔立ちがはっきりしていることから顔の表情が豊かで、非常に妖艶である。オデットの時から女っぽいというかなまめかしいのは好き嫌いが分かれるとは思うが、マイムも上手だし柔らかくて"白鳥”を感じさせてくれる。言うまでもなく、オディールを演じた時には魅惑的で自信満々、あでやかだ。一方、王子役のゴメスは純粋培養のかわいい男の子、という感じでとてもまっすぐな感じが好ましい。ラテン系で長身、肉体派の彼なのに、少年っぽいのが素敵だ。ラストの投身自殺のところで勢いよく飛び降りている様子には笑ってしまったが、若さを感じさせてくれる。

2日目はデヴィッド・ホールバーグとミシェル・ワイルスの若手コンビ。デヴィッドは前述の通り容姿の美しさ、ノーブルさでは一番で本当にこんなに美しい人がいていいのか、と思うほどだ。踊りもノーブルで端正だが、ミシェルともども、経験の浅さをどうしても感じてしまうのは仕方ないか。全体的にまだ薄味である。まだ20歳そこそこなので今後に期待。ミシェルは回転系が得意なのだが、回っているのでいっぱいいっぱいで演技までは到達していない感じがある。ただし身体能力は高いので、若いんだし頑張って欲しいなと思う。METの晴れ舞台での全幕デビューを飾ったというわけで、彼女の一族郎党が40人以上観に来ていたのは微笑ましかった。

そしてスワンといえばロシア系カップル、というわけでイリーナ・ドヴォロヴェンコとマキシム・ベロツェルコフスキーの美形夫婦コンビ。素晴らしいだろうと予想をしていたのだが、その予想をはるかに上回る圧倒的な出来であった。なんといっても、イリーナはABTの女性ダンサーの中では美人度ナンバーワン、青い大きな瞳が非現実的なまでに美しい。美しいのはお顔だけでなく体も、というわけで細く長い脚。手足のしなりがすごくて、脚は一体どこから生えているのか、と思ってしまうほど高々と上がりアラベスクのラインの美しさといったら、ザハロワとタメを張るだろう。バレエダンサーにとって容姿は重要な要素だが、ただ単に美しいだけではない、というところが素晴らしい。初めてオデットが王子に出会ったときのおびえる様子、マイムの繊細さ。腕の表現も雄弁なのに繊細。ため息しか出ないほどで、一瞬でもこの美しさを見逃してなるものかと釘付けに。夜の闇に溶けてしまうそうな、精霊のような儚さ。一転して、オディールを演じた時の「私こそが世界で一番美しい女よ」と誇らしげに悠然と構え、勝気な様子も迫力がある。もちろん回転だってキマっているし相手役が夫君のマッ クスということもあってパートナーシップも完璧。一方マックスは端正ではあるが王子のちょっと愚かな部分というのが表現できていて、面白い解釈だな、と思った。いずれにしても、「白鳥の湖」の一つの究極の形を観た思いがした。

アンヘル・コレーラといえばABTでも看板ダンサーだし、あんまり「白鳥の湖」というイメージのない人なだけに楽しみにしていた。だが、期待していた彼が全然ダメで、とてもがっかり。得意なはずの、回転も跳躍も精彩を欠いていた。ご家族も観に来ていた様だったのに、調子悪かったのではないだろうか。4幕の登場シーンでは、憔悴しきった彼が転んでしまったのだが、それは演技なのかそれとも本当に転んでしまったのか、気をもんでしまった。ロミジュリに照準をあわせているのかもしれないが、心配だった。同じ舞台に、スペインの踊りで姉のカルメン・コレーラも出演していたのだが、微笑を浮かべながらも、弟のことを心配しているのかな、と想像してしまった。相手役のアシュリー・タトルはバランシンの得意なダンサーというイメージが強くて、音に合わせて踊るのが上手だ。イリーナのような柔らかく繊細なダンサーとは正反対のタイプで、バシッとキメながら踊る。そのため、オデットの時にはちょっと違和感を感じてしまった。もちろん、オディールはその分カッコよく決まっていて素敵だったわけだが。

しかし今回一番素晴らしかったのが、ニーナとフリオ・ボッカの回。ニーナはこの間蒲田で観たときの数倍よかった。観ていて一番余裕を感じるし、演技力という意味では今回のオデット/オディールでも一番だろう。オデットを演じている時には愛らしくオディールでは大輪の薔薇のようで、オデット/オディールの対比も際立っている。オディールの「黒鳥のパ・ド・ドゥ」32回転では、単に回るだけでは物足りないのか、装飾的な脚の動きを取り入れていて、とにかく華やかで。フリオはもうおじさんだから大丈夫かな、1幕の時から汗だくで苦悶の表情を浮かべているし、と思っていたら、2幕から途端に元気に。濃くてノリノリで、ニーナにキスしまくり、大熱演。“心は17歳”って感じの、台詞一つ一つが聞こえてきそうなものすごい演技力で、涙が出るほど感動した。これはもう、「白鳥の湖」というより別の演目なんじゃないかと思うほどで、こんなにもラブラブだったら死ななくても愛の力で悪魔は退散しちゃうんじゃないかと思うほど。これほどまでに力いっぱい踊ってしまうジークフリートもいないだろう。相手役が良いと化学作用が起きて自然と自分の演技も良くなる、という相互作用が 働いて、主演のふたりはもちろん、ロットバルト役のマルセロ、コール・ドに至るまで絶好調。お客さんの反響もこの日が一番よく、客席総立ちでカーテンコールの回数も最多、2階席から花束が大量に投げ込まれていた。

マルセロ・ゴメスとパロマ・ヘレーラというラテンコンビでのスワン。2回観て改めて思ったのだが、マルセロ・ゴメスの王子は端正さでは一番。彼だけ2回王子役を演じたのだが、一回目と2回目ではかなり違っていた。ニーナ&フリオの回ではロットバルトを演じたということも影響しているのか、2回目は、3幕から急に火がついたように情熱的な王子を熱演。「黒鳥のパ・ド・ドゥ」のコーダでは、通常は王子がオディールの脚に頬を寄せるのだが、今回マルセロはまるで「ドン・キホーテ」のバジルのように腕を上げて大見得を切ってカッコよかった。総じて彼は箱入り息子が恋に狂った様子を見せてくれて、切なかった。パロマはやはりキトリなどラテン娘のイメージが強いため、オデット/オディールってどんなものだろう、とやや不安だったのだが、やはりアラベスクがとても美しく特に脚のラインが綺麗なため、彼女の個性を保ちながらも愛らしいオデットになったと思う。言うまでもなく、オディールの時の勝気な様子は似合っていたし、そして得意の回転は凄かった。32回転グランフェッテの速さといったらもう!

イーサン・スティーフェルとジリアン・マーフィ。これまでのジークフィリートがそれぞれ個性的だったため、正直なところイーサンの印象は薄かった。もちろん綺麗に踊っているのだが、破綻がなくて個性に乏しい気がしてしまったのだ。相手役のジリアンのテクニックがあまりにも凄かったため、彼女の引き立て役になってしまったのではないだろうか。そう、ジリアンはオデットの印象はあまりないのだが、もともと見ようによってはちょっとイジワル顔といえなくもないのでオディールはうってつけの役である。そして32回転!ABTのプリンシパルはそれぞれテクニシャンなわけだが、回転だけを取れば彼女が一番だろう。何しろ、ダブル、トリプル、ダブル、トリプルという回転の連続技で、「何だコレは!」と仰天するほどの凄さだ。この凄まじいテクニックを観るだけでも、来年のアンヘルとの来日公演は観る価値があるかもしれない。

がんばれヘスス



さて、ヘススは3幕のナポリ2回のチャルダッシュ3回と5回出演。ナポリは、一度だけだがプリンシパルのエルマン・コルネホが出演して例によってバカテクを披露していた。後半は2人のダンサーが順番にピルエットを見せる。衣装はまるで一昔の少年隊か光GENJIか、というべき頭に鉢巻?を巻いて片方のタイツは縦ストライプとちょっとださい。ヘススのナポリはちょっとむむむ…なところがあって、彼の将来性がとても不安だったが、ここで何だかんだ言っても仕方ないので本人の頑張りに期待することに。一番の不安要素はスタミナ。ナポリで彼と一緒に踊ったハンサムな黒人のダニー・ティドウェルが、コール・ドなのにやはり大変なテクニシャンかつ若いので体力もあり、7回転ピルエットを見せている間、ヘススは3回しか回れなかったりしたのだ。脚も最初のうちは綺麗に高く上がっていたのだが、途中からスタミナ切れしたのかあがらなくなってしまった。さらに踊り終わったあと、疲れたのか肩で息をしているのだ。チャルダッシュは口髭をつけて、あのマイナーコードが支配する哀愁のメロディに乗って女性パートナーと踊る。ここでは彼独特の粘っこい個性が生かせているのだが、最初に彼 を観た火曜日の時にはまだどことなくぎこちなかった。3回目を踊る頃には相当踊りなれてきた感じで、柔らかい動きも美しく魅力的に思えたのだが、キメの部分をもう少しバシッと決めて欲しい気がしなくもなかった。髭をつけた笑顔はかわいかったけど。動きそのものは、同じくチャルダッシュも踊ったカルロス・モリーナのほうがさらに綺麗だった。(モリーナはABTのソリストの中でも、プリンシパル候補だったというほどの実力派だし体型にも恵まれているのでいたしかたないか)
ああ、ヘススのロットバルトが観たかったよう…。

コッペリア&ロミオとジュリエット


さて、2回目のアメリカン・バレエ・シアター観劇は、『コッペリア』と『ロミオとジュリエット』。キャストはこんな感じです。

「コッペリア」
6月26日(土)マルセロ・ゴメス、ジリアン・マーフィ

「ロミオとジュリエット」
6月28日(月)アンヘル・コレーラ、アレッサンドラ・フェリ、エルマン・コルネホ、サシャ・ラデツキー、イーサン・ブラウン
6月29日(火)アンヘル・コレーラ、アレッサンドラ・フェリ、クレイグ・サルシュタイン、サシャ・ラデツキー、カルロス・モリーナ
6月30日(水)マチネ マキシム・ベロツェルコフスキー、イリーナ・ドヴォロヴェンコ、ヘスス・パストール、デヴィッド・ホールバーグ、ゲナディ・サヴリエフ
7月1日(木)マルセロ・ゴメス、パロマ・ヘレーラ、クレイグ・サルシュタイン、デヴィッド・ホールバーグ、ゲナディ・サヴリエフ
7月2日(金)アンヘル・コレーラ、アシュリー・タトル、エルマン・コルネホ、イーサン・ブラウン
7月3日(土)マチネ イーサン・スティーフェル、シオマラ・レイエス、エルマン・コルネホ、サシャ・ラデツキー、カルロス・モリーナ
7月4日(土)ソワレ マキシム・ベロツェルコフスキー、イリーナ・ドヴォロヴェンコ、ヘスス・パストール、デヴィッド・ホールバーグ、イーサン・ブラウン

「コッペリア」はフレデリック・フランクリン御大による振り付け。なんとも可愛らしい作品で、3階席の一番前で観ていたのだが全体が見渡せて面白かった。マルセロ・ゴメスのフランツはちょっとお間抜けで可愛いし、ジリアン・マーフィはお人形さんっぽい顔立ちなので、コッペリアに化けた時の機械的な動きが実によく似合う。チャルダッシュのリードはサシャ・ラデツキーだが、フランツの友人という役どころなので出番はかなり多い。ヘススもこの役柄で3回出演していたらしい。。


ロミオとジュリエット


マクミラン版の「ロミオとジュリエット」は、何回観ても素晴らしい作品だ。幻想的な「白鳥の湖」とは対照的で、“生と性、そして死”の匂いが濃厚に漂っている。プロコフィエフの音楽も時にはロマンティック、時には荘厳、不協和音が不穏な雰囲気を作り上げたり、軽妙なリズムを刻む時もあったりとバラエティに富んでいて面白い。ただしABTのオーケストラは演奏がかなり酷くて、ダンサーにとっても踊りにくいのではないかと思うことがしばしばあった。

ABTの「ロミオとジュリエット」は、カンパニーによってはマンドリン隊長によって踊られるマンドリン・リードをマキューシオが踊るというのが特徴的というべきか。演出で気付いた点は、ロミオ、マキューシオ、ベンヴォーリオの仲良しトリオがとてもコミカルに演じられているところで、「3馬鹿大将」って感じで微笑ましい。特にマキューシオの役割が大きい気がした。マキューシオはヘススのほか、プリンシパルのエルマン・コルネホ、コール・ドのクレイグ・サルシュタインのトリプルキャスト。なんといっても、エルマン・コルネホが圧倒的に素晴らしい。4回出演したのだが、カーテンコールでは主役を凌ぐ拍手をもらっていた回もあった。170センチに満たない背と非常に小柄で、童顔でかわいらしい顔立ち。だが、身体能力の高さは群を抜いている。実に軽やかに飛び跳ね、ピチピチという音が聞こえてきそうで元気いっぱい。体つきのバランスもいい。さらに演技力もあって、マキューシオの死の場面の熱演振りは素晴らしかった。3階席から確認したところ、目を見開いたまま死んでいて、思いがけ ず半ば事故で死んでしまった無念さが感じ取られる表情だった。背が低いため主役で出演したのは、今回のMETシーズンでは「コッペリア」のフランツだけだったようだ。「The Dream」のパック、「ラ・バヤデール」のブロンズ・アイドル、「眠れる森の美女」の青い鳥などキャラクターロールを得意とする。まだ23歳。姉のエリカ・コルネホもABTのソリストで、「ロミオとジュリエット」では3人の娼婦の一人を演じていた。やはり小柄なのだがダイナミックな踊りは見ていて爽快だし、小さな体が大きく見える。この姉弟には要注目。
姉弟のつながりで言えば、アンヘル・コレーラの姉カルメン・コレーラも3人の娼婦の一人を踊っていた。カルメンはアンヘルよりも背が高くスリムなダンサーで、姿勢が良くとにかくカッコいい女性である。ティボルトの死体に唾を吐くシーンなど見とれてしまうほどだ。ちなみにカルメンとエルマンは交際中のようで(「The Ballet Book」では親密そうに寄り添う素敵な写真がある。当然カルメンの方が背が高く年上なのだが、お似合いのカップルだ。なお、エリカ・コルネホはカルロス・モリーナとお付き合いしている。カルロスの家族がコロンビアから観に来ていて、彼女とも親しげにしていた。

そういうわけでアンヘル・エルマン・サシャのトリオは見事なまでに3馬鹿でよかったです。アンヘル・クレイグ・サシャの日もあって、これも3馬鹿トリオ。コール・ドなのに大抜擢のクレイグはほっぺたが赤くて、いたずらっ子みたい。テクニック的にはまだまだの部分もあるが、元気いっぱいに踊っている様子は見ていて微笑ましい。髪の毛がちょっとやばいがめっちゃキュート。キャラクター・ロールで魅力を発揮していた。


ジュリエットを演じるダンサーはそれぞれ甲乙つけがたい魅力を放っている。やはりフェリは別格だ。妖精のような愛らしさと柳のようにしなやかな手脚。ロミオが去ったあと、偽装死を選ぶまでの内省的な演技の深味。見事なまでの死体ぶり。少女らしい可愛らしさ、ジュリエットらしい純粋無垢さが出ているシオマラも素晴らしかった。(私はアマンダの日はヒュー・ジャックマン主演のミュージカルを観に行っていて観られなかったのだがアマンダ演じたジュリエットもとてもよかったらしい。

美貌ではピカイチのイリーナは優美な曲線を描く体のラインがひたすら美しかったし、ベビーフェイスの幼さが出ている1幕と、3幕で見せた強さとのコントラストが印象的。パロマは、普通の等身大の女の子が恋で輝く様子が愛らしく出ていて素敵。アシュリーは3幕の死に向かって突き進む様子が胸を打った。

王子は直情的で情熱的、猛スピードで回るのに甘い印象のあるアンヘル、やっぱり何だかんだ言ってロミオのイメージに一番近い人だなあと思ってしまった。5年前に観たフリオ・ボッカのロミオに敵う人はいないけど。純情でかわいくて一途なマルセロ、ちょっとお馬鹿だけど綺麗なマックス、ヤンキーっぽさが魅力のイーサンとやっぱりそれぞれ魅力的。はじける魅力で今が旬を感じさせるエルマンもロミオをやらせてもらえればいいのに、とも思った。

ヘススですが、踊りの内容は相変わらず困ったチャン。マキューシオって、ピチピチ、キビキビしたはじける踊りをするべきキャラクターだと思うのに、彼独特の粘りのある体の動き、装飾的な指先のせいででテンポが遅れ気味になるのだ。全体的に慎重に踊っているというか、重たい感じを受ける。で、彼は二日間とも、ロミオ=マキシム、ベンボーリオ=デヴィッド・ホールバーグと金髪スタイル良しダンスールノーブル系と組んで踊っていたので、まるで黄レンジャー(古)みたいに、スタイルの悪さが目立ってしまって。おどける演技とかはアドリブも入れていて奔放な感じ、死に際の笑いながらも苦しそうな、そして無念そうな演技はさすがスワンで培っただけに良かったし、しなやかな動き、愛らしいイメージはあったんだけど、やっぱり心配ですわ。彼のみならず、関係者の証言によるとABTは今回通しリハーサルも2回くらいしかできなかったようだし、8週間という長丁場で週代わりのプログラムというのは相当ハードだったため、なかなか完璧なステージは望めない厳しい条件だったらしい。その中でも最高のものを見せなければならないダンサーの努力には、頭が下がる。ヘススも一流ダン サー揃いのABTでさらに精進してもらいたいものだ。

衝撃的だったのが、アシュリー・タトルが突然ABTを去ることになったとのこと。ブロードウェイ・ミュージカル「ムーヴィン・アウト」に出演していてあまり上層部の覚えがめでたくないとのことだが、強さを感じさせる独特の個性、メリハリの効いた動きの綺麗な、魅力的なダンサーなだけにあまりにも残念。カーテンコールでは号泣していた。ミュージカルだけでなく、バレエ界でも引き続き活躍して欲しい人なのに…。

このほか、カルロス・モリーナ(パリス、ティボルト役)がボストンバレエに移籍、イーサン・ブラウン(ティボルト役)が引退とABTを去る人も多かったわけだが、みんな素晴らしい演技で、特にイーサン・ブラウンの最後のティボルトはシェイクスピア役者もかくやの濃厚な演技で鬼気迫り、凄かった。まるで朗々とした台詞が聞こえてきそうだった。すごく堂々としていてカッコよかった。最後のカーテンコールでは彼も涙、涙だったが。42歳とのことだが、まだまだ踊れるだけにもったいない。

カルロス・モリーナはABTに復帰する可能性もないわけではないようなので、ぜひともプリンシパルとして戻ってきて欲しい。とてもノーブルで、動きも脚のラインも美しいダンサー。でもティボルトを演じる時にはセクシーで危うい魅力を放っていた。男性ソリストでは彼がピカイチだったのに…。イーサンもカルロスもとにかくファンに対しての対応も素晴らしく高感度が高い人たちで、アシュリーも併せこれだけのダンサーがいなくなってしまうのはABTにとっては痛手だろう。