BalletBiarritz Casse-Noisette

バレエ・ビアリッツ「くるみ割り人形」


振付 Thierry Malandain
音楽 Piotr Illitch Tchaikovski
http://www.balletbiarritz.com/gb/0301cassen.html

キャスト
1幕 
ドロッセルマイヤー Giuseppe Chiavaro
くるみ割り人形 Frederik Deberdt
マリー Magali Praud
フレデリック Roberto Forleo
両親 Nathalie Verspecht、Mikel Irurzun del Castillo
招待客 Veronique Aniorte、Camille Auble、Annalisa Cioffi、Silvia Magalhaes、Rosa Royo、Arnaud Mahouy、Cedric Godefroid、Christopher Marney、Miguel Pla Boluda
ねずみの王様 Arnaud Mahouy

2幕
ピルリパート姫 Magali Praud
甥 Frederik Deberdt
王様と女王様 Nathalie Verspecht、Mikel Irurzun del Castillo
猫 Roberto Forleo
ねずみの女王 Annalisa Cioffi
スペインの踊り Christopher Marney, Annalisa Cioffi
アラビアの踊り Nathalie Verspecht、Mikel Irurzun del Castillo
中国の踊り Arnaud Mahouy、Roberto Forleo
ロシアの踊り Cedric Godefroid、Silvia Magalhaes、Veronique Aniorte

2005年12月17日 21時
今回のフランス行きのメーンイベントともいえるこの公演。場所はGare du Midiという劇場。名前からもわかるとおり、もともとは駅舎で、ナポレオン3世も利用したという由緒正しい場所。アールヌーヴォー様式の建築物である。オルセー美術館のミニ版という感じもする。2階席はバルコニー席のみだが、1400席ほどあり、東京では東京国際フォーラムAで上演された「ピンク・フロイド・バレエ」を上演したほどだからステージはとても広い。おそらくオーチャードホールくらいの広さはあると思う。しかも、席の座り心地はとても良いし、段差もあってとても観やすい。
バレエ・ビアリッツBallet Biarritzは1998年に設立された新しいカンパニーで、フランスの文化庁とビアリッツ市、およびバスク政府が共同で設立。2004年にブノワ賞にノミネートされた芸術監督のThierry Malandaineティエリー・マランダインの作品を主に上演している。ティエリーの作品は日本の貞松浜田バレエ団が上演したこともある。


さて、開演は9時と遅い。だが、「くるみ割り人形」という演目の性質上、観客に小さな子供が非常に多かった。広いロビーだが人はぎっしり。グッズ売り場でかわいいクマのぬいぐるみと、パンフレット、クリスマスっぽいかわいいボールペン、Tシャツを買う。すると、サポーターズクラブ募集担当のボランティアらしきおじさんが話し掛けてきた。ここのカンパニーは16人しかいないので、怪我とか病気になっても代役がいないから健康管理に細心の注意を払っている。皆とても素晴らしいダンサーだ。ディレクターのティエリー・マランダインは、パリ・オペラ座でプリミエ・ダーンスーズにまでなった人で、大変な才能の持ち主だと。彼の作品はクラシックでもなければモダンでもなくて、でもとても面白いよって。地元の人にこのカンパニーがとても愛されているのがわかった。クリストファー・マーニーを観に来たの、と言ったらもちろん知っているよ、いいダンサーだねと言った。ニュースレターやポストカードは無料でもらえた。

そして開幕。キャスト表を見ると、私たちの目当てのクリスは、クリスマス・パーティの客と、スペインの踊りとある。ちょっとで番が少なくて残念だな、と思ったのだがそんなことは全然なかった。 実は出ずっぱりだったのである。
http://www.balletbiarritz.com/gb/0303cassen.html(「くるみ割り人形」動画あり)

ステージのセットはとてもシンプルだ。左側に、円錐形の物体があって、これがクリスマスツリーを象徴させている。ちゃんと後で巨大化する。ショートヘアで黒い大きな瞳のかわいらしいダンサーMagali Praudがマリー(=クララ)で、ドロッセルマイヤーは、長身で脚がとても美しい、非常にハンサムなイタリア人Giuseppe Chiavaro。長い脚がすっとまっすぐに伸びた彼のジュッテの美しさは特筆ものである。ドロッセルマイヤーは、ニットのセーターと普通のパンツを着用しているが、あまりにも素敵なので、マリーはドロッセルマイヤーに対しても恋心を持っているのかしら、なんて思ってしまった。

ストーリーそのものは原典の「くるみ割り人形」に忠実だし、音楽もチャイコフスキーのスコアをほぼそのまま使っている。でも、モチーフが色々とキュートにポップに、でもあくまでもフランスらしくスタイリッシュに変えられており観ていて楽しい。くるみ割り人形は、赤いヘッドギアとボクシングのグローブにボクサーのブーツという造形。くるみを踊るのは、ロイヤル・バレエ・オブ・フランダース出身のFrederik Deberdtで、小柄で金髪のダンサー。なんとなく「くるみ割り人形」という演目は王子にしてもくるみ割り人形にしても男性のダンスが少ないという印象があるが、この版はそんなことはない。かなり複雑なリフトが多くて、非常にテクニックを求められるが、立派にこなしていた。

クリスマス・パーティの招待客がやってくる。エジプトのスフィンクス風の露出度の高い衣裳、人民服など様々な扮装。背中にはプレゼントを背負っており、一人一人がクリスマスツリーの前でプレゼントを下ろし踊り始める。クリスもこの招待客の一人で、上は緑に大きな水玉柄のひらひらのブラウス(胸はだけ。チャームポイントの?胸毛もばっちり)をウェストで結び、下はフュ−シャピンク&オレンジのハーフスパッツという派手な扮装。しばし群舞の後、クリスマスツリーが巨大化するという例の演出で、マリーがおとぎの国に行く。

ねずみの軍団とおもちゃの兵隊たちとの戦い。16人という少人数のバレエ団のため、ねずみたちの中に女性ダンサーが混じっている。かぶりものをかぶっているが、なんだかとても可愛いねずみたちだ。そしておもちゃの兵隊たちとくるみ割り人形はというと、なんと棒を武器として駆使し、棒高飛びのように高く飛んで脚を大きく開脚しながらダイナミックに前進するという高度なテクニックを駆使する。その棒にぶら下げられて運ばれてしまう哀れなねずみの王様…

そして8人の雪の精たちが登場。白いボンボンのついたニットキャップにロマンティックチュチュで、粉雪を撒き散らしながら速いジュッテで舞台を横切っていく。細かいステップを駆使した群舞。綺麗だわ〜とうっとりと観ているうちに、脚が筋肉質で太目の人たちが混じっていることに気がつく。そう、ニットキャップで頭部を隠してしまっているのですぐには気がつかなかったのだけど、雪の精の中には男性ダンサーも混じっているのだ。16人のカンパニーで男性9人の女性が7人、マリーと母親役はコール・ドに入らないから男性も踊らないと足りないわけだ。そうしたらクリスもこの中にいるはず?似ている人はいたけど、かなり動きが速く、くるくるとフォーメーションも変化し一箇所にいることがほとんどないので追いきれなかった。男性ダンサーたちも女性に負けないくらいの柔らかい動きで、美しいアラベスクの軌跡の残像を残しながら飛び去っていく。この幕のラストでは雪の精たちが指先から粉雪をこぼしながら佇んでいるという美しい幕切れ。(幕間では、一生懸命雪を片付けているところが見えてしまってちょっと笑ってしまった)

2幕は、ドロッセルマイヤーがマリーにおとぎ話を聞かせるところから始まる。お菓子の国の王様と女王様が赤ん坊のかごを見守っているところから始まる。王様は頭にトナカイの角をつけていて、ふたりともクリスマスの装い。ねずみたちから子供を守るための猫がいるが(この猫は、フレデリック(=フリッツ)がカブリモノをかぶって演じている。フレデリック役は、元ベジャール・バレエ・ローザンヌのRoberto Forleo)猫は赤ちゃんを振り回したり色々とやりたい放題。そしてねずみの呪いであかちゃんは真っ赤な姿に変えられてしまい、くるみの実を探してきてそれを砕かないと呪いは消えないということになって、ドロッセルマイヤーは世界を旅して周り、ニュルンベルグにいる甥の家でそのくるみを見つけてきて呪いを解くというところは、原作どおり。赤くなってしまった赤ん坊は呪いが解かれて、マリーの姿に。しかし甥は間違ってねずみの尾を噛んでしまったことでくるみ割り人形の姿に変えられてしまったので、ねずみの王様をやっつけてようやく元の姿に戻るというお話。その旅の中で、スペイン、アラビアなどの各国の踊りが登場するってわけだ。

そしてお待ちかね、クリスが踊るスペインの踊り。例のフリフリ水玉柄シャツで、女性ダンサーとユニゾンで踊る。ワイノーネン版などのくるみのスペインの踊りとは違って、あまりスパニッシュな感じの踊りではなく、2番プリエを多用したかと思ったら、スピーディで、後ろ脚をアティチュードにした軽やかな跳躍、脚をアラスゴンドにして上体を同じ方向に倒したりするなど柔軟性を求められる振り付け。クリスの柔らかい体と綺麗なアンディオールにはぴったりの踊りだった。アームスもとてもきれい。すごくにこやかに、のびのびと踊っているのが印象的。あっという間に終わってしまったけどもっと観ていたいと思った。
アラビアの踊りは、マシュー・ボーン版の「くるみ割り人形」のアラビアの踊りとちょっと似ていて、アラビアというよりエジプトのファラオって感じの頭飾りをつけた半裸の男性ダンサーが、床の上で妖しくのた打ち回るような不思議な感じの踊りだった。そしてトレパック(ロシアの踊り)は、なんと男性ダンサーに左右から女性ダンサーが一人ずつフィッシュダイブで飛び込んでくるという大変難易度の高い振り付け。最後には男性が女性二人をリフトするのだから、大変な体力が必要なのだと思う。中国の踊りは比較的一般的なくるみ割り人形の振り付けに近い可愛い踊り。

元の姿になったくるみ割り人形=王子がマリーを花のワルツの国へと連れて行く。そしてこの花のワルツがまた、コール・ドが男女混合ってワケ。やはりニットのキャップにオレンジとブルーグレーのボーダー柄のトップスにへそ出し、下はクラシックチュチュ。脚はポアントではなくバレエシューズ。背中にはシルフィードのような羽根。さすがにクラシックチュチュだと脚がむき出しになるので、男性が混じっているのがすぐわかるし、クリスを見つけるのも簡単だった。クリスは上半身は逞しく、胴回りも比較的太くてしっかりしているのだけど、膝から下がとてもすんなりとしてきれいな脚をしている。クラシックチュチュの踊りだけあって、振り付けもフォーメーションもクラシックバレエの群舞的な要素が強く、手をつないでのパ・ド・ブレ、アラベスクが多用されていた。ここのダンサーはレベルが非常に高く、アンディオールしたアラベスクの美しさ、バランスの長さにはうっとりとしてしまう。ラーララーララララ、と一同が歌うと男性が混じっているのがわかるのがご愛嬌。クリスのキラキラした笑顔がとても素敵。

花のワルツが終わって、人形の姿のくるみ割り人形と一人取り残されたマリー。しかしドロッセルマイヤーが登場し、くるみ割り人形の王子を連れてくる。王子とドロッセルマイヤーは同じ服を着ている。そしてマリーと王子はここで愛を確かめ合う。お子様の観客が多い中で、ちょっとドキっとするようなセクシーな(性行為を暗喩するような)振り付け。しかしマリーも王子も少年少女にしか見えないような容貌なので、いやらしくは見えない。そして幕。

ちょっと不思議で、ユーモラスで、ファンタジックな夢を見せてもらえた。クラシックのバレエのテクニックを使っているけれども、クラシック・バレエとも、いわゆるコンテンポラリーとも、モダン・クラシックとも、ミュージカルとも違っているオリジナリティ。小さな子供たちも退屈していない様子で、とても喜んでいた。けっこう斬新なこともやっているのに、小さな町でこんな風に受け容れられていて、すごく幸せなバレエ・カンパニーだと思った。振り付けも面白いし、ダンサーはそれぞれ個性的でテクニックも超一流。世の中にはそんなに知られていなくてもこんなにいいカンパニーがあり、いい振付家がいるのだ。

何よりクリスがとても楽しそうに、のびのびと、そして相も変わらず美しく踊っているのが嬉しかった。

12月18日 17時開演
17時開演と昨日より早い時間のため、お子様率が非常に高い。それにしてもフランス人の子供って可愛いね♪金髪率が高くて本当にお人形さんみたい。1400席の会場は超満員で補助席も出る盛況ぶりだ。グッズ売り場のお姉さんが顔を覚えていてくれて、ニコニコ微笑みかけてくれた。素晴らしいスタッフと観客に支えられているカンパニーなんだな。

舞台の内容もキャストも前の日とまったく同じなので、詳しいことは書かないけど。よく観ていると、ネズミと戦うおもちゃの兵隊軍団にクリスがいるのを発見。さらには、雪の精の中にもクリスをはっきりと確認することができた。頭を白いニット帽で覆い、長くてたっぷりとしたボリュームのロマンティックチュチュをまとうと、目のパッチリしたかわいらしい顔と相俟ってまるで女の子のようだ。美しいポール・ド・ブラ。伸ばした指先から粉雪を舞い散らせる演出が幻想的で素敵。しかし美しいけれども、体力的にはめっちゃ大変な振付である。動画を見ればわかると思うけど、腕をぐるぐる回しながら雪を降らせ、細かいパの連続、そして走り回ったと思ったら高くてリズミカルなジュッテの連続で体力の限界に挑戦って感じである。もともとは女性ダンサー用の振り付けなので、柔らかさ、優雅さも必要だ。 http://www.balletbiarritz.com/gb/0310cassen.html
男性ダンサーにとってはこれを踊るのは大きなチャレンジだといえるけど、クリスは立派にその役目を果たしていた。ジュッテした時の後ろ脚の美しさ、背中の柔軟性は際立っている。
ここの振り付け、大好き。

さて、休憩時間。幕の下から、先ほどの雪の精たちが散らしていった雪を掃除するのが見えたりするのだけど、幕の前のステージには大勢の子供たちがよじ登り、跳んだり跳ねたり踊ったり。先ほどの雪の精たちの踊りがよほど気に入ったと見える。「くるみ割り人形」の上演の時は、日本でもいつも客席にお子様がたくさんいるけど、子供たちがこんな風にはしゃいでステージの上に登っているところなんて見たこともない。普段だったら眉をひそめてしまうような光景なのに、不思議とすごく微笑ましく思えた。

2幕での、赤ちゃんを醜く変えられてしまうくだりって、よく考えてみたら結構ホラーな場面なのだけど(原作を読むと、特にすごくダークな感じなのだ)、王様と女王様を演じているダンサーがすごくマイムが上手で、とってもユーモラスに思える。赤ちゃんとのシーンはちょっとマッツ・エックの「アパルトマン」を思わせた。マランダインの振り付けはとてもオリジナリティがあるのだけど、誰かに似ているとしたらマッツ・エックが一番近いのではないかと思った。魔法を解くくるみの実が、まるでラグビーボールのように扱われているのもなんだか面白い。こういうモチーフって、けっこう子供が喜びそうな気がする。

クリスが踊ったスペインの踊りを観ている間は本当に至福の時。キューピーさんのように頭の中心部の髪の毛が立っていて可愛い。2番プリエの時のお尻の筋肉の動きを見ていたり、思いっきり目の付け所が腐女子である。ああ反省。
そうこうしているうちに、花のワルツである。本当にここのバレエ団のダンサーは何回も着替えては肉体的に苛酷な踊りを踊るのだから大変だ。ましてや、この花のワルツはクラシックの群舞に近い踊りなのだから。ここでも、クリスの美しい足の甲とよく開く股関節、アラベスクを堪能できた。

マリー役のダンサーMagaliはずっと出ずっぱりだし、複雑なリフトも多いし、群舞と一緒になって踊ることも多いのに相当スタミナがあって、最後までテンションの高さを保ちつづけていた。華があるし、個性的なので一度見たら絶対に忘れられないと思う。こういった小規模の、オリジナル振り付けやコンテンポラリー系、ネオクラシック系のカンパニーだとスター主義とはかけ離れた舞台づくりをするという印象があるが、このカンパニーのよさは、一人一人のダンサーの個性を大事にしているところだと思った。振付家が、ダンサーの特質に合わせて作品を創っているのだろう。

斬新な演出、大人じゃないとわからないような内容もあるのだが、この作品、観客に大変受けていたし、子供たちも喜んでいた。子供の観客が多い舞台だと、大抵、子供が舞台に飽きてしまって落ち着かなかったりするものだけど、みんなお行儀よく観ていたと思う。
「くるみ割り人形」はなんといっても、まずチャイコフスキーの曲が素晴らしい。一つも捨て曲がなく、真珠の珠や宝石のような、キラキラしたメロディが続いてとても幸せな気分になる。甘酸っぱい記憶を思い起こさせてくれる。その曲にちゃんとマッチした振り付けになっているのが、この作品の勝因なのではないかと思った。

終演後、会場のロビーで名残惜しそうにしていたら、素敵な女性が近寄ってきた。彼女はこのバレエ団のバレエミストレスだという。日本には10年前に松山バレエ団のところに行ったわ、なんて話してくれてその上握手まで求められた。「素晴らしい舞台だった、日本に来てくださいね」と私たちは言った。さらに、サングリアまでご馳走になってしまった。

それにしても、帰国してフィギュアスケートの浅田真央の演技を観るたびに涙がぽろぽろ出てきてしまって困ったものだ。くるみ割り人形のメロディがこんなにも美しく、懐かしく、幸せな記憶を呼び覚ますものだとは。
本当にここまで観に行ってよかった。日本にもいつか来て欲しい!