2002年ベストとワーストの映画


2002年は、一時期(といっても半年程度だが)仕事上試写室通いをしていて、馬鹿みたいに映画を観まくっていた結果、292本も映画を観ることになった。まあ、映画ライターをされている方とか、マニアの方ではその倍くらい見ている人もザラにいるかとは思うが、個人的には年間300本近くも観るのは明らかに観すぎだと思う。ただし、また仕事を変わって、一応映画関係の仕事ではあるのに映画を観る時間がまったくなくなったため、現在はもの凄く欲求不満がたまっている状態。現実的に土日にしか映画を観られないし、貴重な週末も月に1〜2回は歯医者通いだし、一応奥さんでもあるので週末くらいは旦那のご飯も作らなくてはならない。というわけで1月は正月休もあったのに13本しか映画を観られなかった。この計算で行くと、今年はおそらく100本くらいか?映画の商売をしている人間にとって、これはやばい事態だ。

それでもやっぱり、試写室で観るより映画館で観たほうがいいと思う。「人より先に映画を観ている自分は偉い」と思っている人たちの中で観るより(おっと〜そういう皆様を相手にお仕事をしているのでこれは暴言ですね。失礼しました)映画を純粋に楽しんでいる人たちの中で観たほうが、気持ちよく映画を観られるからである。

そんなくだらない話はさておき、2002年のベストについて。
本来は日本映画と外国映画を分けてベストを選ぶのはナンセンスだと思うので、基本的には取り混ぜて選んでいく。


2002年ベスト24

1.クレヨンしんちゃん アッパレ!戦国大合戦

2001年のベストもクレヨンしんちゃんであったが、2002年のしんちゃんも凄かった。基本的にはナンセンスギャグでありながら、真摯に生きるということは何なのか、愛する人を想うこととはどういうことなのかを真面目に訴えている作品。人が死んでしまうという必然性があったのかどうかについては議論が分かれるところだし、子供向けの映画にしてはあまりにも悲しいところもある。だが、やっぱり人の死ということは小さいうちから触れておく必要があると思うのだ。もう一人の主人公、“おまたのおじさん”こと又兵衛の不器用で誠実なキャラクターは、古きよき日本人を感じさせてくれるし、時代劇としての考証も非常に正確。ラストの雲のシーンの美しさは、静かなオープニングと見事に呼応している。「たそがれ清兵衛」もいい作品だが、「清兵衛」が気に入った人はこの映画も観るべき。

2.酔っ払った馬の時間

世界最大の少数民族、クルド人一家の悲劇を、静かに、しかしドラマティックで力強く描いた傑作。国境地帯に降りしきる雪は、幼い兄弟姉妹たちの悲しみのように降り積もり、酔っ払って動けなくなったラバたちも、人間達と同じように嘆き悲しんでいるように見える。そして圧巻なのが、雪山から転げ落ちるタイヤの大スペクタクルシーン。お金をかけなくても凄い映像というのは撮れることの証明。圧倒的に力強いシネマトグラフィが、あまりにも残酷、しかし美しい物語に真実味を加えていく。こんなにも衝き動かされるような力を持った映画は、2002年にはほかにはなかった。

3. 少林サッカーcover

チャウ・シンチーという稀代のコメディアンの底力は、香港映画ファンの間では有名だったが、そのアナーキーでパワフルなギャグセンスが日本でも認められたのは嬉しい。少林寺とサッカーの合体という奇抜なアイディア、破天荒な展開はもちろん強烈に面白いし、往年のスポ根ドラマを髣髴させているのが楽しい。が、なんと言っても、踏みつけられているような人生の敗者が、人生の敗者復活戦を通じて誇りを取り戻していくという展開は、観る者に明るい希望を与えてくれるところが最高。常連俳優の多用、美人を徹底的にいじる、そして体を張ったギャグ、絶対に目は笑っていないなど、シンチーらしさを保ったままなのも嬉しい。

4. 鬼が来た!

衝撃的な映画という意味では、これほどまでにインパクトの強い作品もないのでは?圧倒的な悲劇というのは同時に喜劇でもあるんだということを改めて認識。ごく普通の平凡な百姓の青年を残虐な大量殺人鬼に変えてしまうものが、戦争だという結論は平凡に見える。が、それは同時に、中国人でも日本人でも同じなのであると言うあたりまえなのにラディカルな主張がダイレクトに伝わってくる。敵同士でありながらも一度は友人になれたと思ったのに訪れるカタストロフィの強烈さ。軍艦マーチが耳から離れず、モノクロの画面の中パワフルさがみなぎってくる。同時に、どんな状況のもとでも人々は愛し合い、笑い、飯を食い、生きていくんだなとも思った。香川照之の撮影記録「中国魅録」も強烈な内容で、必読。

5.キス★キス★バン★バン

地味なキャスト、地味な題材で埋もれてしまいがちな作品だけど、小さい劇場ながらしっかりお客さんがたくさん入っていたのが嬉しかった。殺し屋として一流で、しかもダンディズムの美学を確立している初老の男は、私生活では不器用で、彼のことを愛する女性一人を幸せにすることもできない。一方では33歳にして一度も外に出たことのない大きな赤ちゃんのような男がいる。だが、その無垢な男は殺し屋に男としての嗜みを教えられるうちに、いとも簡単に愛をつかみ、広い世界を知り、そして人生の美しさを殺し屋に教える。一見コミカルな物語の中に人の営みの深さと苦さをこめた、愛すべき逸品。バリー・ホワイトの使い方も完璧。

6.SWEET SIXTEEN

とことんきびしい境遇に追い詰められた人間が、それでも必死に現実と格闘する姿を描いてきたケン・ローチ。「ケス」以来の思春期の少年を主役にした本作。夢も希望もないような場所で、母親と一緒に新しい家で暮らしたいというただひとつの夢を実現するため、道を踏み外しそうになる男の子。しかも、彼の唯一の夢の目的である母親が、どうしようもない人間で、彼の足を引っ張る存在なのだ。絶望に彩られた中でも、わずかばかりの希望を提示するのが、ローチの優しさと厳しさ。ひりひりと痛い気持ちを抱えながら、それでも前に走りつづける少年の凛とした姿が忘れられない。

7. トリプルX

CGをフルに駆使しているとはいえ、これでもか、とやり過ぎなほどのゴージャスなアクションをぎっしり詰め込んで、“アメリカアクション映画界の底力とプロフェッショナルの誇り”を見せ付けてくれた快作。スタントマンも一人亡くなっているとのことだが…。そして、あくまでも個人主義と自分らしさを貫く新しいアンチヒーロー像を提示してくれたヴィン・ディーゼル。深くセクシーな声と隆々とした筋肉、そして国籍不明で愛嬌のある顔立ちは好きにならずにはいられない。ヨーロッパ女のゴシックなけだるさが魅惑的なアーシア・アルジェントと熊さんのようなヴィンは、2002年のベスト・スクリーン・カップルだ。とにかく観ている間は楽しい映画を作ってやるという心意気も良し。

8.ズーランダー

究極の脳みそゆるゆるバカ映画に見せておきながら、実は東南アジアでの児童労働について触れていたり、恵まれない子供たちのための施設を作ろうとしていたりと、こっそりとインテリジェンスが感じられる一粒で2倍美味しい作品(ホントか?)。背が低いベン・アフレックや不思議な鼻のオーウェン・ウィルソンがスーパーモデルだったり、ウクライナ出身のミラ・ジョボヴィッチがボンデージ・ルックがお似合いのロシア訛り怪し過ぎる美女だったりと、出演者も「リラックス」して楽しんでいることが感じられるのが良い。80年代の、今となってはあまりにも恥ずかしいサブカルチャーを巧みに噛み砕いてちりばめ、爆発的な笑いを引き出すベン・アフレックは天才だ。

9. たそがれ清兵衛

愚直にまっすぐにささやかに生きている人間の美しさ、尊さを、あくまでも抑え目に描ききって、心にじんわりとしみる余韻を残す作品。平凡な人間はどうやったら花を咲かせることができるのか、その手本を、大上段に構えることなく示しているような居住まいの清清しさを感じる。殿様の命令で仕方なく、死にに行くかも知れない任務を帯びた清兵衛の髪を宮沢りえが結うシーンの、仄かににじみ出る官能と心の震え。リアリズムを追求しながらも、あまりにも凄絶なクライマックスの殺陣は長く記憶されるべき名シーンだ。

10.ロード・オブ・ザ・リング

おたく監督ピーター・ジャクソンが、世界一うるさ型ファンの揃っているオタク聖書を、徹底的に自分の趣味を炸裂させて映画化してしまうのが凄い。過剰な大合戦シーン、過剰なスペクタクル、細部にまで渡る究極のこだわり。戦闘シーンの激烈さは、CGを多用しているのに野蛮なまでの肉体性を感じさせてくれる。ここまできたら、ひれ伏すしかない。そしてイアン・マッケランの身震いさせるような熱演を始め、想像を絶するほどの力のこもりようが、スクリーンを通じてビリビリと伝わってくるのだから、もう。続編を見るのが待ちきれない!

(11位以下のコメントはまた近日中に)


11.父よ
12.ゴースト・オブ・マーズ
13.ハッシュ!
14.青い春
15.アバウト・ア・ボーイ
16.へドウィグ・アンド・アングリーインチ
17.少年と砂漠のカフェ 
18.トンネル
19.カタクリ家の幸福
20.活きる
21. マルホランド・ドライヴ
22. イン・ザ・ベッドルーム
23. バーバー
24. ラスト・プレゼント