一人の女の半生から探る 告白的デートムービー論と「HANA-BI」

 彼と、映画に出てくる男性像と較べるか、一体化させるか
    −恋愛と映画の関係を、一人の女の半生から振り返る、−

 

<格好良すぎるヒーローの映画をデートで見てはいけい>

あたしは結構親が厳しい家に育ったので、高校生の時など「一人で映画なんて見に
行ってはいけません!」と言われてきて、友だちと『ガンダム』とか、親と『寅さん』や
『007』(これはうちの父の趣味)『スター・ウォーズ』位しか映画って観たことがなかっ
た。

 大学生になって初めて男の子とつきあい始めたとき、初めて一緒に見に行ったのは
『アンタッチャブル』だった。スクリーンで観た(当時まだ若々しく爽やかな)ケヴィン・コ
スナー、ショーン・コネリー、アンディ・ガルシアそしてロバート・デ・ニーロの格好良かっ
たこと!これが「大人の映画というものよ!」と思った。こういう粋な男たちが登場する
映画を観ると、自分も少し大人になった気がしてとても嬉しくなった。

 その彼が好きだったのはロバート・デニーロ。一番好きな映画が『タクシー・ドライバ
ー』だと聞いて、ビデオを彼から借りて観て、またその強烈な個性とダークさにノックア
ウトされた。しかし困ったことに、映画の中のしびれるような情念の持ち主たちを見ると、
現実の男の子というのはいささか子供っぽく、頼りなく見えてしまうのである。「オレも
デニーロの真似をしてモヒカンにしようかと思った」なんて言っていても「バカじゃん」「ガ
キじゃん」としか思えない。デニーロやショーン・コネリーみたいな渋い人が早々そのへ
んに転がっているはずもないし、彼の青臭すぎるところが許容できなくて、背伸びばか
りしていたあたしも子供だった訳なんだけど、彼が色あせて見えてしまい、やがて別れ
ることになったのであった。

 ここで一つ教訓「あまりにも格好良すぎるヒーローが出る映画を、ボーイフレンドと見に
行ってはいけない!しまいには彼女はあなたとヒーローを較べていることでしょう」
 

 さて、年月がたち、あたしもかなり映画をたくさん見るようになっていた。ヴェンダース
やゴダールなど難しいアート系の映画を見せては粋がっているギョーカイ男とか、いろ
んな男の子と付き合って、一緒に映画を見に行ったものだ。デートで観る映画のチョイ
スって、その人をよ〜くあらわしているものだったんだな、と今更のようにしみじみ思う。
だから、やっぱりデートで観る映画の選択は慎重にした方がよいと思うよん。

 

<ジム・キャリーより北野武>

 4年前の彼ともデートでよく映画を観ていた。一緒に映画を観るようになったのが、付
き合うきっかけだったのだ。彼はアメリカの大学を出ていて、ジム・キャリーが大好き。フ
ァンレターも書いたことがあって、『マスク』を13回も観ていて、ジム・キャリーの顔真似
まで見せてくれるような人で、それはそれでとても楽しかった。あたしは今でもジム・キ
ャリーは大好きだ。彼はアメリカに住んでいたことから、いかにもアメリカ的な映画が好
きで、『デッドマン・ウォーキング』とか『ラリー・フリント』とかちょっと社会派的な映画も
観たものだけど、そういう映画を観るわりには「死刑制度ってどう思う?」とかそういう深
い会話にはならなかった。やがてあたしの悪い癖で、1年くらい付き合うと相手にすっか
り飽きてしまい、「そろそろ別れた方がいいかな。まあ男なんていくらでもいるし(←やな
女)」なんて思うようになってしまうのである。結局、相手のことがそれほど好きじゃなか
ったということなんだろうけど。

 

<結婚を決意させた映画『HANA-BI』>

 そして、その頃知り合ったのが今のオットだ。彼と見に行ったのは『HANA-BI』。この
企画の趣旨とちょっとずれるかもしれないのだけど、二人きりで行ったわけではなく、
友人4人で行ったのであった。彼とはメールを交換はしていて、好意は持たれている
な、と思ってはいたけど、「まあ、あたしも一応彼はいるしぃ、こっちの彼はあんまり顔
とか好みのタイプじゃないのよね」みたいで別に意識をしていたわけではなかったの
だ。

 実はその頃のあたしって日本映画をほとんど観ていなかったのである。恥ずかしな
がら、北野武作品も一本も観ていなかった。そこへ、『HANA-BI』である。ディープな北
野ファンからはあんまり評価されていないのだが(彼も一番好きなのは『ソナチネ』だ
ということだ)ちょっとあたしにとっては号泣ものだった。夫婦の愛の物語である。たけ
しが不治の病の妻と死出の旅に出かけ、言葉はないけれどもかけがえのない時間を
共に過ごす。そして一言も言葉を発しない妻が最後に「ごめんね」「ありがとう」と言う。
これだよ、これがあたしの理想とする夫婦像だわ、と思ったのだった。そして、この映
画を観ようと言った彼が急に頼りがいがあっていい男に見えてしまったのである!きっ
と彼は、あたしが不治の病になって死にそうになっているときに、あたしの願いを叶え
てくれる人だわ。この映画に出てくるたけしみたいに寡黙で渋いし、日本映画もとって
も詳しいしまあ素敵!と思ったのであった。なんという短絡的な思考!単に直感という
か山勘で「この人は絶対死ぬまであたしを守ってくれる人であるに違いない」と決めつ
けてしまった。2ヶ月後、あたしはジム・キャリーマニアの彼に「ごめんね、結婚するこ
とになったの」と告げて今のオットと結婚することにしたのであった。ジム・キャリーより、
北野武なのであった。

 

<夫婦のデートでは、リラックスしてバカ映画>

 さて、結婚して「日本映画にすごく詳しい、渋いじゃん」と思っていたオットは、単に暇
な学生時代に大井武蔵野館に通っていたカルト映画マニアであり、『アルマゲドン』を
見て「すげー面白かった、感動しちゃったよ」なんて平気で言うような人であったという
ことが判明した(笑)。しかし夫婦で『恐怖奇形人間』やら『幻の湖』『DEAD OR ALIVE
犯罪者』などを見ては笑い転げていて、そうかと思ったら『バーティカル・リミット』を見
てはツッコミ大会をしたりして、ちょっとヘンだけど楽しい夫婦生活を送っているのであ
った。今、彼とデートするときに見る映画は頭の悪そうなハリウッド・メジャー作品か、
日本映画のカルト作品ばかりである。でも、それでいいのだ。映画なんて面白ければ
いい。夫婦だから、相手の顔色をうかがわなくてもすむというのもとってもラクちんで、
今あたしは独身の時よりもずっと映画を観ている。

  
初出:夫馬信一さんネット映画館 DAY FOR NIGHT 特集「デートムービー最終兵器