監督:モフセン・マフマルバフ
出演:ニルファー・パズィラ、ハッサン・タンタイ、サドュー・ティモリー
アフガニスタンから亡命した女性ジャーナリスト、ナファスは、地雷で足を失って
アフガンにとどまっている妹から、自殺をほのめかす手紙を受け取る。妹を救う
ために彼女は危険を冒してアフガンに入国し、妹のいるカンダハールを目指す…。
今、世界でもっともニュースで報道される国、アフガニスタン。その中でも、タリ
バンの本拠地カンダハールの地名を耳にしない日はない。だが、この映画に、
アフガニスタンの悲惨な現状とか、抑圧される女性たちの姿を期待していった
人は拍子抜けするかもしれない。ここに登場する女性たちは、抑圧の象徴であ
るブルカの下で美しく化粧し、爪にマニキュアを塗ったりカラフルな腕輪で身を
飾っている。だが、彼女たちが美しく装うのも、美しい姿をまわりに見せて自分
が楽しむのではなく、夫の目を楽しませるためであるというところに、抑圧の本
質がある。
ヒロインがカンダハルに向かう途中に立ち寄る赤十字救護センターでは、地雷
で足を失い、義足を求める人々が大挙して押し寄せている。彼らは、残った片
足で松葉杖をついて、地雷がどこに埋まっているのかも分からない砂漠を歩い
てここまでやってきたのだ。彼らはただのかわいそうな人として描かれていない
のが凄い。妻の義足を取りにきた男は、「こんなにでかい義足では、妻がかわ
いそうだ」と勝手に別の義足と取り替えようとするし、片腕の男は、足は両方揃
っているのに「母親の義足を取りにきた」と言ってちゃっかり義足をもらい、転売
しようとする。なんとたくましい人々だろう。
けれんみたっぷりのマフマルバフ演出が冴えている。中でも出色のシーンは、
パラシュートつきの義足がヘリコプターから沢山降ってきて、片足の人々が大
挙して押し寄せるところを後ろから撮ったショットであろう。なんというシュール
さ!カンダハールへたどり着くために、ヒロインは結婚式へ向かう人々の中に
紛れ込むが、色鮮やかなブルカをまとった人々の群れが砂漠の中を歩いてい
く姿もまた、一枚の絵のように美しいのだが、顔まで覆っているため同時に異
様である。そして、ヒロインが砂漠の真中で検問を受けるシーンの緊張感と言
ったら!
このように、様式美や物語性を入れた擬似ドキュメンタリーという手法が、カンヌ
国際映画祭では不評だったようだが、映画の中にしっかりとアフガニスタンの現
状が織り込まれていて、しかも、誰もが思いつくような安易なタリバン批判にな
っていないのは見事。ヒロインのガイドを途中まで務める少年は、タリバンの神
学校に通っていた。まだ幼い生徒たちはコーランを暗誦させられるだけでなく、
カラニシコフ銃の使い方も覚えさせられる。少年たちが神学校に入学するのは、
何も信心深いからではなく、神学校に行けばタリバンがその子の分の食糧は提
供されるからである。タリバンがあれほどまでの隆盛を誇る背景には、飢えや貧
しさがあったわけだ。
女性が病気になって、医師にかかるにしても、医師は異性の体に触れたり、言
葉を交わすこと自体が禁じられているので、診察はカーテン越しで、カーテンに
あいた穴から患者の目や口を見て行われるだけでなく、患者の家族が同伴して、
その家族を通じてコミュニケーションを取るようになっている。しかも、ヒロインが
途中でかかる医師は、なんとアメリカ出身の黒人で、イスラムに心酔してアフガ
ニスタンにやってきたと言う。医師でありながら医学の勉強をしたことはなく、さ
らにひげが薄いので付け髭をしているという設定が皮肉で笑わせてくれる。と
同時に、医師の治療が必要という段階でなくても、人々は病に倒れて行くとい
う現状を反映している。逆にいえば医師でなくてもいいので、人々をケアする人
がそれだけ求められているということでもある。この医師役を演じているのは、
実際にブラック・ムスリムでアフガニスタンに住んでいたアメリカ人である。つま
り、これもまた一つの現実なのである。
アフガニスタンの現状を、一面的でなく多面的な方向から捉え、そこで起きてい
ることを知らしてくれながらも、同時に物語としても、芸術としても非常に優れて
いる、言葉を失うほどの力を秘めた作品だ。
なお、モフセン・マフマルバフの著書「アフガニスタンの仏像は破壊されたのでは
ない、恥辱のあまり崩れ落ちたのだ」(現代企画室刊)は、同時多発テロが起き
るまでは完全に世界から忘れ去られていたアフガンの現状を知る上でも、またと
ない素晴らしい本である。特に冒頭に収録された、この映画「カンダハール」が
ユネスコの「フェデリコ・フェリーニ」メダルを受賞したときの記念スピーチにて、つ
むがれた言葉の重みには、思わず涙が止まらなくなった。ぜひ一読をお勧めした
い。
関連リンク
「カブール・ノート」: http://www.i-nexus.org/gazette/kabul/
カブールの国連難民高等弁務官事務所に勤務される山本芳幸さんがカブールの
現状を記録したノート。
'Limbs of no body':http://www.iranian.com/Opinion/2001/June/Afghan/
モフセン・マフマルバフによる報告書。