カタクリ家の幸福

監督:三池崇史  脚本:山岸きくみ
出演:沢田研二、松坂慶子、武田真治、西田尚美、丹波哲郎、忌野清四郎、竹中直人
    遠藤憲一

デパートをリストラされたカタクリマサオは、高速道路が近く建設されると聞いて、山の中
にペンション「白い恋人たち」を建てた。だが待てど暮らせど客は来ない。従業員はマサ
オの妻で主婦のテルエ、出戻り娘のシズエ、会社をクビになったマサユキの二人の子供
と、シズエの娘ユキエそしてマサオの父親ニヘイ。ようやく客が一人きたが、陰気なその
客はルームキーを首に突き刺して自殺。ペンションに客が来なくなってしまっては困ると、
カタクリ家の面々は、その客の死体を埋める。次に来た関取とガールフレンドのカップルも
死んでしまい、またまた死体を埋める羽目に…。一方、シズエは自称イギリス王室の血を
引くアメリカ軍人リチャード佐川に一目惚れしてすっかり色ボケしてしまうが…。

ホ〜ントに最高に可笑しくて、楽しくて、しかも泣ける娯楽映画の王様のような映画だ。さ
らにスターのオーラを放つ役者をこれだけ取り揃えていて、贅沢この上ない。

ジュリーに松坂慶子、丹波哲郎に忌野清四郎という、この上ないといっていいほどの完璧
なキャスティング!そんなスーパースターたちに、閑古鳥が鳴くペンションでの家族を演じ
させてしまうというのが凄い。ジュリーは往年の美貌からは想像も出来ないほど太って老
け込んでいるし、松坂慶子は美しいけど、一見、「東京電話」の大根を持った主婦の役を
そのまま持ってきたような感じ。丹波哲郎も合わせ、みんな過去の栄光をかなぐり捨てて
いる開き直りというものまで、感じさせてしまう。

ところが、彼らは本物のスターの輝きを時として放ち、とんでもないケミストリーを感じさせ
てくれるのだ!ジュリーの艶のある美しい声。松坂慶子の、当年49歳という年齢を感じさ
せないしっとりとした美しさ。レーザーカラオケ風デュエットシーンで着飾った二人を見ると、
他の俳優には絶対に真似の出来ない華を感じさせてくれて、スタアというのはこういう人
たちのことだとしみじみ思ってしまう。さらに、一番その魅力を怒涛のように噴出させてい
るのは、丹波哲郎だっ!タンバイズム炸裂である。

丹波哲郎ったら、冒頭の薪を鳥にぶつけては落とすという妙な趣味のときに出す奇声か
らして、凄すぎるのだ。ボケのかまし方と言ったら、これは演技というより地なのではない
かと疑ってしまうほどのはまりよう。腹上死した力士を見て「産まれたっ!」なんて普通叫
ばないと思うよ。鹿の頭部の剥製をひ孫娘に説明するときの説明のタヌキぶり。警察が
やってきて出頭しようとしたら、あてが外れたときのボケ方。やっぱり彼は神様だ。

松坂慶子のボケ方も可笑しい。力士の死体を目の前にして、包丁を手に「切る?」という
リアクションには馬鹿ウケ。けっこうしたたかで力強いのだ。それに対する「おいおい、そ
ういう方向かよ」という武田真治の三村並みのツッコミも絶妙。武田真治は体の柔らかさ
を最大限に生かしたダンスのうまさが、逆に変な感じなのがいい。そしてピンクハウスの
フリフリ衣装に身を包んで、いい年してバツイチなのにブリッ子の夢見る乙女の西田尚
美。歌が思いっきりアイドル歌謡曲になっているのも可笑しい。かつて実在したクヒオ大
佐のパロディである、ニセ外人リチャード佐川の怪しさ満開ぶりも最高。(こんなのに騙さ
れるシズエって一体…)

そんな風に、バカ映画の衣をまとった映画になっているが、どっこい、とっても真面目で真
摯なテーマの作品であるところが素晴らしい。どんなに悲惨なことになっていても、結局
は家族全員で力を合わせて頑張っている。死体を埋める作業の帰りの彼らは、泥に汚れ
た作業着にタオル、スコップを背負ってスローモーションで歩き、香港ノワールのようなス
タイリッシュさ。台風で出てきてしまった腐乱死体たちを前にしても、踊って歌って前向き
に生きる。なんという美しい家族愛だろう!警察が向かってきたときに、誰が出頭するか
でもめたりする自己犠牲精神。そして、思わず泣いてしまったのが、テルエを妻殺しの男
の人質にされたときに、マサオが切々と、いかにテルエを愛しているか、かけがえのない
女性であるかを訴えるところだ。決してカッコよくないジュリーが、情けない顔で一生懸命
訴えるところったら、熱い魂と愛と気迫が画面を通してビンビン伝わってきて、貰い泣き。

そして、真面目に生と死について向き合い、語っている作品でもある。「明日死ぬとしたら
何をする?」という、塩田時敏演じる第一の宿泊客の問いかけ。丹波哲郎の「何が幸せか
この年になるまでに一つだけわかった。いかに死ぬかはいかに生きるということなんじゃ
♪」という歌?の歌詞。これだけ、大真面目に家族愛を謳い、前向きに生きること、儚くて
かけがえのない生について考えることを前面に出した映画って、なかったんじゃないかな。

往年の歌謡曲界のヒットメイカー馬飼野康二による楽曲、一曲一曲の完成度もすこぶる
高い。万華鏡のように変化する曲調。ジュリーや清四郎など、個性的なミュージシャンの
持ち味に合わせて作られた楽曲。ラストの、「サウンド・オブ・ミュージック」へのオマージ
ュに満ちた「しあわせに向かって」なんて、時々頭の中をぐるぐる回ってしまうほど印象的
だ。オリジナルの「クワイエット・ファミリー」を見て、ミュージカルコメディにしようという発想
が出たのも凄いし、アクションシーンをクレイアニメにしちゃったのも楽しい。三池崇史は本
物の天才だ。