2002年釜山国際映画祭報告

一度は行ってみたいと思っていた映画祭、それが釜山国際映画祭でした。東京から飛行機で2時間弱の距離にあり、しかもプログラム内容は、最近とても気になっている韓国映画を中心に充実の一途。しかし、普段忙しく仕事をしている身の上、仕事が変わったばかりでお金もない。どうしたものか、と思っているうちに友人から「行かない?」と誘いがあったり、ノースウェストのチケットがとても安くなっていたりと好条件が重なり、なんとか会社を一日だけ休んで行く許可も得られたのでした。

6月にワールドカップの観戦でソウルに行ったとはいえ、ハングルも韓国語も全くわからない状態。しかし、何とかなるものです。3泊だけど、ノースウェストの発着時間の条件も悪く、実質的には2日間しかエンジョイできないというハードなスケジュール。一番観たかったキム・ギドク監督の新作「海岸線」も観ることが出来ずに心残りはたくさん残してしまいましたが、映画と美味しいもの三昧の映画祭は本当に楽しかったです。

 釜山市民会館(このお兄さんはタキシードを着ているけどそのへんの人。あとでナンパしてきた)
11月15日(金)
仕事が忙しくて、ギリギリの午後2時過ぎまで大わらわ。あわてて権之助坂を荷物抱えて駆け上り、東京駅のコンコースを走り回って何とか成田エキスプレスに乗り込むことが出来た。成田空港のノースウェストのカウンターがまたえらい列で、これを突破してチェックインするのに45分もかかった。出発時刻の2時間前に成田に到着したのに、少しお茶する時間があったくらいで、結局ゲートには搭乗時刻ギリギリに到着(というのも、航空券引換え証に書いてあった時間と、実際の時間がなんと20分もずれていたからなんだけど)。しかも、化粧用のはさみを手荷物に持ち込もうとする友人は引っかかって一度外に出て家に郵送する羽目になるわ、もう一人の友人はゲートで抜き打ち検査を引き当ててしまい、荷物を空ける羽目になるわとハプニング続き。そして2時間弱の飛行時間で釜山に到着し、空港を出たところ運良く市内行きのバスに乗り込むことが出来た。夜9時半の釜山は想像以上に寒い。

バスを降りた場所とホテルが若干離れていて、地図片手に不安いっぱいに歩いていたが、日本と全く同じようなサラリーマン風の酔客が、親切にもホテルの場所を日本語で教えてくれた。到着したホテル、前日にチェックインしていた友人の話から想像もついていたが、この「釜山ロイヤル観光ホテル」ガイドブックには「高級ホテル」と書いてあったが、どこが、である。超安っぽい。しかもエキストラベッド搬入の予定が、うまく伝わっていなくてオンドル部屋に布団(これも、敷布団はあるけど掛け布団がないとのこと)を運び込んで3人で川の字になって寝なければならないのだ!ただ、幸いにもオンドル部屋は非常に暖かい。2枚の敷布団に3人で寝るのも、修学旅行気分で悪くない。

先に到着していた友人に電話をかけ、夜の街に繰り出す。PIFFのメーン会場近くで、ばったりともう一人の友人に遭遇。合計5人でPIFF広場を歩く。夜11時近いのに、人通りはとても多いし、屋台もたくさん出ている。金曜日の夜だものね。ハリウッドを真似してか、著名映画人の手形とサインが床に刻まれており、ホウ・シャウシェンやジェレミー・アイアンズ、ジャンヌ・モローのサインを確認することが出来た。

食事はダッカルビのお店。ウェイターのお兄さんが日本語も英語も堪能で、食事について色々と教えてくれるだけでなく、韓国語についても細かい言い回しの違いなどを教えてくれた。なんでも、日本の東京水産大学に3年間も留学していて、今は釜山の水産大学で学んでいるとのこと。しかもこの人、映画にも詳しくてDVDを800枚も持っているらしい。一番好きな日本映画は、予想通り「Love Letter」だが、「菊次郎の夏」も好きだとのこと。「バトルロワイヤル」のようなバイオレンス系は苦手で、韓国映画では「猟奇的な彼女」がお気に入り。今ヒット中の「トリプルX」は子供っぽくてダメだそうだ。とにかく、この人のおかげで非常に楽しい時を過ごすことが出来たのだが、ダッカルビ(鶏のカルビ)ももちろん非常に美味しい。鉄板で野菜と共に炒め、葉に包んで食べるが、ご飯が非常に進む。それでいて、5人でお酒も飲んで4万ウォン程度(4000円)という信じられないお値段なのが嬉しい。明日観る映画を相談して、ホテルに帰る。
 チケット売り場。チケットが買えるまで1時間半も並ぶ。(が、それにはわけが…)
11月16日(土)
外出しようとすると、偶然にもエレベーターの中で友人と鉢合わせ。そのまま、シネコンである大映シネマの下のチケット売り場に並ぶ。9時から当日券が売り出されるとのことだが、8時45分にはもううんざりするほどの列。そして、とにかく寒い!東京で言えば12月末くらいの気候で、こちらもそれなりに寒さを予想してムートンの上着とか着てきたのだが、足の先から冷える。持参した使い捨てカイロが役に立った。そして待つこと1時間半。どうも怪しい。どうやら、私達が並んでいたのは、前から1〜2列目の3500ウォンのディスカウントチケットの売り場で、通常の5000ウォンの当日券の列はもっと短かったのだ。(それにしても日本円で500円というのが嬉しい) あちゃ〜一体この1時間45分の行列はナンだったんだろう。しかし、今日売り切れたチケットは「ジャム・フィルムズ」くらいで、あとはまだ余裕で残っていたので、よしとしなければ。水色のパーカーを着たボランティアの人たちはたくさんいるんだけど、英語を解する人があまりいないようで、なかなかちゃんとした説明をしてくれないのは少し困ったもの。

すっかり冷え切った体を温めるため、辛いブタのデジクッパをいただく。韓国はお通しとしてキムチとかムル(水)キムチ、サラダなどいろいろとタダで出てくるのが嬉しい。しかも、すっかり体が温まっておなかもいっぱいになる美味しいテジクッパを食べても、わずか4000ウォンというのがまた嬉しい。日本だったら、3〜4倍は払わないとならないだろう。

さて、1本目の作品を観るために、市民会館へ。ナンポドン(南浦洞)駅から地下鉄でムンヘヨンへ。しかし、切符の買い方がわからない。というのも、小銭でしか切符は買えなさそうで、窓口が見つからない。ちょっと困った感じになったところ、親切なお兄さんが日本語で窓口まで案内してくれて、目的地を聞いた上で切符まで買ってくれたのだ。これにはちょっと感動したよ。地下鉄の乗換駅、西面(ソミョン)でも乗換えがいまいちわからないと戸惑っていたら別のお兄さんが正しい乗り換えの仕方を教えてくれたし。


そして市民会館へ。映画専用のホールではないのに、シネコン並みのすわり心地の良い椅子に感動する。作品は「YMCA野球団」。実在した韓国初の野球チームの物語を、日本軍による支配を絡めて描いた作品。主演は韓国のトップスターであるソン・ガンホ、ヒロインが「新羅の月夜」や「THREE」の美人コメディエンヌであるキム・ヘス、そして日本軍として伊武雅刀と鈴木一真(この二人は親子という設定)が出演している。1905年、野球チームYMCAを結成したソン・ガンホたちは韓国でナンバーワンのチームとなるが、ある日練習場は日本軍に占領される。エースは実は抗日運動をしていて、憧れの美女と彼は指名手配されてしまったため、チームは解散し、ソン・ガンホは野球を捨てて学業の道に。指名手配された二人をおびき出す口実として日本軍との試合が開催されるが、エースと親友だった鈴木一真は試合を行ってから彼らを捕らえればいい、ということになり最後の試合が行われるというストーリー。筋だけ聞いていれば非常にシリアスなスポーツ感動モノという感じだが、実際にはかなりコミカルなタッチで描かれている。ソン・ガンホはシリアスな役からコミ ックリリーフまで自在に演じられる大変芸達者な俳優であり、この映画では、学者としては三流だが野球の才能があり性格が抜群に良い朴訥な男を好演。深刻な歴史を扱いながらも、楽しく観ることのできる娯楽作品に仕上がっていた。

終了後キム・ヒョンソク監督、プロデューサー、そしてエース役のキム・ジュヒョクと裏切り者的な役を演じたファン・ジョンミンの4人が舞台に立ってのティーチインが行われた。キム・ジュヒョクとファン・ジョンミンの二人は映画の中よりもかなりハンサムである。意外と韓国の観客はシビアで、「こんな歴史的に重要な事実を、こんなふうにおちゃらけて描くとは何事か」とか、「歴史考証や舞台装置にはずいぶんとお金をかけているのに、演出にはお金をかけていない」など相当厳しい意見を平気でぶつけてくる。私もついでなので英語で質問をした。「日本人の俳優が二人出演しているが、彼らと仕事をしていかがでしたか」と「日本軍による占領という暗い歴史を描いているけど、日本軍の兵士も決して悪者ではなく野球を愛する一人の人間として描かれているが、なぜか」と。「「太陽の帝国」にも出演した偉大な俳優伊武雅刀と仕事が出来たのは光栄でした」「この映画を日本の観客にも売りたいので、日本人を悪く描くことは出来ない」というきわめて正直な答えが返ってきた。


ナンポドンに戻り、次の作品はシネコンである大映シネマでの「酔画仙」である。今年のカンヌ国際映画祭で巨匠イム・グォンテクが監督賞を受賞したという作品で、先日日本で開催されたコリアン・シネマウィークでも上映されたんだけど、平日の昼間だから絶対に観に行けないってやつだ。会場はシネコン形式で非常に綺麗だが、席の発券がバラバラなので、友人とは全然別々になってしまう。(座席はどうやらランダムに指定されているようだ)
アン・ソンギと撮影監督チョン・イルソン

作品は、19世紀の実在の水墨画の画家チャン・スンオプを描いたもの。といっても、実際の彼に関する記録はあまり残っていないらしく、ほとんどがフィクションとなる。彼を演じたのが、「シュリ」では北朝鮮のテロリストの首領、「パイラン」では徹底的なダメ男を演じたチェ・ミンスク。世良公則とか、西岡徳馬に似ている個性的な俳優だ。このチャン・スンオプも言って見ればある種のダメ男。水墨画に関しては天才的な才能を発揮するのだが、酒がなければ絵は描けず、いつも泥酔して財産を全部酒に代えてしまう。キーセン(妓生)の女性をこよなく愛し、酒と女に溺れた破滅型の人間だ。ところがそんな彼も時の為政者に気に入られて宮廷お抱えの画家にまで上り詰める。19世紀末の韓国は激動の時代で、やがて日本に占領されていくのだが、政権の関係者はみな逮捕されたり殺されたりしているのに、彼は軽やかにスルリとすり抜けて生き延びる。チェ・ミンスクの演技が奇天烈の一言。全裸になって子供と戯れ、屋根の上で酒を喰らい、キムチで絵を描いたことを誉められれば絵を破り捨てて川に飛び込む。泥酔して記憶のないうちにいつのまにか自らの指で猿の絵を描き、自分でそのことに 驚く。しかし一見奇人であるところの彼だが、絶えず変化を求め、一つのところに留まることをしてしまっては芸術家として死んだも同然、と栄光の頂点で筆を折り流浪の旅に出かけるのだ。このようなトリックスターを大胆かつ流麗なタッチで描く一方、チェ・ミンスクのあまりの強烈さに他の俳優はすっかり食われてしまっている。彼の師匠役を演じるのはかの名優アン・ソンギだが、その演技の素晴らしさを発揮する機会に恵まれていない。チャン・スンオプは生涯に何人もの女を愛するわけだが、彼女達がみなキーセンで同じような衣装を身に着けていることもあり、個体識別が困難なほどだ。まさに水墨画のような幽玄な韓国の山々と雄大な自然をもう一つの主役に据えているゆえ、人物描写も二の次になっているのではないかと思うほど。それでも、スケールの大きさ、画面の美しさ、その中で忽然と消えた天才の神話を、まるでおとぎ話のようにファンタジックに描いたイム・グォンテクの手腕はさすがに名匠だ。

さて、ティーチインは、監督イム・グォンテク、撮影監督のチョン・イルソン、プロデューサー(名前は失念)とアン・ソンギを招いて行われた。アン・ソンギが来場するとは思わなかったので、かなり得した気分。映画の中ではチェ・ミンスクの師匠役ということで老け役なのだが、実際の彼はさすがに大スターだけあって非常にカッコいい。そしてここでも、韓国人観客のシビアな質問攻勢が炸裂するのであった。北野武の映画にも多く言われる批判だが、曰く、この作品は海外の映画祭で受けることを狙いにしたもので、韓国のエキゾチックな風景の美しさを芸術的に大作風に描いているのではないか、など。イム・グォンテクは「春香伝」「風の丘を越えて」「祝祭」など、韓国固有の文化を描いてきた監督であり、しかも今回の「酔画仙」は韓国映画界念願の三大映画祭でのメジャーな賞を受賞したということで、ことさらそのような批判を浴びやすいのだろう。カンヌで有名になったこともあって、外国人観客も目立った。この映画で一番印象的だったのはやはりチェ・ミンスクの奔放な演技だったわけだが、不在の彼に代わりアン・ソンギは「彼は撮影中隣の部屋で、夜中でも大声で台詞の練習を していたので良く眠れなかったよ。でも、自分もそのように練習することがあるから、よくわかるよ」と答えた。一流の俳優であっても、それだけの努力をするということだし、自分のことでもないのに謙虚に一生懸命答えてくれるアン・ソンギに対する好感度が高くなったのは言うまでもない。

さて、次の作品まで少し間があり、お昼も食べていなくてお腹がすいたので、ロッテリアに入る。せっかくなので韓国にしかないメニュー、ということで私と一人の友人はプルコギバーガー、もう一人の友人はキムチバーガーにした。プルコギバーガーは普通のハンバーガーに甘辛いタレを使ったもので、ことさら新鮮なものではなかったけど、キムチバーガーはモスバーガーのようにライスで作ったバーガーにキムチが挟まったもの。韓国に行く機会があれば、話のタネにどうぞ。

そして今日の最後の作品は、スウェーデン映画「All Hell Let Loose」(地獄のような我が家)。実は案外日本には北欧の作品って入ってきていなくて、印象に残るものといえばラース・フォン・トリアーや一連のドグマ作品、そして青春映画として本当に胸をきゅんとさせてくれた「ショー・ミー・ラヴ」ぐらいだ。ところで、この作品は今までの北欧映画の印象を大いに破ってくれるものである。舞台は、アラブ系の移民の一家。お父さんは自宅でケータリング会社を始めたがなかなか軌道に乗らず、高圧的な性格もあって妻や子供達に邪険にされている。妻は後妻で、自宅にミシンで縫い物をして家計を助けているのだが、ミシン会社のメンテナンスマンと怪しい雰囲気。父親の母は少しボケかけているけど、いつもタバコを吸っていてかなりパンクな感じ。次女は結婚式を控えているのだが、婚約者と早くイイ感じになりたいらしくて、人がいないとすぐに彼とセックスをしようとしている。そしてまだ小学生の長男。そんなところへ、長女ミヌーが何年かぶりにアメリカから帰ってくる。美人の彼女が露出度の高いかっこうをして家にやってくると、「お前のような娘は恥だ。家に入れない」と父親が怒鳴りつけ、次女も「こんな姉がいて恥ずかしい」 と言う。実際、ミヌーはアメリカではストリッパーをしていたのだ。そんな彼女の味方は、おばあちゃんだけ。妻の浮気騒動、隙を見ては家を抜け出すミヌーが引き起こす騒動などがあり、次女の結婚式の日、ミヌーは父親によって一人で家に閉じ込められてしまうのだったが…。威張り散らしていて子供達に思いやりを持たない父親と、家族がいかに絆を取り戻していくかというところを、つらい過去を持つミヌーと、いつも傍観者的な立場の少年の目を通して描いた悲喜劇。登場人物一人一人のキャラクターが強烈で、テンポも非常に良く、いろんな伏線が最後に一つに収斂していくのはなかなか気持ちよい。高いテンションが90分の間続くので少し疲れるが、楽しい作品。おばあちゃんがいつもユニークな行動に出て、美味しいところを持っていっている。ミヌー役の女優もベアトリス・ダルを少し小柄で上品にした感じの、日本人受けしそうな美形。ティーチインにはなかなかの美人の女性監督が立ったのだが、英語が非常に下手で通訳もつかなかったので正直何を喋っているのか良くわからず、早めに退散。

 市民会館前の「海岸線」のポスター。某氏曰く「大神源太似」
映画のあとは、漁港である釜山名物の海鮮料理を食べようと、海沿いのチャガルチ市場に向かった。ところが、市場の中の食堂はすでに閉店しており、仕方なく、半分屋台のような雰囲気の店が建ち並ぶ中、一店を選んで入る。ところが、海鮮関係の鍋はないと言うのでちょっと困った。10時過ぎと遅いので仕方ないか。というわけで、タコの活き造りとか鯛の刺身とかなかなか贅沢で新鮮な食材をたらふく食べ、眞露をしこたま飲んで酔っ払い、最後は屋台でラーメンを食べて帰った。う〜ん幸せ。
11月17日(日)
前日の教訓もあり、今日は列を間違えずに並ぶことが出来た。しかし、その代わりといっては何だがソールドアウトとなるチケットが多かった。東京国際で評判の良かった「僕、バカじゃない」が売り切れてしまったので同じ時間帯の「六月の蛇」を取ろうとしたらこれも売り切れ。後ろに並んでいた白人の人たちも悔しがっていたのだった。今日は9時半ごろにはチケット購入を完了したので、近くのパン屋さんで朝食にする。しかし少し韓国に詳しい友人いわく「韓国のコーヒーはまずい」ということで、確かにこんなコーヒー絶対に日本では出会えないだろうという水のような薄い代物。パンは美味しかったんだけどね。

「復讐者に憐れみを」を観にいく友人たちと別れて、今日の一本目は「The Seagull's Laughter」デンマークとアイスランド合作の作品だ。日本にはなかなかなじみのない国の映画なのだが、これが意外にも非常に面白い。舞台は1950年代のアイスランドの田舎町。この小さな村に、アメリカの兵士に嫁いだものの夫が死んで未亡人となったために帰ってきた美しい女性フリーヤがいた。アメリカ帰りの彼女は、洗練されたファッションと美貌で、町じゅうの男性の視線を一身に浴びる。だが、彼女の姪にあたる少女は、フリーヤは魔女で夫を殺して帰って来たに違いないと信じ込むのだ。そういえばフリーヤの友人に暴力を振るっていた夫は火事で焼死。そして彼女の再婚相手となった男性は母親に頭が上がらないため、彼女は実家に帰るのだが彼も転落事故で死ぬ、と彼女を怒らせた男性はみな死んでいくのだった。少女の思い込みは思春期特有の妄想なのか、それとも事実なのか?ということを、アイスランドの魔法的な自然の中でファンタジックに、コミカルに描いている。ヒロインはファム・ファタル的な美女なのだが(ニコール・キッドマンにそっくりといっていいほど似ている)、同時に男性による抑圧に立ち上がる女性でもあるし、村の女たちも意外にもみな彼 女の味方となって連帯するというのが面白い。少女役の女優もとても可愛いし、映画の中で幼い少女から、少し色気も感じさせる妙齢の娘へと育っているのが、ちょっとドキっとさせる。出演者の中では、ヒロインの夫となる男性が、かのドイツ映画「トンネル」の主人公を演じたハイノー・フェルシュが少し有名な程度だが、このようなマイナーな国でも、エンタテインメント性とファンタジックさを備えたなかなかの秀作を作っているんだな、と新鮮に思った。

 映画祭開催期間といえども、通常の映画も当然上映されている。
次の作品は「KHALED」。カナダの作品だ。母親と二人暮しで貧しい生活をしている9歳の男の子ハレド。長く患っていた母親が突然死に、彼は立ち退きを迫る大家を追い返したりして、部屋に立てこもる。滞納しているため電気も止められて必死のサバイバルを繰り広げるのだが…という話。デジタルビデオで撮影され、「ドグマ」の影響も感じられるような、ドキュメンタリータッチとなっている。中東系のかわいらしい少年が母親が死んでも涙一つ見せず、一人で暮らしていくために戦っていく姿はとても健気だし、少しずつ異臭を放ってくる母親の死体と暮らしている彼の追い詰められていく心境も良く伝わってくる。しかし、さすがにちょっと疲れているため、時折眠くなってしまう。なかなか良くできた映画ではあるけど、商業映画としてのエンターテインメント性には欠けるな。

そして今日の4本のうちの唯一の韓国映画、「No Blood, No Tears」(血も涙もなく)。女二人が主人公という、珍しいバイオレンス/アクション映画だ。盗みで刑務所に入ったため子供を奪われた、40歳くらいの女タクシー運転手と、賭博場を経営する暴力的な恋人に虐待され、顔に傷があるためいつもサングラスをしている若い女が、交通事故をきっかけに知り合い、賭博場の金を奪って逃げる計画を立てる。タクシー運転手は、奪われた子供を取り返すため、若い女は顔を整形して歌手としてデビューするため。しかし、お互いをなかなか信用しきれない二人、そして若い女の恋人は腕っ節の強い元ボクサーだし、タクシー運転手も何者かに追われている…。前後する時制、個性的なキャラクターたちが金の入った鞄を奪い合うシチュエーションは、明らかにクエンティン・タランティーノを意識したもの。かなり複雑な構成をなかなか巧みに操っているし、躍動感もある。ただし、あまりにも登場人物が多く複雑すぎてついていけない部分があり、そのあたりは少し眠気が襲ってきた。もうひとつ異色なのは、女二人がヒロインなのに非常にバイオレンスシーンが多いこと。中でも、タクシー運転手を演じたイ・ヘヨンはもはや若くもないのだが、体の動 きがとてもきれいかつ、ハードボイルドでカッコいい。サングラスの女もコケティッシュだ。悪役であるボクサー役のチョン・ジェヨンはクールな魅力がたまらなく、悪い奴なのに惚れてしまいそうになる。女たちが男どもをやっつけるところは爽快である。というわけで、なかなか魅力的な作品だったのだが、欲を言えばあと30分くらい短ければ、と思った。韓国映画は、なぜか上映時間が2時間を超えるものが多い気がするのだが、なぜだろう?

上映終了後、リュ・スンワン監督、プロデューサー、タクシー運転手役のイ・ヘヨン、そしてアクション指導のお兄さんがティーチインに立った。ところで、困ったことに、これまでの韓国映画の上映ではティーチインの時には英語の通訳がついたのだが、今回、外国人が少ないと言うことで、通訳は席の後ろのほうで、自分の周りに韓国語を解さない人たちを集めて行うという。せっかく出演者たちのそばにいたいと思ったのに、これは残念。しかも、この方式は、韓国語で質疑応答を行っているのと同時に行われるので、どちらにも集中できず、せっかく訳してもらっても頭の中に入っていきづらかった。後ろで訳してくれるお兄さんの声も小さいし。この作品、けっこう注目されているのか、何人か知っている日本人の業界の方も来ていたのに、この面倒くさい方式がたたってみんな帰ってしまった。そして、なんと!ティーチインは1時間も続いたのである。たいしたサービス精神というか。監督は、「オアシス」「復讐者に憐れみを」にも出演していると言う異色の人。そして、イ・ヘヨンはやっぱりカッコいいお姐さんだった。

次の上映に間に合わなくなりそうだったので、ティーチインを途中で抜け出し、最後の作品「Blue Moon」へと向かう。予備知識はほとんどなかったけど、IMDBで調べたらかなり評判が良かったのと、ロカルノ映画祭で上映されたということでこの作品を選んだ。そして、これは正解だった!多分日本ではほとんどなじみのない、オーストリアの作品で、多分二度と見る機会もないだろうけど。運び屋の男が、偶然ロシア人の謎めいた美女を拾うことになる。一旦は彼女と別れた彼だったが、やはり彼女のことが忘れられず、スロバキアを通りベルリンを通過し、キエフに流れ着く。そこで彼女と瓜二つの女タクシー運転手と知り合うのだが…。東ヨーロッパを渡り歩くロードムービーで、夢の女を追いかける男の心情がコミカルに、そして切なく描かれているし、途中で知り合う怪しげな男もおかしい。そして、ヒロインがアシュレイ・ジャドに似た大変妖艶な美女だというのもポイントが高いし、彼女の秘めている秘密がまた、とてもロマンティックだ。この作品に出会えてよかったと思うけど、でも今後再び出会える機会はないだろうな。
 休日の渋谷駅・ハチ公前広場くらいの大混雑!