「貴様らも死ぬんだ」死に直面した日本兵の台詞が、この映画の世界観を象徴
している。
決してわかりやすい映画ではない。筋の通った一つのストーリーがあるわけで
はない。これと決まった主人公がいるわけでもない。視点は揺らいでいるし、
ヘルメットをかぶった兵士達の顔も見分けづらく、混乱してしまう。スターが
多数出ているとはいっても、メーンキャストは無名に近いので、余計見分けづ
らくなってしまう。これほど評論しづらい映画もないかもしれないし、ストー
リー性を求める向きには訳の分からない映画に映るだろう。
しかし、打ちのめされるような映画である。
息を呑むほどの美しい映像と詩的な独白の数々。
ガタルカナル島の死闘については、昔、歴史の授業で習ったが、日本軍が玉
砕したことしか覚えておらず、あのような美しい島だとは夢にも思わなかった。
戦闘は激しいが、行軍する兵士の横を原住民がすれ違い、血が流れ断末魔の
うめき声がする横で、鳥の雛が孵る。光と風で波打つ緑の草原の中、地を這うよ
うに兵士が前進する。弾が当たり倒れても、離れてみると何も変わった様子も
ない。そして、原住民達は変わらぬ暮らしを続けているように見える。こんな
美しい世界で、一体どうして人間の心に邪悪なものが生まれたのだろうか?ウ
ィット二等兵(ジム・カヴィーゼル)は問い掛ける。
原住民と交流し、美しいエメラルドグリーンの海の中で子供たちと戯れ、一度
は戦線を離脱するウィット。「死」とは何かを絶えず自問し、自然の中での人
間の存在について思索を巡らしている。ベル二等兵(ベン・チャップリン)は
いつも美しい妻との思い出をフラッシュバックで脳裏に焼き付け、戦争によっ
て自分は変わりたくないと願っている。かと思ったら、トール中佐(ニック・
ノルティ)は兵士たちの命より、いかに武勲を挙げて出世しようかと考えを巡
らす。ほかの兵士達もみな一人一人が心の中の声で、それぞれの思いを語る。
誰がどの台詞を話したのが、この際どうでも良くなってくる。戦場にあって思
うのは、国のことでもなく戦いのことでもない。この世の中にある自分という
小さな存在だ。
そして、目の前に突きつけられた「死」。絶対的なものは、この自然と、そし
て必ず訪れる「死」だけである。
ショーン・ペン演じるウェルシュ曹長は言う「どんなに優れた兵士でも、生き
残れるかどうかは運が決めることだ」と。「死」は、個人の戦闘能力とか才能
とは無関係にやってくるものだ。どんなに正義とは何かを語っても、「死」の
前では空しく響くだけである。戦闘の中では、人間の理性というものも狂気に
駆り立てられ、降参する日本兵を何も考えず虐殺してしまうほど脆いものであ
る。戦場では、人間の精神も正気と狂気の境界線にある。狂ってしまったマク
ローン軍曹の台詞「兵士なんて土くれ、雑草」に過ぎないのだから。「われわ
れは、同じ一人の人間が異なった顔をしているだけ」で、大自然の中ではごみ
のような存在、やがては土に還るだけだ。
そんなちっぽけな存在だけど、一人一人に魂というものがあり、心がある。闘
うことの意味を探している。だから、主人公というものはこの映画には存在し
ない。
兵士たちが死に直面したとき、つまり「生」と「死」を隔てる細い赤い境界線
を越えるとき見る光景がその人の目線で描かれているが、それは青い空と眩し
い光、大空を舞う鳥たちだ。そうやって、人は自然に還っていくのだ。
ここで、自然を破壊し、人の命を奪う「戦争」への憎しみが、すべてを超えて
浮かび上がってくるのである。
こういう作品を観ると、生きることの意味を考えるよう、突きつけられたような
気がする。
監督:ピーター・チャン
出演:アニタ・ユン、レスリー・チャン、カリーナ・ラウ、陳小春、エリック・ツァン
香港産恋愛映画の名手ピーター・チャンの作品。人気歌手ローズの大ファンの少女
ウィンは、彼女の恋人であるプロデューサー、サムが男性歌手をオーディションで
募集していると聞いて男装して応募、見事合格する。しかし、やがてウィンはサムに
恋し、サムも男であるはずのウィンのことが好きになって、自分はホモではないかと
悩むようになる。
アニタ・ユンがめちゃめちゃかわいい。もともとぺったんこの胸にサラシ?を巻き、股間
には蛍光ペンライトまではさんでいる。サムに恋して、セサミストリートのぬいぐるみに相
談するところもかわいらしさが良く出ている。背が高くてほっそりしているので、男装が
本当によく似合う。ハスキーな声で一生懸命男の子っぽいしゃべり方をするのもいじらし
い。
しかし、恋のライバルローズ役のカリーナ・ラウの演技のうまさがとても光る作品でもある。
やきもち焼きで、かまってもらわないとすねて、だけど男の子だと思いこんだウィンには
色仕掛けで迫り、応じてもらえないと自分の魅力に自信を失ったりする。自分にとても正
直で、憎めないしリアルなキャラクターだ。逆に、なぜウィンをサムが愛するようになった
のかはちょっとわかりにくい。
ピーター・チャンは場面づくりの名人だ。ウィンが口ずさんだ曲をサムがアレンジして歌に
するシーン、エレベーターが停電して、真っ暗な中ウィンがペンライトで照らすシーン、セ
サミストリートのぬいぐるみが、躊躇する二人の代わりにキスをするシーン・・。とても印
象に残るし、とってもしゃれている。このうまさがさらに昇華したのが、彼の次の作品
「ラブソング」だ。
ホモの中年男エリック・ツァン、悩むウィンを支える友人陳小春の二人の脇役ぶりもいい。
爽やかなラブコメディにとぼけた味付けをしている。
残念ながら、この映画の前作は見逃している。なんとなく、ほのぼのとした感じの作品な
のかな、と思っていたのだが、意外とダークなその世界観にびっくりした。ベイブが凱旋の
ため村に戻るときも、最初「HAM」なんて出ていたりして。そして、農場を助けるために
エズメおばさんと出かけていった都会のダークなことよ。ハリウッドの看板はあるのに
自由の女神はいるし、日本語の看板もあるしかなりキッチュだ。おばさんとベイブが泊ま
るホテルの美術もゴシック調で、これはまるでダークシティか、と思ったくらい。都会は、
彼らのふるさととは違って、裏切りに満ちていて恐ろしくてカオスに満ちたところとして
描かれているのだ。動物のキャラクター設定もどこかクセがあって面白い。チンパンジー
一家は衣装がとても似合うし、彼らが芸人として行うパフォーマンスも毒があってユニー
ク。動物が本当に喋っているように思える特撮の技術も見事だ。ベイブのキャラクターは、
かなりドジで間が悪いのだが、声のかわいらしさもあってなかなかいい。
というわけで、想像していたのとはうって変わった作品だが、子供向けにはもったいない
というほどの独特の面白さを秘めた作品だ。ただ、動物のキャラクター設定が面白いわり
には、人間の描き方がちょっと物足りない。それがとても惜しい気がする。クライマックス
のエズメおばさんの空中遊泳も最初は面白いのだがちょっと長い。
「勝手にしやがれ」に続くゴダール 2作目の映画。シネセゾン渋谷はレイトシ
ョーだというのに若い人たちでほぼ満員、ゴダールって今も人気あるんだな、
と思った。Tシャツやポスターなどのグッズが飛ぶように売れている。やっぱり
「オシャレ」なんだろうか。たしかに、チラシやポスターなどのヴィジュアル
イメージはとても洗練されている。しかし、この映画のテーマは政治だ。しか
も、フランスとアルジェリアとの紛争が背景となっているので、その辺の予備
知識がないと少々つらいかもしれない。
主人公は情報部員の下っ端で、ジュネーブに住んでいる。アンナ・カリーナ演
じる美しい娘と恋におち、現実のテロとは縁遠い世界に住んでいたはずだったが
二重スパイの嫌疑をかけられ、要人の暗殺を命じられる。しかし、人を殺すこと
へのためらいから、暗殺に失敗してしまい、転げ落ちるようにどんどんひどい目
に遭うことになってしまう。
画面は淡々としていて、大きな動きもさほどないため、前半はかなり眠い(という
か、ちょっと寝てしまった)。後半捕らえられた主人公が拷問に遭うところから、
緊張感が増してくる。拷問の方法がかなり変わっている。ハリウッドの映画など
だと、あからさまな暴力があり、血が流れ殴られたり叫び声が上がったりするの
だが、この映画での拷問は静かだ。顔にシャツを巻かれて濡らすことにより息が
できなくされたり、手錠をかけられた手を火であぶったり、じわじわ力を奪うもの
だ。中でもちょっと笑ってしまったのが手回し式の発電機を使って感電させるとい
うもの。ちょっと牧歌的でおかしいのだが、かえって恐ろしくも感じる。
そして、明らかにされていく陰謀と裏切りの不条理さ。ゴダール得意のレーニン
や毛沢東の本からの一節も登場し、かなり難解な印象を与えるが、政治の矛盾、
個人のあり方と政治の関わりを彼らしく表現している映画ではある。
アンナ・カリーナのデビュー作でもある。彼女が登場するだけで。モノクロの画
面が華やかになるのはさすがだ。美しくて、小賢しくて、 5秒見ただけで恋に落
ちてしまうような魅惑的な女性だという設定もはまっている。
予告編ではアナベラ・シオラ演じるニーナと、彼女をとりまく二人の男性(ジョン・ボン
ジョヴィのケビンとジョッシュ・チャールズのアダム)との三角関係の物語だという風に
宣伝しているので、そういう話だと思っていたらちょっと違っていた。この3人が軸に
なっていることは間違いない。が、ほかに、アダムの元恋人でレズビアンに目覚め
たケイト(ジョアンナ・ゴーイング:ちょっとウィノナ・ライダーに似ていてかわいい)と
バーテンダーであるケビンの同僚レベッカ(ペネロープ・アン・ミラー)も重要な役割で
登場する。
舞台は美しい街、サンフランシスコ。大都会のはずなのだけど、この映画のタイトルに
あるように、偶然知り合いの知り合いに出会ったりする、狭い社会だったりするのだ。
レズビアンの教師アンナにナンパされてベッドの中にいたレベッカが、ケイトと鉢合わ
せしたり、いろんなところで人間関係が繋がっているのが面白い。
この物語は、ちょっと苦い。ニーナは30歳になり、本命の恋人、誠実そうなアダムと、
アダムの親友で、ちょっと危険な香りのするケビンの間で揺れている。この映画だと
「ココロから始まる愛、カラダから始まる愛」のどちらがいいの、というコピーでそれを
表現している。しかし、観ているうちに、ケビンのほうがよほど誠実な男だったりするの
がおかしい。アダムは誠実そうに見えて、元恋人のケイトは忘れられないし、タクシー
で乗り合わせたレベッカも愛するようになっていたりして、この男はどうなってんの!と
思ってしまったりする。対して、アルコール中毒の治療センターに通っているケビンは、
今度こそは本当の愛を見つけた、と嫌がられながらもニーナに愛を告白し続ける。
そして、同じ日に二人と愛し合ったニーナは、どちらが父親かわからない子供を身ごも
る。彼女の選択はいかに?
登場人物が多く、それぞれの恋愛を描いているため、個々の心理描写がやや弱くな
ってしまっているのが弱点。ニーナが自分のおかれた状況や気持ちを教会の告解室
で告白したり、タクシーの運転手であるアダムが、レベッカを思う気持ちをタクシー無
線で語ったり、工夫はしているし、それはそれで面白い。が、最終的に一方を選んだ
ニーナが、なぜその選択をするに至ったのか、ちょっとその辺のところが見えにくいの
が残念。(まあ、観ている側は相手の男性がどんな人かがわかるから、当然と言えば
当然の選択をしているのだけど、彼女にそれがどこまで理解できているのかが描か
れていない) しかし、収まるべきところにみんな丸く収まったな、という感じで気持ち
よい終わり方にはなっている。
登場人物はみんな30歳前後の男女。というわけで自分の年代に近いし、似たような
悩みも抱えている。会話もかなりリアルで、こんなヤツっているよね、という親近感を
抱かせる。特に、ニーナが告解室で語る、「ついに30歳になって、自分にあるものと
いえばコスチューム・アクセサリーの山と○○○のかゆみ」というせりふには笑って
しまうけど、我が身を振り返るとちょっと洒落になっていない。
アナベラ・シオラのドルチェ&ガッバーナの衣装が素敵。
オーストラリアの寂しい、時代に取り残された田舎町。農場で父親とひっそりと暮らす
中年女へスターのもとに、若い女キャサリンがやってきて、家事を手伝うようになる。
いかにも今風の女の子のキャサリンになぜか惹かれるへスター。やがて父親が死に、
遺産が転がり込む。へスターは遺産でキャサリンにプレゼントを贈り、初めて贅沢な暮
らしをする。さらに、へスターの少女時代唯一の輝かしい記憶、ヨーロッパ旅行の夢を
もう一度見るため、農場を売って大金を手に入れる。しかし、酔っぱらったキャサリンが
車で人を轢き、へスターはその死体を家の前の古井戸に捨てる。家に戻ったら、農場
を売ったお金はすべて消えていた。轢き殺された男が盗んでいったのだろうか・・・。
全編青白く漂白された、美しい映像の中でおとぎ話のように繰り広げられる物語。青
い色は何の象徴だろうか?おそらく一度も男を知ったこともなく、まもなく朽ちようとし
ているへスター、施設から出てきたばかりの、奔放だけど世間を知らない娘キャサリン
二人の青い性を表しているのだろうか。荒涼とした自然の中の青、この青い映像は、
絶望が支配する残酷な結末によく似合っている。
金髪で眉毛まで黄色く、真っ白な肌のキャサリン。青い服が似合い、激しいガールズ
・ロックに踊り狂う様がかわいらしい。時折見せる表情がゾッとするほど美しい。そんな
無邪気そうな彼女が車で人を轢いてしまったときのおびえ。そして一晩明け、「井戸の
中の男は生きていて、わたしはあの男を愛している」と言い始める。そして、へスターが
いつも首にかけている車のカギを要求し、車の中にあるロープで彼を助けたいと懇願
し、二人の関係は崩れ始める。
井戸の中の男が生きていると言い始めたのは、井戸の中に、彼女を目覚めさせる何
かがあると感じたからであろうか?しかし、その男に激しく嫉妬するへスター。この土
地はへスターを縛り付けるものだった。カギを渡してしまったら、キャサリンは出て行っ
てしまい、ヘスターは永遠にこの土地から逃れられないかもしれない。足が悪く、おそ
らく学校に行ったこともなく友達もいないような彼女。しかし、キャサリンを見つめる目は
激しい情熱の炎が美しく燃えさかっている。愚かしいまでに、苛々するほどに、愛して
いるのだ。こんなとき、駆け引きの主導権を握るのは、もちろんキャサリン。
井戸の中を覗き込み、死体を深く沈めて井戸に蓋をしたへスターは、自分の、そして
キャサリンの何かを封じ込めたのだろう。夢の中で自分の長い髪の毛に縛られる場面
はホラーのごとく恐ろしい。そして、迎える結末。
井戸は、二人のセクシュアリティの隠喩なのだろう。その割には、意外と出番が少な
かったような気がするのが残念。終わり方も救いがない。後味の悪い、恐ろしく残酷
なおとぎ話だ。しかし、映像のセンスは素晴らしい作品である。