東京国際映画祭&東京ファンタスティック映画祭

前夜祭・アジア映画深夜秘宝館

いよいよ、待望の東京国際映画祭&東京ファンタスティック映画祭が始まった。
なんといっても、お祭りのような雰囲気が楽しいのが、映画祭だ。特にオールナイト
ともなれば、独特の連帯感も生まれて、観客のノリがいいのが最高。
今回は、オープニングはダンス☆マンの歌で始まった。「That's The Way」とか
「Just The Two Of Us」「I Believe in Miracles」といったソウル、ダンスヒットの
名曲を馬鹿馬鹿しいけど、ゴロが妙に合う替え歌にして歌ってしまっている。
かのモーニング娘の振り付けなども担当しているとあって、楽しい演奏だったが、
ファンタのオタク度の高い客層とはちょっとミスマッチがあったようで、この時点で
は客のノリは今一歩で気の毒だった。しかし、ダンスミュージックでオープニングを
飾ったのには訳があった。それは、オープニングの映画のテーマだったからである。

フォーエバー・フィーバー Forever Fever

監督:グレン・ゴーイ
出演:エイドリアン・パン、メダリン・タン、アナベル・フランシス、ピエール・プン

シンガポールのダンス映画であるということ以外ほとんど予備知識なしで臨んだ
映画だったが、この映画は最高に良かった。オールナイトの一発目からこんなに
楽しい作品に出会えて幸せだったと言える。

1977年、映画「サタデー・ナイト・フィーバー」が大ヒットし、ディスコのブームが
世界を席巻していた。シンガポールに住む青年ホックは、そのブームとは無縁の
存在で、ブルース・リーとバイクに憧れる平凡な男性。スーパーに勤め、口うるさ
い両親、優等生の弟、夢見がちの不細工な妹と変わり映えのない暮らしをしてい
た。そんな彼がある日、仲間たちと「サタデー・ナイト・フィーバー」を見に行った。
そして、彼の中の何かが変わった。彼はダンスに夢中になったのだ。ダンスコン
テストに出場し、優勝すれば賞金でバイクが買える・・・。

幼なじみの女の子メイとダンス教室に通い始めたホックは、めきめきダンスの腕
を上げる。その結果、ライバルのパートナーである美しいジュリーから「組んで欲
しい」と頼まれるくらいの上達ぶりだ。しかし、彼のことを好きなメイはちょっと傷つ
く。パートナーを奪われたライバル、リチャードも面白いわけがない。彼はハンサ
ムな上、金持ちでしかも嫌なやつだ(いかにもありがちなキャラクター!)。ホック
はリチャードの差し金で自転車を壊されるばかりか、勤務先のスーパーもクビに
なってしまう。さらに大きな試練が訪れる。優等生で、親の期待を一心に背負い、
医大に通う弟レスリーが、ある手術を受けたいと告白するのであった。その結果
レスリーは勘当され、しかもその手術には莫大な金がかかってしまうのだ。


物語だけを追うと、ありがちな物語に思える。だけど、この映画には、それだけで
は終わらない「何か」があるのだ。「サタデー・ナイト・フィーバー」とブルース・リー
は本当にこの時代、世界中を席巻したんだな、とまず実感する。ブルース・リーの
「ドラゴンへの道」のすべての振りと台詞を覚えているという主人公。そんな彼が
映画館で「サタデー・ナイト・フィーバー」を見に行ったとき、なんとジョン・トラボルタ
(もちろん、本物ではなく、全然似ていない偽物)が画面から出てきて彼に話しか
けてしまうという「カイロの紫のバラ」にあったような展開となる。ダンスの神様が、
この平凡な青年の中に入り込んだのだった。

ディスコとブルース・リーに夢中、というと、まるで「ブギー・ナイツ」のマーク・ウォ
ルバーグが演じた役のようだがこの映画のテーマも、「ブギー・ナイツ」にちょっと
似ている。「どんな人にも、誰にも負けない取り柄がある」というテーマだ。
そんな彼を支えるのが、映画の中から出てきたトラボルタ。幼なじみの少女メイ。
仲間たち。美しいジュリー。泣かせるのが、性転換したいといいだした弟との兄弟
愛。みんなとても一生懸命で輝いている。その輝きが最大限に発揮されたのが、
初めてホックがディスコに足を踏み入れたとき。ディスコなんて行ったことないし・・
と後込みをするホックを、トラボルタが励ます。美容院で髪をセットし、キラキラ光る
シャツ、ぴちぴちのパンツでキメ、ひとたびフロアで踊り始めたらもう場内は大喝采。
「サタデー・ナイト・フィーバー」でトラボルタが見せたあの天井を指さすポーズから
始まる10分間は、まさに至福の時間だ。ずっと踊っていて欲しいと願ったし、会場
ではダンスに合わせて手拍子が鳴り響いた。

70年代。今から見るととてつもなくダサい服装や振り付けも、あのときは最先端
だった。ダンスコンテストでは、もちろんトラボルタと同じ白いタキシード。甘酸っぱ
い青春のなつかしい匂いがする。シンガポールという、映画作りはさほどこなれて
いない国の作品だけに、ストレートで、楽しく、笑って泣ける作品だ。ホック役のエ
イドリアン・パンの踊りやカンフーは非常にキレがよいし、ジュリーのゴージャスな
美しさも素晴らしい。映画の構成もメリハリが効いていて、まったく退屈することは
ない。ものすごくよくできた作品ではないけど、インド映画を初めて見たときのよう
な新鮮さを感じる。いい映画だ。目新しい物語ではないのに、愛情を込めて丁寧に
作ればこんなに素晴らしいものになる、という見本のような作品だ。
ミラマックス配給で全米公開が決定したというのも納得できる。この楽しさは、あ
の時代の「サタデー・ナイト・フィーバー」やブルース・リーのように、全世界的に通
用するものだからだ。

石井輝男の地獄

監督:石井輝男
出演:前田通子、佐藤美樹、斉藤のぞみ、薩摩剣八郎、丹波哲郎

迷える16歳の少女ミカは、偶然知り合った老婦人から、「地獄を見てきなさい」と
地獄へと導かれる。三途の川を渡り、生きたまま地獄へと行くミカ。彼女がそ
こで見たものは、娑婆で大罪を犯した犯罪者たちが、閻魔大王の裁きでまさに
地獄の責め苦を受けている姿だった。新興宗教団体「宇宙真理教」の信者だっ
た彼女は、そこの教祖や幹部たちの犯した犯罪も目の当たりにする。そして、
それらの悪行にふさわしい、終わりのない罰が彼らに下されるのであった。

この映画がスゴイのは、なんといっても、実際に起きた凶悪犯罪を再現し、ま
だ最終的な判決が下りていない犯人たちを、地獄で裁いてしまうというところ
だ。現代の日本の裁判制度では、事件が起きても実際に判決が下されるまでに
ものすごく時間が経過してしまう。しかも、犯人たちは心神喪失を装ったりし
て、なんとか罪を逃れようとしているし、実際それで無罪となる者もある。犯
罪者の人権が守られて、被害者の人権は無視されるという由々しき事態がそこ
ら中で起きている。ということで、石井輝男監督が、ほとんど私憤にかられて
この映画を作ってしまったのではないかと思ってしまう。

なにしろ、世紀末日本を揺るがした凶悪事件を、その犯罪者にそっくりな俳優
を使って詳しく再現してしまうのには驚く。幼女連続誘拐殺人事件の犯人が、
いたいけな少女たちをいかに誘いだして殺したか。彼の部屋にうずたかく積ま
れたビデオテープの山。吐き気がするほど不気味な彼の存在感が再現されてい
る。

さらにディテールが徹底的に凝っているのが、オウム事件の完璧といって
もいいほどの再現。弁護士一家殺害事件。マスコミの追及をかわしていく様子。
そして松本サリン事件、地下鉄サリン事件、公証役場拉致殺人事件、そして逃
げ出そうとする信者をポアするところ。教祖役の俳優は麻原にそっくりだ。上
祐や村井にそっくりな俳優もいる。麻原が美しい女性信者を、ゴキブリだらけ
のサティアンで犯す。バックには「修行するぞ」の合唱。こちらも吐き気がす
るほどおぞましい様子で、この映画に描かれている地獄よりも、こちらの方が
ずっとグロテスクだと思ってしまう。よく考えてみれば、これまで彼らの犯罪
をきちんと総括したメディアは無かったような気がする。本来彼らを批判すべ
きであったマスメディアがきちんと機能していない今、本当にオウムの本質を
描くことができたのはこの作品しかないのではないか。

これらの犯罪者たちは、閻魔大王によって裁きを下され、鬼たちによって処罰
される。幼女殺しの犯人は、いたいけな少女たちをバラバラにした報いで、鬼
たちによって鋸で全身バラバラにされながらも、死ぬことができない。再び手
足をくっつけられては、またバラバラにされる。オウムの犯罪者たちは炎熱地
獄に堕ち、全身を焼かれる。オウムを弁護した弁護士たちは舌を抜かれる。教
祖は皮を剥がれる。和歌山カレー事件の犯人は、屎尿地獄に落ちる。

この地獄絵図が、あまりにもチープでキッチュなので笑ってしまう。バラバラ
にされた手足はどうみても作り物っぽい。切り落とされた胴体から吹き出す血
も不自然だし、血糊もとても本物の血には見えない。地獄に堕ちた亡者たちは、
暗黒舞踊団「アスベスト館」によって演じられている。独特の色彩感覚が、さ
らにそのわけのわからない奇妙さを増幅させている。地獄であるから、とんで
もなくおぞましく怖いはずなのに、なんだか滑稽なのだ。さらに、キメ打ちな
のが、ラスト近くに登場する丹波哲郎の剣士。長髪をなびかせて、鬼たちを斬
っていく姿は格好良いのだけど、でもやっぱり笑ってしまうのだ。

特筆すべきなのは、なんと42年ぶりの映画出演となる、閻魔大王役の前田通
子。日本で初めて映画の中でヌードとなった女優である。恐ろしいのだが、凛
としていて上品で、大王にふさわしい風格をそなえ、美しい。彼女の存在感に
より、このキッチュな映画に品格が備わった。

それにしても、石井輝男監督はとんでもない映画を作ってしまったものだ。下
手したらそれこそオウムに命を狙われるかもしれないのに。しかし、上野のポ
ルノ専門館での上映というのはもったいない。こういう映画は、警察とか、裁
判官とか、マスメディアの人に観て欲しいものだ。裁かれるべき犯罪がきちん
と裁かれない世の中は、変わらなくてはならないのだから。

映画の前に繰り広げるトークやショーが楽しいファンタスティック映画祭。「地獄」での暗黒舞踏
の次もまた「踊り」なのだが、今回はまったく違ったものだ。次の作品「ボンベイtoナゴヤ」の出
演者であるアニル・パクシーが、テーマ曲にのって踊りながら登場。そして、監督、さらには日
本人の出演者2人も登場し、映画の中の場面を再現していた。なんでも、このアニル・パクシー
は本作品で名古屋を訪れて気に入ったのか、今は名古屋でインド料理店を経営しているという。
もちろん、日本語は堪能だ。監督も日本が気に入ったらしく、次回作は「Love in Tokyo」というタ
イトルになるとのこと。

ボンベイtoナゴヤ Bombay to Nagoya

監督:チャンチャル・クマール
出演:アニル・パクシー、プリヤンカ、原智彦

この映画が上映されたのは、なんと夜中の4時から。それまでは一応寝ないでがんば
っていたのだが、さすがに4時ともなるとつらい。というわけで、実は半分以上寝てしま
った。そのため、まともな感想が書けないことを容赦下さい。

警察官のヴィジャイは正義感の強い青年。しかしその正義感の強さが仇となり、旅回
りのダンサーを助けたところギャングの恨みを買ってしまい、身代わりに両親が命を落
としてしまった。ヴィジャイは両親の仇を討つため、ギャングの黒幕佐藤が住む名古屋
へと飛ぶが、そこで、彼がかつて助けたダンサーのソーナーがいた。とまるで、インド版
「ブラック・レイン」ばりのストーリーだ。悪役の名前も、同じ「佐藤」だし。

前半の30分を観たところで睡魔に襲われてしまい、ストーリーはこんなあたりまでしか
わからない。しかし、この映画は何しろ強烈なインパクトがある。次に目覚めたときは、
なんとヴィジャイとソーナーのインド人カップルがナゴヤの街中で踊っているのだから。
彼らはデパートの屋上、歩道橋の上、地下街、電車の中、植え込み、そして多くの車
が行き交う道のど真ん中で踊りまくる。この映像は、衝撃的だ。そして、彼らは新幹線
よりも速く走るのである!どうやら無許可撮影だったらしく、インド人が突然街の真ん中
で踊り出すのを見て、驚きを隠せない日本人の通行人たちの表情が何とも言えずおか
しい。

映画のデキはどうやらトホホな作品らしいけど、ちゃんと起きているときにもう一度観た
い。あのインパクトだけは、忘れられない。

ファンタスティック映画祭の特徴といえば、映画の前の思い入れたっぷりの舞台挨拶である。
何しろマニアックな映画が多いということで、これらの作品の配給を行っている人たちの思い入
れたるや半端ではない。ということで、次の作品については、なんと一個人の方が、バンコクで
観た映画に惚れ込んで配給権を買ってしまったとのことで、その方の熱い熱い語りを聞くことが
できた。


エクストラ・リーガル〜バンコク大捜査線 The Extra Legal

監督:チャルーム・ウォンピム
出演:ドーム・ヘータクン、スパコーン・キッスワン、ピーター・ルイス・マイオックス

この映画の上映開始時刻はなんと午前6時!というわけで、眠さも頂点に達していた。
そのため、映画のほとんどの部分は夢の中。しかしながら、ラストの30分だけはしっか
り観ることができた。タイ映画というのは初めてだったのだが、まず、俳優がみな美形揃
いである。東洋人なのだけど彫りが深く、香港明星にも負けないくらいかっこいい。それ
と、アクションシーンのレベルがむちゃくちゃ高いのだ。香港映画の影響が濃いと思わ
れるが、カット割、組立、アイディア、みんなとてもうまい。銃撃戦は香港ノワールのよう
だ。これだけ技術的なレベルも高く、俳優もいいので、今後タイ映画には大いに期待し
なくては、と思わせるものがあった。

物語は、警察内部を舞台にした犯罪もので、ちょっと「LAコンフィデンシャル」みたいな
感じのストーリー。列車のハイジャックあり、特殊部隊員の裏切りがあったり、なかなか
エンターテイメント性は高い。機会があったら、ぜひもう一度観たいところだ。まだ日本
公開は決定していないが・・・。