■2002/10/25 (金) 東京国際映画祭雑感


さて、今年も東京国際映画祭の季節が始まった。毎年、「今年はいまいちだ」とか文句を言いながらも、ナンだかんだいって修行僧のように映画を観まくる9日間である。


まずは東京ファンタのオープニングで「火山高」。まるっきり少年ジャンプの漫画のようなノリで中身は全然ないけど、それなりに盛り上がってファンタのオープニング向きの作品。戦いのシーンが多すぎるのはややダレるけど、キャラクターの説明をいちいち字幕で入れたりなどの工夫は楽しい。舞台挨拶も主演3人と監督、さらには日本側の音楽監督DAITAと豪華なもの。主人公のチャン・ヒョクは映画の中とは別人といった印象。ヒロインのシン・ミナは超可愛いし、「反則王」でもおなじみのキム・スロは実物は相当カッコいい。

次にオールナイトのアジアンまつり。映画の上映の前の宣伝があまりにも多すぎる!これではしらけちゃうわね。で、一本目の「ダブル・ビジョン」はかなり猟奇的なシーンが出てきて、ひえ〜と思っているうちにデヴィッド・モーズが出てきて眠くなってきてしまい、寝てしまって起きたらもう終わりだった。そして2本目の「ビッグ・ショット・フューネラル」はドナルド・サザーランドが大監督、グォ・ヨウ(「活きる」のとーちゃん)が撮影監督、そして「ワンチャイ」のロザムンド・クワンとなかなか豪華な出演陣。「ラストエンペラー」のリメイクを撮っていた映画監督が病気になって、自分の葬式を派手に演出してくれというお話なのだけど、途中までドナルドとグォ・ヨウのやり取りなどかなり面白かったのに、ほのぼの系の話だったからか、やはり半分を過ぎたところで眠くなってしまい、また気がついたら終わったところだった。

やはり年のせいもあるし、仕事もここんところ忙しかったのでオールナイトは本当に辛い。もうこういう無謀なことはできませぬ。一日だけでもこんなに辛いんだから、やっぱり「オール・オールナイト」という企画にはかなり無理があったのでは?


しかし3本目の韓国ホラー「The Phone」は非常に出来のいい作品で、思わず目が覚めた。監督さんが舞台挨拶に立ったのだけど、これが俳優と見まがうばかりのグッドルッキングな青年だった。携帯電話のメッセージを受けた人が次々と死んでいくという話で、その部分だけ取ると「リング」系のホラーなのだけど、恐怖の演出手腕は相当なもの。本当に怖い。この番号の電話を持った人はみんな死んでいる、という携帯を持ってしまったヒロインの電話を偶然受けてしまった少女に、女子高生の霊が取り付いてしまうのだけど、この子役の演技の上手さが半端じゃない。監督の話では、唯一演技指導をしなかった役者だということだが、「エクソシスト」のリンダ・ブレア並みの凄まじい演技力だ。この映画、ヒロインも、この少女の母親役も、すべてを引き起こした女子高生やその親友もみんなとても美人なのだけど、唯一この少女(小学生?)が全然可愛くなくて、憎たらしいような意地悪そうな顔立ちというのもかえって印象的。日本公開も決まっているらしいので、ホラー好きの方はぜひ。

この3本目が終わったところで、朝の6時。翌日も昼から映画があるので、本当は4本目もあるのだけど帰宅。つくづく体力のなくなってしまった自分を実感。

■2002/10/26 (土)


2日目は東京国際映画祭の初日。前日からホラー続きって感じだけど、韓国・タイ・香港のオムニバスホラー「THREE」。韓国の作品は「反則王」「クワイエットファミリー」の監督による「メモリーズ」。恐怖演出に時折光る部分もあるし、郊外のニュータウンの中の寂寥感もよく描けているんだけど、音で驚かせたりのこけおどしっぽい演出がちょっと…という感じだった。ヒロインのキム・へスは「新羅の月夜」では明るくてキュートなキャラクターだったのに、ここでは謎めいた美しさを発揮。タイのは「ナンナーク」の監督による作品「ホイール」。極彩色の伝統的な操り人形が呪いを運ぶという話で、色彩はとても美しかったのだけど、オールナイト明けの辛さも手伝ってちょっと眠かった。

3作品目、「ラブソング」のピーター・チャン監督作品「ゴーイング・ホーム」は忘れがたい印象を残す、素晴らしい作品だった。エリック・ツァン演じる子連れの刑事が引越し先の団地で出会った男レオン・ライ。彼は、死んだ妻に様々な薬を調合することで生きたままの姿を保たせ、なんと3年間も妻の復活を信じて彼女の死体と暮らしていたという話。青緑色に沈んだ、抑えた色調のルック。どうしようもない愚かな愛、そして哀しさと美しさを漂わせ、愛と死の絶妙のハーモニーを奏でているラブロマンス。黒ブチメガネをかけて、一瞬彼とはわからないレオン・ライのイノセントな演技も鳥肌モノ。
ティーチインでピーター・チャンは「日本の監督とも仕事をしたかったのだけど、日本の映画会社は大きいところが多くて、調整に手間取ったので今回は日本の作品は実現しなかった」と言っていた。そして「THREE」という作品には、3カ国の映画のオムニバス作品ということで、なじみのない国の作品でも、自国の作品があれば観てもらえるだろう、という意図がある。ハリウッドにアジアの小国が対抗しても勝ち目はない、だったら国境を越えて手を結ぼうということだそう。しかし、日本の会社の組織の大きさゆえ意思決定が遅くなったり、調整に手間取ったりしてこういう国際的な企画に参加できないというのは、とってもゆゆしき問題なのでは?

次は、特集上映「ショウ・ブラザーズ特集」。時間の都合で「大酔侠」しか観られないのはちょっと残念。この「大酔侠」、面白すぎる!「グリーン・デスティニー」でジェイド・フォックスを演じた、若き日のヒロインのチャン・ペイペイが食堂で悪党共に出会って戦うところは、思いっきり「グリーン〜」に引用されていたのを知る。彼女と仲間になる酔猫なる達人の飄々としたキャラクターもとってもおいしいし、対決シーンで手から「気」が出るのだけどそれを出しているホースが丸見えなのが笑える。強いんだか弱いんだかよくわからない兄弟子とか、一番悪党のくせに結局逃げてしまったように見える白塗り男、最後に登場する美女闘士軍団など、ツッコミどころ満載なのだ。が、やはり若き日のチャン・ペイペイは魅力的だし、アクションシーンも魅せる。娯楽映画として本当によく出来ていて、大満足。今回の上映にはチャン・ペイペイが出てこなかったのがちょっと残念。(もう一回のほうの上映には登場したらしい)


■2002/10/27 (日)



さて、映画祭3日目。一本目は「恋人」。「山の郵便配達」「藍宇/ランユー」のリウ・イエ、そして「至福のとき」のドン・ジエという中国映画界で注目の若手俳優出演の作品だ。中国の山間の村での、目の不自由な父親と暮らす耳の不自由な青年と、その家に住み着いた口の利けない少女、そして青年が片思いする少女の物語。美しい風景を舞台に繰り広げられる寓話のようなファンタジックな作品は、俳優達の魅力もあり、繊細な描写もありとイイ感じで進んでいった。リュウ・イエの純朴な魅力や、「目が見えない、耳が聞こえない、口が利けない」という3人の擬似家族が奏でる音楽の素晴らしさは光っていてとてもよかったのだけど、ラスト近くのシーンで腰が砕けてしまった…。せめてCG合成がもう少しうまくいっていれば。それでも、まあ楽しめた作品だとは思う。ところで、これ、プロデューサーがかの奥山和由氏だったのね。

友人達としばらくお茶を飲んだ後、「藍色大門」。これはとある映画祭のコンペ部門に出品されていたため、この映画祭のコンペ外となってしまったのだが、今回実に3作品もコンペ外となり、しかもすべてが非常に評判のよい作品だったということで一体映画祭の事務局は何をやっているんだろう、と憤りを感じる。一番かわいそうなのが、この映画を出品した後で、出品基準が変わったことを知った監督や製作者だ。
台湾の高校を舞台に、思春期の入り口に立つ女の子が、自分は一体誰なのか、誰が好きなのか、人を好きになるってことはどんなことなのか、思い悩む姿をみずみずしく描いた作品。少女が自分のアイデンティティについて思いを巡らすというテーマは青春映画の定番なのだけど、迷い、思い悩み、自分の気持ちに素直になろうとしたり、天邪鬼になってしまったりという微妙な部分が本当によく描けている。「自分では気がつかなかったけど、私にもこんなことがあったのかも…」と胸がきゅんとしてしまう。ヒロインは、自分は女の子が好きなのかも、とセクシュアリティについても思い悩む。「今」だけでなく、5年後、10年後の私は何をしているんだろう、その時誰を愛しているんだろう、と未来に向けた真っ直ぐな視点が好ましい。舞台挨拶に立ったヒロインと相手役の男の子のルックスも無茶苦茶良い!すれていなくて可愛い!彼が夜のプールで泳ぐシーンの青の美しさ、夜の学校の秘密めいた感じ、二人で自転車で走る疾走感も素敵。

■2002/10/30


さて、28日は仕事上「ノスタルジア」のメイキングを観る必要があり、また29日はコリアン・シネマ・ウィークの「海賊、ディスコ王になる」を観る予定があったのに、やっぱり6時開演というのに行けるはずもなく(韓国映画がこれだけブームで東京国際で上映された作品はみんな大入りだったのに、コリアン・シネマ・ウィークはガラガラだったという。そりゃこんなに開演時間が早ければ会社員の人はいけないから、空いているのも当然だ。来年からはせめて7時開演にして欲しい)、ようやく観に行けたのは水曜日。

この日は、韓国映画「結婚は狂気の沙汰」。いい加減結婚しなさいと周りに言われている30代の大学講師が、ある女性と付き合うようになるのだけど、その彼女は結婚するなら条件が大事だといい、医師と結婚して裕福な生活を送ることになる。ただし、セックスするなら大学講師のほうがいいというわけで、夫のいない間に彼の部屋で擬似結婚生活を送るという話だ。台詞のやり取りなどはテンポが良くてなかなか面白いんだけど、どうしてもこのヒロインに肩入れすることが出来ない。愛ではなくお金のために条件だけで選んだ相手と結婚し、セックスは別の人と割り切って楽しむということを堂々と言ってのけるような人ってやっぱりやだ。不倫相手に対する思いも、愛情というより単に振り回しているだけにしか見えない。時々別れては、やっぱり相手に対する未練がお互い出てきて、また逢ってしまうといった描写にはリアリティがあるが、これだけ堂々と不倫していて、よく夫にばれないものだ。
ヒロインを演じているオム・ジョムファは韓国で人気のある歌手だということだけど、整形がバレバレの目と妙に濃い化粧で清潔感がなく、トウが立った感じだ。スタイルはいいし、歌手として登場している公式サイトの写真を見ると魅力的なんだが、女優になるとそのオーラが消えてしまって垢抜けない。韓国の女優さんはきれいな人ばかりだと思っていたのに…。相手役のカム・ウソンは大学の講師らしい野暮ったさがあるけど、角度によってはなかなかハンサムに見えるしいい体をしている。うん、せめて女優が清潔感のある人だったらまだ楽しめたのかもしれないけど。

今回はティーチインはなし。韓国にはまだ姦通罪が存在していたと思っていたのに、不倫モノの映画は多いようだ。

■2002/10/31


10月31日は、コンペ作品「希望の大地」。初めて観る南アフリカの映画。イギリスで育った白人の青年が、生まれ故郷の南アに帰り、亡き母の所有していた農場を見に行こうとする。だが、その故郷の、母を知る人たちはみな白人至上主義者で、彼はその土地で起きた忌まわしい出来事を知ることになる。アフリカの強烈な日差しを思わせる色あせたダークな画面のルックが素晴らしい。「エピソード2」と同じカメラを使ったとのこと。白人至上主義者の一家の娘(この女優さん、男の子のような髪型で意思が強そうで独特の魅力がある)との恋愛ありの、基本的にはドラマなのだけど、ホラー映画を意識したような恐怖感を煽る演出、メリハリのある撮影方法と、力の入った演出で全くだれるところがない。マッチョな価値観しか認められないこの世界から逃げ出そうとする純真なホモセクシャルの青年など、キャラクターはかなりひねっている。故郷を失った青年の悲しさがもう少し出ているとさらに良かったと思うのだが、社会的な問題を扱いつつもエンターテインメント性も十分ある力作。

ティーチインでは、主演のニック・ボレインが登場。背が高く、金髪の好青年だ。そもそも、南アで映画が撮られる事は少なく、俳優はアメリカやイギリス、カナダなどの映画やTVシリーズが撮影される時に、それらの作品に参加して生活しているようだ。IMDBで調べたら、彼もハリウッド作品に何本か役名のある役で参加していた。南アでの映画の現状は厳しいのだが、良くできた作品なので(南アでも公開はまだこれかららしい)ヒットすると良いな、と思う。映画に登場する白人至上主義の人は殆どいないそうだけど、かなりリサーチは行ったそう。ティーチイン終了後、会場の外にいた彼のサインを求めて列ができ、会場のシネフロントが閉館になった後も、Qフロントの外の寒空でサイン会が続き、私もサインをもらって少し話をすることが出来た。映画に出てくるのと違って実際には南アフリカはいいところなので遊びにきてください、とのこと。私もかつてプーケットで南アの黒人の女性弁護士と知り合って文通していたので、その話をしたら喜んでいた。とても素敵な人だったのだけど、まだ配給が決まっていないこともあって、一人でコンペ作品の上映会場で佇んでいる姿が目撃されていた。 最終的に、この作品、脚本賞を受賞することが出来て、本当に良かった。日本での公開も決まるといいな。


11月1日


11月1日は渋谷パンテオンでは最後の東京ファンタスティック映画祭。そのクロージング作品はシークレット上映ということになっていたのだが、実際には何が上映されるかはバレバレだった。カンヌで賛否両論の嵐を引き起こした「Irreversible」。あのギャスパー・ノエ監督、モニカ・ベルッチとヴァンサン・カッセルの夫婦共演作品である。モニカ・ベルッチのレイプシーンが物議を醸したということは知っていたんだけど、それ以上にとんでもない作品だ。実はこの日は平日ということもあって、開演してから5分後くらいに到着する羽目になった。最初の何分かを見逃してしまったようなんだが、どうやら「カルネ」「カノン」でお馴染みの罵詈雑言オヤジが全裸というお姿で登場していたとのこと。そして私が会場に入ったところ、画面は一体何が写っているのかわからない。「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」の最後のほうのわけわからんブレブレ状態で、カメラはぐるぐる回っているし、ノイズのような音がガンガンしている。一体ナンなんだ。席は前のほうだったので、相当気分が悪くなる。どうやら誰かが誰かを暴行しているようだ。なぜだ!わからん。 やがて、ヴァンサン・カッセルが「アレックスをひどい目に遭わせたやつを探し出す」と叫んでいるのを確認。殴られてひどい顔になったモニカ・ベルッチらしき女性が担架で運ばれている。物語は、「ペパーミント・キャンディ」のように逆方向に進んでいるのがわかる。
そして、モニカ・ベルッチのレイプシーン。あんなに挑発的な服装で怪しげな地下街を通ればレイプされるのも無理はない。だけど、固定されたカメラでひたすら暴力的に犯されているシーンを観ると、ものすごく嫌な気分になる。いやらしいというのは全くなくて、ただただ不快。それがギャスパー・ノエの狙いで、観客全員に同じような嫌な気分にさせるのには成功している。

そして映画(邦題は「アレックス」というが、う〜んあんまりいい題とはいえないな)は、この二人がパーティに出かけて些細ないさかいから別々に帰る羽目になったこと(それが、この取り返しのつかない事態を招くわけだ)、さらにはその前の時間、幸せな二人のベッドシーンを描いていく。このプリントは映倫を通していないとのことで、無修正でヴァンサン・カッセルの性器やモニカ・ベルッチのヘアなども映っているのだが、実際に夫婦である二人のラブシーンはきわめて自然で美しい。ただ、かなり長いので途中で飽きてきてしまうかもしれないが…。
二人の平和で美しい日常を強調することで、すでに映画の中では描かれている、そのあとに起きた悲劇の悲しさを際立たせるというねらいが見える。

ただ、この手法って、まさに「ペパーミント・キャンディ」まんまじゃないかな、という気がするんだけど…。

衝撃度では確かに凄く強烈な作品ではあるけれども、ファンタに集まる人たちの嗜好とは明らかにずれている映画であるし、悲劇なので、映画が終わったあと、しーんとした雰囲気になっていたのが、少しやりきれない気持ちになった。シークレット上映もいいけれど、こういう、人によってはかなり不快感を催す映画を上映するのは考え物だろう。それに、パンテオンでの最後のファンタなので、もっとお祭気分で騒げる映画のほうが良かったんじゃないかと思わずにはいられなかった。

閉会式も、例年だったら大泣きをみせる小松沢プロデューサーがいないし、ゲストもかなりしょぼいし(外国からのゲストは皆無。A2の森達也監督というのは大物だけど、どうせだったらA2をファンタで上映して欲しかったような気が)、7耐といってオールナイト7本を制覇したファンを壇上にあげるのは悪い企画ではないのだけどみんないかにもオタクって感じでしかも7晩の徹夜で疲れていて面白いことを言ってくれるわけじゃないし。これが最後のファンタかよ、と思うと盛り上がりに欠けてかなり残念。う〜む不完全燃焼に終わってしまったのだった。一緒に参加した友人2人と軽く飲んで帰る

11月2日(土)


そろそろ疲れてくる映画祭8日目。今日は歯医者の予約をキャンセルして、急遽チケットを取った「シティ・オブ・ゴッド」前評判の高い作品である。朝10時40分と早い時間からの上映だし人気スターが出るわけでもないが、客の入りは良い。

観る前は、2時間20分ほどの長い作品だしどうしたものかとも思ったが、これが大変な傑作であった。リオ・デ・ジャネイロの郊外にあるスラム街“シティ・オブ・ゴッド”における、ちびっ子ギャングたちの20年以上にも渡る抗争を描いた、大河ロマンである。この映画の何が秀逸かというと、主人公であり語り手である少年プスカベ自体はギャングではなく、どちらかといえば弱虫で傍観者であり、半分憧れのまなざし、半分恐れを持ってワイルドなギャングの少年達の栄枯盛衰を見つめてきたという独特の視点だ。小さな子供達までが平気で人を殺す恐ろしい世界の中にもいきいきとした青春があり、恋があり友情がある。出演者はほぼみな素人で、実際のストリートそのままを切り取ったようなリアリティあふれる表現。やがてジャーナリストとなるプスカペが、カメラを持ってかつては親友だったギャングの親玉を盗み撮りするところの震えとおののきは、実に痛切に伝わってくる。この親玉が小さな子供の時からむっちゃ残酷で恐ろしい化け物のような少年だったのだが、それなのに、なぜか可愛いところもあって、憎みきれないのだ。いや〜凄い。

ティーチインでの監督は、こんな凄い映画を撮ったにしては実に温厚で好感度の高い人だった。今回、映画祭の不手際でアウト・オブ・コンペになった作品は全部傑作で(「わが故郷の歌」だけは来年公開されるということで見なかったのだが)、つくづく残念である。一緒にいた友人は、その怒りをティーチインの質問にぶつけていたが、それに対する監督の反応も実にオトナだった。

今日はこの映画一本だけで大満足であった。友人達とランチを食べて、ウィンドーショッピングをして歯医者に寄り、帰宅。


■2002/11/3(日)


そして映画祭も、ついに個人的には今日が最終日。今回は、特別招待作品はどうせ公開されるしまあいいや、という姿勢で臨んだ結果、例年に比べて本数も少なく、体はかなりらくちんであった。それでも、今日は3本観ることになっている。

一本目は台湾映画「引き金」。別の回の上映を見た友人から、あまり面白くないよといわれていたのだったが、実際その通りであった。なんでもエドワード・ヤンの撮影監督をやっている人が監督だそうだけど、長回しというのは、よほど演出力がなければ退屈になってしまうということを体現したような作品。主人公や相手役の女の子のルックスはかなりいいのが救いだけど、朝一番ということもあって少し眠かった。

さて、噂の韓国映画2連発。まずは「密愛」。「シュリ」の女スナイパーで有名なキム・ユンジンの主演作。異色なのは、この映画の監督は従軍慰安婦についてのドキュメンタリー「ナヌムの家」を監督した女性監督で、劇映画は初めてだということ。一見普通の不倫ものであるように見えて、実は違うのだ。

(ネタバレあり)

幸せな生活を送っていたヒロインは、クリスマスの日に夫の不倫相手に自宅に乗り込まれて怪我をし、そのトラウマが元で心を病む。家族で田舎に引っ越すが引きこもったまま。そんな彼女が出会ったのは、恋愛のゲームを楽しもうと持ちかけた青年医師だった。そしていつしか禁断の愛に溺れるのであったが…。しかし、この映画が描きたいのは、恋愛ではなく、性愛によって心の扉を開き心身が解放され、新しい人生に踏み出していく女性の自立なのであった。なぜならば、プレイボーイの若くてハンサムな医師と、人妻の関係の描写は相当通俗的なのである。キム・ユンジンは非常に演技が上手で、閉ざされた心が性愛によって解きほぐされ、どんどん魅力的な女性になっていく様子を繊細に演じている。おまけに彼女は美しい全裸姿(ただし後姿)や濃厚なベッドシーンにも果敢に挑んでいるのだが、相手の男はただのちょっとセクシーで陰があるだけのつまらない男だ。ヒロインの夫についてもほとんど描かれないし、息子はゲームに夢中でまったく存在感がない。物語はやがて悲劇的な結末を迎え、ヒロインはほぼすべてを失うがそれは彼女自身にとっては全く悲劇ではなく、悲惨な出来事すら、彼 女の人生にとっては必要だったことかのように描かれているのが、いかにもフェミニストの女性監督作品らしい。


「密愛」で面白いのは、なんとエンディングテーマが、ジョーン・バエズの「ドナドナ」であるということ。例の牛さんが市場に引かれていくという悲しい歌だ。ティーチインで、なぜこの歌を使ったのかという質問が登場したのだが、この曲はそもそも反戦的な歌であるとのこと。政治的な意図を持つ曲を敢えて不倫劇に使ってみてミスマッチを狙ってみたそうだ。

ティーチインには、キム・ユンジンとビョン・ヨンジュ監督が登場。キム・ユンジンは映画の中で美しいヌードを披露していたが、実際手足が長くてスタイルが大変良い。しかも、スターの貫禄が十分で輝きを放っていた。ビョン・ヨンジュ監督はフェミニズム的なテーマのドキュメンタリーを撮っていたというだけあってか?男前という言葉がぴったり。まるで長与千種のような堂々とした体躯でカッコいい。「従軍慰安婦についてのドキュメンタリーのあとで、このような通俗的なテーマを選んだのはなぜか?」と聞かれ、「慰安婦問題なら、誰もが社会的に正しいことだと思って評価されるが、不倫についてはそのこと自体の是非も問われる、リスキーなテーマなので敢えて選んだ」とのことだそう。

そして、次なる作品は、「JSA」のパク・チャヌク監督の最新作「復讐者に憐れみを」

凄い凄いと言われてきた「復讐者に憐れみを」(最初韓国で公開されたときには、「復讐するは我にあり」という訳だった)だが、本当にとんでもない映画だ。主人公は聾唖で画家を志していた心優しい青年。姉が重症の腎臓病であるため、自分の腎臓を提供しようとするが型が合わず、腎臓を売って移植手術を受けさせようとするが、臓器密売組織に騙されて腎臓と金を奪われる。リストラされてしまった彼は、極左活動家の恋人にそそのかされ、勤務先の工場長の幼い娘を誘拐。だが弟が自分のために犯罪を犯したことを知った姉は…。

もう陰惨で陰惨で残酷で救いがなくて強烈な映画だ。登場人物たちは、臓器密売組織を除いてはみんな善良な小市民だったのに、ふとしたことがきっかけで残虐性を剥き出しにし、築かれるのは死体の山。よかれとしたことがどんどん悪い方向に転がり地獄に堕ちていく様は、コミカルですらあるし、徹底的にシニカルだ。たとえば、アパートの部屋で数人の若者が女性の喘ぎ声を聞いてオナニーに耽っているのだが、実はこの声は主人公の姉が苦痛にのた打ち回っている声なのだ。しかも、主人公は姉のすぐそばにいるのに、聾唖ゆえその苦しむ声が聞こえない。彼は姉のためなら自分の腎臓を提供しようとし、犯罪すら犯すのに彼女の苦しみがわからないのだ。

しかも、描写に全く情け容赦がない。脳性麻痺のホームレスが悪意を持って描かれるし、いたいけな少女の水死体や解剖される様子、さらに火葬されるところまで描かれる。不安感を増幅させる不安定で気に障る構図や、死ぬほど苦しみ傷ついている人間を俯瞰で高みから映しているところからも、「人間は所詮紙の手の上で転がされる駒に過ぎない」という悪意のようなものが感じられる。

メーンキャラクター3人の演技は素晴らしい。善良な聾唖の青年が、その美しい心ゆえに深みにはまっていく様子を演じたシン・ハギョンは、役柄ゆえ台詞も一切ないのだが、見事になりきっている。彼の過激な恋人を演じたのは、「吠える犬は噛まない」でコミカルな演技を見せた注目の若手女優ベ・ドゥナ。つぐみに似ている可愛い彼女に乾いた濡れ場(ヌードあり)や、失禁ありの拷問シーンまで演じさせているのだが、大きな目をギラギラさせて鬼気迫る演技を見せてくれている。

しかも、このカラカラのベッドシーンを演じた二人は、共演がきっかけで本当に交際するようになったというから凄い。

圧巻の演技を見せてくれたのが、ソン・ガンホ。「シュリ」で主人公の友情に厚い同僚、「反則王」ではダメダメ銀行員、「JSA」では北朝鮮の兵士でありながら頼れる兄貴という役柄で人間味を感じさせてくれた男、そして「YMCA野球団(日本未公開)」ではコミカルでボンクラの野球選手と実に様々な役柄を演じ分ける大スターだ。そんな彼が、今回は悪役に挑戦。とはいっても、彼が演じる工場長も極平凡な一市民であった。幼い娘を誘拐され、むごたらしく殺されるまでは…。復讐に燃える男が修羅と化し、若い女性までも拷問して殺してしまうような残虐な鬼となっていくソン・ガンホ、恐ろしすぎる。これまでの役柄も、皆“いい人”だっただけに、普通の人間のタガが外れた時の底なしの凄惨さを体現しているのだ。
最初から最後まで情け容赦のないバイオレンスが炸裂して、タイヤキのようにあんこがギュッと詰まっている。「グリーン・フィッシュ」を観たときにも思ったのだが、韓国映画にはあまり銃というものが出て来ない。(後日釜山で観たバイオレンス・アクション「血も涙もなく」も警察の銃撃戦以外はほとんど銃は出てこない)代わりに、殴る、蹴る、刺すといった肉体的な暴力が出てくるので、これがまた痛そうで陰惨。「どうして、ここまでやるのか」という徹底さ。主人公の青年は、臓器売買組織の人間の腎臓とか食っちゃうし。目を背けたくなるような描写のオンパレードなんだけど、演出そのものはものすごくタイトで、画面から目をそらすことが出来ない。終盤にはあっと驚くどんでん返しがあるし、ラストショットも、とても信じられないようなものである。いや〜凄いものを見せていただきました。

ティーチインには、パク・チャヌク監督が登場。「どうしてこんな救いのない映画を作ったのですか」という質問に対し、「映画の中で描かれる世界というのは、絵空事で綺麗事過ぎる。現実というのは、もっと辛く厳しいものなので、私の映画ではそれを描きたい」という返事が返ってきた。韓国でも興行的には成功しなかったのだが、そりゃそうだな。しかし、バイオレンス表現の極北の形としての映画、そして本当は心優しいはずの普通の人間だって、ここまで残酷になれるということを描いた映画としては10本の指に入るんじゃないかと思った。濃いアジア人の中でも“恨”の感情で生きている韓国人の凄さを改めて知った。


東京国際映画祭総括



今年の東京国際映画祭は、いいところと悪いところがあったと思うので、それぞれの点を挙げてみたいと思う。

悪い点について
●自画自賛している“IT化”だが、これこそ笑止千万ってやつじゃないだろうか?電子チケットがどうのこうのといっているが、Docomoの504iしか使えないんだったら、全然意味がない。全キャリアで実現して、初めて実用化といえるんじゃないだろうか。それと、今回DoCoMoが特別協賛ということで、i-mode優先予約と504iの最優先予約というのがあったそうだ。これぞ、不公平の最たるものではないのか。自分のところのユーザーのみ優先してチケットを売るというケツの穴の小さい会社は、滅んでしかるべきだと断言しちゃう。映画祭のチケットを手に入れるためにDoCoMoにキャリアを移す人間がどれほどいるのか、冷静に考えてみればそれがいかにアホな発想なのかわかりそうなものだ。
そんなチンケなことを“IT化”なんて呼んでいるようじゃ、バカにされるだけだよ。

●特別招待作品のせこさ
今回の映画祭は入場者数が増えたことを自慢しているようだが、それは目玉に「マイノリティ・リポート」を置いて、トム・クルーズとスピルバーグをゲストによんだりしたことが大きな原因だと思われる。しかし、彼らの来日については配給会社が仕切っているわけで、映画祭自体とはあんまり関係ない。そして特別招待作品だが、お正月映画の有料試写会と何が違うのか、よくわからない。ハリウッドメジャー作品ばかりが並んでいる。しかもハリソン・フォードにはドタキャンされるし。とにかく、ラインアップは新味に乏しく、しかもすでに一般試写会が開催されているような作品まである始末。たしかにライバルの釜山国際映画祭も、ヒット作品を集めた「Open Cinema」というのがあるんだが、こっちは「8人の女たち」「マグダレーン・シスターズ」(ベルリン国際映画祭グランプリ作品)、「ブラディ・サンデー」、「My Big Fat Greek Wedding」、「リタ−ナー」「SWEET SIXTEEN」「セプテンバー11」「Talk To Her」「24アワー・パーティ・ピープル」「YMCA野球団」など、興味を引きそうな作品が揃っていた。


●コンペ出品作の不手際
これまでの雑感でも書いたが、「シティ・オブ・ゴッド」「藍色大門」「わが故郷の歌」の3作品が、他の映画祭のコンペに参加していたため失格となった件である。後で関係者が、「東京国際映画祭に出品する時にはコンペに参加していないと申請をしていたのに事実とは違っていたから、東京国際映画祭は関係ないモンね」なんて言い訳をしていた。でも、映画祭側でちゃんと調査が出来てなくて、映画祭の4日前にそれが判明したので、いきなりコンペの対象外にしちゃうというのはかなり酷な話である。「わが故郷の歌」を観た友人は、いきなりコンペ対象外になったために監督は来日を取りやめ、代わりに悲痛な手紙が代読されたといっていた。アウト・オブ・コンペの3作品がすべて力作で、対象となっていたら確実に賞を受賞できていた作品だっただけに、非常に残念な出来事だ。無名の若手監督にとって(とはいってもバフマン・ゴバディは傑作「酔っ払った馬の時間」がカンヌのカメラドールを受賞するほどで知名度はあるが、イラン出身のクルド人で、製作費に恵まれているとはお世辞にもいえない)、東京国際映画祭の賞金1000万は非常に魅力的であり、そのためにもっと有名な映画祭に出品 するのを手控えていたので、この仕打ちはショックだろう。

●コンペ作品について
今回、コンペ作品は「藍色大門」「シティ・オブ・ゴッド」「希望の大地」「恋人」の4本しか観ていなくて、しかも前2本はアウト・オブ・コンペになってしまった。これらを観た限りでは、一定の水準の高さは保たれていると思うが、もっと多くの作品を観ないとなんともいえない。ただ、去年のグランプリ作品も日本公開のめどが立たず、今年のグランプリなども同様であるということを考えると、考え込んでしまう。一つには、日本の映画マーケットはとても成熟しているとは言えず、アート系の作品や、人気スターが出ていない作品は商売として成り立ちにくく、良い作品でも公開が決まりにくいということはある。(しかし、例のアウト・オブ・コンペ3作品については、すべて配給が決定しているのだが)
また、東京国際映画祭グランプリ作品というのがネームヴァリューがないに等しい(特に、日本国内ではそう)というのも問題だ。だからといって、ベルリン映画祭やヴェネチア映画祭で賞を取ったということが興行的に大きなプラス要素になるかどうかも難しいのだけど。

●ボランティアの活用について
今年から試験的にボランティア制度が始まった。しかし、何のためにボランティアを使うかということを考えていなかったようで、彼らの活躍ぶりを窺い知ることはできなかった。釜山国際映画祭では、通訳、場内整理、案内などでボランティアは大活躍しており、彼らなしでは、運営も覚束なかったようにすら思える。

●盛り上がりについて
たびたび釜山との比較になってしまって恐縮だが、渋谷という日本の中心的な街で開催されているのに、一部のマニアのみのイベントとなってしまっていて、盛り上がりに欠けている。釜山では各映画会社がブースを出していて、これでもか、と作品の宣伝に努めているし、商店街も一致団結して協力し、街が映画祭一色となっている。それくらいのことはしてもいいのではないか?また、上映劇場の数も少ない。それと、マスコミでも少ししか取り上げられないのも問題。

良かった点について
●「アジアの風」の充実度
今回、昨年まで「シネマプリズム」と名づけられてきた特集は「アジアの風」というタイトルになった。で、作品選定を映画評論家の暉峻創三氏に任せた結果、非常にレベルの高い特集になったと思われる。
今回観た作品の中でも、「THREE」「密愛」「復讐者に憐れみを」は非常にレベルが高かったし、残念ながら見逃した作品の中でも、「ぼく、バカじゃない」、アジア賞を受賞した「この翼で飛べたら」「時に喜び、時に悲しみ」は観た人の評判もよく、ぜひ観たいと思った(が、前4作品はすべて釜山国際映画祭で上映されている)。
さらに素晴らしいのが、ショウ・ブラザーズ特集。こちらも、私は「大酔侠」しか観られなかったが、これまで殆ど観ることができなかったショウ・ブラザーズのライブラリーが解禁となったというのは一つの映画的な事件であり、映画祭で小さいながらも特集が開かれたのは喜ぶべきことである。できれば、改めて特集上映をしてもらいたいものだが。
●指定席制度
11月というかなり寒い季節に、入場するために並ばなくてはならないのはかなりつらいことである。指定席がかなりの作品で広まったのは喜ばしい。