評判がいいとは聞いてたが、ここまで素晴らしい作品だとは思わなかった。
なんとなく、初老の女と少年とのロードムービーと聞くと、お涙頂戴物に聞こ
えてしまうのだが、全くそんなことはない、リアリズムの映画だ。
少年だって、まっすぐな心を持っているものの、簡単に他人を信じることなど
できないし、かたくなに女を拒絶するし、女は元教師だけども今は生活のため
に代書屋を営み、ほとんどの手紙は捨ててしまう。
手紙は、ここでは象徴的な存在だ。字を書けない人々がリオ・デ・ジャネイロの
ドーラの代書屋で手紙を書いてくれるように頼む。一人一人の顔がアップで映さ
れる。愛の言葉、憎しみの言葉それぞれだけど、実にいい顔をしている。何かを
伝えたい、一生懸命な顔だ。だけど、これらの手紙の多くを、ドーラは破り捨て
たり、笑いものにしていた。彼女の心は、そんな感情を受け入れられないのだ。
盗みを働いたくらいで容赦なく射殺されてしまうような殺伐としたリオ・デ・ジャネ
イロの街のような、カラカラに乾いた心を持っていたドーラ。
少年を臓器売買組織に売り飛ばしてしまうような「悪い人」だった彼女、追っ手
を逃れるために仕方なく少年と旅に出た彼女が、少年のまっすぐな心にふれ、旅
を続けるうちに浄化されていく様子が、観るものにも一種の「救済」を感じさせ
てくれる。聖者へと伝える言葉を代書する彼女は、もはや手紙を捨てることがで
きなくなっていく。
ドーラをなかなか受け入れられない、強い意志を持った少年が、祭りの夜に彼を
捜して倒れた彼女を介抱してからの明らかな変化と心の交流の始まり。そして夜
明け、少年にプレゼントされたドレスをまとい、バスの中で彼に手紙を書くドー
ラの清々しい表情。
そう、これは「救済」の物語だ。
トラック運転手に恋をして、これまでつけたこともなかった口紅を塗ってみるドーラ
は、少年のいうとおり、美しかった。
ドーラ役のフェルナンダ・モンテネグロは文句なしの名演。アカデミー賞を取っ
て欲しい。
監督:ブライアン・デ・パルマ
出演:ニコラス・ケイジ、ゲイリー・シニーズ
なんでも、わずか2週間で打ちきりになってしまうと聞いたのであわてて行っ
てきました。デパルマ、ニコラス・ケイジというだけではお客は呼べないので
しょうか?(映画館は平日の夜だというのに混んでいましたが)
一番のウリであるカメラワークは確かにしびれる。13分間の長回しの間に、嵐
の迫ったアトランティックシティのスタジアム、ニコラス・ケイジの悪徳警官
ぶり、ボクシングのビッグ・ゲーム、そして国防長官と護衛についたゲイリー
・シニーズと物語のバックグラウンドが巧みに語られている。
赤い髪とドレスの女、金髪のカツラ、カジノ、嵐に吹き飛ばされる地球儀、ホ
テルのエレベーターでの追いかけっこ、天井を這うカメラとディテールにはと
ことん凝っていてスタイリッシュ。くらくらする。でも、サスペンスとしては
非常に物足りない。中盤ですぐ犯人が分かってしまうしなんだか端折った印象
を残す。あんな都合のいいところにパトカーがやってきたけれど、誰が一体警
察に通報したわけ?他に誰かが告発したの?
最後の、カジノの壁に埋め込まれた赤い宝石も、小道具としてはいいのだけど
気がつかない人は、あれはいったい何?とわからないまま帰ってしまうはずだ。
それでも点数が甘アマになってしまったのは、ニコラス・ケイジのハイテンシ
ョンでバカ丸出し、だけども自分の魂は絶対売らないところが好きだから。ニ
ック・ミーハー(この映画では増毛しているに違いない!)のわたしにはうれ
しい。後半ちょっといい人になりすぎたのが残念だが、「フェイス・オフ」の
キャスター・トロイとかぶるような悪趣味で派手なシャツとかキンキンの時計、
トゥー・マッチなキャラクターが素敵。
一度は栄光を手に入れるけど悪徳警官の正体がばれ、すべてを失って、それで
も幸せそうな、そんな役柄が彼には似合っている。
キャメロン・ディアスがかわい〜い!!!!魅力爆発です。あれだけ
かわいくて性格も良くてスタイル抜群、頭も良いのに、群がってくる男
たちといえばあんなに不気味な人たちばかりでストーカーされまくり、
なんて美人も楽ではないというかちょっと不幸。
動物虐待ギャグ、障害者ギャグと危ない笑いが多いので、見る人を選ぶ
と思います(笑えない人には笑えないはず)。思ったほどハチャメチャ
ではなかったし、差別意識はそれほど感じなかったけど危険水域スレス
レのところですね。品がないしアナーキーでB級まっしぐらの笑いです。
こんなところで笑ってしまってはいけないと思いつつも、テッドが大事
なところをジッパーに挟んで大騒ぎになるところやホモの殺人犯に間違
えられるところ、ザー○ンのヘアジェル、スピードでハイになった犬が
暴れて噛みつくところなどはヒーヒー笑ってしまいました。
でも、キャメロン・ディアスにとても清潔感があるので、救われている
んですね。終わり方も気持ちよかったし。青春の甘酸っぱい想い出、
誰もが経験するあこがれのマドンナへの淡い恋と苦い経験が共感を
呼ぶからでしょうか。
あと、やっぱりあのギターとドラムスのやる気のなさそうな二人組と
その末路が笑えました。メリーの義理の親父さんも、妙ちきりんな髪
型でいい味出しています。
場内がこれほど爆笑の渦に巻き込まれている映画というのもなかなかな
いと思います。
監督:大谷健太郎
出演:小林宏史、板谷由夏、辻 香緒里、大杉 漣
プロレス好きで仕事はバリバリの美都子と、優しく家事が得意だけど、仕事は
全く安定していないカメラマンの夫。妻は、夫がモデルのマユと浮気したと疑い、
彼に無理矢理離婚届の判を押させて家から追い出してしまう。行き場所もなく無
一文の彼は仕方なくマユの部屋に居候するが、実は彼女は、男の妻が一緒に
働いているデザイナーと結婚していた。かくして、2組のカップルが入り乱れての
騒動となる。
まるでフランス映画のような、物語そのものより、登場人物の心情を語らせる会話
の連続で楽しませる映画だ。
夫タモツは世間的に見ればまるでダメな男で、妻にプロレスの技をかけられたり、
追い出されそうになってすがりついたり、顔色をうかがってばかりと、かなり情けな
い。「女々しい」を絵に描いたような男だ。それに対して美都子は、仕事はできるし
お金は稼いでいるし美人だけど、相当性格がきつく、罵詈雑言を浴びせたり暴力を
振るう、とまるで一昔前の男性のようだ。美都子がタモツの一体どこに惚れたのか、
最初はとても不思議だが、見ていくうちに、タモツがなぜか魅力的な男性に思えてく
る。彼女は、きつくあたることで彼に甘えているのではないか、なんて思ってしまう。
モデルのマユは若くてコケティッシュで、年の離れた夫を振り回し、タモツにも魅力
を感じているのだが二人の間には肉体関係はない。彼女の夫の中崎(大杉漣がま
たもや登場!)は渋くて社会的に成功していて素敵に見えるが、もしかしたら、若い
女が好きなだけのただのオヤジかもしれない。総じて女性のほうが断然元気がいい
のが、現代的。
この4人が中崎の鎌倉の別邸に集まって騒動を繰り広げるシークエンスが秀逸。緊
張感が漂いながらも、この緊張感を、タモツの絶妙の間がぷつっと断ち切っていたり
しておかしいし、緊張感に耐えられなくて意外な感情を見せてしまう美都子にももろさ、
可愛さがあることを感じさせられる。美都子、タモツが一つの布団の中で電気を消し
たあと聞かせるやりとりもリアルで面白いし、プロレスの技をかけられながらも、猫の
ようにすり寄ってくるタモツのけなげさがいい感じ。
お互いを振り回し、違う相手のことを気にかけながらも、結局みな「ほころびを縫って
くれる」パートナーの元に戻っていくのだ。
一つ一つのせりふに実感がこもっていて、くすくす笑ってしまう。だけども、自分ちの
夫婦生活のことについてもちょっと考えさせられてしまう、楽しいけどちょっと怖い映
画だ