
君がいるから
機動戦士ガンダムSEED
海岸線に沿って、何分歩いただろうか。
いつしか二人の間に言葉はなくなり、ただ、歩くだけ。
相手の言葉が聞こえないだけで、世界は音を失っていた。
夕立が降るまで。
地球に降りてかなりたつというのに、この天気の変わりやすさだけはなじめない。
予報もあるのだが、結局のところ100%の精度ではない。予報のない時代の人々はどんな暮らしをしていたのか。
そんな風に思考をめぐらすが、相手にかける言葉は何も生まれてこない。
最近はいつもこうだ。始めは「今どうしてる?」「最近のプラントは」などと情報交換をするが、そこから先は途切れてしまう。カガリやラクスがいれば違うが、今の二人、アスランとキラだけの状態では難しい。
昔は違った。どちらからともなく会話は続き、話題は途切れることはない。どんなくだらないことでも、懸命に言葉を交わしていた。なのに、いまはあたらず触らず、お互いの気持ちを慮るあまりに、肝心なことは何も言えない。
お互いわかっていて触れないこと。
キラにとって大切な人の死。
アスランの父の死。
クルーゼのこと。
既定の事実として捉えているが、お互いの言葉で、真実感じたことや思っていることを伝えてはいない。戦争は終結した。その一言で済ませてしまった。お互いが生きているのだからそれでいいのだと。
しかし、世界は何も変わっていないのか。ブルーコスモスは新しい盟主を迎えて活動を盛んにしているし、プラントではまた最新のMSが開発されたと聞く。その一つ一つに対して、オーブの代表であるカガリはおろそかに出来ずに、悩みを抱え、そばにいるアスランは今の立場上、自身の考えは語ることは出来ない。
ラクスはプラントから姿を消し、キラのそばで、いまだ戦いの傷を癒せないでいるように見える彼を見守っているかのようだ。カガリもそういうふうに生きられれば楽なのかもしれない。いや、そうなれば楽なのはアスランのほうなのだ。
もともとのアスランは自分の意思を持って動く人間なのだ。彼もまた、いつまでもカガリの護衛ではいられない。キラにはそれがわかる。ただ、そうなったとき。それは、再び戦いが起こることを意味する。
「夕立か」
「あ、あそこ!あの建物のとこ!」
ぽつぽつと降り出した雨をさけて建物の軒下に避難する。
どうやらそこは前の戦争での多少被害を受けたようだが、いまだ持ち主は帰っていないようだ。いや、もう戻ってこないかもしれない。
「予報で言ってたっけ?すぐ止むといいね」
「そうだな。地球の天気ははっきりしなくて困る」
そんなアスランの言葉に、キラはくすくす笑う。
「プラントのようには無理だよ。湿度調整のために降る雨は時間まできっちり指定されてるものね」
「そうだな。雨にぬれることなんて考えもしなかった」
「うん。まあ、……でも不安になるね。いつになったら止むのかって」
そんなキラの言葉そのものがアスランには不安に思える。
いつになったらこの戦争は終わるのか。そう聞こえたからだ。もう、戦争は終ったはずなのに。
いや、いつまでこの平和は続くのか。そう言っているのだろうか。
「……いいんじゃないか。止むまで、雨宿りしてれば」
アスランの言葉は、今の状況というよりも、キラに向かって言った言葉だった。お前はまだ、休んでいればいい。好きなだけ、気がすむまで。そうすることもまた、自由なのだと。
「ありがとう」
キラの言葉は小さいが、アスランの耳にはちゃんと届いた。
先ほどから二人は、空をぼんやりと眺めていて、お互いの顔を見てはいない。それでも、どんな表情をしているのかはわかる。
「でもやっぱり、不便だよね。あらかじめ傘を持ってくるとか、散歩をやめるとか、避けられるといいのに」
ちょっと口調を変えてキラは言う。
先ほどのやり取りはなかったように。
だがその言葉に、アスランはふと思い出した。
「いや、そうでもない」
「え?」
アスランの声がとがったのに気付き、反射的に振り向くキラ。
アスランはじっとキラを見ている。
「あらかじめわかっているはずなのに、ニュースを聞いてこなかったとか、傘を忘れたとか……。あまつさえ『これくらいいいじゃん。濡れちゃえ』とかいって、何度も雨にぬれた覚えがある。俺は」
「……そう?」
「誰が原因かなんて聞くなよ?」
「えーっと、イザーク?」
アスランの眉がつりあがる。
「お前だろうキラ!!」
「はい……ごめんなさい」
なんで今頃になって怒られなきゃならないんだろう。
そんなことを言ったらアスランはますます怒る。キラは反論を避けた。
「だいたい、傘を忘れたのは自分の責任なのに、無理やり俺の傘に入ってきて、あげく、『アスランのほうが場所をとってる』なんて、半分以上場所をとって結局いつも俺のほうが濡れてた。雨宿りしようと言っても待ってられないって、人の手をひいて走り出すし。なのに風邪を引くのはいつも俺だ。」
やっぱり、全部覚えてる。僕なんて忘れたことまで。本当にアスランって……。あとでカガリに言おう。
などと考えていたキラは、いつの間にかアスランが話をやめて彼を見つめているのに気付くまで数秒かかった。
さまよわせていた視線を戻すと、アスランは引きつった笑みを浮かべてキラを見ている。
「そして……いつも都合の悪いことには耳を貸さない!!」
「だって、長いんだもん。アスランのお説教」
「誰のせいでっ!」
アスランが怒りとともに一歩踏み出すと、キラは後退した。そこで、アスランはふと思いついて、腕を伸ばしキラの肩を押した。
「うわっ」
声とともに上体を支えようと大きく足を広げてバランスをとるキラ。
倒れることはなかったが、容赦ない雨が彼の髪を、服をぬらしていく。
「……アスラン」
呆然とするキラに、アスランは笑いかける。
「濡れたんなら、もう雨宿りする理由も無いよな」
そう言って、自分も雨に打たれる。
「帰ろう、キラ」
「……うん」
微笑み返すキラ。
いつかどこかで、こんな会話をしたことがあったかもしれない。
そのときは自分が、無茶を言ってアスランを怒らせたのだろうと思う。けれど、今は。
今はまだ……。
「遅いぞ、キラ!!体がなまってるんじゃないのか?」
走りながらのアスランの声は雨音に邪魔されてなかなか聞こえない。
「何?なまって、何が焼けてないの?」
「少しは気を入れて走れ!!これじゃ、文字通りずぶぬれになる!」
「それって、アスランのせいだし……」
「何か言ったか!?」
キラが変わったように、アスランも変わっている。これはきっと彼女の影響に違いない。でも、変わっていないところもある。
「靴の中までぐしょぐしょで、気持ち悪い」
「黙って走れ!」
「……そっちこそ」
やっぱり変わってないかも。キラは言葉には出さずに一歩先を行く親友の背を眺めた。
「まああっ。どうしたの二人とも!!」
わが息子とその友人の「水も滴る」どころか海からはい上がってきたかのような姿に声を上げるキラの母。間髪いれずにキラを睨む。
「もう!キラ!!どうしてあなたはいつも……ごめんね、アスラン。キラのせいでひどいめにあったでしょう。シャワーを浴びて。服はすぐに用意するから」
かすかにむっとするキラに、ほらな、というように目配せするアスラン。
「違うって、今日はアスランが」
「言い訳はいいから!お部屋に行ってアスランの分も着替えを持ってきてちょうだい。シャワーを浴びたら、廊下の掃除よ」
「だから、僕は今日は何も」
「俺も手伝うよ、キラ」
優しげなアスランの声。だが、彼の目は笑っている。
「いいのよ、アスランは。すぐにシャワーを浴びて頂戴。あ、まずタオルを持ってくるわね」
ばたばたと小走りに母親が行ってしまうと、キラはうらめしげにアスランを見る。
「ずるい」
「日ごろの行いだ。反省しろ」
「……そんな何年も前のことを反省しろと言われても」
「やらかした本人にとっては昔のことでも、やられたほうは忘れないものだからな」
「やっぱりアスランって……おコメに字、書けるよね」
「は?」
変わっているようで変わっていない親友。
彼に向かってキラは笑う。
「また意味のわからないことを……」
そう言いながらも、アスランも笑みを返した。
止まない雨は無い。
雨が止むまで、休もうと急ごうと、それは自由。
君がいるから、一人じゃないから。
だから待っていられる。
雨が止み、空が明るい輝きを見せるまで。
あとがき
See-Sawの歌を聞いて生まれたといっても過言ではない作品です。
あの、EDイラスト。
最後の二人のシーン。
ラクスがでかすぎて邪魔。
二人をもっとアップにしろ!!と叫びました。
あんなイラストだけに、Z(ゼータ)なラストを予想させて不安にもなるのですが。
確実に誰か精神崩壊だよね。
あとは行方不明。
ディアッカとイザークのはずがいつのまにやらこの二人になってました。
金銀ネタは思いついたのがあるのですが、暗くなってきたのでどうしようか迷い中です。
ミリアリアの「ふっちゃった」発言で捏造エピソードが浮かんだのですけど。
本当に、お願いだから、種のミリアリアに戻してくれよと切実に思います。
今の彼女は嫌いで書けないです……。