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「あんたなんか大っ嫌い!」 街の表通りに大きな声が響いた。叫んだ本人、ミヤビは言ってしまったことに顔を赤く して、その場から駆け出した。 言われた当人、アヤナはその場にぽつんと立ち尽くしていた。 「わたしはお姉ちゃんのこと、好きだよ」 アヤナは誰にも聞こえないような小さな声で囁いて、ミヤビが駆け出したほうをずっと 見つめていた。 ミヤビとアヤナ。 街でも噂されるくらい、「仲の悪い姉妹」で二人の評判は通っていた。 特にミヤビは妹に対してコンプレックスを持っていて、いつも辛くあたっていた。 ミヤビの容姿はどこにでもいる平凡な顔立ち。だが、アヤナはその細い顔立ちから、 繊細で美しい金髪から、透き通るような白い肌まで、誰もが「美しい」と認める容姿だった。 ミヤビは姉妹として、いつも妹のアヤナと比べられる材料でしかなかった。 それが腹立たしくて、いつも喧嘩口調になり、アヤナを睨みつけていた。 ついには一緒にいることが我慢できなくなって、ミヤビは家を飛び出すに至る。 性格も、大人しいアヤナとは逆にミヤビは活発で、その器用さを活かして、冒険者に なるべくギルドに加入し、勝手気ままな生活を送っていた。 だが、二年経っても、アヤナの姿が脳裏に焼きついていた。 決して離れることができないと悟ったミヤビは、一度故郷に帰ることに決めた。 故郷の街は二年程度で変わることはなく、いつもの活気に満ちていた。 ミヤビが市場を形成する通りを歩いていると、あちこちで囁かれる噂が耳に入った。 「天使の歌声」 そう、アヤナのことだ。アヤナはその美しい容姿だけでなく、歌わせたら誰もが感嘆 するほどの声の持ち主だった。 現在、アヤナは教会の聖歌隊に入っていて、その「天使の歌声」を披露しているらしい。 おかげで教会で聖歌隊が歌う時は、人であふれると言う。 帰ってきた早々、ミヤビの気持ちは打ちのめされた。 彼女の心に悪魔が囁く。 (このまま妹を有頂天にさせておくつもりか?) それは悪魔ではなく、自分自身の声だったことに気づくことなく、彼女は思い立った。 こうなったら、アヤナの晴れの舞台をメチャクチャにしてやる……。 それがただのやっかみだってことは彼女自身も分かっていた。 だけど自分に無いものを、すべて持っているアヤナを認めることがどうしてもできな かった。 教会には大勢の人がやってきていた。みんな聖歌隊の歌を楽しみにしているのだ。 アヤナの声をこの街で知らない者はいない。天使の歌声だと周りにほのめかす者まで いる。 「メチャクチャにしてやる」 ミヤビの心は暗闇の中に埋もれていた。そこから抜け出すには、アヤナの名誉を傷つ けることだと信じきっていた。 ミヤビは他の客に紛れ込み、席の隅のほうにそっと腰かけて、時を待った。 牧師の説教も終わり、白い服を着た聖歌隊の面々が壇上に揃い始めた。その真ん中に アヤナがいた。 誰もが目にするその可愛らしい姿。天使の歌声を持っていても、誰も疑おうとはしな い清楚なる姿。 ミヤビは隠し持っていた小袋を取り出す。その中に一つだけ、ロケット花火が入って いる。一つといっても何十個もの花火を一つの導火線にまとめた危険物だ。このロケッ ト花火が教会内で飛び回れば歌など消し飛んでしまう。誰もがアヤナのことなど忘れて しまう。 歌が始まった。初めは天使が光臨するがごとく静かな旋律が奏でられる。 みんながその歌声に聞きほれていた。 ミヤビは誰にも気づかれぬように、そっと花火を小袋から取り出し、点火する準備に かかる。 ちょうどアヤナのソロに入る直前に打ち上げることにしていた。 ゴトッ 壇上で小さな物音がした。 点火準備に下を向いていたミヤビが顔を上げる。 聖歌隊の歌は続いていた。 だが、どこか音程がずれている。何かに困惑するような不安が声に混じっていた。 「…………アヤナ?」 一瞬、ミヤビの点火しようとする手が止まった。彼女は妹の姿を捜す。そして妹の姿 を床で見つけた。 壇上で、アヤナが倒れていた。まるで糸を切られた操り人形のように、不自然な格好 でその身を床に横たえている。 悲しいことにミヤビは疑心暗鬼に囚われていたため、こんな異常な事態でも、これが アヤナの謀だと疑ってしまい、その手を再び動かした。 花火の導火線に火をつける。 ヒュンッ!! ロケット花火が彼女の手から勢いよく飛び出した。花火はその身が開放されたことに 狂喜乱舞するがごとく飛び回る。 笛のような音を響かせて、あらゆる方向に飛び回る花火に、教会に来ていた人々は驚 いて、その場に伏せたり、逃げ出したりして、一同に焦りの表情を見せていた。 聖歌隊の面々も同様で、すでに歌はミヤビの予想通り、メチャクチャになり、誰もが 囀ることをやめていた。 ただ、驚いて涙を浮かべて、一刻も早く壇上から逃げ出そうとしていた。 しかし、アヤナは…… みんなが逃げ出している中、アヤナだけ時間が止まったかのように、その場に倒れた ままだった。 驚いて動き出す様子もなく、花火が間近で弾けても、その小さな身体が起き上がるこ とはなかった。 「…………アヤナ?」 ミヤビは呆然として立ち尽くす。 一番、驚いてほしい相手が、一番驚いてない。いや、そのことにさえ気づいていない。 そんなことがあるものか。悔しさがこみ上げてくる。 「アヤナ!」 叫んだ。妹の名を。 何度も何度も叫んだ。 だが、アヤナは倒れたまま、ピクリとも動くことはなかった。 ミヤビ編その1<了> |