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まるで歌でも歌ってしまうくらいな気分だった。 リンカとタイガルは意気揚々と城の地下へと続く階段を降りて行く。 降りて行くにつれ、だんだんと薄暗くなり、壁に掛けてある松明の明かりだけが、この 空間を照らしている。 「うわぁ……まるで悪魔でも出てきそう」 リンカの素直な感想。 お陽様の下がよく似合うリンカにとって、城の地下は未知の空間だった。 タイガルに先導されて、二人は錬金術師の根城となる部屋へたどり着いた。 「タイガル、遅いぞ! 鶏一羽捕まえるのにいつまでかかっておるか!」 「す、すみません」 錬金術師の巣窟と化している部屋の扉を開けた途端、怒鳴り声が飛んでくる。鶏を抱え た男タイガルは畏縮して小さな声で謝る。 怒鳴ったのは錬金術師の長、サリドだった。 白い口髭をたくわえた老齢の男サリドは、鋭い目を扉に立つ男に向けている。 「くらーいわね」 リンカ王女が部屋を覗いて感想を一言呟く。 部屋には窓がなく、ロウソクの炎が儚げに揺れているだけだ。まさにリンカ王女が考え ていた通りの部屋である。 「きっと魔術師の部屋もこんな感じだね」 王女の言葉は当たっているのだろう。 鶏を抱えた男、タイガルは反論しない。 「タイガル、いつまでそんな所に突っ立っておるか。早く鶏を持ってこんか!」 「は、はい!」 タイガルは慌てて部屋に踏み込んだ。 続いて、リンカ王女も部屋に入る。 「おや、これはこれは。小さき王女」 タイガルの後ろにいるリンカ王女を見つけると、サリドは険しい表情を崩した。リンカ 王女に向ける眼差しは、まるで孫を見るように優しくなっている。 「おはよう、サリド。朝から元気ね」 「おや、もう朝なのですか。この部屋にいると時間など忘れてしまいます」 確かにこの部屋には時間を示すものがない。窓もないのだから昼か夜かの区別もつかない。 「あまり篭ってばかりいると身体に悪いわよ」 「ありがたきお言葉、痛みいります。ですが、ここは我らが錬金術師の根城。いくら篭って おっても平気です。それで、小さき王女が何故、このようなむさ苦しい部屋へ?」 リンカ王女が錬金術師の部屋へ訪れるのは、これが初めてであった。錬金術などに興味は ないから、このような場所に来る必要はなかった。それより、洋服やお菓子のことを考えて いたほうが楽しいというものだ。 「そうそう、にわとりよ、にわとり」 思い出すように言ったリンカ王女の言葉に、鶏が「こけこっこー」と呼応するかのように 鳴く。 「こら、静かにしないか」 暴れる鶏をタイガルが押さえている。 「にわとりを捕まえたの、私だからね。このにわとりで何をするのか、見てみたいのよ」 その言葉にサリドの鋭い視線がタイガルを貫く。タイガルは蛇に睨まれた蛙状態で、鶏 の首根っこを捕まえたまま動けないでいる。 「タイガル、おまえというやつは小さき王女のお手を汚すようなことを……」 「ちょっとちょっと。この人は悪くないわ。私が自主的にやったことなの。だから怒っちゃ ダメ」 サリドのこめかみの血管がこれ以上太くならないよう宥めるのにひと苦労である。 「分かりました。ちょうど良い機会です。小さき王女にも、我ら偉大なる錬金術師の成果 をじっくりと見てもらいましょう!」 大袈裟に振る舞うサリドは悦に入っている。 「今、ここに! 寓話の世界にて語り継がれていたモノを作り出すのです!」 自分の言葉に酔っているサリドは、他の者を置き去りにして独り恍惚状態に突入。 「だから、結局なんなの?」 リンカ王女の冷めたお言葉。 「金の卵です」 代わりにタイガルが答えた。 「金の……タマゴ?」 「そうです。我らは金の卵を生み出す術式を導き出したのです」 「でも、あれってガチョウじゃなかったっけ?」 リンカ王女の鋭い指摘。だが、サリドは語ることに夢中で聞いてない。 「金の卵が生み出された暁には、我ら錬金術が優位に立つのだぁ! 今に見ておれ、魔術 師どもぉ!」 と、吠えている。 「なぁんだ。結局は魔術師連中を見返してやりたいだけなんだ」 「小さき王女。それを言ってはいけません」 苦笑するタイガル。彼が言うには、犬猿の仲である魔術師たちも何やらあやしげな品を 作っているらしく、サリドは気が気でないらしい。だから、今回の実験で差をつけようと、 いつも以上に意気込んでいるのだ。 「よし、始めるぞ。タイガル、他の者を呼んでこい!」 「はいっ!」 各部屋に散らばっている仲間を呼びに、部屋を飛び出して行くタイガル。 「タイガル……大変ねぇ」 使い走りされるタイガルを見ていたリンカは、しみじみと呟いた。 「見ておれぇぇっ! 魔術師どもぉ!」 サリドはまだ吠えていた。 リンカ編その2<了> |