【上方落語メモ第5集】その246

歌  根  問


【主な登場人物】
 ご隠居  お前さん

【事の成り行き】
●うかうかとコルトレーンより歳重ね
 神様ジョン・コルトレーンは1967年7月17日に37歳で亡くなりました。わ
ずか十数年の間に道を極め、以後、彼を超えるアーチストは生まれていませ
ん。1968年に16歳で彼を知った私はいつのまにか彼を大きく超える年齢とな
りました。誰でも年だけは取れるんやねぇ。

●トップライト受けし歌姫闇のうち
 舞台上、煌々とトップライトを浴びているダイアン・シュアは盲目のボー
カリスト。フルオーケストラをバックに唄う姿から燦然と輝きが溢れ出てい
るのです。しかし、彼女は闇の内。いえいえ、心は解き放たれています。

●枝しなりたわわに実る人の首
 ストレンジ・フルーツとは木にぶら下げられた首。ビリー・ホリデーの陰
影は奇妙な果実が創り出しています。身も心も疲れ果て、二進も三進も行か
なくなった時に、とどめの一発として聴きます。ゆや、マゾヒストやねぇ。

●エヴァンスの調べ流れて記憶の香
 音に匂いがあるはずも無いのに、ビル・エヴァンスを聞いていると珈琲の
香りとシャンプーの香りが漂うのは、彼女がエヴァンス好きだったから?
耳鼻咽喉科に行きなさいなんてのは無しよ。

●クリスタル針音混じるサイレンス
ゲイリー・バートンとチック・コリアのデュオ。何度も聴くのでスクラッチ
ノイズがスゴイのです。でも、静粛の時間が流れています「クリスタル・サ
イレンス」

 歌根問に引っ掛けJazz川柳のいくつかでした。

             * * * * *

●こんにちわぁ■あぁ、誰や思たらおまさんかいな久しぶりやなぁ。この頃
来てやないけど、どないしてやねん?●へぇ、この頃ちょっと遊びに行くと
こ変えてまんねん■また、けったいなとこ行ってんのんちゃうんかいな?

●いえ、横町(よこまち)の錆田先生(さびたせんせ)とこへ遊びに行ってまん
ねん■そらえぇとこ行ってるなぁ。人間はなぁ「大きいとこへもたれ。長い
物にまかれ。立ち寄れば大木(おおき)の陰」言ぅてな●へぇ、あんた常時わ
たいつかまえて、大きいとこへもたれ言ぃなはるんでな、こないだ相撲取り
にもたれて仰向けにコケてわややがな。

■そやないがな、大きなところ、金持ちが遊びに来たはるやろ?●へ、ぎょ
うさん稽古に来たはりまっせ■お前もやってるのんか?●わてもやってまん
ねん■俳句か? 笠か? 柳樽か?●何や知らん、難波(なにわ)の古韻ちゅ
うのんやってはりました。


■わしも若いときそんなことやったことあるわ。饅頭があったらなぁ「饅頭
も 名も朧夜に 霧の松 隠し身とは ても美味い霧」てなもんや。お前も
やってんのんか?●わては見たままの句、即句言ぃましてな、あるもん触る
もんでやりますねん。

■ほぉ、面白そぉやなぁ。来たん幸いや、いっぺんやってもらおか●何でも
やりまっせ■ほな、ここに碁盤があるさかいに、ご音の古韻とはどや?●へ、
「ご互いに 小石小石が 打ち寄りて 今は互いに 死のか生きよか」とは
どぉです。

■えらい鮮やかなもんやなぁ。こら下に置けんわ●ほな、まぁ上げてもらい
まっさ■ここに手っ伝いの又兵衛はんが行李(こうり)弁当を忘れたぁる、こ
の行李弁当でいけるか?●いけまっせ「双方から 重い詰めたる 行李飯傍
(はた)から茶々の 入れよぉもなし」どうです?

■うまいがな。こら下に置けんわ●二階上がろか?■まぁ、待ちぃな。ほな、
ここに将棋盤があるが、将棋盤でいけるか?●ぼろくそや「そのよぉに 前
囲わずと 一番は 王手指しても 罪になろまい」……どぉです?

■ほぉ……いよいよ下に置けんわ●大屋根上がろか?■猫じゃがな。これは
どや? 襖に白鷺の絵が描いたぁる、この白鷺でいけるか?●「白鷺は……
■ちょっと待ち。お前みたいにそぉ早よぉ言ぅたら愛想がないなぁ。ちょっ
とぐらい思案したらどぉや●このご時世ぇ思案あそばさん。

●「白鷺が 氷に足を 閉じられて それも己が ドジョウ食らうか」■う
まいなぁ、こら感心や●今度は電信柱駆け上ろか?■ほな、ここにタバコ盆
の灰吹きがあるなぁ、灰吹きでやってみ。

●灰吹きが……や■灰吹きが?●……氷に足を 閉じられて それも己がド
ジョウ食らうか。とはどうでやす?■そらあかんなぁ。灰吹きがドジョウ食ぅ
かいな●吸殻食いまんがな■灰吹きを……といったらどや?●へぇ、どんな
風に?

■「灰吹きを おのれ一節 あるものに 何とはあって 頭コツコツ」でど
や●こらうまい。下に置けんわ■真似しをしないな。こぉいぅことは稽古し
とくと得があるで。隣の夫婦喧嘩、中に入って仲直りさしたなぁ●さよか。

■隣の旦那がな、十日えびすに福笹を買ぉて神棚へ供えといたんや。それが
嫁はんが上げたお灯明の火で燃えてしもた。さぁ、お前が悪い、あんたが悪
いの夫婦喧嘩や。それを歌詠んで仲直りさしたがな●どない言ぃなはった?

■「神棚に 七福神が 寄り合ぉて 福をやろぉと ささやいている」と言ぅ
たんや。ほな、明けの日、酒一升持って礼に来はったがな●わてかて、隣の
餅屋の夫婦喧嘩の歌詠んだで■どない言ぅてん?

●相手が餅屋やさかいに「薄々と 聞けば親爺が 杵上に 甑(こしき)上がっ
て 家(うち)がもちゃつく」■うまいがな●それがうまいことおまへんねや。
向こうの嫁はんが返歌しました■どない言ぅて?●「餅搗かば もちゃつく
ことは なけれども 餅搗かぬ家(いえ)に 家(うち)がもちゃつく」

■嫁はんの方がうまいがな……こんなんはどや。正月にな、向かいへ年始に
来たお方が、門口で癲癇(テンカン)起こしたんや。正月から験(げん)が悪い
言ぅたはるんでな、わしが歌詠んだがな●どない言ぅて?

■「門松に もたれて泡を 吹くの神 これぞまことの 弁財癲癇」間んが
直りました言ぅて、明けの日にカマボコ二枚持って礼に来はったがな●ぼろ
儲けしてなはんなぁ、わしとえらい違いや。こないだ料理屋で散財してまし
てな、芸者呼びましてん。それが唄は下手やわ、三味線は下手やわ。オモロ
ないさかい、

●「三味線の 調子はずして あとや先 芸妓か稽古か 分かりゃせん」ほ
な芸妓がじきに返歌しました「真婦(マブ)があるのに毎晩通う 飛脚か お
客か分かりゃせん」こんなこと言いやがるんで、癪に触ってその足で南の飛
田行って女郎買いしましたがな。

●「お客さんこんばんわ」言ぅて来よったんがなかなか別嬪だんねん。とこ
ろがわての顔見るなり「ちょっとお手水にやってもらいます」言ぅたきり、
三十分経っても一時間経っても戻って来よらしまへんねん。

●あんまり腹が立ったんで部屋の外出て大きな声で「長かれと 思う線香が
短こぉて この家の女郎の シシの長さ」さぁ、それが女郎に聞こえてな、
わしのネキ走って来やがって「経てたてと 思う年季は 経てもせで この
夜のお客の まぁ前の立つこと」……アホらしぃて。

●あんまりアホらしぃのんで、家帰って酒呑んで寝よ思たら、酒がおまへん
ねん。で、横町の酒屋行って「親っさん、すまんけど酒貸してんか」言ぃま
してん。ほたら親爺が「貸しますと 貰えんよぉに 思います 現金なれば
安ぅ売ります」言ぃやがんので「借りますと 貰たよぉに 思います 現金
なれば よそで買います」

●酒屋のオッサン怒りやがって、追いかけて来やがんねん。わし慌てて逃げ
ましたがな。家の門(かど)で徳利割ってしもて、嬶(かか)に謝りまして
ん■何も謝ることないやないか●続きがおまんねん「女房に 謝る法は 無
けれども 家事が止まれば 船に乗られん」

●家の嬶も粋な奴でっせ「こちの人 船に乗らんと 言わんすな 仕事の合
いに 船頭さします」■アホらしい……聞いてられんわ●ほかにえぇのんお
まへんか?■重歌はどないや?●米屋の十さん?■違うがな、重なる歌と書
いて重歌や「鳥捕りの 取り柄の鳥を 取りに来て 鳥もち濡れて 取り逃
がしけり」

●もっとほかにおませんか?■「土採りが 土採りに来て 土付けて 遂に
その身が 土と成りぬる」●もっとほかにおませんか?■「貝買いが 大き
な貝を たんと買い 小さな貝も 負けとかんかい」●……頤(おとがい)痒
いかい!

■「宇治の里 茶園火炎と 燃え上がる 茶つみ茶壷と 茶っ茶無茶苦茶」
●むちゃくちゃか?■「暮れかかる 足軽足に 水かかる 足軽怒る おか
る怖がる」●?? 何のことです?■日が暮れにな、おかるという女中が門
に水をまいてたんや。そこへ足軽が通り合わして、足に水がかかって怒った
らおかるが怖がったちゅうねん。

●もっとほかにおまへんか?■「瓜生から 瓜売りに来て 瓜売れず 振り
売る瓜を かぶる瓜売り」●何ですて? ぐりぐりが ぐりぐりぐりぐりの
ぐりぐりぐり??■違うがな。大阪に瓜生(うりう)という在所があるんやが
な。そこから百姓が瓜を売りに来て昼過ぎても瓜が売れん。お腹が空いてき
たんで売ってる瓜をかぶりかぶり売ったといぅんや。

■「瓜生から 瓜売りに来て 瓜売れず 振り売る瓜を かぶる瓜売り」や
●なるほどうりうりのうりうりうりか? ほかは?■「山門の 桜に猿の 
三下がり 相の手を引く 尾ぉと手ぇと 尾と手と手手と 手手と手と手と」

●それオモロまんなぁ。山門の 桜に猿の ぶら下がり■ぶら下がりやない
がな、三下がり●三下がり 相の手を引く オトテテトテテ……■言えたぁ
れへんがな「尾ぉと手ぇと 尾と手と手手と 手手と手と手と」●?? 尾ぉ
と手ぇと テテトテトテト……?

■そやないがな「尾ぉと手ぇと 尾と手と手手と 手手と手と手と」●テテ
テテトテト トテトテトテト??■「尾ぉと手ぇと 尾と手と手手と 手手
と手と手と」●えぇ? テテテトテトト トテトトテテテッ!!


【さげ】
▲ごめん、ラッパの稽古屋はこちらさんですかいな?


【プロパティ】
 笠=笠付け。座の宗匠が上の5文字を題に出して、中の7字と下の5字を
   他の出席者が付ける(FPさんより)
 柳樽(やなぎだる)=「誹風柳多留」の略称。川柳。
 誹風柳多留(はいふうやなぎだる)=川柳集。167 編。呉陵軒可有(ごりょ
   うけんあるべし)ほか編。1765〜1840年刊。川柳評万句合から精選し
   前句を除いて編集したもの。24編までは初代撰の万句合から、以降は
   代々の川柳撰のものから編。柳樽。
 音源:1975(昭和50)年 稽古テープ(古今東西噺家紳士録)



【作成メモ】  ●参 照 演 者:main=桂文蝶 sub=*  ●main高座記録日:1975/**/**  ●音  源  名:(稽古テープ)  ●ファイル公開日:2001/01/07  ●江戸落語相当:雑俳  ●更  新  日:2001/01/21  ●リクエスト数:rakug246  ●注 意 事 項:内容を削除、追加、改訂している部分があります。           記録日のmain演者によるさげを採用しました。

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