【上方落語メモ第6集】その252

軽  石  屁


【主な登場人物】
 喜六  清八  駕籠屋  茶店の主人

【事の成り行き】
 昨年(2000年)、ちょっと首を突っ込んでるサークルの正月企画に参加する
ため、ブラウザ用の JavaScript 双六ゲームをこしらえました。大阪環状線
をぐるぐる回りながら、最寄り駅の神社仏閣に初詣するという、企画倒れの
しょ〜もない作品やったなぁ。

 で、最寄の神社仏閣の写真を撮るために、5回ほどに分けて環状線の各駅
周辺を散歩しましたんです。大阪・京橋・鶴橋・天王寺の半円側の各駅はよ
く乗り降りしてますんで、まぁ周辺の地理もおおよそ分かっていたんですが、
反対側、芦原橋・大正・弁天町・西九条・野田方面は遠くへ旅行しているの
と変わらない新鮮さでした。

 どうしてそんな感じを受けるのか、ちょっと分析を試みたところが、ポイ
ントとポイントが線で繋がらないという点にあるようなのです。線というの
は道のことで、一度も通ったことのない細かい生活道路はどこがどこに繋がっ
ているのか分からないわけですね。

 大阪市内という文字面に頭の中ではよく見知っているような気になってい
ても、現場は頭の中に描けていなかった。こら、費用と時間を掛けて海外旅
行するのも、数百円で環状線の散歩をするのも、ある種えろぉ変わらんのや
ないか……んなわけはないか。

             * * * * *

 喜六、清八といぅ馬の合いました大阪の若いもん。お伊勢詣りを済ませま
して、帰りに近江八景でも見物しょ〜やないかと道を北にとりまして、やっ
てまいりますのが鈴鹿の峠でございます。

●おい清ぇやん、今日はえぇ天気やなぁ■ホンにえぇ天気やなぁ。こんなえぇ
天気の日ぃはなぁ、しっかり道を稼いどかんといかんで。これから山道や、
雨が降ったら一歩も前へ進まれへんてなことが出てくるねん。しっかり歩か
なあかんで。

●分かった、こんな天気のえぇ日ぃはしっかり道を稼ぐねんな。そらそぉと
どっかで一服しょ〜か■お前、人の言ぅこと聞いてんのんか? しっかり歩
かないかんちゅうてるやろ●そら分かってるねんけどな、さっきから足が痛
とぉて歩かれへんねがな。どっかで一服しょ〜。

■難儀やなぁ、お前と旅してたらなぁ、五日で歩けるところが七日も八日も
掛かってしまうがな……向こぉに茶店があるやろ、あそこで一服しょ〜かい
なぁと思てたとこや、あそこまで辛抱し●なるほど、早よ行こ、早よ行こ。

■お婆ん、邪魔するで▲はいはい、お越しなされ■ちょっと休ましてもらう
で▲はいはい、どぉぞゆっくりしていっとぉくなされ。どぉぞ奥のほぉへお
越しになったらどぉじゃ■いやいや、ここでえぇ。こぉして街道を行く人を
見ながら腰掛けて休むといぅのも、旅の楽しみの一つやさかいなぁ。

▲そぉかいな、まぁご自由にな。茶(ぶぶ)お一つどぉぞ■おっきありがとぉ、
おい喜ぃ公、お前も早いとここっち来て茶ぁもらわんかい●あぁ痛ぁ〜、あぁ
しんどぉ。道は悪いわ、坂は急やわ、草鞋は足に食い込むわでボロボロや。
あぁ〜、しんど。

■お前ぐらい足ベタな奴も珍しぃなぁ。伊勢参りも帰り道や、そろそろ草鞋
に慣れないかん頃やないか。それが、いまだに草鞋に足食われてんねんさか
いなぁ●清ぇやん、何か? 草鞋て足食ぅか? へぇ〜、草鞋に口があると
は知らなんだなぁ■草鞋ずれができてるさかい、痛いんやろ、ちゅうてんね
ん●草鞋に口ねぇ…… 下駄に歯ぁがあるんは知ってるけどなぁ。

■いらんこと言ぅてんと、しっかり休んでしっかり歩かないかんねんで。ま
だ峠は半分しか来てないんやさかいな●待ってぇな清ぇやん、わしこの足で
はもぉ一歩も歩かれへんで■歩かれへん? こんな山ん中で野宿するわけに
もいかんやろ●何やったら、背たろぉてくれてもえぇねんけどね。

■何でわしが背たろわないかんねん……。喜ぃ公、向こぉ見てみぃ。渡りに
船とはこのこっちゃ、駕籠が一丁出てるやないか。ちょっと贅沢なよぉなけ
ど、あれに乗って行くことにしょ〜か。そのかわり言ぅとくけど、駕籠賃は
お前が二人分出さないかんで●よっしゃ分かった。ほな、向こぉ行って駕籠
賃応対してくるわ。

■ちょっと待った。あんまり足痛そぉにしたらあかんで。ここらに居る駕籠
屋、たちの悪いのが居るねん、足元見よるさかい足痛たそぉにするんやない
で●まかしといて、誰が足元なんか見せるかいな。

●おい、駕籠屋!◆へいっ●わしゃ何も足が痛いから駕籠に乗るわけや無い
けど、こっから水口の宿まで、足元見んと、何ぼで行ってくれる?◆こらま
た、嘘のつけん人がきたもんやなぁ……「足が痛いから乗るわけやない」て、
あんた足引きずりながらヒョッコヒョッコ歩いてくるのん、こっからよぉ見
えてましたで。

■……あ、アホか、あいつわ。あんなこと言ぅたら何ぼ取られるや分からへ
んがな……、おい喜ぃ公、戻って来い。わしが応対するから早よ戻って来い。

■駕籠屋、わしが代わるわ。といぅのが、今の奴ちょっとアホやねん◆だっ
しゃろなぁ……。一目でわかりましたわ■水口の宿まで何ぼで行ってくれる?
◆水口までやったら、せいぜい安すぅ行かしてもらいますんで。一分いただ
きましょかな。

■一分、高いなぁ。半分の二朱でどや◆二朱はきついでんなぁ、何とか一分
お頼の申します■ほな、もぉ一声、三朱でどや?◆何とか一分でお頼の申し
ます■駕籠屋。お前、商売下手やなぁ。こっちから三朱まで上げてるんやな
いか、はい分かりました言ぅて担いでみぃ「お、なかなか気持ちのえぇ駕籠
屋やなぁ」走った後で走り増し、酒手祝儀をはずもかっちゅう気になるねん。

■一分、一分と強情に言ぅてみ「それ以上一文も払うかい」いぅ気になるや
ろ◆それもそぉでございますなぁ……、分かりました三朱で行かしてもらい
ますんで、後であんじょ〜頼んます。そしましたら、お連れさんの駕籠を呼
んでまいりますんでちょっとお待ちを。

■何? お連れさん? ……あぁ、あれ。いやいや、あらいらん。連れみた
いな顔してるけど、あれはうちの奉公人や◆と言ぅことわ、あんさんどっか
の旦さんかいな?■そぉそぉ、こんな格好してるけど、実は越後の縮緬問屋
の大旦那でんねん◆こら、気がつかんことで、お見それしまして。

■といぅことで、駕籠賃なんかみな供の者が払うよってに向こぉでもろてき
て欲しい。ついでに、わしの荷物ももろてきといてんか◆そぉですかい、承
知しました。……おぉ〜い相棒よぉ、聞いてのとおり越後の旦那さんらしい。
わしゃ供の人に駕籠賃もろてくるさかい、乗ってもろてお履きもんなおして、
担げるよぉにしとけよ。

◆もぉ〜し、お供の衆●??…… わいのことか?◆旦さんがなぁ●旦さん
て誰やねん?◆旦さんがあんたから駕籠賃をもらうよぉに言ぅてなさった。
三朱になっとりますんで。それと旦さんのお荷物預かってくるよぉにと……
へ、確かにいただきましたんで。

◆おぉ〜い相棒よぉ、用意はできたかぁ〜。……ほな旦さん、ぼちぼちやら
してもらいますんで。しっかり肩入れよ、ウントショ、ハイッ、ホイッ、ハ
イッ、ホイッ……

■うほ、やっぱり駕籠は楽でえぇなぁ。お〜〜い喜ぃ公、駕籠は楽やなぁ〜
●あれ、清ぇやんもぉ一丁は?■断っといたでぇ〜〜●えぇ、そらどぉいぅ
ことや。ちょ、ちょっと清ぇやん、清ぇや〜〜〜ん……行てまいやがった。
待ちや、足痛いのんわしやで。駕籠賃払ろたんもわしやで。

●おかしぃとは思たんや、供の衆とか旦さんとか。……ぼやいててもしゃ〜
ないがな行くとしょ〜か。お婆ん茶代なんぼや、ってここもわいの払いかい
な。ほな、お婆んここに置いとくで、おおきにありがとぉ。

▲ちょっと待ちなされ。あんさん水口の宿まで行きなさんのかい? それやっ
たら街道を行ったらえらい遠回りじゃで、そこのお地蔵さんを左へとって行
きなされ。道は細いが一本道、あんたの足でも駕籠より早よぉに着けるやわ
かりませんでなぁ●ほぉ〜、こらえぇこと教えてくれた。おのれぇ〜〜

 教えてもらいました道をトットコやってまいりまして、やがて本街道と合
流します。

●痛ぁ、えらい目ぇに合わしやがったなぁ。清ぇやんの駕籠、もぉ行ってし
もたんやろかなぁ、ちょうどえぇ、煮売屋があるわ。ここで聞いたろ。……
親っさん邪魔するで★はいはい、お越しなされ●ちょっと尋んねるけど、こ
の前を水口へ向こて駕籠が通らなんだやろか? 若ぁい男が乗ってるんやが。

★駕籠は幾つも通っとります。駕籠は通っとりますが、若い男の乗った駕籠
といぅのはついぞ見かけませなんだなぁ●しめしめ、まだ来てないか……、
親っさんちょっと休ましてもらうで★どぉぞゆっくりしていきなされ。

●ムカツクなぁ、何であいつが旦さんでわしが奉公人にならないかんねん。
何とか仕返ししてやらんといかんぞ……。しっかし汚い煮売屋やなぁ、ふらっ
と入ったけど、何じゃこら……。親っさん、親っさんとこは煮売屋のほかに
荒物屋やってるんか?

★荒物屋といぅわけやありゃせんが、山深い田舎のことじゃで煮売屋だけで
は暮らせませんで、いろんなものを並べて万屋みたいなことしとりますじゃ
●ホンに、何じゃかんじゃ色々あるなぁ……、にしても並べ方がグチャグチャ
やなぁ。ザルが置いてある横に炭が置いてある、炭が置いてある横に卵が置
いてある、卵が置いてある横に軽石が置いてある……軽石、軽石?

●親っさん、酒は置いてるかい?★へぇへぇ、村覚めに庭覚めに直覚め……
は置いとらんが、地元の上酒を吟味して置いとります●結構けっこぉ、ほな
上酒五合(ごんごぉ)と軽石を三つ四つもらおか★はて、あんさん軽石つまん
で酒呑みなさるか?

●そんなことはせぇへん、金槌あったら貸してもらえるか。この金槌で軽石
を(コンコンコン)細こぉに砕いて……酒の徳利の中に入れる★そら、まじな
いか何かにしなはるんで?●わけ言わな分からんけどな、もぉじきわしの連
れが駕籠に乗ってここに来よる。駕籠屋に「一息入れたらどや?」と言ぅて
この軽石の粉の入ったお酒を呑ますねん。

★ほぉ〜、どないぞなりますのんか?●親っさん知らんかなぁ、昔から軽石
の粉を飲んだら屁ぇが出るてなこと言ぅやないか。軽石入りの酒を呑んで駕
籠を担ぎ始めるわ、屁がブゥブ〜でるわ、乗ってる奴は前と後ろから屁攻め
に遭ぉてもがき苦しむ、ちゅう趣向や。

★あんさん、大阪のお人でっしゃろ……、やっぱりなぁ、考えることが大阪
ですわ。わしゃ正直一途の田舎親爺じゃからして、そぉいぅ悪戯はなぁ、い
たって好きじゃ。穏やかな毎日に退屈しとりましたんでなぁ。ちょっと待ち
なされ、そんなもんそのまま入れてどぉするんじゃ。大きな欠けらが浮いて
すぐに悟られてしまうわいな。

★こっち貸しなされ。これはな、糠袋にする晒しの袋じゃ。この中へ軽石の
粉を入れましてな、口を硬とぉ縛って徳利の中へ入れますなぁ……。どぉじゃ
お客人、これなら目に見える欠けらは浮いてきませんじゃろ。

 いまや遅しと待ち構えております所へ、清八の乗りました駕籠がやってま
いります。

             * * * * *

◆ヘイッ、ホッ、ヘイッ、ホッ、ヘイッ、ホッ。旦さん、向こぉの煮売屋で
手ぇ振ってるのん、お供の衆と違いますかい■あ、ホンに先回りしよったな。
……そぉらしぃなぁ。駕籠屋はん、あそこであんたらも一服しぃ◆へ、ほな
遠慮なしに一服さしていただきます。

◆ヨッコラショ。お供の衆、あんたえらい早かったのぉ●茶店の婆に近道を
聞いたんや。そらそぉと駕籠屋はん、景気付けに一杯呑んでいけへんか◆か
まやせんのか?●かめへんかめへん、清ぇ……いや、旦さん、駕籠屋さんに
呑んでいただこ思いまして酒用意しましたんですが、どんなもんでっしゃろ?

■ほぉ、お前にしては気が付くなぁ、呑んでもらい呑んでもらい●駕籠屋さ
んお許しが出た、こっちおいで。さぁ一ついきまひょ◆えらいすんまへんなぁ
頂戴いたします。ク〜〜ゥなかなかえぇ酒ですなぁ、ちょっとモロモロする
けど●そのモロモロが上酒のネグチじゃ、遠慮せんともぉ一杯◆旦さんもさ
ばけたお方じゃが、お供の衆もよぉ気の付く人じゃ。ほな、お言葉に甘えて
もぉ一杯、ク〜〜〜〜〜〜〜ゥ

 軽石の粉の入りましたお酒を沢山呑んだのでございます。軽石の粉を飲む
と何ゆえに屁ぇが出るのかといぅ原理根本につきまして、少々ご説明申し上
げますといぅと、軽石といぃますのは火山の噴火爆発によりましてボッカ〜
〜ンと出ました火山性ガスがですね、ギュ〜ッと濃縮圧縮されたものなので
す。

 ですから、それが胃の中で溶けて再び元のガスに戻るといぅのは何の無理
もない理論なのであります。それが証拠に火山性ガスの臭いと、屁ぇの臭い
は時として全く区別がつかないといぅ現実が事実を物語っております。

 駕籠屋さん、えぇあんばいに呑んでおりましたんですが……、

■さぁ、そろそろ行こか。足元、大事ないか?◆アホらしい、これしきの酒
で足元取られるよぉな素人と違いますわい。どぉも旦さんごちそぉさんでし
た。ボチボチ担がしてもらいますんで……、おい相棒肩入れ▲ほいきた、行
くぞ。イョットショ(ピ〜〜〜〜〜)

◆こらこら、ちょっと降ろせ。お客を乗せて行儀の悪い、屁ぇこいてどない
すんねん▲どないするて、出物腫れ物所かまわずやろ◆ゴジャゴジャ言わん
と旦さんに謝れ▲……旦さん、えらいひつれぇ致しまして◆気ぃ付けよ、もっ
ぺん肩入れイョットショ(プォ〜〜〜〜〜)

▲おいおい、お前こそ何やねん人にやいやい言ぃながら屁ぇこいて、しかも
お前は先棒やぞ、旦さんの顔へまともに掛かったやないか◆今のはなぁ、お
前につられてやってしもたんやないか。旦さん、わしら行儀も何も知りまへ
んので堪忍してもらいますよぉに(スゥ〜〜〜〜〜)

▲こら、謝りながらこく奴があるかい。ちょっとは慎め(ピッ)、ありぃ〜?
何でこないに腹が張るねん? イョットショ(ピ〜〜)、ハイコラ(プ〜〜)
◆イョットショ(ポ〜〜)、ハイコラ(ペ〜〜)▲イョットショ(ピ〜〜)、ハイ
コラ(プ〜〜)

■ちょ、ちょっと、降ろしてちょ〜だいか。前と後ろで掛け合いでやられた
らたまらんで◆えらいすんません(プリ)■ここで降りる、降ります、堪忍し
てちょ〜だい。向こぉまで着いてないけど、走り増し上げますよって降ろし
てちょ〜だいませ◆えらいすんません、ありがとぉございま(スゥ〜〜)

■喜ぃ公、何をゲラゲラ笑ろてんねん●清ぇやん楽しかったやろ? 今のん、
わいの趣向■趣向て何や?●さっき駕籠屋に呑ました酒の中に、軽石の粉入
れといてん■軽石、悪いやっちゃなぁ〜、それでプゥプゥいぅてたんか。何
でそんなしょ〜もない事すんねん●元はといえばお前が悪いねん、わしをお
供扱いにするし、茶代払わすし、駕籠賃払わすし。普段からわいのこと馬鹿
にしてるから、当て擦りでやらしてもらいました。


【さげ】
■当て擦り? ……それで軽石使こたんか。


【プロパティ】
 しんどい=疲れた。
 背たろう=背負う。
 脚色:小佐田定雄氏
 音源:2001/01/04 九雀じゃーなる(OBC)

 「東の旅」シリーズ
  東の旅発端七 度 狐鯉津栄之助うんつく酒 → 
  常太夫義太夫軽  業軽業講釈三人旅浮之尼買 → 
  軽 石 屁矢 橋 船宿 屋 町こぶ弁慶三 十 石


【作成メモ】  ●参 照 演 者:main=桂九雀 sub=*  ●main高座記録日:2001/01/04  ●音  源  名:九雀じゃーなる(OBC)  ●ファイル公開日:2001/02/18  ●脚    色:小佐田定雄氏  ●更  新  日:2001/03/04  ●リクエスト数:rakug252  ●注 意 事 項:内容を削除、追加、改訂している部分があります。           記録日のmain演者によるさげを採用しました。

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