【主な登場人物】
字に疎い男 その嬶(かか) 薬屋
【事の成り行き】
いま手元を見回して置き薬といえば龍角散、傷絆創膏、タイガーバーム軟
膏くらいしか見当たりません。わたし基本的に薬に頼らない体質ですから、
少々の傷や喉の痛み、クシャミ鼻水、目の疲れなどは自然治癒力に任せてし
まいます。
ところが世の中薬好きの人が多いとみえ、最近、駐車スペース付きの巨大
薬屋さん「ドラッグストアー」の数がめっぽう増えてきました。カーゴを押
しながら薬を買い込むイメージを思い浮かべるのですが、皆さんスナック菓
子でも食べるように薬を飲まれているのでしょうか。
よく健保・国保の薬無駄遣いが話題になるようですけど、薬大好きな日本
人ですから将来的にも改善される見込みは少ないでしょう。アメリカンスラッ
グの「ドラッグ」はその筋の薬のこと、国が認めたドラッグ(大衆薬)であっ
ても、多かれ少なかれ習慣性・依存性という危険のあることをお忘れなく。
今回の「目薬」はそれとはまた違った危険をはらんでいます。
* * * * *
字ぃ知らん奴が目ぇ患ろぉた、なんて噺があります。字が一字も書けん読
めんといぅ不器用(ぶっきょ〜)な奴、目がかすんでしょ〜がないといぅんで
近所の薬屋、昔のことですから漢方薬屋、生薬(きぐすり、しょ〜やく)屋と
いぅやつを訪ねます。
●ごめぇ〜ん、おじゃまはんだす。目ぇがかすんでしょ〜がおまへんねん、
何ぞえぇ薬おまへんやろか?■ちょっと待ちなはれや。……これがよぉ効き
まんねん、これ持って帰って点しなはれ。中に効能書きが入ってまっさかい、
それ読んでその通りしとくなはれ。
この薬屋の番頭が親切な奴なら良かったんですが、いたってズボラな奴。
「中に効能書きが入ってまっさかい、それ読んでその通りしなはれ」と出し
よった。片一方は昔の人間です、字ぃ知らんの恥やと思てまっさかい「わた
い字ぃ知りまへんねん、効能書き読めまへんのんで教えとくなはれ」よぉ言
わんのです。
「さよか、効能書きが入ってんねんやったら分かりますわ」偉そぉな顔し
て金払ろて帰ってきよったんですなぁ。字ぃ知らんとこへ目ぇ患ろぉてまん
ねん、読めるわけがない。家帰って難儀しとぉる。
●えらいことしたなぁ、やっぱり向こぉで尋んねたらよかったなぁ「聞くは
当座の恥、聞かずは末代の恥」っちゅうけど、点しよぉが分からなんだら何
のために薬買ぉてきたんや分からんがな……。待てよ、この一番上の字ぃ、
こいつどっかで出会ぉたことあるで……、割とちょいちょい見る顔やがな。
●あぁ、風呂屋で出会うねや、こいつと。風呂屋の暖簾に書いたぁったで。
……わいがいつも入るのんこっち側やろ、向こぉ側やさかい……、ほほぉ〜、
こら「女」ちゅう字ぃやな。
「女」と読んだらいかんのです。ひら仮名で「めじりにさすこと」と書い
てあったその一番上の「め」を女湯の「女」やと思いよったんですなぁ。風
呂屋の暖簾に書いてある字といぅのは、ちょいと崩して丸みが付いてます。
「女」といぅ漢字の崩したやつ、ひら仮名の「め」。ややこしい人にとっ
てはややこしいんでしょ〜が、一番上の「め」を「女」と読んだもんですか
ら、あとがみな間違ごぉてきたんです。
●女……、しりに……、さすこと。……?? ケッタイな目薬やなぁ、俺の
目ぇが悪いねんで。俺の目ぇが悪いのに、人のケツにこの薬つけて俺の目ぇ
に効くんやろか? 「効能書きの通りしてください」ちゅうとったしなぁ。
手近なとこで女いぅたら、嬶しか居れへんがな……
●おい、嬶。ちょっとこっちおいで。表の戸ぉ締めて、こっち来てケツまく
れ▲何を言ぅてんねやろこの人わ。まだお日さんが高いやないか、昼ひ中か
ら何をする気やねんな……。晩にしなはれ、晩に。
●アホ、それと違うねんそれと。「戸ぉ締めてケツまくれ」言ぅたらそれや
と思いやがって、他に楽しみ無いんか……。違うがな、俺が目薬点すさかい
ちょっとケツ出せっちゅうねん▲あんたの目薬とわたいのオイドとどんな関
係があるねん?
●知らんがな、そないせぇて効能書きに書いたぁんねやがな。表、戸ぉ締め
てこっち来てくれ。鍵かけとけよ、誰ぞガラッと開けたらビックリせんなら
んぞ、お互いに。……そこへうつ伏せになって四つんばいになれ。頭そっち、
ケツこっち。なるたけ頭低くしてケツ持ち上げて……。夫婦やろが、これぐ
らいのこと協力してもらわな……
●ほぉ〜〜〜!▲これ、何を感心してるねん?●こんなもん落ち着いて見せ
てもらうのん初めてやさかいにな、いつでも忙しい最中にチラッと見るだけ
やから……。おい、これ粉薬やけど、そんなとこへうまいこと乗るやろか?
なるべくケツ上向けといてや。
●……ここへ付けたやつが、こっちへ効くか? まぁ、やってみるけど……、
ボチボチいくで……。こら、ピョコピョコすな。じっとしとれ。
嫁はんも亭主のためやと思やこそですなぁ、昼ひ中ケツまくって天井向け
て。粉薬がパラパラくるもんでっさかい、こそぼてしょがない。こそばいさ
かいいぅて笑うわけにいかず、動いたらいかんと思いまっさかい、何とか辛
抱しよる。
グッとこらえるひょ〜しにお腹へ力が入って「プ〜ッ」
●わ、わぁ〜 無茶すな、人が覗き込んでるとこ、モロにかましやがって。
【さげ】
●……お、お。なるほど。この薬やっぱりこないして点すねんわ。
【プロパティ】
音源:1997/08/03/上野鈴本 とっておきの艶噺(クラウン)
【作成メモ】
●参 照 演 者:main=露の五郎 sub=*
●main高座記録日:1997/08/03 ●音 源 名:とっておきの艶噺
●ファイル公開日:2001/08/19 ●江戸落語相当:*
●更 新 日:2001/09/09 ●リクエスト数:
●注 意 事 項:内容を削除、追加、改訂している部分があります。
記録日のmain演者によるさげを採用しました。
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