【上方落語メモ第6集】その281

鼠  の  耳


【主な登場人物】
 未亡人の御寮人(ごりょん)さん  飯炊きの権助
 女衆(おなごし)  村人

【事の成り行き】
 五郎師お得意の「艶笑落語」です。際どいを通り越してそのものズバリの
表現となっておりますので、R指定とさせていただきます。お子ちゃまの心
をお持ちの方、もしくは何でも受け入れる広い心をお持ちでない方、この先
読み進まない方が心の安全、身の安全。

             * * * * *

 あるご大家で旦さんがお亡くなりになり、御寮人(ごりょん)さんが後家さ
んにおなりあそばします。しっかりした人でっさかいに店はピリッともしま
へん。その日もお商売が終わりまして大戸閉めてみなそれぞれ寝てしまいま
す。

 女衆(おなごし)さんの部屋で三、四人が寄って、夜なべしながらぺちゃく
ちゃ話してる。

★お竹はん▲へぇ★ご互いに亭主に別れてからこの歳やろ、不自由なときは
不自由やなぁ▲あんた、まだその気があんのんか?★そらたまには思い出す
わいな。ほなお竹はん、あんた思い出せへんか?▲そら思い出さへんちゅう
たら嘘になるけど……

★ほな、どないすんねん?▲どないすんねんて、あんたどないしなはんねん?
★どないて……、わたい、指でするわ▲指で? 指で足る? わたい頼りな
いわぁ。せやからこないだおナスでしたん。せやけどアクが出るさかいなぁ、
あとが軋(きし)ついてどんならんわ。

◆あんたおナス? おナスはもひとつえ。大きい小さいがあるやろ……、わ
たいこの頃お芋さんでするのん。新芋やったら、ところどころ瘤があるさか
いにえぇ具合え★さつま芋、えぇのん? うちも今度お芋さんでしてみよ。

 話してると横手でおとなしそぉに縫いもんしてたんが、

■さつま芋やら、おナスやらて、よぉそんなこと言ぅたはる……★あんた、
そない人をバカにしなはんなや。あんたら若いよってにどないでもなるか知
らんけど、わたいら……■いいえ、そぉいぅ意味やないのん。そらわたしら
かてホンマもんに越したことないけれども、ホンマもんばっかしちゅうわけ
にいかへんねんさかい、たまには代わりも使いますけど。

★あんた、おナスとかお芋さんと違うのん?■わたしら違います★ほな、何
使うねんな?■わてどすか、わては長芋。あれ太さもちょうどよろしぃし、
手ごろなん買ぉてきて刻んで段付けたらどないでも段付きまっしゃろ。ほん
で、あのヌルヌルが出て、ウジウジしてえぇ具合。

★まぁ〜、そぉ〜、長芋なぁ〜。知らなんだわぁ〜……

 誰ぁれも聞いてるもんがない、女同士やと思いまっさかいワシャワシャ、
わしゃわしゃ話してた。御寮人さんが通りかかってこの噺をヒョイっと耳に
挟みはった。

●おナス、さつま芋、長芋……。ほんに、あの人と死に別れてからだいぶご
無沙汰やったわぁ……。いっぺん、その長芋ちゅうのん試してみよかしらん。

 さぁ、常日ごろ物買いに出たことのない人ですが、明けの日こそ〜っと長
芋買ぉてきて、奥のひと間でこれをシュシュ〜っとえぇ恰好(かっこ)にこし
らえて、

●われながらよぉ出来たわ。わたい、こない器用やと思わなんだ……、反っ
ための長芋があってよかったわぁ。

 晩になるのん待ち焦がれてござる。晩になると早よぉから「お店の衆、今
日は早よじまいにしてお休みなされ、たまには骨休めせないかんさかい……」
店の衆みな寝かしてしもた。

 ひとりでお部屋へ引き取りまして、寝床でためつすかしつ「……見てるだ
けで唾湧いてくるわ……。上も下も……」

 さぁ、久しぶりでっさかい、俗に「ぬかろく」抜かず六番とか言ぃますけ
ど、ぬかろくどころかぬかひち、ぬかはち、ぬかとぉ、ぬかじゅうに、ぐら
い。しまいには行き過ぎて気ぃ失のぉて、長芋挟んだまま寝てしもた。

 夜はしだいに更けてまいります。「嫁が君、出でてめでたし、今朝の春」
てなことを申します。嫁が君、鼠のことですなぁ。天井をバタバタ走り回っ
てたやつが、夜中になって人気がのぉなると「何ぞ美味しいもんないかいな」
天井からソロソロ降りてきよった。

 ひょっと見ると……

▼あら? おかしいなぁ、御寮人さんいつから男にならはったんやろ? こ
んなとこにこんなん無かったはずやのに、何や突き出したぁる……。あ、男
にならはったんちゃうわ、長芋や。長い間こんなご馳走よばれてないなぁ。
ちょっとよばれたろ。

 鼠が長芋をボチボチ食べ始めよった。久しぶりの好物でっさかいにポリポ
リ夢中になって食いよる。長芋食いながら頭の方が段々入って行きよる。

▼おぉ、このへんちょっと味が違うなぁ。長芋のチーズあえかなぁ……

 思いながらガリガリがりがり、中の方まで食べて行きよった。御寮人さん、
気ぃ失のぉて寝てはったんですけど、中の方へゴソゴソ入ってきたらどない
よぉ寝てたかて目ぇ覚めますわなぁ。

 ひょっと気が付くと鼠、あらかた中へ入ってしもてシッポだけがチョロッ
と外へ出たぁる。

●あんな大きかったんがこんな細なったぁる? 縮んだんかしら? 何や動
いてる……。ね、鼠やわ。入れたままにしといたさかい、鼠が食べもって中
へ入りよってんわ。何とか引っ張り出さな……

 シッポつまんで引っ張り出そと思てつまみにいったんですけど、鼠かてマ
ゴマゴしてまっかいな。つまみに来たと思うとシッポぐちシュッと中へ入っ
てしまいよった。

●あっ……、どないしょ。……、飛んださかいいぅて出るもんやないわなぁ。
けど、こんなもんが中噛み破っても怖いし、かといぅてお医者はんへ行くわ
けにもいかず……、店の人呼ぶわけ……、そや!

 ふっと思い付きましたんが田舎から飯炊きに来てます権助といぅ、ちょっ
と頭が二分ほど足らん奴。「あれ、ボ〜ッとしてるさかい、うまいこと言ぅ
て……」そっと権助の部屋へ忍んでまいります。

●これ、権ちゃん。権助、起きなはれ■……ん、ご、御寮人さん。な、何で
ございます。お呼びでございます?●これ、大きい声出しなはんな。あのな、
ちょっと内緒であんたに話があるのん。奥へ来とぉくれ■へ? わたし?

●大きな声出すんやないのん。奥のな、私の部屋へ来て■あのぉ、御寮人さ
まのお部屋でございますか? 御寮人さまがお休みになってるお部屋へわた
くしが? そげなことして、お店のもんに……●お店のもんやら見咎められ
たらいかんのやさかい、そぉ〜ッと、そぉ〜ッと来て。さ、早よおいで。

■こげな事があってえぇもんでごぜぇますかのォ●そこ、座わんなはれ。こ
れからわたいの言ぅこと、誰にも言ぅてもろたら困るで、えぇな。誰にも言
わんといてや……。ちょっと、あんたのもん出しておみ■はぁ?●あんたの
ん出してみなはれ、言ぅてんのん。

■……、これでごぜぇますか? 出すのはよろしごぜぇますが、ごげなむさ
苦しぃもん……●むさ苦しぃてもかめへんのん、出しなはれ……。長芋より
こっちの方が……、よっぽど……、えぇわぁ……、立派やわぁ……。あのな、
それ入れてえぇのん。

■へっ?●さ、おいなはれ……■ほいじゃまぁ、真っ平ご免くれなっせ。

 さぁ権助、こんな事があってえぇのんやろかしらん。有頂天でございます。
隆々としたやつをばグッとあてごぉてきよった。いっぽう鼠「さっきから何
かゆらゆら揺れるなぁ」思いながら残りの長芋一生懸命食べてると、後ろの
方から……

▼ん? さらの長芋が来よった。食いさしより、さらの方へ回った方がえぇ
わなぁ。

 鼠、グルッと向きを変えると入ってきたての方へ向こてガブッ!「ギョ、
ギャ〜ッ!」飛びのくひょうしに食いついたまま、鼠がスポ〜〜ンと飛んで
出よった。表出るなり「チュ、チュ、チュ〜ッ」

■も、もぉちょっとで食い千切られるとこでございました。わたしゃおなご
といぅもんを知りませなんだ、迂闊でございました。おなごのあそこには鼠
が住んどるちゅうこと知らなんだ●大きな声出しなはんな。こんなこと人に
言ぅんやないえ。その代わりこれ上げるさかい、このお金持って郷(くに)へ
帰って何なと商売しなはれ。明日の朝、すぐに暇とってスッと帰んなはれや。

 と、大枚のお金をいただきまして郷へ帰ってきた。小判で何十両といぅ金
を持って帰ってきたもんでっさかい、田舎では大きな騒ぎです。

★新田の権助が大阪へ出て、えろぉ金儲けて帰ってきたそぉな◆そぉじゃて
なぁ、村じゃ一分足らんとか二分欠けるとか言ぅてたが、大阪へ出て金儲け
て帰ってくるところを見ると、よっぽど見込みがあるに違いない。何とか、
うちの娘もろてもらいたいもんじゃなぁ★お前んとこじゃ役不足じゃ。うち
の娘をもろぉてもらうべ。

 大阪から大金を持って帰ったといぅんで、あっちこっちから縁談が降るよぉ
にあるんですが、この権助いっかな聞かん。

■いや、わしゃ嫁はもらわん▲大の男が嫁もらわな、世間様に対して面目な
いねん。嫁もらい■もらわん! 嫁は要らん▲要らんて言ぅたかて、年頃に
なって居てなかったら不自由するで■要らん。不自由はせん、わしゃ手があ
る、右手でやる。女のあそこには鼠がおる。

▲ケッタイなやっちゃなぁ、居れへんてそんなもん。おなごのあそこに鼠が
住んでたりするかいな■いんや、居る。おなごのあそこには鼠が巣くぅとる、
鼠にかぶられる▲そんなアホなことあるかいな、そらなんぞの間違いや■い
んや、鼠が居る。

▲せやけど、こんだけの縁談があるんやさかい、どれなと一人ぐらい鼠の居
らんのんおるて、鼠の居らんのん……■そぉか? けど、わしゃ姿かたちだ
け見て承知はせんぞ。あそこ調べてみて鼠が居らなんだらもらう▲そら、見
合いちゅうけど、あそこの見合いちゅうのは聞いたことないで。

■いんや、わしゃあそこ見て、鼠が居らなんだらもらうが、居ったらもらわ
ん。

 もぉアホの一念です。けど、ちっぽけな村でございますから、これだけの
お金を持って帰ってきた人がない「少々恥ずかしぃのんは我慢します、あの
人の嫁になりたい」ちゅうのんがあったんですなぁ。

 「調べてもろて結構です」いぅことになりまして、見合い、あっちの方の
見合い。娘さんも嫁入りしたい一心です。恥ずかしぃのんこらえて前を広げ
て、

■もちっと、足広げてくださりまっせ。もちっと、足。ガバッとガバッと広
げてくださりまっせ……。お、おとろしやのぉ、やっぱり鼠が居る▲そんな
ことあるかいな、どこに鼠が居てんねんな■い、居てる。見てみなはれ……


【さげ】
■鼠の耳が見えてる。


【プロパティ】
 軋(きし)む=物と物とが強くこすれ合って、きしきしと音を立てる。
 ためつすかしつ(:矯めつ眇めつ)=いろいろな方からよく見るさま。
 嫁が君=鼠の異名。特に新年に鼠をさしていう忌み詞(ことば)。
 音源:露の五郎
    1983/12/10/第69回もとまち寄席恋雅亭 廓噺艶噺集成(クラウン)


【作成メモ】  ●参 照 演 者:main=露の五郎 sub=*  ●main高座記録日:1983/12/10  ●音  源  名:廓噺艶噺集成  ●ファイル公開日:2001/12/23  ●江戸落語相当:*  ●更  新  日:2002/01/06  ●リクエスト数:rakug281  ●注 意 事 項:内容を削除、追加、改訂している部分があります。           記録日のmain演者によるさげを採用しました。

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