【主な登場人物】
ご隠居 お世話役の定吉 借家の方々ほか
【事の成り行き】
ここ数年、世間ではリストラの大波が寄せては返してます。意ならず早期
退職を強いられた人にはまことにお気の毒ですけど、中には割増の退職金+
就職活動準備金の名目で予想外の大金を前にして、自主的に早々隠居を決め
込む人も居られるようです。かくいうわたしもその一人なのですが。
こうなりますと高齢化社会への移行とあいまって世の中、ホンモノの隠居
さんとポッと出の隠居が溢れかえるという事態になります。そこで問題にな
るのが正しい隠居生活の過ごし方ですね。
なにぶん急な生活変化のことですから、毎日をどのように過ごせばよいの
か思い悩み、果ては鬱病という可能性も無きにしも有らずです。ここは一つ、
隠居生活に長けたその道のお師匠さんから隠居道の手ほどきを受けて、先の
長い人生をいかに楽しく過ごすか教えを請わなければなりません。
まず各地方自治体に「隠居管理委員会」なる組織を創り、隠居のベテラン
が隠居未熟者にノウハウを伝授する施設を準備します。そして毎日楽しく遊
んでなおかつ世のため人のため自分のためになる、そのような生活を指導す
るわけです。
隠居未熟者は日々研鑚を積み仮隠居から本隠居へ、やがて師匠も認める立
派なご隠居へと成長します。もうこれ以上何も教えることはなくなった。と
なると、卒業証書が贈られます。これを称して「隠居改善」と言うとか言わ
ないとか。
* * * * *
ここにございましたんが大阪のさる大家の旦那でございます。我れ一代で
身上(しんしょ)を創り上げ、あとは息子さんに譲りまして、ただ今は楽隠居
といぅ身の上。
郊外に一軒の隠居所を買い受けまして、離れがお茶室になっております。
長屋が三軒付いておりまして、このお家賃でご隠居の賄をしよぉといぅ。丁
稚の一人も連れてやってまいりましたんやが、何と申しましても仕事一途の
お方でございますんで趣味といぅものがございません。
日がな一日ボォ〜っとしておりますある日のこと……
■定吉、これ、定吉、定ぁだぁ吉ぃちぃ●へぇ〜〜い■「へぇ」やないで、
こなたが居ってくれなんだら用事が済まいでどもならん。どこ行ってますの
じゃ●ご町内を見てまいりました■ご町内を見てきた。ほぉ、どぉじゃった
な?●船場と違いましてな、まことにこちらは寂しい所です。
■寂しいと言ぅヤツがあるか、それも言ぅなら風流に「閑静な」と、こない
言ぃなはれ●なるほど、閑静な。へ、閑静で寂しい。表歩いてましてもな、
猫の子一匹居てしまへんで。生垣がず〜っと並んでましてな、中からコロリ
ンシャンとえぇ音が聴こえてきます。何かいなぁと覗ことしたんでっけど、
生垣が邪魔で見えしまへんねん。しゃ〜ないなと思て生垣をベリバリ、ボリ
バリッと……
■これ、何といぅ事をすんのじゃ。よそさんの垣根を壊したり、覗くてな、
そぉいぅ行儀を誰から習ろたんじゃ●誠に相すまんこって■よそさんの家の
中を覗くてな……、それで、何をしてなはった?●へ、中で別嬪の嬢(とぉ)
はんがお琴を■琴を弾じてなはったか●いえ、掻きむしってましたで。目ぇ
が座ってバリバリィ〜、バリバリィ〜■まるで有馬猫じゃがな。
●そのお隣のお家では、これも別嬪のとぉはんが活花を■これも風流な遊び
じゃなぁ●そのお隣りでは……■お前は町内全部、覗いてるんか●へぇ、こ
こではお爺さんがお盆の上に石やとか砂置いて、トンビの羽みたいなもんで
コチョコチョと■盆画・盆石といぅてな、これもまた風流な遊びじゃ。
●ご隠居さん■何じゃ?●人さんのこと「風流じゃ、風流じゃ」言ぅてなは
るけど、ご隠居はんも何ぞしはったらどぉでおます■いやいや、わしはなぁ
小さい時分から仕事一途でな、大体うちの家といぅのがそぉいぅ風流な遊び
とは縁遠かったんでな●けど、船場の旦さんは「茶の湯」しはりまっせ。あ
れしまひょ〜な、あれよろしぃわ。第一お菓子が食べられまっしゃろ、あれ
しまひょ〜な。
■そぉは言ぅが、茶の湯はなかなか難しい●ご隠居はん、知らはれしまへん
のんか?■知らんわけはないが、随分と昔に覚えたんで忘れたところがあっ
てな●忘れたところと言ぃますと?■些細な、どぉでもえぇよぉなこちゃが
●何を忘れなはった?■何を忘れたっちゅうて、茶碗の中に入れる青い粉が
あるなぁ、あれ何や忘れた●青い粉? ん、買ぉてきます、お金おくなはれ
行て参じます。
* * * * *
●へ、買ぉてきました●何を買ぉてきた?●横町の乾物屋で青黄な粉を買ぉ
てきました■それじゃ。長いこと忘れてたんを、今思い出した。
ご承知のよぉに茶の湯の方では炭を一つ注ぎますのでも「炭手前」といぅ
ややこしい作法がございますが、そぉいぅことは一切(いっせつ)お構いなし
でございます。
「これさえあれば茶の湯はできる」といぅんで、きれいに切ってある炉、
その上に炭を山積みにいたしまして、殻消しを乗せて火のタネを置きますと
いぅと、渋団扇でバタバタバタ……、何じゃ茶の湯やらサザエの壷焼きやら
分からんといぅ。
■どぉじゃ、定吉、湯が沸いてきたぞ。はじめのうちはチリチリン、コロコ
ロンといぅてた釜が、ガバガバン、ブクブクンといぅて……、風流じゃなぁ
●風流でございますか?■さぁ、道具を持って来い道具を。今から入れてや
るぞ。
■こなたは初めてじゃったなぁ、初めてならば粉は三杯……、もぉ一杯おま
けじゃ。ここにこの湯を……、定吉そこの杓をこっちかせ●杓? これです
か? また柄の長い杓でおますなぁ……、そぉか、柄が長いと臭いがこっち
へ来るまでに汲めるといぅ、糞(ばば)汲みとおんなじ要領か■汚いことを言ぅ
な、こりゃ風流な遊びじゃぞ。
■あ、熱つぅ、蓋が熱つぅて持てんぞ。そこに雑巾(ぞっきん)があったじゃ
ろ持って来い●これでやすか?■また贅沢なもんじゃのぉ、雑巾のくせに絹
であわせになったぁるぞ……、湯ぅを入れて、あとは泡が立つまでバシャバ
シャと……、ん? おかしぃなぁ……
●どないしはったんで?■ちょっとも泡が立たん●泡? へ、あれ入れたら
泡が立つ、買ぉてきます。
* * * * *
●ただいま、行て参じました■何を買ぉてきたな?●へ、椋(むく)の皮でお
ます。
昔、石鹸の無かった時分に洗濯をするのに使こぉた椋の皮といぅヤツでご
ざいます。こいつを煮えたぎってる釜の中へ放り込みまして十分に掻き回し
たもんやさかいたまらん。
●わ、わ、わぁ〜ッ。ご隠居はん、えらいことになってますなぁ。お釜から
泡が盛り上がってまっせ■いやいや、案ずることはないぞ。この湯を用うれ
ば……、シャカシャカ、シャカシャカ……、どぉじゃ●わ、わ、わぁ〜ッ。
今度は茶碗から泡が盛り上がってまっせ■かまわん、飲め。
●ご主人をさしおいて飲むやなんて、ご隠居さんからどぉぞ■いやいや、今
日はそちが客じゃ●いやいや、今日はそちが隠居じゃ■おんなじよぉに言ぅ
てくさる。何、飲み方が分からん? それでわ……、高い茶碗じゃで落とし
たらもったいない、両手でしっかり持って、これを三べん回すんじゃが……、
どっちへ回したい? 右か左か……、まぁそんな細かいことはどぉでもえぇ
んじゃ。
■これを飲む、飲もぉとすると、鼻に泡が付くなぁ。この泡を向こぉへ吹く
なぁ……、ほぉ〜、また戻ってくるなぁ。この戻らん隙を狙ろてじゃ、フッ、
ん〜〜〜〜っ、うっ……、風流じゃなぁ。
●風流でおますか? わたいもいただきます。これをフッと吹いて戻らん隙
を狙ろて。盗人の稽古でやすか?■いらんこと言わんと飲みなはれ●いただ
きます。ふっ、ん〜〜〜〜ッ■飲み込め●うっ……、ふ、風流でおます。
風流じゃ風流やといぅ訳で、三度三度、食前食後の茶の湯といぅのをやっ
ております。十日もいたしますといぅと……
■さ・だ・き・ちぃ〜、さだきちぃ●へぇ〜〜〜■こなた、顔の色が悪いが
どぉした?●お腹が下って下って……、ご隠居はん、もぉ茶の湯やめまひょ〜
な■お前もお腹が下ってるか? わしもそぉじゃ。昨夜(ゆんべ)なんかお手
水へ十六っぺんも行った●わたい、いっぺんで済みました■若いだけにえら
いなぁ●せやおまへんねん、いっぺん入ったら出られしまへんねん。
●なぁ、ご隠居はん、もぉ茶の湯やめまひょ■何を言ぅ、途中でやめるわけ
にいかん●それやったら、誰ぞほかの人呼んどくなはれな、船場の旦さんと
か■せがれか? あらあかん、ホンマもんを知ってる……、いやいや、お流
儀が違う●お流儀てなもんがおますんか?■当り前じゃ。師匠に「必ず他流
試合はならん」ちゅうて言われてるでな。
●ほな、誰ぞ別の人呼んどくなはれな。そや、お長屋のお三人、あれ呼びま
ひょ〜な■長屋、といぅたら理屈の多い豆腐屋と大工の棟梁と手習いの師匠。
いかんいかん、あぁいぅ連中呼ぶ訳にはいかん。お作法の、お手前のといろ
いろ難しいこと言ぃよるで……
●言わさしまへん、そんなこと言ぅたら「借家人の分際で、家主に生意気な
口利くとわ。すぐに家空け」ちゅうて言ぅたります■そんな無茶なことがで
きるかいな●できます。わたいばっかり犠牲になるのん嫌でっさかいに……
* * * * *
▲定吉っとん、ご苦労はん。旦さんによろしゅ〜にな……。ホンマ勢っきょ
いのえぇ丁稚さんやで、尻押さえて飛んで帰りよったがな。ご隠居はんから
手紙かいな、何なに「前略ご免下されたくそろ」さすがえぇ手したはるなぁ
「さて、突然ながら本日拙宅にて茶の湯いたしたく、是非ぜひお越し……」
▲何? 「拙宅にて茶の湯いたしたく」……、嬶(かか)、えらいことなった
★どないしはったんや?▲家主が茶の湯するさかいに飲みに来いっちゅうて
んねや★よろしぃがな、仕事片付いたんやさかい、キュッキュ〜ッと二、三
杯ひっかけて来なはれ▲酒呑みに行くねやないで、茶の湯と言ぅたらお作法
のお手前のいろいろ難しいことがあるんや。
★あんた、知ってんのん?▲知らんがな。知らんと行ったら恥をかくっちゅ
うねん。かか、宿替えしょ〜か?★たかが茶の湯ぐらいで宿替え? この店
こんだけにするんに、どんだけ苦労したんや。朝は早よ起きて厚揚げ厚した
んは何のためや? ちょっとでもお客さん増やそと思やこそやないか。
▲ほな何か、お前は亭主が恥をかいても厚揚げは厚い方がえぇっちゅうのん
か。分かった、わしと別れて厚揚げと所帯持て★何を言ぅねやいな……、羽
織着てどこ行くんや?▲大工の棟梁とこや。
* * * * *
◆大きいもんはあとにせぇ、小さいもんから先片付けていくねんさかい。何?
茶碗がガタつく? 鍋の中にボロを入れて茶碗を入れて、またボロを入れて
茶碗を挟むんやがな、ちょっとは気ぃを回せ気ぃを▲こんちわ◆お、誰やと
思たら豆腐屋の大将やないか。羽織着てどないしたんや?
▲えらいお取り込みで?◆実はなぁ、急な宿替えっちゅうことになってなぁ
▲宿替え? そらまたどぉいぅ訳で?◆恥言ぅけどな、家主のとこから手紙
が来たんや「茶の湯するさかい飲みに来い」っちゅうて。こっちは大工やが
な、茶の湯やなんて知らんがな。けどもや、男として売られた茶の湯、ケツ
見せるわけにいかんやろ「立派に立ち向かう」と言ぅたがな。
◆したら、かかが飛び出してきて「あらお手前とかお作法とか難しいことが
ぎょ〜さんある。それ知らんと行ったら恥をかく」またお婆んが出てきよっ
て「うちゃ先祖代々恥かいて笑われたもん一人も居らん」そばで若い連中は
「あの家主め、ゴンと一発いてまお!」えらい荒れてしもてな、ここはひと
まず宿替えをして熱さまそと思てな、宿替えっちゅうことになったんや。
▲あさよか、実はうちもそぉだんねん。といぅことはでっせ、うちへ来てお
宅へ来たら手習いの師匠のとこへも行ってるはずでおますわ。あのお方、元
はお侍の出ぇでっせ。飲み方ぐらい知ってまんがな、それ真似したら宿替え
せんでも済むのんちゃいますやろか。
◆おっ、えぇとこへ気が付いた。かか、かかかか、宿替え待った。ちょっと
羽織出せ、羽織。手習いの先生とこ行ってくる。
* * * * *
★これ、バタバタせんよぉに静かにしてもらいたい。今日の手習いはここま
でといぅことでな、それと、荷物を持っておうちへお帰りになったら、親御
さんに「先生は急な宿替えといぅ事でしばらく手習いは休みじゃ」と言ぅて
もらいたいでな。また落ち着いたら始めますで。
▲あきまへんで、ここも手が回ってまっせ。ごめん、こんちわ……★おぉ、
隣家のご両所おそろいで、どぉぞこちらへ▲先生、何じゃお取り込みのご様
子で★よんどころない訳があってな、急な宿替えといぅ事じゃ▲よんどころ
ない茶の湯があって?★茶の湯? いいや▲「いいや」て、隠したかてあき
まへんて、察するに家主から「茶の湯をするから来い」手紙が来て、先生分
からん。恥かくんなら逃げてしまおといぅ……
★おぉ、豆腐屋さん、あんた人相を見ますか?▲見ぃしまへんけど、わたい
とこも大工の棟梁とこも例の手紙が来てますんやがな。先生、あんた茶の飲
み方も知りはれしまへんのか?★飲み方ぐらい存知おるが、お作法のお手前
のと言われると……
▲飲み方が分かってたら結構でっしゃないか。先生上座に据えてわたしら先
生のする通り真似さしてもらいま★しかし、飲み方はそれでどぉにかなるが
家主が「お手前わ?」と聞いてきたらいかがいたす?▲聞こえん振りしたら
よろしおますがな★もぉ一度「お手前わ?」と聞いてきたらいかがいたす?
▲そぉきたら、キッと相手の目を睨んだりま。目ぇそらしたらあきまへんで。
三べん目に「お手前わ?」ときたなら、横ずっぽ一つボォ〜ンと張って目ぇ
回してるうちに夜逃げするっちゅうのん。これ、どぉでおます?★ん、これ
は近頃名案。そぉいぅことに……
さぁ、三人がゾロゾロっとやってまいります。一番奥に手習いの師匠、次
に豆腐屋さん、一番端っこが大工の棟梁でございます。二人の手前、飲み方
ぐらいは知ってると申しましたが何にも分からん手習いの師匠、出ておりま
すお菓子を先に食べてから飲むんか、飲んでから食べるんか「君子危うきに
近寄らず」菓子のあるのに気の付かん振りをしております。
「確か、茶碗を三べん回すといぅことを聞いたよぉな気がする」これが唯
一の頼りでございます。
★それでは、わたくしからお先……、ぐびっ……、んぐっ▲え? 次わたい
ですか、いただきます……、ぐびっ……、んぐっ。どぉぞ、次の方◆……、
ぐびっ……、んぐっ、げぇ〜〜っ……
よぉよぉのことで飲み干しまして、この三人「お手前わ?」と聞かれたら、
横ずっぽ張り倒して逃げよぉといぅヤツ。家主の方はと申しますと「お手前
わ?」と聞いてきたら店立てをくらわそぉといぅ、双方真剣勝負でございま
す。「お手前」てな言葉こっから先も出てまいりません。そのまま帰ってし
まう。
これが家主に悪わるぅに自信を与えてしもたんですなぁ「世間、大層ぉに
茶の湯、茶の湯と言ぅけど、こんなもんでぇのんか」ちゅうことで、それか
らといぅものは親類、友達、近所にいたりますまでが「茶の湯や、茶の湯や」
* * * * *
◆えぐいもん飲ましよんなぁ、しかしあの菓子はホンマもんや、結構や。せ
やから最近、甘いもんが欲しいなぁ思たら家主に「ちょっと茶の湯どぉでお
ま」ちゅうてな▲お前、あんなもん飲むのん?◆飲むかいな、いっぺん口に
入れるねん。家主向こぉ向いてる間にな、ブクブクっと返しといたらえぇね
ん。菓子二つ三つ袂入れて帰ってみ子供のえぇ土産になるで。
「そらえぇなぁ」てなもんで菓子泥棒が始まるといぅえらい騒動になって
しまいます。月末になりまして菓子屋さんの方から請求書、見まするといぅ
とえらい金高「茶の湯もえぇが菓子代にこないかかったんでは……」
そこは始末屋のご隠居さんでございます。さつま芋を一俵買ぉてまいりま
して蒸かします。これをすり鉢でゴリゴリすって、砂糖では値が張るんで糖
蜜を入れる。形を付けないかんといぅので、お猪口を持ってまいいりまして
抜こぉといたしますが粘りが出てスッと抜くことができん。
お年よりは知恵がございますなぁ。何とかせんといかんといぅことで灯し
油、菜種油ですなぁ、これをお猪口の内らへ塗ってギュッと詰める、スポ〜
ンと抜く。形といぃ色艶といぃまことにおいしそぉな利休饅頭ができあがり
ます。
さてしばらくの、ある日のことでございます。
★ご免■おぉ、これわこれわ、ご無沙汰をしとぉります★こちらこそご無沙
汰を、何でもうかがいますと、こちらの方では茶の湯の釜があるそぉで■は
い、毎日かかっとぉりますです★わっ、毎日でございますか。手前、一服い
ただきたいんで■はいはい、どぉぞこちらの方に。
このお客人は心得とりますんで、お露地から躙(にじり)口開けて入ってま
いりまして待っとぉりますといぅと、やってまいりました家主さん、左の手ぇ
に炭壺を持ちまして、茶道具一式ガッと鷲づかみにいたしましてノッシノッ
シと入ってくる。
我流ではございますが連日の稽古で「隙」といぅものがございません「どぉ
ぞ一服」「いただきます」口に含んでみまするといぅと、とても飲み込める
よぉな代物(しろもん)やない……、グッ、何とか飲み干しまして口直しに菓
子をと一つ取りゃえぇもんを二つ取って口へ入れますと、エグイとも苦いと
も何とも言えん味で……
懐紙に包みまして袂に放り込んで世間話をしておりますといぅと、じんわ
り油がにじんできて「ちょっとお手水を拝借」どこぞへ捨てよと思うが庭は
綺麗に掃き込んでございます。
建仁寺垣(けんにんじがき)の向こぉは一面の菜畑でございます「あそこな
らよかろぉ」力をこめてこいつをポォ〜〜ンと投げたヤツが野良で働いとぉ
りますお百姓さんのホベタにベッチャ〜〜ッ。
●うわぁ〜ッ、何じゃこれ? カラスの糞か? ……
【さげ】
●あぁ、また茶の湯か。
【プロパティ】
有馬猫=有馬猫騒動:久留米藩江戸屋敷を舞台にした有馬家のお家騒動。
岡崎(鶴屋南北・文政10年市村座初演)、鍋島(瀬川如齏皐・嘉永6年
中村座初演)、有馬(河竹阿弥・明治13年猿若座初演)が三大化け猫騒
動。
椋の皮=落語界では椋の木の皮と伝えるが、石鹸の代用にしたのは「無患
子(むくろじ)」ムクロジ科の落葉高木。高さ約10〜15m。葉は羽状複
葉。六月頃、淡緑色5弁の小花を大きな円錐花序につけ、球状の核果
を結ぶ。種子は黒色で固く羽子(はご)の球に用い、また果皮はサポニ
ンを含むので石鹸の代用とする。日本中部以南の山林に自生し庭園に
も栽培。
横ずっぽ=横面、横鬢。
建仁寺垣(けんにんじがき)=竹垣の一種。四つ割り竹を皮を外にしてすき
間なく並べ、竹の押縁で押さえて棕梠縄で結んだもの。建仁寺の竹垣
がはじまりとされる。
桂歌之助(かつらうたのすけ:本名・北村和喜=きたむらかずよし)=桂米
朝門下で1967年に入門。エッセーなどを執筆し文人的な面でも活躍し
た。2002年1月2日、食道がんのため死去。
音源:1993/01/09・土曜名人会 なみはや亭(ABC)
【作成メモ】
●参 照 演 者:main=桂歌之助 sub=*
●main高座記録日:1993/01/09 ●音 源 名:土曜名人会(ABC)
●ファイル公開日:2002/01/20 ●江戸落語相当:*
●更 新 日:2002/02/03 ●リクエスト数:
●注 意 事 項:内容を削除、追加、改訂している部分があります。
記録日のmain演者によるさげを採用しました。
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