【上方落語メモ第7集】その302

月 に 群 雲


【主な登場人物】
 天神の徳兵衛  猫だましの熊五郎  黒雲の太吉  辰の女房ほか

【事の成り行き】
 合言葉と言うんですか、対言葉と言うんですか、たくさんあります。たと
えばこの世界では「喜六」といえば「清八」、「子ぇ」といえば「千三百六
十五番」、「よいよいこらさ」といえば「どっこいさのこらせ」、「ちょっ
とこっちへおいなはれ」といえば……

 しかし合言葉をパスワードとして捉えるなら、まったく不用心この上ない
です。その筋の人なら「はは〜ン」とすぐに気付いていまいますから、パス
ワードはなるたけ連想しにくいものがよいのです。「喜六」といえば「大浦
理子(みちこ)」、「子ぇ」といえば「読売テレビ」、「よいよいこらさ」と
いえば「ニュース・スクランブル」

 何のこっちゃ? ですけど、別に意味はありません。単にわたしの趣味・
嗜好を並べただけの話です。気になさらないでください。

             * * * * *

 えぇ、もう一席のところ、今度は新作といぅヤツを聴いていただきますが、
実はわたくし新作といぅ落語はこれ一本しか持っておりません。この落語を
なぜやることになったかと申しますと、今年の正月にお亡くなりになりまし
た米朝門下の桂歌之助師匠といぅ方がいらっしゃいまして、その方が京都の
文化芸術会館で「上方落語勉強会」といぅのを担当されておりました。

 で、この「上方落語勉強会」五席だったと思います、その内一本を小佐田
定雄先生が必ず本を書いて、あと四席を古典落語するといぅ会でございます。
だから、落語家の勉強会でありまた小佐田先生の勉強会でもあるといぅ会を
ずっと歌之助師匠が担当されてまして、ほんで、平成の十年ですわ、歌之助
師匠からうちへ電話かかって来ましたんです「アンちゃん、新作やってくん
ない?」わざと江戸っ子みたいな言葉使うんです。

 歌之助師匠わたしのこと「アンちゃん」言ぅんですわ、まぁ十五年以上、
松喬以上うえの方なんですけど、よその門下やから三喬と呼び捨てにしにく
いといぅ、そぉいぅシャイな師匠ですが、わたし正直言ぅて新作にそない魅
力感じてまへんでしたし、別にやりたいネタもありましたんで「師匠、すん
ません。ちょっとやりたいネタもあるんで……」とお断りしたんです、体裁
よぉ。

 逆に考えたら、十五年も下の後輩から「ちょっと堪忍してください」言わ
れたら「二度とお前なんかに頼むかい」と思うじゃないですか、普通そぉ思
うじゃないですか。ほなまた三か月後に電話かかって来たんですわ、歌之助
師匠「アンちゃん、もぉネタ済んだ?」ちゅうて……、あの人の優しさです
わ。

 もぉこれは逃げられへんなぁ、思て「師匠やらしていただきます」言ぅて
小佐田定雄さんから台本をいただいたのが「月に群雲(むらくも)」なんです。
この噺、タイトル無しで台本いただいて、聴いていただいたお客さんにアン
ケートでタイトルを付けてもらうといぅ趣向なんですけど、この噺が手に入っ
て来た訳なんです。

 割りと、やるとなったら一生懸命やる方ですから、あぁでもないこぉでも
ない、また小佐田先生に本を書き直していただいたり、なんやかんや言ぅて
るうちにそこそこ楽しくやらしていただいてました。で、うちの師匠のお客
さんが「えぇやんか三喬、楽しぃから独演会の一本でやってみたら?」といぅ
こと言ぅていただきまして「せっかくやから、やらしていただこ」といぅこ
とで、今日こぉして高座でやらしていただくといぅ態(てぇ)でございます。

 わたし米朝一門で歌之助師匠にはお稽古していただいてないんです。米朝
師匠にも一回お世話になりましたし、吉朝、千朝、米二の先輩方には付けて
いただいたんですけど、別に避けてたわけやないんですけど歌之助師匠とわ
たしの芸風が違いましたんで何かもらいにくいな、といぅ感じがしましたん
でいただいてないんです。けど、この新作が一本残りましたんで、何か歌之
助師匠にいただいたような気になってます。

 ですから今年、不幸にしてお亡くなりになりましたですけど、歌之助師匠
に感謝を込めまして、このネタを大事にこれからやっていきたいなと思って
ます。また新作もドンドン増えていくかもしれませんけど、感謝しながら、
今日は一席お付き合いいただければと思います。

 別にぜんぜん新しい感じしません。この風態でございますから「それ古典
落語ちゃうんか?」と言われるよぉな感じです。

             * * * * *

●どッこいしょッと、よッこいしょッと。ちょっと、兄貴。その道具屋ちゅ
うのはまだ、だいぶと遠いんでっか?■もぉじきや、黙って付いて来い●そ
ら兄貴は「もぉじきや、もぉじきや」言わはりままっけどな「もぉじき」っ
ちゅうのは「牛」が歩いても「じき」に付くさかい「も〜じき」でっせ。こ
れだけ歩いたら「も〜じき」やおまへんで、こら「狐じきの狸じき」

■うるさいなぁお前は、ゴチャゴチャ言わんと付いて来いっちゅうねん●そ
ら兄貴はよろしぃわいな、何にも持ってへんねやさかい、手ぶらやさかいよ
ろしぃけど、わたいこんな大きな荷物背たろぉてまんねんで。ちょっとわた
いの身ぃにもなってもらわんと。

■うるさいなぁお前わホンマに。お前、新米やさかいしゃ〜ないやないか、
当り前やないか●けどねぇ兄貴、兄貴て……、あれ? この道、最前いっぺ
ん通ったんとちゃいまっか? ひょっとしたら兄貴、行き先が分からんよぉ
なったんとちゃいまっか?

■誰が行き先が分かれへんねんアホ、行き先は分かったぁんねん、行く道が
分かれへんねん●……? おんなじこってんがな。兄貴、それホンマにおま
んのんかいな? 我々が盗んできたもん買ぉてくれる道具屋ちゅうのん。

■こ、こら。大きな声出すなアホ。世間、誰がどこで聞いてるや分からんね
ん、お前らド新米やさかい何にも知れへんねん。わしらが仕事してきた品も
んちゅうのはすぐに警察の手が回るさかい、そんじょそこらの道具屋とか質
屋(ひちや)に放(ほ)り込むわけにいかんのや。そこでや、我々の品もんは我々
の品もんで、訳ありのもんとちゃんと承知で買ぉてくれる道具屋ちゅうのん
があんねや。

●ほぉ〜、いろんな世界がおまんねなぁ■裏の世界があんねや●「蛇の道は
蛇」ちゅうやつでんなぁ■お前、えらい教養あるやないか。何でそんなこと
知ってんねん?●へへっ、兄貴。この世の中ゴマンと盗人居てまっけどな、
センモン学校卒業して盗人してるの、わたいぐらいのもんですわ■よけ恥ず
かしいねやないか。

●兄貴、その裏の道具屋ちゅうのは我々の仕事してきたもんを高こぉ買ぉて
くれはりまんねやろなぁ?■どアホ。お前、そんなこと言ぅてるさかいそん
なえぇ学校出て盗人せんならんねん。考えてみ、我々の品もんを親っさん引
き取ったからちゅうて、世間へ流すわけにいかんねや。闇から闇へ流れて行
くねやないか。

■せやなぁ、高こ買ぉてもぉたなぁ思たときで世間の五分の一やなぁ。足も
と見られたときには十分の一になるかならんかや●えげつないことしまんね
んなぁ。盗人の上米(うわまえ)ハネてまんねんなぁ。そんなことされて兄貴、
腹立ちまへんのんか?

■腹立ててもしゃ〜ないやろ。そんなことより、わしらの商売の鉄則や覚え
とけ。品もん抱いてりゃ抱いてるほど危ないねん。いっ時でも、いっ刻でも
早よ手放すねん。金に替える、これがわいらの商売の鉄則や、よぉ覚えとけ。

●「金は天下の回りもん」ちゅうやつでんなぁ■それはちょっとちゃうで、
別に誉められたからちゅうて、諺ばっかり使わいでもえぇねや●兄貴、その
道具屋ちゅうのは?■もぉじきや、黙って付いて来い。えぇか、これから行
く道具屋ちゅうのはなぁ「黒雲の河内屋」ちゅうてな「黒雲の太吉」ちゅう
親っさんがやってはんねん。わしらの大先輩や。

●へぇ、その人も盗人でしたんかいな■そぉや。黒雲の太吉の親っさんちゅ
うたらな、ちょっと大阪では名ぁの知れた盗人や。えぇか、決して失礼のな
いよぉにな●そんな人が道具屋してまんのん?■そぉや……。見てみぃ、お
前とゴチャゴチャ言ぅてたらやっと着いたで。そこの入り口のとこに「河内
屋」て書いたぁるやろ●へ? どこ?

■そこに看板出たぁるやろ「河内屋」ちゅうて●どこえぇな?■お前、おれ
の手の先を見てみ●太い指やなぁ■……、そんなことせぇへんで、時間ない
ねんから……。スッと行くねやスッと●「河内屋」ほなら兄貴、わいから入
ろ■あかんあかん、あかんて。お前、人の話聞いてないなぁ。言ぅてるやろ、
一見(いっけん)見たら堅気相手の道具屋か知らんけど、わしらの相手もして
くれはんねん、裏もやってくれはんねん。

●ほな、わいら裏口から入んのんか?■お前、ホンマにアホやなぁ。そんな
ことしてみぃな近所のもんが見て、裏から入ったら盗人、表から入ったら堅
気て分かってしまうがな。素人も玄人も表から入んねや●ほたら親っさんに
したら見分けが付かん■そこでや、わしらは玄人やぞっちゅうことを知らせ
るために合言葉を使うねや。

●合言葉? また古いことやってんねやなぁ■そこらがここの親っさん、昔
かたぎや。けどまぁ、親っさんにしてもわしらにしても世間に氏素性が知れ
たら具合が悪いわい、念には念を入れっちゅうやっちゃ●なるほど「念ずる
者は救われる」っちゅうやつでんなぁ■それも言ぅねんやったら「信じる者
は救われる」っちゅうねん。お前、ホンマに専門学校出てんのか? スカタ
ンばっかり言ぅて。

●へへへ、兄貴。実はわいな、泉州堺の出ぇでんねん。そこにな、字ぃの読
み書きでけへんやつばっかり集めて教(おせ)てくれる学校がおまんねん。泉
州文字特別学校、縮めて「泉文学校」■縮めな、ややこしぃ。お前、選りす
ぐられたアホやないか●そんなことはどぉでもえぇねん兄貴、その合言葉っ
ちゅうのん教えてぇな。

■入って行くやろ、親っさんと目が合うわ。こっちから言ぅセリフは「月に
群雲」と、こない言ぅねん。親っさんがそれを受けて「花に風」っちゅうた
ら商売成立や●うわぁ〜ッ、カッコえぇなぁ。兄貴、わいちょっとそぉいぅ
事に憧れてこの世界へ足踏み入れたとこもあんねん。えぇ「月に群雲」「花
に風」ちゅうと商売成立。うわぁっ、カッコえぇなぁ。兄貴、すまんねけど、
その「月に群雲」ちゅうのんわいに言わしてもらわれしまへんやろか?

■あかんあかん、お前らみたいなド新米、そんなこと出来るかい●出来ます
て兄貴、出来るできる。むつかしそぉに見えてまっけどな、こっちの言ぅセ
リフは「月に群雲」だけでっしゃろ、それぐらい言えまっせ。言えるいえる。
こぉいぅ事はやっぱり「習うよりは慣れろ」言ぃまっしゃろ。

■ん、それは合ぉてるわ。お前、ちょいちょい合ぉてるさかいかえってやや
こしねん。やりたいんかい? よし、やらしたる。先入って行け、しっかり
せぇよ●兄貴、やらしてもらいます。けど兄貴、そこ居ててや、居ててや。
頼んない、そこ居ててや……

●御免★はい●……「月に、群雲」★はぁ?●つきにぃ〜、むらくも★へぇ?
何ですか?●兄貴ぃ、兄貴ぃ、親っさんだいぶ耳が遠なってるのんと違うか。
親っさん、あのなぁ、月にな、む・ら・く・も、や★はいはいはい「花に風」
と、こない言ぅて欲しぃんでっしゃろ……。あのねぇ、盗人の河内屋はんは
路地(ろぉじ)の突き当たりだす。

●兄貴、河内屋は河内屋でもな、盗人の河内屋は路地の突き当たり……■ア
ホ(ベシッ、ベシッベシッ)黙って行け、黙って●けど兄貴、いまの親っさん
も合言葉知ってましたなぁ。ははっ、はははっ、合言葉の意味ないんとちゃ
いまっか?■退(ど)け、アホ。お前はホンマに頼んないやっちゃで。黙って
行け……

■ここや。見てみぃ河内屋の看板の上へ小そぉ「黒雲」て書いたぁるわ、こ
こや。汚ったない道具屋やなぁ●ホンに書いたぁる。わっ、最前の道具屋に
輪ぁかけて汚いなぁこれ。うわっ、汚なぁ、臭ッさぁ、エゲツなぁ◆こらこ
ら、こら。人の店先で何ゴジャゴジャぬかしてんのんじゃい。用事があんね
やったらこっち入って来い。無いねんやったらそっち散れ、どアホ。

■黒雲の太吉の親っさんや。おい、何してんねん、早いこと荷物下ろして、
そこへ座れっちゅうねん。親っさん、初めてお目にかかります。あっしは天
神の徳兵衛ちゅう、世の中を斜めに生きとります半端もんでおます。この男、
わたいの弟分、猫だましの熊五郎。以後よろしゅ〜お頼の申します。早速で
ございますが、我々の稼いできたもんを買ぉていただきたいと思いまして。

◆何を?■我々の仕事してきたもんを買ぉていただきたいと思いまして◆何
やて?■あの、早い話がね、わたいら二人とも盗人◆こらこら、門口で何ちゅ
うこと言ぅねん、それやったら内ら入って来い。後ろピシッと閉め。ウォッ
ホン、その道の人間やったら言ぅ事があるやろ■え?◆言わないかん事があ
るやろっちゅうねん。

■あっ、合言葉ですか。失礼いたしました「月に、群雲」でやすか?◆ウォッ
ホン、ン〜〜ン、ウォッホン、ン〜〜ン、ウォッホン。スパァ〜〜ッ(コン)
……、スッパ〜ッ(コン)「花に、風」ちゅうとこみたら、おまはんら二人は、
玄人やな●いや、最前から盗人や言ぅてましたがな◆こら若いのん、アホ。
おれに口挟むのん十年早いわ、どアホ。品もんちゅうのん見してみぃ。品も
んこれへ出してみぃっちゅうねん。

■品もん。おい熊、品もんこっちかせ。イヨッとしょ、ヨッこいせっと……。
親っさん、こぉいぅ事になっとりまんので、一つお高こぉに値踏みの方よろ
しゅ〜お頼の申しま◆何やこれ?■夕(ゆん)べ下寺町のずく念寺◆おっと、
この商売、お互い出どこ言ぃっこなしやで■へ、恐れ入ります。ある寺の宝
物殿へ忍び込みまして、お宝ごそっと頂戴してまいりました。ひとつお目利
きの方よろしゅ〜お頼の申します。

◆何やこれ?■これは国宝、七面観音像◆え?■七面観音◆おら十一面観音
ちゅうのは聞いたことあるけど、何やその七面観音?■へぇ、のっけちゃ〜
んと十一面おましたんやけどな、帰りしなにこのアホが壁へポ〜ンとぶつけ
て顔が四つポ〜ンと取れて、残ったんが七面観音。

◆き、傷もんやないかアホ。そんなもん一銭にもなるかい。それは何や、そ
れは?■これ、九百九十八手観音◆え?■九百九十八手観音◆それ、お前言ぃ
にくいやろ。何かい、それも千手観音の手が二本折れたんかい?■分かりま
すか?◆分からいでか、そんなもん。あかんて、五体満足揃ろてなかったら
銭に替わらんねん、もっとちゃんと揃ろてるもんないのんか?

■親っさん、これどぉです。ほれ、皆で幸せそぉに船に乗ってる六福人◆ひ
とり足らんやないかい■海に落ちたんです◆ゲンの悪いもん持って来くなア
ホ。そんなもん店に置いてたらうちの商売にさわるわ、ホンマに。もっと金
に替わるもんないのんかい?

■あ、これどぉです。壺、これわたいねぇ九谷焼やと思いまんねん、ホンマ
もん九谷焼、どぉです?◆どれ、やっとまともなもんが出て来た。こらホン
に九谷や。この色具合といぃ、焼き具合といぃ……、けどこれ、壺は壺でも
骨壺と違うかえ?■さすが親っさん、お目が高い。ほれ、中にまだお骨入っ
てまんねん。

◆放って来いこんなもん、気色の悪い。ちゃんと洗ろて持って来い、あかん
あかん。こんなもん一銭にもなるかいな、いんだ、いんだ■ちょっと親っさ
ん、そんなこと言わんと買ぉとくなはれな◆あかんて、こんなもん銭になら
ん■おい熊、お前もこっち来て頼まんかい。

●親っさん頼みまっさ、わたいもこんな重たいもん、遠道背たろぉて来たの
に。これで一銭にもならなんだら「骨を切らして肉を断つ」でんがな■アホ、
それも言ぅなら「骨折り損のくたびれ儲け」ちゅうねや。ボケかすアホラッ
パ空気、知らんのに諺ばっかり使うなボケ。

●そないポンポンポンポン言わんでもえぇやろ。ここまで来たんはわたいも
兄貴も「立身出世」や■そら「一心同体」やっちゅうねんアホ◆こら、こら
こら。情けない、人の店先で争い事しやがって。仲間割れすなっちゅうねん。
おい、この本やるさかい持っていね■みてみぃ、親っさん気ぃ遣こて本まで
くれはったんや。えらい済んまへんなぁ「良い子のことわざ辞典」……、要
りまへんわ。親っさんになぶられてんねやないか。

             * * * * *

▲あのぉ、えらい済んません◆次のお客さん来はった。早いことお前ら帰れ。
早よ片付け、その六福人。早よ片付けちゅうねん……▲あのぉ、済んまへん
ちょっとお尋ねしまんねんけど、このへんに盗人のもん買ぉてくれはる道具
屋はんおまへんやろか? ちょっと尋んねまんねんけど、元黒雲の太吉ちゅ
う親っさんがやってはって、盗人のもん高こぉ買ぉてくれるとこ……

◆こらこら姐はん、何ちゅうこと言ぅねん表で。こっち入ってきなはれ▲え
らい済んまへん。いぃえぇ、いつもはうちの人寄してもろてまんねんけど、
うちの人こないだ仕事でぎっくり腰なってしまいまして。奈良の大仏っさん
一人で持ち上げるいぅてギクッ……

▲「お松、済まんねんけどこの品もん、太吉の親っさんとこ行って高こぉに
買ぉてもぉてきてくれへんか?」「何言ぅてまんねん水臭い、夫婦(めおと)
の間に済むも済まんもあれへんやないかいな。わたいに任しといとぉ」言ぅ
て、出て来たもんのこの辺、道ややこしおまっしゃろ、あっちで尋んねこっ
ちで尋んね……

▲「盗人のもん買ぉてくれはる道具屋おまへんかいなぁ、盗人のもん高こぉ
取ってくれはる道具屋おまへんか」とぉとぉ分からんさかい、そこの交番所
で聞いて来ましてん◆怖いオバハンやなぁ、ホンマにもぉ。後ろちゃんと閉
めといてや。あんたもその道の人間やったら言ぅことがあるやろ?

▲えぇ?◆その道の女房やったら言わないかんことがあるやろ、っちゅうね
ん▲あぁ、合言葉。うちの人に聞いて来ました合言葉。えらい済んません合
言葉……「長崎は今日も」◆「雨だった」わわわワァ〜、何でやねん? う
ちが決めた合言葉おまっしゃろ。

▲そぉそぉ、聞いて来ました「月に、ムラムラ」でっしゃろ◆発情してどな
いしまんねん●姐はん姐はん、ムラムラやおまへん■こら熊、赤の他人が口
出ししたらいかんのや、この世界●そぉかて可哀相でんがな。あんな汗の小
一升もかいて荷物持って来たはりまんねん、姐さん「ムラムラ」やおまへん
で「むらくも」だっせ。

▲えらい済んません。どこのどなたか存知まへんけど、わざわざ教えていた
だきましてありがとぉございます。済んませんお兄ぃさん、わたいあんまり
ここがえぇ方やおまへんねん。泉文学校しか出てしまへんねんわ●姐さんも
泉州文字特別学校ですか?▲兄はんもでっか?●姐はんもでっか?

◆お前ら、同窓会すなアホ。早いこと合言葉言わんかいな▲大将「月に群雲」
でっしゃろ◆ウォッホン、ン〜〜ン、ウォッホン、ン〜〜ン、ウォッホン。
スパァ〜〜ッ(コン)「花に、風」ちゅうとこみたら、おまはんもその道の女
房やな?●いや、最前から「うちの亭主盗人や」言ぅたはりました◆うるさ
いなぁお前は、黙(だぁ)ってぇっちゅうねん。で、品もんは?

▲品もん、こぉいぅことになっとりまんねん。ひとつよろしゅ〜お頼の申し
ま◆何やこれ? 使い込んだ鍋釜と古着ばっかりやなぁ、この鍋釜の底ベコ
ベコやなぁ。着物も木綿もんばっかり……、亭主どこで仕事してきたんや?

▲へぇ、うちの人さっき言ぅた通りぎっくり腰で遠く行かれしまへんねん。
近所の噺家さんのうちで間に合わしてきましてんわ◆そんなもん、噺家のう
ちに金のかかるもんなんかあるかいな、ホンマにもぉ。これ噺家の衣装かい
な、木綿もんばっかり。誰やこれ? 笑福亭仁福……、あかんがな。あんた
噺家の中でも一番貧乏な人のとこ入ってんねやないかこれ。

◆仁福のん盗って来てどぉすんねんな、けど、こぉいぅもん足が付かんさか
いなぁ、誰が見ても本人が流した思うし……、ほな、これ皆くるめて十銭で
もろときまひょか▲えぇ、十銭にしかなりまへんのん? うちの人いつも言ぅ
てまんねんで「黒雲の太吉の親っさんは盗人の中の盗人や。あの人は盗人の
鑑(かがみ)や」

◆そない「盗人ぬすっと」言ぃないなもぉ……、ほな皆くるめて二十銭、こ
れでうちも手ぇいっぱいだ。これ取ったから言ぅて二十銭で流せるかどや分
かれしまへんで。へっ、二十銭で堪忍しとくなはれ▲親っさん、えらい済ん
ません。二十銭なかったらうちの人の膏薬買うこともでけしませんねん。あ
りがとぉございました、親っさん。ありがとぉございました。

◆辰の嫁はんやろ。最前から分かっててん「早いこと元気になって顔出し」
ちゅうといて。いぬ道分かってんなぁ? 気ぃ付けて帰んねやでえぇか、さ
いなら……。おなごちゅうのはテコに合わんなぁ。

●「盗人猛々しい」ちゅうのはこのことでんなぁ◆お前らまだ居ったんか?
その九百九十八手観音、早よ片付けて。その七面観音像も早よ片付けて風呂
敷ぃ入れ……

             * * * * *

★御免◆今日は忙しい日ぃやなぁ……、へ、お越し★月に、群雲◆へっ……
ウォッホン、ン〜〜ン、ウォッホン、ン〜〜ン、ウォッホン。スパァ〜〜ッ
(コン)●親っさん、煙草吸わなもの言えまへんのか?◆だぁってぇアホ。わ
しのポーズになったぁんねん。ウォッホン、スパァ〜〜ッ(コン)「花に、風」
ちゅうとこみたら、おまはんも、玄人やな。

★訳ありのもん取ってくれるっちゅうんはホンマでっしゃろなぁ?◆へ、せぇ
ぜぇ勉強して取らしてもらいま……。おいアホ二人、見てみぃホンマもんは
違うやろ。筋金入りは違うやろ、っちゅうねん。品もんは?★親っさん、こぉ
いぅことになっとりま。ひとつよろしゅ〜お目利きの方お願い申しま。

◆ほぉ〜、何でやすこれ?★へっ、これどぉです。千手観音の折れた手ぇ二
本◆ほぉ……、ほたらそれ、五十銭でもぉときましょか■ちょ、ちょっと、
親っさんそらないわ。そら殺生や。そら……◆分かったぁるて、お前らにも
ちゃんとしたるやないか……。他は?

★これ、どぉですか? 船から落ちた弁天さん◆ほぉほぉほぉ……、ほたら
それも五十銭で……。分かったぁるっちゅうねん、お前らにもちゃんとした
るっちゅうねん……。他は?★これは値打ちもんでっせ、これは国宝やと思
います。どぉですこれ? 四面観音像◆何です?★四面観音。

◆あぁ〜、四面観音ねぇ〜、それはうちは取れまへんなぁ●何でや親っさん、
うち七面あんねや。膠(にかわ)かなんぞで付けたら……◆アホ。そんなズル
イことしたらかえってわしらの身にかかってくんのじゃ。えぇもんほどそん
なことしたらあかんねん、どアホ……。済んまへん、その観音さんの顔四つ
は取れまへんわ。

★何で、これ取ってくれまへんねん?


【さげ】
◆昔から言ぃまんがな「仏の顔も三個まで」


【プロパティ】
 音源:笑福亭三喬 2002/07/14 笑福亭三喬独演会(ワッハ上方ホール)
 原作:小佐田定雄氏
 特別謝恩:井田達夫さん、日本料理江戸堀やまぐちの山口一儀さん、資料
   視聴させていただきありがとうございました。
 日本料理・江戸堀やまぐちHP:http://www.edobori.co.jp/



【作成メモ】  ●参 照 演 者:main=笑福亭三喬 sub=*  ●main高座記録日:2002/07/14  ●音  源  名:笑福亭三喬独演会  ●ファイル公開日:2002/10/20  ●原    作:小佐田定雄氏  ●更  新  日:2002/11/03  ●リクエスト数:rakug302  ●注 意 事 項:内容を削除、追加、改訂している部分があります。           記録日のmain演者によるさげを採用しました。

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