【主な登場人物】
ラクダの卯之助 弥猛(やたけた)の熊五郎 紙屑屋
家主(いえぬし) 漬物(つけもん)屋ほか
【事の成り行き】
今でこそ「バイオテクノロジー」という言葉も世間に知れ渡って、先端技
術を担う産業と認知されていますが、わたしがクラブ活動に「生物部」を選
んだ頃は、カエルやイモリ、ショウジョウバエにチョウ、水草や豆類を育て
ている「いきものクラブ」と誤解されることがほとんどでした。
しかし高校の生物部ともなると、1年次の夏には1日24時間、30分間隔で
豆の根の成長点の長さを観察記録し、時間と成長の関係を調べたり、2年次
には丸1年間かけ、ショウジョウバエを使ってメンデルの遺伝の法則を検証
したり、なかなかアカデミックな体験をさせてもらっているのです。
あの泊り込みの実験は楽しいもんです、実験が楽しいのではなく泊り込み
がですけど。用意するものといえば実験材料と機材はもちろん、夕食にはカ
レーの自炊、朝食はパンを用意し、途中お腹も空くだろうと夜食に即席麺、
眠気覚ましにコーヒー、携帯ラジオ、それにギターとコード付きの歌本。
日付が変わる頃までは教諭が指導してくださる注意点をしっかり守って、
実に科学的、冷静に実験は進んでいきます。教諭が宿直室へ引き上げ、時刻
も午前2時を過ぎてくる頃、ある種脳内物質が放出されはじめるのか、冷静
さのタガがユルユルと緩みはじめます。
手はじめにビーカー、三脚、金網、バーナー、ガラス棒を使用したラーメ
ン作成と試食。腹の皮が張ると目の皮がたるむのを予防するためにコーヒー
の作成と試飲。夜明け間近になると、ギターを掻き鳴らし蛮声を張り上げて
の眠気防止策。グダグダになりながらも無事朝を迎え実験そのものは完了さ
せました。
根冠を酢酸水に漬けて成長を止め染色しロウで固めてスライスし、切片を
プレパラートに挟み込だ資料を1回の計測に付き10点、かけるところの48回
=480 標本を顕微鏡で覗いて成長細胞の長さを測定しグラフにプロットする
と、豆の根の時系列成長パターンが……、確かに現れたはずなのに、結果は
忘れてしまった(2005/12/04)。
* * * * *
え〜、お運びありがたく御礼申しあげます。わたくしもぉ一席でお開きで
ございますんで、どぉぞしばらくのあいだご辛抱のほど、お願い申し上げと
きますが。
このお噺は大阪の野漠(のばく)といぅところの長屋の出来事で、野漠いぅ
たらね、いまの賑町(にぎわいちょ〜)ですね、あのへんは砂漠みたいやった
んで野漠といぅ名前やってんけども、寂しぃからといぅので町名変更で賑町
といぅ。何と単純な、こらホンマでっせ、こら『大阪の町名』といぅ本に書
いたぁるさかいね。
まぁ、そぉいぅとこに居りましたんがラクダの卯之助といぅ男、二つ名を
取るといぅ人間ですから、ロクな人間やございませんなぁ。あの昔「木枯し
紋次郎」といぅ映画がありましたねぇ、笹沢佐保といぅ早口言葉みたいなオッ
サンが書いたやつね。
あれ、勝手に自分の創作で木枯し紋次郎といぅのを作ったんですけども、
よぉ調べたら(上州)新田郡にホンマに居ったらしぃ、紋次郎わ。ただしそれ
は「ミミズの紋次郎」といぅ、よっぽど嫌われとった男やと想像できますけ
どね。
まぁ、そぉいぅラクダの卯之助。もぉ何する人間かといぃますと遊び人。
正業を持たずに、ただブラブラ、ブラブラしてる。ほんでも人間ですから飯
も食わんならんし、着るもんも着んならん。何で生きてるかといぅたら、こ
の男、もの買ぉたって銭は払わんわけですね、もぉ銭のない人間が一番強い
わけです。
で「銭を払え」とか「金くれ」とかいぅたら脅しをかけたり、また暴力を
振るたりする無頼漢。まぁ、そぉいぅとこにはおんなじよぉな男が訪んねて
来るもんでして……
■居てるか? おいラクダッ! ラクッ! 卯之よッ! どこ行ってけつか
んねんアホンダラ、何でこんな早い……、何じゃい、やっぱしけつかったん
や。こんなとこ、どぶさってけつかんねん。また何ちゅ〜どぶさりよぉさら
すねんこいつ、我が家(うち)やないかい遠慮気兼ね要らんがな、座敷の真ん
中どぶさったらえぇのに、器用などぶさりよぉさらしてんで。敷居枕にして
足庭へ放り出しとぉんな……
■おいッ! 卯之ッ! ラクッ! えぇかげんに起きんかいッ! お天道さ
んドタマの上やないかい、こらッ! 何じゃい、目ぇむいとぉるなぁ……、
あらッ? そのへんに魚の骨が散らばったぁる、あっそぉか、昨日(きんの)
の夕方や、日本橋で会ぉたらフグぶら下げて歩いてけつかった。
■「こんなもん、どないさらすねん?」ちゅうたら「わしは今から料理して
一杯呑むねん、兄貴も付き合えへんか?」「何ぬかしとんねんアンダラ、素
人料理危ないで」「いや、当たる前にこっちが当てたるわい」いぅて、見事
に当たったんや。
■こらえらいとこに入って来たぞ、このガキゃ親兄弟身寄りがないねん。お
ら間(あいだ)から兄貴分や兄弟言われてんねん、こんな姿見て放っとくわけ
にいけへん。と言ぅてやなぁ、懐に銭一文もあれへん、今日もこのガキに銭
借りに来たんや。えらいとこに入って来たで、これどないしたろか知らん。
●屑ぅ〜、溜ま〜ってまへぇ〜ん。紙屑ぅ〜、溜ま〜ってまへぇ〜ん■お、
えぇとこに屑屋が失せさらした。おいッ! 紙屑屋ッ、紙屑屋ッ!●へっ、
アッ、ラクダのうちや。えらいとこに入って来たでおい、何でこんなとこま
た入って来たんやろなぁ、あんなエゲツナイ男ないねや。
●こないだも「ちょっと欠けてる皿やけど買え」品もん見せてもろたらほと
んど割れたぁったんや、それを「十銭で買え」「そんなもん買えますかいな」
言ぅたら「ほたら、おのれの命もらうぞ」言ぅて、わい二十銭出して謝った
んや。ホンマにもぉ、えらいとこに入って来た。
■何をグズグズぼやいてけつかんねん、こらッ、紙屑屋ッ、ズクズ屋ッ●分
かってま、分かってま、えらいホゲタやなぁ……、へ、こんちゃ、毎度おお
きに。あれ? 親方、確かここラクダはんのお宅でしたなぁ?■そぉや、ラ
クダのうちや。何かい、われ、ラクダ知ってんのんか?
●へぇ、もぉ絶えずこの長屋に商い来とりますんで、もぉラクダはんのこと
よぉ存じとりますんですわ、へぇ。もぉ、弁当使う時なんていつもラクダは
んのとこでな、いやいや、お茶やおまへんねんで、水よばれたりしましてな、
お世話になっとりますんですけど、何ですかいなラクダはん、どこぞへ行き
はったんで?
■なに?●いえ、ラクダはん、どこぞへ行きはったん?■あぁ、まぁ「行た」
といぅたら行たよぉなもんやなぁ●遠いとこでっか?■まぁ、遠いやろなぁ
●あぁさよか、ほんであと、あんさんがお入りになった?■せやないねん、
われの真ぁ前見てみぃ●何です?■「われの真ぁ前見さらせ」っちゅうねん。
●われの真ぁ前見さらしまんのん? へ、われの真ぁ……、アッ、もし、こ
こに寝たはんのんラクダはんでんなぁ。表が明るぅて内らが暗いもんでっさ
かい、目が慣れんもんでっさかい気が付きまへんでしたけど、何ですかいな、
この時分まで寝たはるっちゅうのはラクダはん、一杯呑んでえぇ機嫌で寝た
はるわけでっか?
■そやないねん、ゴネとぉんねん●な、何です?■死んどぉんねやっちゅう
ねん●ぅえッ! これ、ラクダはん死んだはりまんのん? よっしゃ!■何
が「よっしゃ」やねん●ラクダはん死んだはるて、何ですかいなこれ、いや
いや、わたいよぉ聞ぃてまんねや。これ何です、喧嘩でもして殺され? え、
フグ食べて、フグに当たって……
●ハッハッハッ、さよか、分からんもんでおますなぁ、わてねラクダはんの
武勇伝よぉ聞ぃてまんねや、へぇ「どこそこで何人叩き切った」とか「何人
どつき倒した」とか。こんな強いお方、こら殺されても死なんやろ思てまし
てんけども、フグに当たって死にはりました? 人間ちゅな案じんでもよろ
しぃなぁ、色々と死に道のある……
■そんなおかしなこと言ぅな、アホンダラ。それについてな、おらぁこの男
の兄弟分でヤタケタの熊五郎っちゅうねん●え? あんたが「ヤタ熊はん」
■知ってんのか?●聞ぃてまんがな、ラクダはんと二人で組んで、ミナミで
二十人相手に喧嘩して、みなやっつけたちゅうやつでっしゃろ■おぉ、知っ
てんのか●小学生いじめたらあきまへんで、あんた。
■何ぬかしてけつかんねん、誰が小学生、ほかにあるやろ●聞ぃてまんがな、
二人で道頓堀のうどん屋のきつねうどん盗み食いしたちゅうて■あのなぁ、
もっとほかにないのんか、おらこの男の兄弟分でヤタケタの熊五郎っちゅう
ねんや●あぁ、あんたが「ヤタ熊はん」?
■もぉえぇっちゅうねんアホンダラ。でなぁ、このガキには身寄り頼りがな
いねん。せやけどおらせめてな、葬礼(そぉれん)の真似事なとしたりたいと
思うねけど、恥言わな分からんけどな、懐に銭が一文もあれへんねん。なぁ、
出ては取られる茗荷の子、もぉ博打もとんとつかんしな、せめてここの屋財
家財売り払ろぉてな、葬礼の真似事してやりたいと思うねん。どや、えぇ値
で買ぉてくれるか?
●あ〜、そぉでっか、ほな何ですかいな、ラクダはんのお宅のもん買うわけ
でっか。それやったら堪忍したっとくなはれ、いや、もぉねぇ、わたいラク
ダはんのもんはね、もぉたいてぇのもん買わしてもぉてまんねんへぇ。もぉ
とぉてぇ買えるよぉなもんやのぉてもね「買いさらさんのか、買いさらさん
ねやったら、おのれの命もらう」っちゅうてね、いつでも脅しはりまっさか
いね、もぉほんまに何もおまへんねん。
■そんなことあるかい、仮にも人間ひとり住んどったんやないけ、何なとあ
るやろ。おぉ、ここにあるやないかカンテキが、これ買ぉたれや●よぉ見と
くなはれや、あれあんた、針金で括っておまんねん、持ち上げたら底が抜け
まんねや■底が抜ける……? ホンマや。この土瓶はどないや?●あけしま
へん、フタが欠けて口も欠けてまっしゃろ。
■ホンマ、ロクなもんないなぁ、どんな暮らししとったんやあいつ。おい、
ちょっと待て、まだあるがな、畳、建具があるがな●何です?■「畳、建具
がある」っちゅうねん●畳、建具? グダグダ言ぃなはれ親方、こらあんた
「たた」言ぅて「身」がおまへんがな■ホゲタの達者なガキなぁ……、建具
はどないや?●あきまへん、こらもぉわれわれの方ではな「蛸障子」ちゅう
てな、もぉ一文の値打ちもおまへんねん、肥やしにもならしまへんねん。
●いや、もぉ何もおっしゃるな、わてももぉ来たついででおますわ、と言ぃ
ますのはな、ラクダはんには色々世話なっとりましたんで、いやホンマに、
怒ってもぉたら困りまっせ、もぉ持ってるちゅうたら商売の元手しかしかお
まへんねけど、わずかでおます、当り前なら紙に包んで出すのがホンマでお
ますねんけどな、ホンマにわたいの気持ちだんねん、これでな、折れた線香
の半分でも上げたっとくなはれ。
■何かい、われ、それしたってくれんのか? おおきありがとぉ、おおきあ
りがとぉ、男気のあるやっちゃ。わりゃ今に、日本一の紙屑屋になるで●別
に日本一になりたいと思いまへんけど、まぁホンマに■ときに紙屑屋、改め
て俺からわれに頼みがあんねや。でや「うん」ちゅうて聞ぃてくれるか?
●いや、何もおっしゃるな。もぉあけしまへんで、もぉ逆さに振っても鼻血
も出ぇしまへんさかい■誰がわれに銭貸せっちゅうてん。せやないわい、お
らなぁ、この長屋によぉ来るけども、長屋のもんと付き合いしたことあれへ
ん。せやから、どこに月番とかな、誰が当番とか分かれへんねん。
■聞きゃ、われよぉ来てるらしぃやないかい、どこの長屋にも泣き笑いとも
にツナギといぅもんがあるはずやさかい、な、その当番とこ行て「今日、ラ
クダが死にました」言ぅて、その泣き笑いのツナギもぉて来い●親方、そら
たぶん言ぅてもあかんやろ思いまっせ■何があかんねん?●いえ、もぉラク
ダはん自身が付き合いといぅもん、したはれへしまへんさかいな。おそらく
長屋の人は断りはると……
■そら、われが思てるだけやないけ、えぇから行て来い●へ、さよか。ほな、
わたい商売のついでに回らしてもらいまっさかい■ちょっと待て。こんな使
いすんのに道具を持って行くやつがあるかい。そこへ置いて行け、置けっちゅ
うねん、置かんかい、置け……、置けッ!
●置く置くおく、分かりました。そんな大きな声出しなはんなあんた、あの
ね親方、ちゃんと見といとくなはれや。あんたにとったらしょ〜もないもん
でも、籠(かご)と杠秤(ちぎ)ちゅうたら、われわれにとったら大事な商売道
具でおまっさかい、ちゃんと見といとくなはれや。
* * * * *
●ほぉ〜ら、えらい無茶もんやなぁ、ラクダもエゲツなかったけども、兄貴
分やいぅだけによけエゲツナイ、顔じゅ〜キズだらけや。キズから顔が出たぁ
んねやら、顔からキズが出たぁんねやら、よぉあんなんで道歩いてけつかん
で……、え〜、お早よぉさんで◆おぉ屑屋はんか、今日は多分何も……●い
え、今日は商い来たわけやおまへんのでへぇ。実はな、夕べ長屋のラクダは
んが死にはりましてな。
◆えッ? ラクダが死んだ? 紙屑屋はん、それあんた、まさかわしを喜ば
そ思て言ぅてんの違うやろな、わしが喜んで「ヤッタァ」言ぅたら「嘘や」
言ぅのん違うやろな。えッ、ホンマに死んだ、生き返れへんか、今のあいだ
に頭潰しといた方がえぇのん違うか。ラクダが死んだ……、そぉか、いやぁ
よぉ知らしてくれた、さっそく長屋の連中に知らすわ、そらみな大喜びする
で。
●へぇ、あの〜、それにつきまして、兄弟分のヤタケタの熊はんちゅう人が
来たはりまんねん◆何や?●いえ、その熊はんのおっしゃるにはね「どこの
長屋にも泣き笑いともにツナギといぅもんがあるはずやさかい、そのツナギ
を集めて持って来てくれるよぉに」と、こない言ぅたはりまんねん◆紙屑屋
はん、あんた知らんさかいそんなこと言ぅけどな、わけ言ぅわ。
◆あいつが越して来た三年ほど前やったかいなぁ、奥の端で子どもが生まれ
たんや男の子、で、皆で人形でも祝おちゅうてな、まぁわずかの金、ツナギ
を出してやなぁ、持って行たわけや。ほんであいつとこへそのツナギの金を
取りに行ったら「今は銭がないさかいに立て替えといてんか」言ぅさかい、
わしが立て替えて持って行た。
◆で、祝いをしたら必ず「タメ」ちゅうのが出んねん。そのタメの割り前を
持って行たら、ラクダは「おおきに、はばかりさん」ちゅうて受け取りよっ
た、ここあんじょ〜聞ぃといてや。それから催促に行たら「今度持って行く」
とこない言ぅ、その次行たら「ついでに持って行く」
◆三番目に行たら「わずかの銭で、どびつこいガキなぁ、ドタマ割ったろか」
ちゅうて追いかけられてみ、わずかの銭やないかい、な、もぉせやからな、
長屋のもん皆言ぃ合わして、もぉそぉいぅ付き合いはせんことにしたぁんね
やさかいな、その何とかいぅ人や、ヤタケタの熊はんか「あかん」いぅてあ
んじょ〜言ぅといてんか。
●へぇ、そらわたいも言ぅたんだ、ほたら「えぇから行て来い」と言われて、
もしも「持って来るの来(こ)んの」と言ぅねやったら、そのヤタケタの熊は
んがでっせ「改めてドス持って挨拶に来る」と、こない言ぅたはりまんねけ
どなぁ。わたいの思いますのんには、出しときはった方が世の中平和に終わ
るよぉに思いまんねんけど。
◆ホンマかい、そんな無茶もん来てんのん……、あぁ、分かった分かった、
ほな言ぅてんか「何ぼ何ぼの決めはないけども、集まりしだいじきに持って
行く」と、そない言ぅといてんか●ヘッ、分かりました。
* * * * *
●へッ、親方、行て来ました■どやった、持って来さらすのんかい?●何で
す?■「持って来さらすのんかい?」ちゅうねん●えぇ、持って来さらしま。
はい、持って来さらしまっさかい。ほんならわたい、これで……■ちょっと
待て、まだ用事があんねや●親方、堪忍しとくなはれ。わて、まだ朝商いし
てしまへんねん。わて、商いせんことにはうちの釜のフタ開けしまへんねん。
■誰が「商い休め」ちゅうてん、えぇから行て来いすぐに終わるさかい。わ
れ、家主(いえぬし)のうち知ってるか?●あぁ、それやったら南へ出てね、
一つ目の辻の角でおまっさかい、じきに分かりまっさかい。ほなら……■待
てっちゅうねや、われ、えぇから行て来い「夕べ、長屋のラクダが死にまし
た」と。
■で「今晩、夜伽(よとぎ)の真似事しますけども、家主さんには忙しぃとこ
ろ、お越しには及びません。ところが、呑まず食わずでは具合悪いんで、酒
のえぇやつが三升と煮しめを、砂糖も醤油も張り込んで、丼三杯持って来る
よぉに」と、そない言ぅて来い●それ、誰が言ぃまんねん?■われが言ぅね
ん●そんなん言ぅたら、家主わたいのことボロカスにいぅて怒りまっせ。あ
んた知らんさかい言ぅたはりまんねや、あの家主いぅたらこの四町界隈で一
番渋ちんでっせ、そんなもん。
■そぉか、ほななぁ、もし持って来るの来んのぬかしたら、こない言ぅて来
い「ラクダには死体の引き取り手がおまへん。ほんでその、家主店子といぅ
たら親子も同様やさかい、死骸をばお宅へ運ばしてもらいます。ただ運ぶの
んなんやさかい、ついでに死人(しびと)のカンカン踊りをお見せする」と、
そない言ぅて来い●わ、分かりました。
* * * * *
●しかしエゲツナイやっちゃなぁ、死人のカンカン踊りやちゅうてるで……。
え〜、こんちわ▲おぉ、紙屑屋はんか、確かおまはんきのうも来たんと違う
んか。そない毎日……●えぇ、商いやおまへんねん。実はあの、長屋のラク
ダはんが、夕べ死にはりましてな。
▲えッ、ラクダが死んだ? どないして? フグ食べて、フグに当たって?
偉いフグやなぁ、うちでフグ祀ってやらないかんなぁ……、婆さん聞ぃたか、
ラクダが死んでんとぉ。そぉか、よぉ知らしてくれた、おおきにはばかりさ
ん。
●へぇ、それにつきましてヤタケタの熊はんちゅうて、兄弟分が来たはりま
んねん。その熊はんの言ぃはんのにはね「今晩、夜伽の真似事しますねんけ
ども、家主さんにはお忙しぃところお越しには及びまへん」▲誰が行くかい
●せやから「お越しには及びまへん」と、で「呑まず食わずでは具合が悪い
んで、酒のえぇやつ……、煮しめを砂糖も張り込んで……、持って……、ふ
んふんふん」▲お前、寝てんのか? どないやて?
●わたいが言ぅたんやおまへんで、そのヤタケタの熊はんちゅう人が言ぅた
はりまんねんで「酒のえぇやつ三升と、ほんで砂糖も醤油も張り込んで煮し
めをば丼に三杯持って来い」▲紙屑屋ッ! もっと前へ寄れ。何でわしがそ
んなことせんならん、え、わしのことなめてもろたら困るで。わしゃなぁ、
この四町界隈きっての一番の因業な家主で「鬼ゴン」ちゅうてあだ名までも
ろてるねん、そんな脅しに乗るかい。
▲何でわしがそんなことせんならん。あのなぁ、わしもいろんな借家人持っ
たで、ほら無茶もんもよぉさん居った。ところが、入った月ぐらいの家賃ちゅ
な、みな納めるもんや。ところがラクダのガキときたら、三年前に入って来
てから今まで、一文も払ろたことあれへん。そらわしも催促に行くわいな、
ほなら「今度持って行く」と、こない言ぃよる。
▲その次行たら「ついでに持って行く」わしゃもぉ腹括ってな「今日はもぉ、
家賃もらうか、お前が出て行くか、どっちかせんと、わしゃここ動かん」と
言ぅたら、ラクダ何とぬかしたと思う「どっちもでけん」と、こない言ぃよっ
てん。
▲「そぉかい、ほな、わしゃここへ座り込むで」と言ぅたら「あぁ、ずっと
座っとれ」ほんで、わしの後ろで押入れへ首突っ込んでゴソゴソゴソゴソし
とぉる。何しとんのかいなぁと思てフッと後ろ振り返ったら、こんな長い鉄
の棒持って来て「長いあいだ人間の血の臭い嗅いだことないさかい、一発ド
タマ……」ワァ〜ッ! わしゃ、這ぉて逃げたもんやさかい、買いたての下
駄忘れたんや。
▲ほんでまた、あのガキはその買いたての下駄を履いて、うちの前通って風
呂屋へ行っとぉんねんで。せやから帰って言ぅときなはれ「何で、わしゃそ
んなことせんならん。今まで溜めた家賃は、香典がわりに棒引きにしてやる
さかい、酒も煮しめもそんなもん持って行くことならん」っちゅうて、そぉ
言ぅときなはれ。
●へぇ、そらわたいも言ぅたんだ「あの家主さん、そんなことせぇへん」っ
ちゅうて「なんせこの町内で一番渋ちん」いや、あの「渋いお方やさかいに」
ちゅうて。で、その熊はんの言ぃはんのにはね、ラクダはんには身寄り頼り
がおまへんねんて。でまぁ、家主店子いぅたら親子も同様やさかい、死骸を
ここへ運びはるそぉだ。で「運び込むのも何やさかいに、死人のカンカン踊
りをお見せする」と、こない言ぅたはりまんねん。
▲紙屑屋、オモロイやないけ、見してもらおやないけ。わしゃ死人のカンカ
ン踊りちゅな、初めて見んねやさかい「人間、初もん見たら寿命が七十五日
延びる」といぅさかいにな「喜んで見してもらう」と、そない言ぅときなは
れッ!●へッ……
* * * * *
●ほぉ〜ら、上には上のあるもんやなぁ「死人のカンカン踊り見る」っちぃ
よったで……。え、親方、行て来ました■どやっった、持って来さらすのん
か?●え?■持って来さらすのんかい?●いえ、持って来さらしまへん。もぉ
ホンマに「あかん」と言ぅたはりました■「あかん?」で、われ、みな言ぅ
たんか?
●へぇ、言ぃました「死人のカンカン踊り見せる」っちゅうて。ほたら「初
もん見たら寿命が七十五日延びるさかいに、喜んで見してもらう」と、こな
い言ぅたはりました■「喜んで見してもらう?」よっしゃ、分かった……、
紙屑屋、そっち向け。
●な、何です?■「そっち向け」っちゅうねん●いや、家主が、あっち向い
てまんねん■何洒落てくさんねん、そっち向け、えぇか、しっかり立っとれ
よ……、イヨット!
●ちょ、ちょっと……、あんたこれ、いま何やドスンと乗せはりましたな。
これ、何でんねん? アッ、これひょっとしたらラクダはんとちゃいまっか?
アッ、ラクダはんや。ちょ、ちょっとホベタそっち向けてもらえまへんやろ
か、わたいのホベタとホベタ、ピタ〜ッと引っ付いてまんねん。死人て悪わ
るぅチベタイもんでんなぁ、こ、これ、噛めしまへんか?
■死んだもんが噛むかい。えぇか、今から家主とこへ案内せぇ、で、わしが
「入って来い」言ぅたらな、お前ラクダ持って来て、股座(またぐら)へ首突っ
込め。わしが手足持ったるさかい、お前股座へ首突っ込んでカンカン能唄え
●そんなん、わて、そんなアホなこと、わたいよぉしまへんがな。
■「よぉさらさん?」やらんかいッ●「やらんかいッ」ちゅうたって、だい
ち、そのカンカン能を知りまへんねん■子どもでも知ってる●大人のわたい
が知りまへんねや、堪忍しとくなはれ■何かい、わりゃ、やらんちゅうのん
かい。よっしゃ、家主やる前からまずおのれやな、おんなじよぉな目に……
●き、聞きます、聞きます、やります……
* * * * *
●親方、ここのうちでおます■よし、ちょっと待っとれよ……。ごめんなは
れや▲はい、どなたさんじゃな?■ラクダの家主っちゅうのは、われかい?
▲はいはい、家主はわたしじゃが■お前、何やてなぁ「死人のカンカン踊り
を見る」ちゅうたらしぃなぁ▲はい、喜んで見してもらいます■ホンマに見
るな? 絶対見るな? 今から「堪忍してくれ」ちゅうてもあかんぞ。おい
紙屑屋、連れて来い、股座へ首突っ込め、さぁ歌唄え●かんかんのぉ〜♪
▲ちょっと、待った、待ったぁ。紙屑屋、あんた正直にみな言ぅたんか……、
婆さん、婆さん逃げなはんな、あんたひとり逃げてどないすんねん、わしも
逃げる。その前に孫つかまえなはれ、一緒に前で踊ってるやないかい。か、
かか、堪忍しとくれ■何泣いてけつかんねん、もっと見さらせ▲もぉ、もぉ
結構■遠慮さらすな▲遠慮するわいな、あんた。
■ざま見さらせ、アンダラほんまに、手数かけやがって。ノッケに「持って
来る」言ぅたら、それでえぇねや、持って来んねんな?▲持って行く、持っ
て行く■けッ、アホンダラ。さぁ紙屑屋、背たろぉて行け●トホホ〜……
* * * * *
■そぉ〜ッと降ろせ、ジンワリ降ろせ、仏に傷が付く……●ほな親方、わた
いもぉこれでよろしぃなぁ、ほな商売に行って来まっさかい■ちょっと待て、
も一つ頼まれてくれ●親方、もぉ堪忍しとくなはれ、わたいまだ朝商いして
しまへんねん。わたい、商いせんことには、燕(つばくろ)やないけど、うち
の嫁はんと子どもが口開いて待ってまんねや。
■えぇから行て来い、これですぐ終わるさかい。確かなぁ、入り口のところ
に漬けもん屋があったなぁ。な、漬けもん屋行ってな、古い漬けもん樽、一
丁もぉて来い「棺桶にする」ちゅうて。で、もしもくれへんと言ぅねんやっ
たら借って来い「空いたら、じきに返します」ちゅうて。
●ほんでそれ、もしも「貸すの貸さんの」言ぅねやったら、死人のカンカン
踊りでっか?■それは、お前に任した。
* * * * *
●えぇ、こんちわ▲おぉ、紙屑屋はんか、ちょ〜どえぇ、今日持って行って
●いえ、商いどころやおまへんねん、実はあの、長屋のラクダはんが死には
りましてな▲えッ、ラクダが死んだ? そぉか、長屋の連中みな喜んでるや
ろ●その代わり、わて泣いてまんねや。
▲どないしたんや?●いやその、ヤタケタの熊はんっちゅう人が来たはりま
んねん。その熊はんの言ぃはるにはね、お宅へ行て「棺桶にするさかい、漬
けもん樽の古いのん一丁もろて来い」と、こない言ぅたはりまんねん▲何で
わしが、そんなことせんならん?●くれへんねやたら、ほな貸しとくなはれ。
空いたらじきに返す▲そんなもん誰が……●とにかく、ホンマ持って行かな
あきまへんねん、頼んますわ。
▲あのなぁ、何でわしがそんなことせんならん。あのラクダにはな、えらい
目に遭ぉてんねやで。そら、物はぎょ〜さん買ぉてもぉた、味噌や醤油や塩、
買ぉてもぉたで……、けど銭はもぉたことあれへん。そやからな、こんなこ
と言ぅたらなんやけども、あのラクダのためにやったらワラスベ一本やるこ
とできんわ。
●恐らくたぶん、そやないかと思てましてん。ほんだら、自分で金出しまっ
さかいに、古いのん一丁売っとくなはれな▲何でお前が、そなことせんなら
ん?●いや、わてこの樽持って帰らんと、もっぺんお宅へ来んならんことが
できまんねん▲何やねん?●ラクダはん連れて、ここで死人のカンカン踊り。
▲オモロイやないかい、見してもらお●あかんあかん、あんたそれ知らんさ
かい言ぅたはりまんねん。わたい今、家主っさんとこでやってきたばっかり
でっせ。そない座敷かかったら、わたいも困りまんがな▲え、そんな無茶も
んがおんの? 分かった分かった、ほんだらな、そこに並んだぁるやろ、向
こぉから二番目に、ちょっとタガが緩んでるけどな、それで十分いけるさか
いにそれ持って帰り。
●さよか、この縄もよろしぃ?▲あぁ、好きなだけ持って行ったらえぇさか
いに●さよか、分かりました。ほんだらこれ括ってやらしてもらいまっさ、
えらいおおきに……
●へぇ〜、死人のカンカン踊りちゅうたら、ス〜ッと効くもんやなぁ、オモ
ロなってきた……、そぉや、確かうち、米切れてたはずやで、米屋行て死人
のカンカン踊りや言ぅて二斗ほど運ばしたろか知らん。
* * * * *
●え、親方行て来ました■あぁ、おおきにご苦労やった。われがな、行てる
あいだに、家主から酒も煮しめも届いたし、長屋からツナギも届いた。おお
きに、ご苦労やった。えらい今まで嫌な目さして済まなんだな、さッ、一杯
いけ。
●いえ親方、わたいもぉお言葉だけで結構でおまっさかい、今から商いせな
あけしまへんさかい■分かったぁるがな、汚(けが)れたん担がして、お前に
嫌な目さしたさかいに、これで身ぃ清めて行けっちゅうねん。さッ、一杯い
け●いえ、そのお言葉だけでホンマに結構でおまっさかい。
■何かい、われ酒嫌いか?●いえ、いたって好きでんねん■皮肉なやっちゃ
なぁ、えぇから呑めや●ホンマに堪忍しとくなはれ、ホンマに商い行かんこ
とには……■ほぉ、どぉしても呑まんちゅうのか? わしの酒が呑めんちゅ
うのか? よっしゃ、呑まんねやったら意地通せよ、俺の前で意地通せるも
んなら通してみぃ。
■われの頭が堅いか、この徳利が堅いか、いっぺん試したろか●分かりまし
た、いただきますへぇ。ちょっとにしとくなはれ、ちょっとに……、ッとッ
とッと、ぎょ〜さん注ぎはりましたなぁあんた、こんなもん手ぇも動(い)ご
かすことでけしまへん。ほんだら、ちょ〜だいしまっさかいに(クゥクゥ、
クゥクゥ……)おおきに、ごっつぉはんでおました。
■なんや、いける口やないか。もぉ一杯いけ●あきまへん、わてもぉホンマ
に、じきに酔いますんでな■誰が酔うほど呑ます言ぅた、みな呑んでも三升
ほどしかあれへんがな。えぇからいけ●いえ、ホンマに……■どぉしても、
呑まんちゅうねやな、ホンマに呑まんのか?
●わ、分かりました。あんた、なんか言ぅたら、その徳利持ち上げはりまっ
しゃろ。い、いただきます。今度はちょっとにしとくなはれ、ちょっとに、
ッとッとッと、ぎょ〜さん注ぎはって……、いただきます(クゥクゥ、クゥ
クゥ……)おおきに、ごっつぉはんでおました。
■われの呑み方みたら、水飲んでんねやら酒呑んでんねやら分かれへんやな
いか。酒っちゅうのはな、世間ばなしの一つもして、煮しめも食べてこそ酒
の味がはじめて分かるねや。もっぺんいけ●いただきます。今度わたいが要
らんちゅうたら、またあんた大きな声で怒らはりまっしゃろ、いただきまっ
さかい。またぎょ〜さん注ぎはりましたなぁ。
●ちょ〜だいしまっさ(クゥクゥ、クゥクゥ……)はは〜ッ……、ホンマに
えぇ酒でおますなぁ、よっぽど死人のカンカン踊りがこたえたとみえますわ。
あの因業の渋ちんが、こんなん持って来ると思いまへなんだ。けど親方、わ
て酒いただいたから言ぅわけやおまへんけどね、あんたえぇ人だんなぁ、人
の世話て、そないできるもんやおまへんで。
●そら、これがある人ならできますわいな。あんたら、銭もないのに(クゥ
クゥ、クゥクゥ……)しかしねぇ、ラクダはんちゅう人は、あっちこっち回っ
て分かりましたけどな、評判悪おましたで、わたいもぉえらい目に遭いまし
てん。忘れもせぇしまへん去年の夏だ、わたいまた長屋へ入って来て「屑〜
たまってまへん」ちゅうて、こぉ言ぅた。
●ほな、ラクダはんがわたいのことをバ〜ッと走って追いかけて来て「おい
紙屑屋、普段われに損さしてる代わり、今日は銭儲けさしたるわ」「品もん
は何だんねん?」ちゅうたら「左甚五郎が彫ったカエルや」と、こない言ぃ
はりました。せやけどわたい、ラクダはんの言ぅことやさかい信用でけしま
へんがな。
●「品もん見しとくなはれ」っちゅうてパッと見たら、そら肌の艶から目の
輝き、ホンマもんみたいなもんだ「さすが、左甚五郎は名人やなぁ」ちゅう
て「わたい、もらいまっさ」ちゅうて金出して、ほんでそれ受け取った。で、
あんたダ〜ッと走って行きはりまんねん「ホンマに、左甚五郎て名人やなぁ」
て、パッと手ぇ拡げたら、このカエルが「ゲコッ」と鳴きよった。
●ホ、ホンマもんだんがな。そんで、それで味しめたんか知らんけど「左甚
五郎の彫ったコ〜ロギ買え」と「誰がそんなもん買いますかいな」ちゅうて、
しかし、さすが、左甚五郎の彫ったシオカラトンボには騙されましたけどな。
■お前、アホと違うか? おい、お前、それはえぇけど、商売行かんならん
やろ?●大丈夫です、だいじょ〜ぶ。こんな酒であんた、わたい酔ぉたりせぇ
しまへん(クゥクゥ、クゥクゥ……)そぉでっか、煮しめもちょ〜だいしま
すわ……
●わたいこの、高野や〜ふ、や〜ふやない、高野どぉ〜ふが好きでんねん。
ん、こらなかなか、砂糖も醤油も張り込んでま。お手塩(おてしょ〜)要れし
まへん、わたいのこの手の平がお手塩だんねん、こんな便利なもんおまへん
で、いつでもどこでも付いて回りまんねんさかい、だいち落としたって割る
心配おまへんがな。
●ほんで、これ汚れまっしゃろ、ここがあんた走り元なってて(ペロッ)ほ
んで、ここが布巾(ふっきん)で(ズルッ)■汚いなぁおい、商い……●大丈
夫ですて、あんた商いのこと言わいでもよろしぃがな(クゥクゥ、クゥクゥ、
クゥクゥ、クゥクゥ……)
●親方、何したはりまんのん……、ほら、空、から、空だ。よろしぃわ、そ
の徳利あんたにあげまっさかい、さらの徳利こっちおくんなはれ、もぉいち
いちあんたの気ぃ使こて呑んでられへん、自分で注いで呑んだ方がずっとよ
ろしぃ。
●しかしねぇ親方、わたいも紙屑屋やって長いことなりまんねんけどね、わ
たいもこれでも昔は船場で商いしてましたんやで。ところが、みな酒だ、酒
でとぉとぉ一軒呑み潰してしもた(クゥクゥ、クゥクゥ……)
●今の嬶(かか)ちゅうのはね、二へん目だんねん。前の嬶ちゅうのはあんた、
わたいがまだ船場で商いしてる時分やさかい、えぇとこのお嬢さん、三箇の
荷ぃ(さんがのにぃ)で来た。そら、お茶、お花、縫い物、三味線、みなでき
まっせ、女のひと通り。せやけど、大人しおまんねん、わたいが酒呑んだっ
て、一つも文句言ぃよらん。
●ほで、わたいが増長したんでっしゃろなぁ、とぉとぉあんた、一軒呑み潰
してしもて、しゃ〜ないからあんた、裏長屋に行て「紙屑〜」と、こぉやっ
てた。それがそんなとこのえぇお嬢さんやさかいね、貧乏に慣れてへんさか
い、それあんた苦ぅにして肺で死んでしもた。
●二十九ぅだした、そらわたい難儀してなぁ、男の子、三つの子ぉ残りまし
たんや。ほんでわたいもしゃ〜ないさかいに、商いに励まんならんと思てな、
裏長屋に住んで、その三つの子ぉの手ぇ引ぃて「紙屑〜」と、こぉやってま
してんけどね、子どもちゅうたらあんた、風邪ひぃたり熱出したり、じきに
しまんがな。そのたんびに休まんならん。
●それでわたい、焼け糞なってね、ほんでまた今度親戚のオッサンの世話で
後添えもぉたんだ。今度あんた、裏長屋から来よった、裏長屋、貧乏人の子。
女ごのたしなみなんてでけしまへんで、せやけどね、明るい。何があったっ
てゲラゲラ〜、ゲラゲラ笑ろてまんねん。
●「あした米がない」っちゅうたってね、ゲラゲラ、ゲラゲラ笑ろてますね
ん。ちょっとアホでんねん。ほんであんた、わたいがね、嫁さんもらうのは
よろしぃで、一番最初気になったんはやっぱり「義理」ちゅうのんね「生さ
ぬ仲」に気ぃ使こた。
●そら、例えばでっせ、わたいこの商いの途中にちょっと虫養いに焼芋買ぉ
て残りまっしゃろ、うち持って帰って嬶に「これ食べや」言ぅたら「いえ、
あの子ぉと一緒に半分ずつしていただきまっさ」ちゅうて変に気ぃ使いよる。
●ホンマの親やったらあんた、子どもに隠れて食いまっせ。ね、そんな気ぃ
使うとこが子どもによぉ分かりまんねん。で、なかなか「お母ちゃん」言ぅ
たことおまへんでしてん。それがねぇ「お母ちゃん」と言ぅよぉになったキッ
カケがおまんねや、その話聞かしたげまひょか? 聞きたい? ちょっと待っ
ときなはれ(クゥクゥ、クゥクゥ……)
●親方、あんたもっと呑まなあかんで、あんたわたいに置いてけぼり喰らう
で……、遠慮せんといきなはれや。あ、そぉそぉ、ほんでうちの子どもが何
で「お母ちゃん」と言ぅよぉなったかの話だ。
●わたいねぇ、その日ぃちょっと嫌なことがあって一杯呑んで帰った。そん
なアホの嫁はんでもでっせ、いつでもわたいがなんぼ遅なってもちゃ〜んと
起きて待っとりまんねんけども、その日はあんた、うちの子どもと一緒に一
つ布団で寝とりまんねん。
●わたいもちょっとムシャクシャしとったさかいね「何で、わりゃ一緒に寝
てけつかんねん」ちゅうて、枕ボ〜ンと蹴ったんだ。そしたら、うちの嫁は
んの言ぅのには「この子は風邪ひぃて寝てまんねん。風邪といぅのは人にう
つしたら軽なるさかいに、自分にうつさそぉと思て一緒に寝てまんねん」と、
こない言ぃよる。
●わたいもグッときたけどね、振り上げた手ぇ下ろすわけにいかしまへんが
な「洒落臭い(しゃらくさい)ことぬかすな」言ぅてどつきかけたら、熱で顔
真っ赤にした子どもが、わたいの方見て「お母ちゃんいじめたら、あかん」
て、はじめて言ぃよった……
■……●親方、親方、なに下向いたはりまんねん、肩振るわして。あんた、
泣いたはりまんのん? あんた泣いたはりまんのん? えぇ人や、あんた、
えぇ人やなぁホンマ。あんたなぁ、言葉荒いけどな、あんたえぇ人やで。最
前「おのれのドタマ割ったろ」言ぅた言葉はきついけど、目ぇに情があるが
な。あんた、えぇ人やなぁ、この話で泣いてくれまんのか?
●嬉しぃ人や、けど……、これみな、ウソでんねん。わたいねぇ、酒呑んで
こんな話して人泣かすのん、ゴ〜ッツ好き。へっへっへっ■紙屑屋、ウソか
どぉか知らんけどやなぁ、もぉボチボチ商いに行て来たらどや? 子どもが
可哀想やないか。
●だいじょ〜ぶです、大丈夫。ね、親方、言ぅたら悪おますけどねぇ、わた
いらの商売「雨降り風間」ておましてな、雨が降ったり風が吹いたり、休ま
んならん時がおまんねん。そんな時でも自分の口はヒジメテでも、嫁さんの
口と子どもの口をぬらす分ぐらいはちゃ〜んと当てごぉておまんねん。
●そんな、ハバイのない人間やおまへんねやで。お前らとおんなじよぉにす
な、アホンダラ(クゥクゥ、クゥクゥ……)注げッ! 何さらしてけつかん
ねや、アンダラ。最前からちょっと黙ってりゃえぇ気になりやがっておのれ。
この酒かて、俺が死人のカンカン踊りしたからもらえたんと違うんかい。早
いこと注ぎさらせッ、おんどれ!
●注がんか? この徳利と、おのれの頭と……■わ、分かったわかった、お
前、悪い酒やなぁ……、お前、商い?●やかましぃわい、アンダラ。商い行
けへんちゅうてんねん。おぉおぉおぉ、な、何うろちょろしてんねん? な
に? ラクダの髪の毛下ろすのに剃刀探してる? アホか、剃刀みたいな気
の利ぃたもんあったら、おらとぉに買ぉてるわいアホ。そんなもんあるわけ
ないやないか。
●ほんだら教えたろ、あのな、これ出てな南行って三軒目のうちや。女ごが
三人住んでるうちがあるさかい、そこ行て借りて来い。なんや? 行くのが
恥ずかしぃ? なんかしてけつかる、気のあかんガキや。たまにはわれが行
て来いアホが。
●俺ばっかり用事さしやがって「夕べ、ラクダが死にました。実は髪の毛ぇ
下ろす剃刀貸しとくなはれ」もしも、貸すの貸さんのぬかしたら「紙屑屋の
久六が、死人のカンカン踊り……」■分かったわかった●何が「分かった」
じゃ、早いこと行て来いアンダラ、しょ〜もない。
●博打するしか脳のないアホンダラが、いっちょ前に偉そぬかしやがってか
ら(クゥクゥ、クゥクゥ……)借って来たか、こっち持って来い、お前らで
けへんちゅうねん。俺がちゃんとやったるさかい、そこへ寝かせ。
●まずは、髪の毛湿(し)めさんならんさかいな(クゥクゥ、クゥクゥ……)
の、呑んでしもた。髪の毛湿めさんならんさかい(プッ)よっしゃ、これで
大丈夫や、これで(んッ、んッ)まともな使いもでけんのか、わりゃ……、
切れへんやないかッ。
●えぇわい、わしが毟(むし)ったら、だいじょ〜ぶや、俺は市松人形の頭、
いつも毟ってんねやさかい。こんなもん(むッ、んッ)イヨッとっ(ぺッ、
ぺッ)……(んッ)イヨッとっ(ぺッ、ぺッ)もぉ、じゃ〜臭い、油かけて
燃やしてまえ。
●こんなムサイもんあったら、酒旨ないさかい、われ足持て、これで棺桶入
れてまお棺桶へ。足ちゃんとしっかり持てよ、い、イヨッとショッと、さぁ
えぇか、ひぃふのみっつ……、アホかお前わ、俺が手ぇ離してんのに足持っ
ててどないすんねんアホンダラ。逆さま、入ってしもたやないけ。
●もぉえぇ、もぉ、フタせぇフタせぇ、こんなムサイもん。そこにカス坊主
一枚落ちたぁる、どぉせ坊主参ってもらわれへんねやさかい、一枚入れとい
たれ。どぉせこのガキ地獄へ行きよんねさかい……。おい、フタせんかい、
フタ。こらッ、足出たぁる足、足……、ボキッと折ってしもたらえぇねや、
気のあかんガキなぁ。
●おい、熊ッ、われどぉせ人足雇う金ないねやろ、な、わしと差し荷いで千
日の火屋まで、これ持って行こ■紙屑屋、えらい済まんなぁおい、お前がそ
んなこと言ぅてくれたら、わしゴッツ嬉しぃわい●礼言ぅなッ、水臭いなぁ
ホンマに、こぉなったらわれも俺も兄弟分やないかい、気安ぅ「兄貴、頼む」
とゆえ。
「とにかくな、あるだけのもん、みな呑んでしまお」あるだけの酒をみな
呑んでしもて、香典でまた酒をば買ぉて来まして、二人とももぉトロッピン
に酔ぉてしまいよった。
●さぁえぇか、朸(お〜こ)通せオ〜コ。ほんでわれ、先棒いけ先棒、俺が後
(あと)棒担いだるさかいな。えぇか、しっかり腰きれよ、えぇか、イヨッと
ショッと……、コラコラコラ、おのれ見てみぃアンダラ、力仕事さらさんさ
かいにヒョロヒョロ、ヒョロヒョロさらしてけつかんねん。
●さぁ、こぉなったらなぁ、派手に陽気に出したろか■「派手に陽気に出し
たろか」て、どないすんねん?●俺の言ぅた通り言ぅたらえぇねん「♪ソ〜
レンやソ〜レンや、ラ〜クダ〜の葬礼(ソ〜レン)や」
●言ぅてみぃ■うッ……、恥ずかしぃ●誰も居てへんさかい言ぅたらえぇね
んや、言ぅてみぃ、言(ゆ)え■そ〜れんや、そ〜れんや……●お前、イジイ
ジしてけつかんなぁ、アンダラ。大きな声出して、とにかく出たらえぇねん
さかい。なぁ見てみぃ、なんぼ生きてた時は悪いやつでも死んだら仏やない
け。それが見てみぃ、長屋のもん、雨戸締めてもぉ寝た振りしてケツカル。
「まぁえぇわい行こか、♪ソ〜レンやソ〜レンや……」空堀通りを西へ出
て九之助橋を渡りまして、大宝寺町を堺筋へ出て南へ曲がります。その当時、
堺筋にはたくさん砂糖屋さんがありました。ちょ〜ど夕景のことですので、
店をしまおとして一生懸命掃除してる丁稚さん、そこへこの二人が「♪ソ〜
レンや、ソ〜レンや……」
★常吉っとん、見てみぃな、えらい汚い葬礼(そぉれん)が通ってまっせ●お
い熊、ちょっと待て。どぉやら、まだ呑めそぉなぞ。その店入れその店へ……
* * * * *
●ごめんなはれや◆もしあんた、そんな無茶してもろたら……●何が無茶や?
いま何かい、この葬礼見て「汚い葬礼」とぬかしたんは、われとこの素丁稚
か?◆いや、それは……、番頭どん、早いことしなはれ……、えらい済んま
へんけど、些少でございますが、どぉぞご仏前に……
●えらい、話よぉ分かるやないけ、ほなまた今度、汚い葬礼持って来たら、
ちゃんとしてくれよ。えらい済まんなぁ、さぁ行くで……
「♪ソ〜レンやソ〜レンや……」日本橋の北詰を西へ曲がりまして、太左
衛門橋を渡って千日の火屋へ行くんですが、前のヤタケタの熊はんが太左衛
門橋の北詰でヒョロヒョロッとした拍子に、橋の欄干に漬けもん桶がボ〜ンッ
とぶつかった。
もとより、タガが緩んでるとこへ、ラクダの重みで底が抜けて、ラクダが
下へズボ〜ッ。
●ソ〜レンやソ〜レンや、おい、ちょっと待て待て、待て熊。えらい棺桶、
急に軽なったで、ちょっといっぺん降ろせ。アッ見てみぃ、底抜けたぁるわ。
「あかんあかん、誰ぞに拾われたらいかんさかい、取りに返ろか」太左衛
門橋の南詰へ返って来ますと、その当時、乞食坊主が寝とぉりました、酒を
呑んで。こいつをラクダと間違えよって、
●こらッ、ラクダ、アホンダラ。落ちたら「落ちた」とはっきり言えやアン
ダラ。いつ落ちたんや?▲十三年前●なんかしてけつかんねん「十三年前」
やて、死んでボケてけつかんねや。とにかく、早いこと来いッ。
千日の火屋へやってまいりますと、
■よしまッ(ドンドン)よしまッ(ドンドン)おい、ちょっと開けてか★誰や?
もぉ仕事済んで寝酒一杯やってんのに、誰や?■ヤタケタの熊や★おぉ、熊
か、どないしてん?■いや、ラクダが死によってな、ちょっとこれ焼いて欲
しぃねん。ここに銭置いとくさかいな、少ないけどこれで一杯呑んでんか。
★えらい済まんなぁ。ほなまた、あした骨拾いに来いよ■いや、骨なんか要
らんさかい、どっか撒いといてくれ★あ〜そぉか、じゃ〜臭いなぁホンマに
もぉ、今日は早い目に仕事が済んで、機嫌よぉ寝酒やってたのに(クゥ〜、
クゥ〜、クゥ〜、クゥ〜……)
★あした早よ起きて仕事すんのも邪魔臭いしなぁ、まだ火は残ったぁるし、
焼いてこましたろ。
棺桶を火の上へ乗せまして、横でチビチビやっとぉる。しばらくするとジ
リジリジリジリ火が棺桶回りだした。
▲熱いッ……、あ〜ついッ★誰や?「熱い」て、熱のぉてかいアホンダラ。
火ぃは熱いのんに決まったぁるわい▲出してくれッ、出してくれっ★「出し
てくれ?」往生際の悪いガキなぁ、おのれみたいなんはなぁ、大人しぃ焼か
れてしまえッ!
▲こ、ここはどこや? ここは、どこや?★ここは、千日の火屋じゃ。
【さげ】
▲あぁ、ヒヤか……、ヒヤでもえぇさかい、もぉ一杯くれ。
【プロパティ】
ラクダ=江戸時代に見世物として日本に渡来していたという。また、形ば
かり大きく品質の劣るものをラクダと呼んだ。
野漠(のばく)=大阪市中央区谷町6丁目。東側は谷町筋裏、西側は松屋町
筋裏町の南手、北側は安堂寺橋通坂下、南側は空堀の北寄り、少し南
のあたり。1630(寛永7)年、徳川家御用瓦師寺嶋藤右衛門が大阪拝領
地として幕府から南瓦屋町の地を頂き、その地が瓦土取場になり、以
来二百年間瓦の製造のため掘り続けた結果、擂り鉢の底のようなくぼ
んだ土地になった。
ロク=陸:下に打ち消しの語を伴って、物事の正常でないこと、まともで
ないこと、満足できる状態でないこと、また、そのさまを表す。ロク
は陸の呉音。水平なさまをいうのが原義。「碌」は当て字。
木枯し紋次郎=笹沢佐保(1930〜2002)氏作『木枯し紋次郎』シリーズの登
場人物。「あっしにゃ、関わりのないことでござんす」のニヒルなセ
リフとは裏腹に、ふつふつと湧き出る悪への闘争心に負けて、ついつ
い関わってしまう熱い男を描いた作品。1972年、市川昆監督のTVドラ
マで中村敦夫が演じ、上条恒彦の歌うテーマソング「だれかが風の中
で」とともに大ヒットした。
けつかる=居る、するの意の下品な悪態口に用いる語。
アホんだら=タラはグウタラなどの軽蔑の意を込めた接尾語。アホタレの
タレも同じ。馬鹿野郎の意味ではあるが、どこまでも柔らかく間が抜
けている。約まるとアンダラ。
どぶさる=寝る、眠るの下品な語。
庭=通り庭:土間・たたきのこと、木の植わっている庭は前栽(せんざい)
という。
ドタマ=頭にドを付けて、罵言に用いる。『東海道中膝栗毛』に「ヤイ細
事(こまごと)ぬかすない。どたまに(煮)やしてこまそかい」
とちり=言い間違い・失敗・遅刻。
さらす=するの罵語。やがる・くさる・けっかるなどの補助。さらしてけっ
かる。
ぬかす=言う・ほざく。
失せる=なくなる、紛失する。行く、去る、居なくなる。来る、居るの卑
俗語として用いる。
エゲツナイ=濃厚な・辛辣な・酷烈不快な場合などに用いる形容詞。エグ
イ(喉を刺激するいがらい味)から出た語だろうという説もあるが、一
方にはイゲチナイという語もあり、イカツイ(厳しい)の転じたものか
と考えられる。イカツイ→イカツナイ→エカツナイ→エゲツナイ。ナ
イは幼気(いたいけ)ないなどと同じで、無いではなく甚だしいという
意味の接尾語。
ボヤク=つぶやく。ブツブツと不平をいう。また、小言をいう。
ホゲタ=頬桁:ほおげた。頬骨。転じて、悪口、口のわるいことの意にい
う。
われ=俺に対してわれ。漢字で書くと我であるが、大阪では「じぶん」と
言って「あなた」のことを指す場合もある。
ごねる=ゴテゴテ言う、苦情を言う。死ぬ。捏ねるの転。
弥猛(やたけた)=弥猛(いやたけ):乱暴、無考え。
カンテキ=七輪:土製のこんろ。ものを煮るのに炭の価が七厘ですむ、と
いう意によるという。七厘。コンロ。転じてよく怒る人のこともカン
テキという。
繋ぎ(つなぎ)=交際をつなぐの意で、町会や長屋などの祝儀・不祝儀に付
き合いで出し合う金銭。
あかん=駄目。「埒明かぬ」あかぬの約転。ビンのフタが開かないの開か
んとは意味が違う。
杠秤(ちぎ)=棹秤(さおばかり)。
タメ=物をもらったお礼に入れるもの。オタメ。
あんじょう=うまい具合に。味よく→アジヨォ→アンジョ〜。
ドス=短刀・あいくちなどの小型の刀。脅す「お」が省略された語。
夜伽(よとぎ)=お通夜(つや)などで夜通し起きていること。また、通夜。
ボロカス=襤褸滓(ぼろかす)クソミソ・ボロクソ。
渋ちん=渋い人・けちんぼ・吝嗇家。渋んちともいう。
カンカン踊り(看看踊り)=「かんかんのう、きゅのれんす…」という「九
連環」の歌詞から出た名。江戸時代、長崎におこり、大坂・江戸で大
流行した中国風の踊り。清朝風の扮装で、清楽を配する。かんかんの
う。唐人踊り。
はばかりさん=ご苦労さん、ありがとう。
因業=頑固で物わかりの悪いさま。また、人に対する仕打ちが情け容赦も
なくひどいさま。
〜け=河内の方言:〜かい、〜かえ、の約まったもの。
くさる=するという意の下品な悪態口に用いる補助動詞。腐るであろう。
ヤガル・サラス・ケツカルなども同じ意。
ホベタ=頬。ほぉぺた→ほべた。べたは地べた、尻べたなど、平らな面を
指す。
おのれ=己:お前。きさま。われ。一人称であるが二人称として用いる。
大阪では「じぶん」と言って「あなた」の意で用いることがある。
ぎょ〜さん=たくさん・はなはだ・たいへん。大言海には「希有さに」の
転とある。「仰々しい」のギョウか?「よぉけ→よぉ〜さん」たくさ
ん、の訛りかも?
左甚五郎=江戸初期の大工・彫刻師。播磨の人。徳川家の造営大工の棟梁
と伝える。日光東照宮の眠り猫、上野東照宮の竜などを彫ったとされ
るが、伝説的人物と考えられ、その実体は不明。また、飛騨地方の匠
が全国へ出稼ぎに出「飛騨の甚五郎」という架空の人物像を作り上げ
たともいう。
お手塩(おてしょ)=手塩皿(てしおざら)、小皿のこと。
三箇の荷(さんがのに)=三箇は「三大〜」という意、花嫁調度のことであ
るらしいが、具体的には不明。
しゃ〜ない=仕様が無い→しょうがない→しょ〜ない→しゃ〜ない。
裏長屋=表通りの裏にある長屋。貧乏長屋。〜裏、というように家主の名
称を付けて呼ぶことがあった。
虫養い=ほんのちょっとした食事。腹の足し。軽食。虫おさえ。
洒落臭い(しゃらくさい)=分に似合わず気の利いた風をする。生意気であ
る。
ヒジメル=「口をヒジメル」で食物を与えないことの意。単にヒジメルで
干乾しにする意味にも使う。
はばい=はぶり。威勢。勢力。羽生え(はばえ)がない。
羽生え(はばえ)がない=世間における地位・勢力・人望を「羽振り」とい
うことから、同傾向と解釈すれば「地位・勢力・人望がない」という
意味でしょうか?
おんどれ=おのれ。きさま。人を罵っていう語。オノレ→オドレ→オンド
レ。主として河内から大和方面で使う。
市松人形=歌舞伎役者佐野川市松の姿を写したという、近世末期に流行し
た木彫りの男児の人形。手が動き、腰・膝・足首が折れ曲がるように
作られ、着せ替えたり抱いたりして遊んだ。桐のおが屑を固めたもの
や焼き物・張り子などでも作られ、腹に笛を仕込んだものもあった。
いちまつ。いちま。
ムサイ=汚らしい・不潔な。
カス坊主=花札の薄(すすき)一点札。
火屋=火葬場。焼き場。
朸(おうこ)=両端に物を掛けて荷う棒。てんびん棒。二重母音の「おう」
は大阪では必ず「おお」と発音する。
空堀通り(からほりどおり)=大阪市中央区谷町6丁目、7丁目を分ける通
り。大阪城外堀のまだ外にあった堀を埋めた跡といわれる。大阪市天
王寺区上本町3丁目にある「空清町公園」にその石垣跡があったと記
憶する。
九之助橋(くのすけばし)=東横堀にかかる橋。大阪市中央区島之内1⇔松
屋町。大宝寺通りの東端に当たる。
大宝寺町(たいほうじまち)=大阪市中央区島之内1丁目21あたり。
堺筋=北浜、日本橋をつなぐ通り。日本橋から南は「住吉街道」「紀州街
道」
堺筋の砂糖問屋=砂糖のことを「堺筋」と呼ぶほど、砂糖問屋が多かった。
日本橋(にっぽんばし)=道頓堀にかかる橋。北詰の通りが「宗右衛門町」
南詰の通りが「道頓堀」
太左衛門橋(たざえもんばし)=道頓堀にかかる橋。南詰に「行列のできる
タコ焼き屋がある」というと分かりやすいか。千日前アーケード街へ
とがつながる。
千日の火屋=千日前は江戸時代には刑場のあったところで、明治初年には
まだ角座の楽屋の窓からこの曝し首が眺められたという。明治四年に
その刑場を廃し、同七年墓を整理して阿倍野へ移し、焼場・六坊・灰
山等もなくなった。その跡の繁栄策のために、見世物小屋などの設置
を誘致した。
参考:笑福亭松鶴版「らくだ」
音源:笑福亭鶴志 2002/12/13
ゆとりーと寄席(HCT:東大阪コミュニティテレビ)
【作成メモ】
●参 照 演 者:main=笑福亭鶴志 sub=*
●main高座記録日:2002/12/13 ●音 源 名:ゆとりーと寄席(HCT)
●ファイル公開日:2005/12/04 ●江戸落語相当:*
●更 新 日:2005/12/18 ●リクエスト数:
●注 意 事 項:内容を削除、追加、改訂している部分があります。
記録日のmain演者によるさげを採用しました。
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