大朝日岳
2004.9.17〜18 一泊二日
コース: 古寺鉱泉⇒鳥原小屋(泊)⇒小朝日岳⇒大朝日岳⇒小朝日岳(巻き道)⇒古寺山⇒古寺鉱泉
山を歩き始めて1〜2年が経ち、近隣の日帰り登山からやがて八ヶ岳や北アルプスの山小屋に行くようになると、そこには私たちとは全く違った人たちがいるのに気付く。彼(女)等は、中年太りが定着してしまった私たちとは異なり、むしろ華奢とさえ見える小柄な体に私たちの背負うザックの3倍もあるザックを身につけ、後から見ると頭がその陰に隠れてしまっている。話を聞くと「○○岳を越えてきました。明日は○○まで行きたいと思ってます」などと事も無げに言う。そのどちらも私にとっては途方も無い遠い山の名前だ。驚きと尊敬とうらやましさで、まぶしく眺めるしか出来ない。
でも、そこまではとても無理でも、その真似事をしてみたい。となりにテントを張って同じ空気を吸ってみたい。
テント、寝袋とマット、60リットルのザック、コッヘルとコンロ。全部揃えるのに4年もかかった。使う予定があったわけではない。持っていて、時々眺めるだけでも、あの人たちにほんの少し近寄れたような気がした。
しかし、おもちゃが手元にあれば、使って遊びたくなるのは人情だ。今年こそテント山行をやってみよう。
まず始めたのが「減量」だ。テント泊の装備で5kg位は増えるだろう。だったらそれ以上体重を減らそう、と決めたのが2月だった。7ヶ月で7kg減らした。(と言ってもまだ十分太っている。BMI指数で28から25になった程度)
体重を減らしたはいいが、荷物を背負って歩けるだろうか。7月に20kgの荷物を作って男体山に登ってみた(裏からです)。なんとかなった。さあ、いよいよ実行!

東北道を北に走って行くと福島付近から雨になった。山形道に入ると止む
時もあるのだが、降るときは強い雨だ。
月山ICを下りて古寺鉱泉に向かうと、なんと一部工事区間を除いて真新し
いアスファルト舗装が駐車場まで続いていた。
駐車場には工事車両が数台と、登山者の車が一台あった。雨具を着けて
出発。すぐに古寺鉱泉の建物がある。その前の橋を渡らずに尾根に上って
いく。最初からかなりの急登だが一時間も登ると尾根に出てなだらかになっ
てきた。誰にも会わない。めったに使わない熊鈴を鳴らして歩く。
ブナ峠との分岐で軽い昼食をとり、雨具の上を脱ぐ。雨は止んだが下草が
濡れているのでズボンはつけたまま。
傾斜が緩やかになると湿原が広がり、朝日鉱泉からの道と合流する。木
道を朝日鉱泉の方に行くと湿原にかこまれた高台に鳥原山避難小屋があっ
た。駐車場から正味3時間(+休憩合計30分)かかった。
小屋は2階建てできれいだ。南側に立派な朝日岳神社の建物がある。すこし離れてトイレ棟。なんとこれが水洗なのだ。小屋と神社に守られるようにテント場があった。
設営が終わってもまだ3時。ホッとして泡の出る飲み物が欲しいところだが、あんなに重い物を担ぎ上げる根性はない。代わりに琥珀色の「命の水」を持って来ていた。沢水で割って口に含むとトリスがジョニ黒に思える(古いなあ)。とにかく旨い。
3時半過ぎ、熊鈴の音と話し声がして3人の姿が現れた。5時間ぶりに見る人間だ。
「新しい靴跡が一つだけ続いていたので、きっとここで会えると思ってました」と言う。
夕食はアルファ米を戻してレトルトカレー。ベビーハムがアクセント。それにもちろん「命の水」。
夕食が済むと何もすることがない。本当に何もないのだ。外のベンチに座ってぼんやりと下界を眺める。次第に暗くなっていくと街の灯りが見えてくる。あれは山形市内だろうか。
テントに入って地図を広げる。明日のコースを確認するつもりだったのだが、いつか別のことを考えていた。ここから一番近くで人の居る所はどこだろうか。登ってきた古寺鉱泉まで3.5km、大朝日小屋まで4.5km、朝日鉱泉まで3.8km。少なくとも半径3km以内には、私と小屋に居る3人以外はだれも居ないのだ。都会ではこの広さに数千人、いや万を超える人たちがいるかも知れない。なんと贅沢な!
そんな事を思っているうちに、いつしか眠ってしまった。ぼんやりと見た時計はやっと7時半を回ったところだった。

翌朝目覚めたのは3時半だった。8時間も寝たのだから十分だ。テントから出ると星空があった。月はない。三分の一ほどは雲がふさいでいるが、残りは星たちの世界だ。こんなにたくさんの星を見たのは初めてだ。ぼんやりとした明るさを感じて「星明り」というものが本当にあることを知った。時を忘れて佇んでいた。
テントを撤収し、荷造りをして日の出を待つ。雲の合間から太陽が顔をだしたのは5時20分だった。さあ、出発。
小朝日までの登りが苦しかったが、その先は楽しい稜線歩きだった。ガスが濃くなにも見えない。大朝日小屋に荷物を置いて山頂に着くまで誰にも会わない。下山にかかってからは、登ってくる人とのすれ違いが始まった。
スコップとツルハシで登山道の排水溝を作っている人がいた。
「月山は雲がかかって頂上がみえませんね」と話しかけると、たった一言、
「ンだっ」と返ってきた。暖かさが感じられる声に嬉しくなった。
小朝日岳は巻き道を通って古寺山を越え、古寺駐車場に13時30分に着いた。
初めてのソロテント山行を終え、新しい山の世界が開けたように感じている。
北アルプスのような設備の整った山小屋は、確かに快適ではあるが、どこか都会を持ち込んでしまったような違和感を感じることがある。その小屋の前であってもテント泊の方がより山に近いところにいられるように思う。だから、「いざ」というときの避難小屋を結びながら彷徨うテント泊こそ、より山との距離がないように思える。
18kgの荷は、歩行時間にはほとんど影響のないことを発見したのも大きな収穫だった。
一言で言えば「ソロテント山行にはまってしまいそうだ」
次は、奥秩父縦走でもやろうかな。