雨が降り続いている。ときに激しく、ときには弱まることがあっても止むことはない。三日前に上高地に着いたときから降っていた雨が降り止む気配はない。
すこしでも天候の好転を期待しながら涸沢ヒュッテで長い休憩をとったのだが、もう待てない。今宵の宿である穂高岳山荘めざして歩き出した。
山岳指導所の脇からパノラマコースに入り、いくつかの雪渓を越え高度をかせいで行く。みんな無口だ。
やがて涸沢小屋からの道と合流すると、先行する若い男性の姿が見えるのだが、なにか変だ。時々うずくまっては、また歩きだす。少しずつ追いついてくると、なにをしているのかが分かった。左手には汚れたごみの入ったビニール袋、右手には小さなヘラのような物を持っている。ゴミを集めながら歩いていたのだ。大きなゴミが落ちているのではないので、注意しないと見過ごしてしまうが、よく見ると小さなゴミが、岩に隠れるように、あるいはなかば埋もれて確かに落ちているのだ。
それをたんねんに探し、掘り返し、拾い集め、さらにその跡をならしているのだ。この雨の中で、である。
追いついて声をかける。
「ごくろうさまです。山小屋のかたですか」
「いいえ」
「環境庁か、ガイドのかたですか」
「いや。なんでもありません。ただの山好きです。今日は山登りのバリエーションとして、こんなことをしているのです」
ただただ、頭が下がる思いがした。
今日の私たちは、歩くことだけで精一杯だ。いつかこんな余裕を身につけて真似をしたい。山の実力をつけるということには、こういうことも含まれている違いない。それも、かなり重要な部分として。
(2003.8.19)
穂高にて