YOKO

1979年、大阪。夜。雨。豪雨だ。近鉄線沿線沿いのとある町。その一角の小さなスナック。
客はいない。おそらく今日はもうひとりも来ないだろう。晴れた日にだってオケラの時がある。
カウンターにホステスがひとり座ってタバコを吸っている。カウンターの中にはバーテンひとり。
ふたりはもう数時間暇をもてあましていた、というのは嘘で、少なくとも、今年ハタチになったバーテンは、いてもたってもいられない状態だ。
胸の高鳴りを押さえきれない。27才の美しいホステス、ヨーコに惚れていたから。

このチャンスに、この機会に、どうにかして思いを告げたい。だが、どうしたらよいだろう。

バーテンは紙ナプキンを折った。何枚も折った。
ふと思い立ち、ボールペンを取った。紙ナプキンに、そこから見えるヨーコの表情をスケッチ。描いた。
へたくそだが一生懸命描いて、何枚か描き直し、その中でとりあえずまともなものを選んだ。
そしてそれをヨーコに渡した。せいいっぱいの告白だった。
「これ、ヨーコさん」
と、ヨーコは、自分が描かれた紙ナプキンをしばし眺め、
「ふん」
と言うと、自分のポケットにおさめた。それは案外ていねいな扱いだった。

その後、ヨーコとバーテンはつきあうことになる。
ヨーコには小さな子供がいた。その父は・・ヨーコの夫は、現在刑務所の中ということだった。
バーテンは、ヨーコと、その小さな子供を車に乗せ、遊園地で遊んだ。子供ははしゃいだ。ヨーコもはしゃぎ、バーテンは楽しかった。
だがそれは、長くは続かない恋だった。
「ヨーコちゃんといくとこまでいきや」
ヨーコの友達のホステスにそう言われた。
だが、出来なかった。
バーテンには、いくところまでいく力は、なかった。というか、その決断すら出来なかった。まだ若かった。
だからといって許されるわけではないのだが。


さて、そろそろバーテン君・・ちゃんと責任を取る男になろうぜ。
                   yokoさん








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