団長BNR32物語

第1章


出会い
平成元年夏、BNR32は登場した。R復活であった。当時の私はS130Zをこよなく愛していた。極貧だった私にとってBNR32はどうでも良い車であった。
ある日、知り合いからゼロヨンに誘われた。ゼロヨンには余り興味は無かったが、その知り合いの知り合いがBNR32で行くと言うので行く事にした。
ドノーマルのRは速かった。爆音を轟かせながら走る車を静かにぶっちぎっていた。
数日後、愛車で国道を走っていると、後ろから凄い勢いで私の車に張り付いてきた車があった。それは以前一緒にゼロヨンに行ったRだった。彼も私だと気が付いて追いかけてきたのだろう。ルームミラーを覗くと、恐怖感に似た威圧感を持った車がいる。すごくカッコ良く見えた。

130との別れ
私の130は既に14年落ちとなっていた。かなり手も入っていて、ノーマルの部分を探す方が難しい車である。
今と違ってチューニングカーへの風当たりは強かった。おまけに10年以上古い車は1年車検。古さから来る故障も多く、1年の内半分位は動いていない。修理をしてくれる所も無く、借金も増える。辛い...。「もうこの車とは付き合えない」そう思った。

決意
130Zを手放した。しかし直ぐ次の車を買うお金は無かった。「安い車を探そうか?」とも思った。しかし、3Lターボチューン(推定400ps)の車から乗り換えられるほど魅力的な車は安くない。130より絶対に良いと思える車で無ければ手放した事を後悔する。130みたいにチューニングしまくらなくても十分速い車、エアロで固めなくても十分かっこ良い車、4人以上乗れて、実用性もある車。そう考えた時、静かだが妙な威圧感のある車が思い浮かんだ。
しかし、その車の値段の高さは半端ではない。まだ借金も沢山残っている。Rを買うまで、安い4A-G搭載車を買おうかとも考えた。しかし思いとどまった。駐車場代や維持費など考えるとRが遠のく。

貯金
マイナスからのスタートがゼロになったのは半年後だった。自分の給与から家賃や生活費など必要経費を差し引くと、月に1万円貯金する事ができる様になった。たったの1万ではRは遠い。しかし、私にはそれで精いっぱい。少しでもRに近づく。それでいい。

ストレス
お金を使わない生活が続いた。基本的に貧乏だった私には問題の無いことの様に思えた。しかし、体調を崩してしまった。車の無い生活が私には耐えられなかったのか、他に原因があったのかは分からない。病院通いが続く。検査の日々。バリウム検査、胃カメラ。辛かった。痛くて眠れない日々。仕事に行く途中でうずくまってしまうこともあった。
検査の結果は異常無し。医者はストレスが原因だと言う。ストレス?そんなもんが溜まっているなら注射器で抜いてくれ!!

購入計画
さらに半年が過ぎた。GT-R積み立ては月4万に増額された。さらに半年後、ブーストがかかる。積み立て額は月10万となった。
GT-R積み立ても軌道に乗り、R購入の見通しが明るくなって来た。平成8年の8月の給与で積み立てが300万を超える。300万を頭金にして残りをローンして...
私は新車を購入した事が無い。やはり新車がいい。よし新車にしよう。月10万貯金できるなら残りのローンも払えるだろう。確実にRに近づいている...

BCNR33デビュー
平成7年1月、GT-RがモデルチェンジしてBCNR33になった。あの車はもう新車では買えない。しかし33になってもRはR。
1月16日、ディーラーに行く。人が沢山いる。車のディーラーがまるでバーゲン会場の様に混雑していた。RB26DETT、本物を間近で見るのは久しぶり。すごくワクワクした。客の一人(おやじ)がRB26のある部分を指差して「これがプラグだぞ」なんて自慢げに自分の子どもに言っていた。「おいおい、それはインジェクターだよ!」って突っ込みを入れたくなった(しかも裏拳付きで)が止めた。わざわざ子どもの目の前で恥じをかかせる必要もない。このおやじも私と同じ様に、内心はワクワク、ドキドキしてたに違いない。

逃げ水
店の人にカタログをくれと頼んだが品切れと言うことで、後日郵送して貰う事にした。価格表だけくれた。33買うならVスペが良い。しかし異常に高い。諸経費込みで600万弱。果たして買う事が可能なのか?一晩中考えた。しかし32との差額が大きい。積み立て期間を延ばせば可能なのだが車の無い生活が1年も延びると思うと耐えられない。Rが遠くへ行ってしまった。

翌早朝、オレンジ色の光の中で突然目が開いた。「ゆれてる?」しかし私は恐怖心を取り払う為「関西に天災は無い!!」と自分に言い聞かせた。次の瞬間、あたりを包んでいたオレンジ色の光が暗闇へ変わった。「ヤバイ」と思った。体が一瞬宙に浮く。「こんな所で、Rに乗れないまま終わるのか!!」。人生最大の恐怖が襲う。

絶望
幸いな事にRに乗るチャンスが奪われる事は無かった。街も次第に落ち着きを取り戻しつつあった。しかし、BCNR33のカタログが送られて来ることは無かった。
Rが遠のいてしまった事はしかたない。気を取り直してR購入シミュレーションを再開する。BCNR33を購入できるのか?、購入後の維持は問題無いか?、今住んでいるボロアパート(震災以前からボロだった)からもいずれは引越したいが可能か?。仕事で使っているノートパソコンを借りて帰ってプログラミングする。あらゆる入力パラメータを変更し、Rが購入可能と出るパターンを探す。が、見つからない。駄目か。そこで、もうすぐ父親が定年退職する事を思い出す。この際思い切って退職金から少し借りるか。親への返済は10年ローンにすればOKじゃないか?。入力する。出たOKだ。金を借りれるかは分からない。でもこの方法しかない。
入力パラメータを出来るだけ正確する為、BCNR33の任意保険の金額を保険屋に聞く事にした。当然保険は車両保険(制限無し、自損もOK)も入れて見積もりして貰う。車両保険に入っていなかったら恐くてアクセルは踏めない。アクセル踏まないならRである必要は無い。結果は月割りにして4万強。月4万である。自分の勤めている会社の系列の保険屋なので割引が効くのだが、この値段は高すぎる。これを聞くまで2万位でシミュレーションしていた。それでギリギリだった。後2万を許容する所はどこにも無い。駄目だとはっきり分かった。

開放
体中の力が抜けた。でもすっきりした。これでターゲットをBNR32(当然中古)にすれば、見通しは既に立っている。もう何度も計算する必要は無いし、悩む必要もないのだ。少しBCNR33への思いを残しながら自分との折り合いを付ける。
目標:「平成8年8月、車両価格300万程度のBNR32」


平成8年ゴールデンウィーク
貧乏生活は続いていた。次のボーナスで目標額の300万を達成する。予定より少し早い。車体価格の現状調査を始める為に中古車情報紙を購入した。2年位前はRの中古車は余り載っていなかったが流石に新型が出たせいか選べる程載っていた。
ゴールデンウィークに入り、仕事は休み。中古車情報紙を頼りに中古車回りを始めた。スポーツカー専門店には必ずRがあるような状態だった。絶対条件はドノーマル、マフラー交換程度でも駄目。許容範囲はブーストメーターの追加くらい。できれば大きな事故をしていないもので、走行距離が割合少な目なもの。割りと良いものが数台があった。H3年型中期型シルバー、ドノーマル、走行距離38000km、価格298万円。H4年型ガンメタ、ドノーマル、走行距離30000km、価格318万円。初期型ならもう少し安いが眼中に無かった。でも買うのはもう少し先。

計画が狂う
ゴールデンウィークは暇だった。何度も同じ本をめくる。もう一度、前に行った中古車屋に行ってみた。シルバーのRはあったが既に売約済みだった。もう一台のRは残っていた。少し運転させてもらった。R初体験だった。スーパーハイキャスのせいか、街乗りレベルの走りでは良く曲がる様に思えた。エンジンパワーは余り味わえなかった。感動も余り無かった。
家に帰った。8月に車を買うにしても駐車場が無ければ話にならない。ボロアパートの前に月極駐車場がある。取りあえず空き状況を聞いてみた。もし、空く予定があるなら予約しておこう。
「今一台分だけ空いてますよ」と言われた。このチャンスを逃したら次空くのはいつになるか分からない。駐車場を押さえる。そして電話をかけた、中古車屋に...。


第1章完

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