「はぁ…… どうせ雑巾なんて、そのうち誰のだかわからなくなってくるのになぁ……」
 夜、みんなが寝静まった後で、大量の雑巾を縫う私。
 きょうだいの全員分の大量の雑巾をたった一人で縫う……ちょっと涙の出てくる光景。ため息も自然と出ちゃう。
 目の前には縫い終わった雑巾が山のように積み上がっているけど、なんとこれでまだ半分。
「これで半分かぁ…… げ。名前も書かなくちゃ」
 どうせ名前を書いても、汚れたり、破れたりでわからなくなるもんだと思うんだけどね。それに、自分の雑巾がボロボロになったときとか、名前でばれて恥ずかしかったりさ。
「……いや……雛子ちゃんや亞里亞ちゃんはともかく、みんな自分で書けるな、うん。自分で書かせよ」
 勝手に名前かいたら怒られるかもしれないし。……千影ちゃんとか咲耶ちゃんあたりかな、それとも大穴で鞠絵ちゃんとか。ああいうタイプが怒ると怖いんだよなぁ。
 そんなことを考えていると、こんこんとドアをノックする音がした。

「ん……誰?」
 もしかして、今変な事考えたから鞠絵ちゃんが化けて出たのかもしれないな。
 ……それはないか。もしそうだったら謝るから帰って寝ててくれ。
 なんて思いながら返事を待っている。返事しろよ……? 返事しないで帰っちゃったら恐いからな……
「私……咲耶。入っていい?」
 ドアを通してだからだろう、ややくぐもった声が聞こえた。
 ……なんだ、咲耶ちゃんか。ノックだけだったから、てっきり雛子ちゃんあたりがおねしょして、ノックしたものの言い出しづらかったのかと思ったよ。
 でもちょっと安心したな、咲耶ちゃんで。この時間に千影ちゃんがやってきて、不用意にドアを開けたら呪われたりして。
「んっ……どうぞ。散らかってるけど」
 とりあえず目についたゴミをベッドの下に押し込んで答える。
 押し込んで入り口の方を振り向くと、ドアがゆっくりと開いた。


「こんな遅くに……ごめんね」
 ドアを開けて入って来た咲耶ちゃんは、なんとなくいつもの元気が欠けてるような気がした。夜だし疲れてるのかもしれないけどね。
「ううん、私は別に」
 丁度話し相手も欲しかったし。一人で雑巾縫いなんてねぇ。
「あ、そっか、雑巾……」
 咲耶ちゃんは机の上の雑巾の山を見て頷いた。
「ん、まあね。さすがにこの人数分となると大変だよ」
「そうだよね……」
 いつもは余り意識しなくても、こうやって数を見るとまた違うからね。
「……でも、何か用があるならいいよ。雑巾なんかよりそっちの方が大事でしょ」
 言ってすぐ、雑巾なんかと比較しちゃ悪いなと思った。
 でも『なんか』とかちゃんと付けたから許してくれ。
 っていうか化けて出たりするなよ……
「ま、とりあえず座りなよ。……散らかってるけどさ」
「ううん、そんなことないよ」
 そう言いながら、私のベッドに腰掛ける。まあ、おせじだろう。
 しかしまあ、しぐさが綺麗だね。
「……どうしたの?」
 見てたのに気付いたのか、咲耶ちゃんが聞いてきた。
「いや、きれいだなって思ってさ」
「ありがとう……」
「どういたしまして。いや、マジでさ、咲耶ちゃんはきれいだと思うよ」
 素材が良くて手入れもいいからね。
 私も咲耶ちゃんみたいだったらよかったなって思うときあるし……
 そう続けようとしたら、先に咲耶ちゃんが口を開いた。 
「……でも……」
 その咲耶ちゃんの声を聞いたその瞬間、どきっとした。この先に続く言葉……今咲耶ちゃんが私の所にやってきた理由がわかってしまった。
 ……そういう理由ですか……
 さっきは少し楽しみだったけど、気付いちゃうとあんまり聞きたくない話題かな。
 咲耶ちゃんがその言葉を発するのを、果たし合いの合図を待つような気分で待った。
「でも、お兄様と結ばれる事は……叶わないのね……」

 咲耶ちゃんは辛そうな顔で、絞り出すようにそう呟いた。
 哀しい声だった。


 わかってたよ。咲耶ちゃんのいつもの自信あふれる態度は、不安の裏返しもあるって事。
 心のどこかでは不安で仕方ないから、気丈に振る舞っているんだ……
 ギリギリのところで頑張っていて、少しの衝撃でも大きく揺れてしまう。
 これまで一緒に暮らしてきて、そんなことはわかっていたけど、それをいきなり見せられると、どうしたらいいのかわからない。

 その辛い気持ちが伝わってくるから逸らしていた視線を咲耶ちゃんの方に向けると、その肩は小刻みに振るえている。
 いたたまれずまた目を伏せるとすぐ、咲耶ちゃんが私の方を向いて来た。
「眞深ちゃん、私……」
 私の顔をじっと見つめた後、咲耶ちゃんは
「私……」
 私の胸に顔をうずめて、声を立てないように泣き出した。
 服の布地を通して、咲耶ちゃんの涙……その気持ちの熱さが伝わって来る。
「ごめんね。さっき、考えてたら辛くなって来ちゃって……」
「だから私の所に来たの?」
 咲耶ちゃんはこくん、とうなずいた。
「みんなもう寝てたし……」
 ま、こんな時間に起きてるのは私位かもね。
 ……千影ちゃんが何かの儀式とかやってるかもしれないけど。あ、鈴凛ちゃんが何か作ってるってこともあるか。
 それでも、私の所に来たのはちょっとうれしいかな。
 なんか、頼られてるって……ね。悪くない気分だよ。
「……ね、みんな吐きだしちゃいなよ。きっと少しは楽になるよ」
 私は咲耶ちゃんの髪の毛をなでながら言う。
 なでる度にその髪の香りが漂う。こんな時に不謹慎かもしれないけど、いい香りだ。きっとこれもあんちゃんのためなんだろう。あんちゃん、果報者だよ。
「眞深ちゃん……」
「ま、私じゃ不満かもしれないけどね」
 ちょっと冗談めかして言うと、咲耶ちゃんは顔を上げて、私の瞳を見据えた。
 咲耶ちゃんが嘘泣きをよくする事は知ってるけど、今回はマジで泣いてたから、とても瞳がうるんでる。
 あんちゃんに限らず、男はこの目には弱いだろうね。
「そんなことないよ…… だって眞深ちゃん……
 ……ねえ……今日泊まってっていいかな? 話……長くなりそうだし」
「泊まってって、同じ家の中じゃない。いいよ」
 苦笑まじりに言うと、咲耶ちゃんは涙を拭いて立ち上がった。
「じゃあ、パジャマとって来るね」
「うん」
 私の部屋から出ていく咲耶ちゃんの背中は小さく見えた。
 今夜はもう戻って来ないかもしれないな。咲耶ちゃんのその背中を見ていると、そんな気がした。
 自分の部屋に戻った所で寝ちゃうんじゃないかな。
 あれだけ泣いた後でまた来るのは気まずいだろうし。
 それでもいいよ。それは嘘とかそう言う事じゃないと思う。
 それに、明日朝になればまた会えるじゃない。きょうだいなんだから。
 ……でも、とりあえずベッドメイクをちょっと念入りにやってみる。
 目についたゴミを拾っていると、またドアをノックする音がした。
「ただいま。咲耶……です」
 ちょっと遠慮がちな声と一緒に、ドアがゆっくり開いた。すでに着替えていて、パジャマの上にカーディガンを羽織ってる。
 ……咲耶ちゃんは戻って来た。
「おかえり」
 同じ家の中なのに、ちょっとうれしかった。


「眞深ちゃん…… 私ね」
 ベッドに入ってしばらくして、咲耶ちゃんがふと口を開いた。
 布団は一人用の所に二人で寝てるから、耳元でささやくような感じに聞こえる。
「私……
 眞深ちゃんがうらやましかったの」
「私が?」
 私が咲耶ちゃんに?
 身長も胸も咲耶ちゃんの方があるし……
 年齢じゃないよね。
「うん。お兄様って、眞深ちゃんといるときは自然で生き生きとして見えるんだもの」
 咲耶ちゃんはうらやましそうな声でそう言った。
「ん……ま、そういやそうかもね」
「私の前じゃ、どこかよそよそしいわ」
「それだけ咲耶ちゃんの事を意識してるって事じゃない。妹というより女の子として見てるんだよ」
 私はほとんど友達って感じだからなぁ……
 ま、その関係の方が好きって子もいるだろうけど。
「そうかなぁ……」
「そうだよ、きっと。もっと自信持ちなよ。私があんちゃんだったら咲耶ちゃんのこと、絶対放っておかないよ。こんなにきれいで、おしゃれで」
「……そう、かな……」
「そうだって。私が保障する」
 妹として会ってなければ、今頃は割といい感じになってたんじゃないかな。
 私があんちゃんだったら、っていうのもマジだ。
 それが伝わったのかどうか、少し沈黙した後、咲耶ちゃんはささやくように言った。
「……ありがとう……
 ……ねえ……眞深ちゃん……」
「ん……?」 
「お兄様は一番大好きで、特別だけど……
 お姉様も、欲しかったんだ……」
「もしかして……私?」
 聞き返す私に、咲耶ちゃんは無言でこくんと頷いた。既に部屋の明りは消して暗いけど、空気の流れや雰囲気で、頷いたって事が確かに感じられた。
「私ね、頼れる相手って、いなかったから」
 これまで、咲耶ちゃんはこの姉妹のまとめ役になろうと、本当に頑張って来たと思う。
 あんちゃんが逃げ出しちゃうような、大量の姉妹という状況をまとめあげようと。
 そんな中じゃ、頼れる相手なんてあんちゃん位しかいなかったんだろう。でも、あんちゃんに頼る何て事はプライドが高い咲耶ちゃんには出来なかったのかもしれない。好きな相手に頼るなんて事は……ね。
「ん…… ま、出来る所は千影ちゃんや春歌ちゃんに任せてもいいんじゃない? もちろん……私にもね」
「うん……ありがとう。
 ……やっぱり眞深ちゃんに話して良かった」
 咲耶ちゃんは息を吐きながら言った。その息と一緒に、胸のつかえも出て言っちゃえばいいんだけど。そう思いながら私は話を続ける。
「でしょ? 話すと楽になるもんなのよ。ま、話す以外でもいいんだけど、ためすぎちゃうと辛いからね」
「うん……
 ねえ、手……握ってもいいかな?」
「手?」
 小さな声で咲耶ちゃんが言った事を、思わず聞き返す。聞き間違いとかじゃなかったらしく、咲耶ちゃんはやっぱり小声で答えた。
「うん……」
「いいよ」
 そういって差しだしあった手は、こんなに暗くて、直接見えない布団の中で、文字通り手さぐりなのに、不思議なほどスムーズにお互いのそれを捕まえた。
「眞深ちゃんの手、柔らかい」
 咲耶ちゃんの照れたような声に、私も反射的に言葉を発した。
「咲耶ちゃんの方が柔らかいよ」
 お世辞とかじゃなくて、ふっくらしていて、柔らかかった。
 でも、その手がまだ微かに震えている。
 その震動を感じた途端、私は反射的に咲耶ちゃんの手を少し強く握っていた。
「あ……」
 咲耶ちゃんが驚いた声を上げる。
 そして、やや間があって、
「……おやすみなさい、お姉様……」
「おやすみ」
 私達はおやすみの挨拶をかわした。
「ねえ…… 私が寝つくまで……握っててくれる?」
「うん。……もしかしたら私が先かもしれないけどね」

 記憶に残っている会話はそこまで。
 それから私は吸い込まれるように眠りに落ちた。
 実際どちらが先に寝ちゃったのかはわからない。
 でも……
 寝ついてからも咲耶ちゃんの手の感触があった。


 窓の外から小鳥の鳴き声が聞こえてくる。
 それはいつもの事だけど、今日はもう一つ聞き慣れた音がした。ミシンの音だ。
 目を開けてみると、咲耶ちゃんが私の机の前に座っていた。
「あ…… 起こしちゃった?」
 そっか、昨日は一緒に寝たんだっけ……
「おはよう…… なにやってんの?」
「雑巾縫い。まだ残ってたみたいだから」
「あぁ…… 悪いね」
 髪を結びながら言うと、咲耶ちゃんは首を横に振った。
「眞深ちゃんばっかりにやってもらってたら悪いもの。……でも、眞深ちゃんみたいにはうまくいかないみたい」
「そんなことないよ」
「ううん…… やっぱり縫い目が乱れちゃってるし、ゆがんでるわ」
 確かに、ちょっと縫い目が曲がってるけど、それでも上出来だと思うけどね。ま、完璧主義って奴ですか。
「今度教えてあげるよ」
「ありがとう。……眞深ちゃんって、家事得意でいいわよね…… やっぱり男の人って、そういうのが好きなのかしら」
「そう? 掃除は下手だよ」それはこの部屋を見ればすぐわかるだろう。こうやって明るい中で見てみるとまたひどくちらかっている。
「ううん、みんなのドレス作っちゃったじゃない。……私のも作ってもらえば良かったかな……」
 そう言えばそんな事もあったっけ。咲耶ちゃんがシーツを引っ被ってお嫁さんごっこして、他の子達もそれ見てやりたいって言い出したから、私がドレス縫ってあげたんだ。
 ……そのせいでシーツ使い切っちゃって、だから今のシーツ、二代目なんだよね……
「あれくらいならいつでも作ってあげるよ。それに……」
 あ……
「本番には、もっとすごいのを……って?」
「……うん……」
 咲耶ちゃんとあんちゃんは結ばれない運命ってやつで、昨日咲耶ちゃんがここに来たのもそれが原因だ。
 だから言いよどんだのに、咲耶ちゃんにあっさり言われてしまう。
 声はやっぱり震えていたけど、咲耶ちゃんって強いなと思った。
 やっぱり、咲耶ちゃんは簡単に頼ったりは出来ないタイプなんだろうな。
「その時は……お願いね」
「任せといて。……とびっきりの……作るから。……あのさ」
「……うん?」
「あんちゃんとの仲……私は応援してるよ」
 辛そうな咲耶ちゃんに、こんな言葉で慰めになるのかわからないけど……
 自分でもこれが本心からなのか、それもわからないけど、それでも、言わずにいられなかった。
「ありがと」そんな私の言葉に、咲耶ちゃんは笑った。少し無理っぽさの残る顔だったけど……
 そして、両手で軽く頬をたたいて元気よく言った。
「さあ、眞深ちゃん。今日も一日……頑張りましょう!」
「うん。じゃ……まず…… 雑巾に名前書いちゃおう!」
 私も元気よく答える。朝から辛気くさいのもなんだしね。
「あ、じゃあ私、自分のは自分でやるわね。
 そうだ…… みんな自分で書かせたら?」
「やっぱりそう思う? じゃあそうしちゃえ!」
 昨日疲れて面倒くさいからそう思ったけど、やっぱりその方がいいよね、うん。
「それじゃみんなの所に持って行きましょ。私自分が縫った方持つわね」
「うん」
 私がうなずくと咲耶ちゃんは自分の分の雑巾をかついで歩き出した。
 私も雑巾をかついでドアに向かう。
「あ、そうだ」
 ふと気付いて、ドアを開けて廊下に出ようとしていた咲耶ちゃんに声をかける。
「昨日の晩の事…… みんなには秘密にしておくから」
「……うん、ありがとう……」
 咲耶ちゃんは廊下の方を向いたまま、独り言のように答えた。
「これで二人だけの秘密出来ちゃったね」
「ええ、お兄様との間にも秘密沢山あるけど…… お姉様との間にも秘密出来ちゃったわ」
 咲耶ちゃんはそう言って、振り向いていたずらっぽく笑った。
 ……お姉様、か……
 声には出さず繰り返す。
 お姉様。悪くない響きだよね、うん。
 ……おっと、早いとこ運んじゃお。
 私も自分の分の雑巾をまとめて、慌てて持ち上げる。
 咲耶ちゃんの方を見ると、私の妹は、ドアを開けて雑巾を運んでいく所だった。


おまけ

この本に載せた替え歌です


 眞深まみ 眞深まみマミ 眞深LOVE
 眞深まみ 眞深まみマミ 大好き
 これまでの妹より 強く激しく萌えてる
 プレステ版では 会えないから
 もっと 眞深萌えが つのるよ
 萌え尽きてもいい これが最後の妹

 初めての出会いは 『誰コレ?』だったけど
 会う度に 妹の誰よりも惹かれてく
 こんな気持ちの訳 うまく言えないけど
 運命の萌えと 人は呼ぶのでしょう
 ひとみ 閉じたら 眞深ちゃんの笑顔
 そう たとえ 妹十三人でも
 I love you 眞深ちゃん
 
 眞深まみ 眞深まみマミ 眞深LOVE
 眞深まみ 眞深まみマミ 大好き
 勝手にあふれてく 眞深萌えを止められない
 だから 眞深まみマミ 眞深萌え
 だけど 最高にマイナー
 
 もう戻れはしない これが最強の妹

 

ここまで読んでいただいてありがとうございました。
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