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卒業生が書いた記事──翼・リレートーク63 |
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岡本さんから、バトンを受けてしまいました愛知県の鈴木です。彼女の“泣きのメール”に負けて、引き受けてしまった訳ですが、まずは過去に断ってしまった先輩へこの場をお借りしてお詫びします。 さて、ご多分に漏れず、頭を抱えてパソコンに向かっています。『通訳者たるもの、自らが話し、書くものも簡潔に、わかりやすく』とは、手話通訳の養成機関で恩師から贈られた言葉ですが、果たして私の場合、いかがなものでしょうか…。 手話の世界に飛び込んで、8年余りが経ちました。飽き性の私が今もこの世界に留まっているのは、第1回目の講義で体験したあの感覚が影響しているのだと思います。それまで、当たり前に過ごしてきた世界とは、まったく違った世界が目の前に広がった、そんな感覚でした。そして、「敵わない」と率直に思いました。どうあがいても理解が及ばない世界、そして、キュートな教官に“参った”(笑)という思いも意味あるものだったのかもしれません。この世界は私の知らない世界なのだから、まるごと受け入れるしかない、まずはどっぷり浸ってみようと思わせる何かがありました。これに物事を深く考えない性格が幸いしたのか、かなり気楽に学生生活を堪能できたことも、これまでの歳月につながっていると思います。 卒業後、ろう者集団に関わることになった時も、「この人たちには敵わないんだから、ここに居させてもらうだけで幸せ」と、ここでも“楽しむ”ことに夢中でした。異文化集団に入る時、共に居させてもらうことを許してもらう──その場の雰囲気を乱すことなく、会話を邪魔するでもなく、そこにいる──ことができるか、それが大きな関門となるといわれます。ろう者の世界に入る上でも、それは同じですが、これも気負うことなく、気楽に臨んでしまいました。だって、彼らには「敵わない」のですから、肩肘を張っても仕方ありません。彼らが笑う時、私も楽しく笑いたい、会話が理解できず、からかわれても、それを丸ごと楽しんでしまおうと。でも、いつかは冗談の一つも言ってみせるぞという思いを心に秘め、聴者の殻をできる限り脇に置き、彼らの世界に入っていきました。 そして、8年。未だに私は気楽に過ごしてしまっています。この間、聴者の殻に磨きをかけるべく、再び学生に戻って比較文化を学ぶ機会もありました。それまでの手話の世界との関わりを、自分なりに整理しようと奮闘した大学生活でした。勿論、基本姿勢の“楽しむ”は変わりません。久々の女子大生(?)生活も、年の離れた同級生たちとの講義も新鮮でした。ともすれば、怠けてしまう体と頭をフル回転させ、なんとか、今春、無事に卒業できました。この生活は、手話に偏りがちだった頭を日本語の世界に引き戻す役割も果たしてくれました。通訳者にとって不可欠な美しい日本語を話す力が十分ではない、加えて、知識不足も痛感しました。その後、それらを向上させる努力は試みるのですが、継続するのは思いの外、大変で…。 現在は、縁あって聾学校で働く機会を得ました。1年間の期限付きですが、ろう者のみが許された世界に、補助教員という立場で“侵入”しています。私が接している小学部の生徒たちからすれば、まさに私は“侵入者”です。改めて、今まで、成人ろう者たちが快く侵入させてくれたことに感謝します。 さて、小学生たちにとって、この“侵入者”は不思議な存在です。授業中に先生のお話を手話に変換して話すし、今まで先生に知られることがなかった内緒話を見て笑うし…。授業の合間に見せる彼らの素の姿をほほえましく思うこともあります。数人でルールを考えて遊んだり、ブランコの取り合いをしたり、かわいいメモにお手紙を書いて送りあったり、些細なことでケンカをしたりと。目の前の出来事は、まさに“子どもの世界”です。しかし、私が体験してきた子どもの世界とはちょっと違った、ろう児の世界です。 この子たちが成長して、将来のろう社会の担い手になるのだと思うと、感慨深く思うこともあります。だからこそ、時には、余計な手が出て口うるさくなったり、恐〜い顔で話してしまったり…。相手が小学生だからか、それとも私の頭が相当堅くなったのか、ありのままの彼らを受け入れるのが大変な時もあります。しかし、私の信条は“楽しくなければ”です。「この人たちには敵わないんだから、ここに居させてもらうだけで幸せ」と大半は楽しんでいます。そして、楽しませてもらった分、お返しをしなければなりません。かわいらしい手話や学校独自の単語の使い方を“侵入捜査”し、彼らにわかってもらえる通訳を提供しなくてはいけません。また、彼らの発言を的確な日本語で先生らに伝えることも重要です。 いろいろと課題は多いですが、恐い顔をしていては、相手は構えてしまいます。まずは、私が笑顔でいることが大切だと思っています。当初、私がろう者ではないことにガッカリした子たちも、今では笑顔で話しかけてくれます。あと半年ですが、大いに聾学校生活を楽しみたいと思います。 そろそろ、最終コーナーを過ぎました。私はきちんと走り切れたでしょうか?ここ数ヶ月の同窓生リレーは、これにて一区切りです。次は聾学校で隣席の本田さんです。本田さんの「これは、豆から作った…」を「豆唐(豆の唐揚げ?)を作ったんだ。天ぷらでなく、豆で唐揚げかぁ。素揚げでなく、唐揚げってどんなのかしら??」と勝手な解釈をし、話がかみ合わない、なんてことがよくあります。通訳者には相手の話を正確に理解する能力が欠かせない訳ですが、どうやらこれも私の課題です。こんな私を辛抱強く見守ってくださる優しいお姉さま、よろしくお願いします。 (日本手話通訳士協会機関紙『翼』128号・2002年9月1日発行より。日本手話通訳士協会の許可を得て転載) |
