「運命」
「祥子はどうして?俺と?」
僕も聞いてみた。祥子のようなきれいな女につきあっている相手がいないとは思えなかったし・・・僕は一目惚れされるほどの容姿ではなかったからだ。十人並み・・というところだろう。祥子が誰とでもそういうことをする女だとは思いたくなかったけれど、自分だけが特別となりうる理由がどうしてもわからなかったから・・聞いてみたかった。
でも、祥子はこう言った。
「前にも言ったでしょ、そういうのって理屈じゃないのよね〜」と・・
「自分でもよくわからないことを人に説明するなんて無理じゃない??」
面倒なことは嫌いなのよ・・といわんばかりに僕の顔から手を離し、向こうを向いて続けた。
「柊二と話してみてもいいと思ったから、ついていったのだし、今日は真剣そうな顔を見たら、ドアを開けちゃった・・そうしたかったからよ。私はしたいと思ったことをしてるだけ・・いやだと思ったら、ドアを閉めてたわ。そういうのじゃだめ??」
「だめじゃないさ。さっき俺にどうしてって聞いたから、俺も聞いてみただけ・・祥子には何か理由があるのかなと思ったから・・」
でも、これからもそう思える誰かと出会ったらそうするのだろう・・と思うと、そんなことするな・・と言いたかった。僕にそんな権利など何もないのに・・
「俺、祥子とは運命的な出会いだと思ってるんだ」
僕が言うと・・
「運命とか、信じてる?」と聞かれた。
「そんなこと今まで考えこともなかったよ。ただ、祥子には・・はじめて会った瞬間から恋してた・・。」
実際、僕は運命論なんて論じたこともなかった。ただ、「運命的な出会い」というものにはあこがれていた気もする。いつかそんな人と巡り会ってみたいという潜在的な願望。女の子が白馬に乗った王子さまが現れてくれないか・・と夢に描くのに似ているといえば似ている。現実に白馬に乗った王子が現れるわけはないのだけどね。・・そして祥子に出会った。
今までの人生は平凡なものだったし。。別にそれでなんとも思っていなかった。その時々で自分で一番良いだろうという道を選択してきたつもりだったので、道を間違ったとも思っていないし、特に不満もなかった。僕の人生はそういうふうに決められていたのだと言い換えてもいいと思う。今の自分に文句をいっているやつは結局自分が持っていたたくさんの選択肢の中からそうなる道を自分自身で選んできたんだということに気がついていない甘いやつなんだ。もって生まれた資質や、環境などをのぞいては・・
でも、人間ってものはそのもってうまれたものや、環境など、自分の力ではどうしようもない部分で、その後の選択肢は限られてしまう。
凡人に生まれたものに、国王になる道がないように・・
だから、生まれた時点で運命はほぼ決まってしまう。選べる選択肢の中で最良の道・・・それを運命とよぷのではないだろうか・・。だから、結局運命は決まっているともいえるし、そうじゃないともいえる。要するに自分次第ということだろう。
でも、祥子に運命を信じるか・・と問われた時、僕はまだこのことに気づいていなかった。僕なりの運命論みたいなものは、祥子と出会って以降に少しずつ自分の中で組み立てられていったものだった。
僕は祥子に最初に出会った時点で・・自分でその後のすべてを選択してきて・・そこに至った。だから、そうなるのが運命だったと思っている。ただ、祥子と僕が出会えたのは・・運命だったかどうか・・わからない。出会わせてくれた・・何かに感謝したかった。
でも、祥子は難しい話しは嫌いだった。
「いいじゃない。お互いがいいと思ってるんだからそれで・・」
そう言った。
「理屈つけるのは嫌い。おいしいお水は飲めばいい・・なんでおいしいのかな・・とか、明日もこの水はおいしいのか・・とか、、そんなこと考えたって仕方ないと思う。」
「そうだな。」
それまでの僕はそんなふうに考えられないタイプだった。『こんなおいしい水が飲めるのは今だけかもしれない・・』そう考えるともったいなくて飲めなくて・・せっかくのおいしい水を飲まずにとっておいて、無駄にする。次の日になってから、まずくなった水を見つめて、予想どおりまずくなったな・・なんて妙に納得して、そのくせやっぱり昨日飲めば良かった・・と後悔するんだ。
姿だけじゃなく・・祥子の内側が少しだけ見えた。僕と違うそういう考えをする祥子が好きだった。
帰り際、僕は祥子に訊ねた。帰りたくはなかったけれど、バイトがあった。もう祥子の電話を待たなくてもいいのだから、休む理由は何もなかった。
「また、会えるよね?」
「会いたかったら会いに来て・・」僕の天使は微笑みながらそう答えた。