宇宙船ペペペペランの悲劇

 さて、今回は私が子供の頃に読んだ絵本の話をしようと思う。これを読んだのは小学生に上がる前、幼稚園の頃なので、かれこれ20年近く前という事になる。で、その後も20年間読み直してはいないため、話の細かい部分や登場人物の名前などはすっかり忘れてしまった。と言うより、読みなおしたくともおそらくこの本の入手はほとんど不可能と思われる。実はタイトルすらも覚えていないのだが、「ペペペペラン」という奇妙な名前の宇宙船の話である事は確かである。よって、ここでは「宇宙船ペペペペランの悲劇」と仮にそのタイトルを定めるところとする。話の内容も適当であるので、半分はTAKEXの創作と思って聞いて頂きたい。

 『・・・その宇宙船は、遥かに遠い宇宙を目指して旅をしていました。それは、何十年、もしかしたら何百年にも及ぶ永い永い旅でした。最初の乗組員には子供達が選ばれ、その子供達はその宇宙船の中で成長し、子供を作り、何代もかけて目的地を目指すのです。彼らの人生はそれがすべてでした。が、ここにあってはならないイレギュラーな事態が起きてしまします。どういう理由かは分りませんが、乗組員は男子が一人多かったのです。つまり、「余る」のです。乗組員の子供達も青年になり、恋愛をし、カップルになっていきました。が、当然の結果として一人の男子が余ってしまいました。彼の名は(・・・忘れてしまったので、仮にルリオとしておこう)ルリオといいました。ルリオは乗組員の中で最も無能で、最も魅力がなかった子でした。そんな彼がワーストとして取り残されてしまったのもまた、必然であったのかもしれません。

 そんな悲運の男も乗せながら、ペペペペランは無限の闇の中を進んでいきます。逃げ場のない宇宙船の中で、周りがシアワセになっていく中で、ルリオの苦悩はいかばかりだったでしょうか。その窓から見える闇の深淵のように、彼の心は沈んでいた事でしょう。ある時、ペペペペランは更なるイレギュラーに見まわれます。このままでは宇宙船は隕石に衝突し、破壊されてしまうであろう事が判明するのです。今から宇宙船の軌道を変えても到底衝突は免れません。哀れペペペペラン、その宿命全うせずして宇宙のチリとなってしまうのでしょうか!?

 とその時、そのペペペペランを危機から救おうとする男がいました。それは、あのルリオでした。彼は単身、小型艇に乗りこみ、隕石に特攻します。隕石が軌道を変えたおかげで、ペペペペランは寸でのところで衝突を免れ、無事に目的地への旅を続ける事ができました。めでたし めでたし』

 最後の「めでたし めでたし」は流石になかったと思うが、だいたいこんな話であった。哀しい話である。と同時に、重たい話である。当時まだ三つか四つだった私に、そのショックは大きすぎるものであった。今でも覚えているくらいであるから、トラウマになってると思う。子供の頃の私は、「なんて理不尽なんだろう」と思った。ルリオが何をしたと言うのであろうか。ただでさえ「余って」しまった悲運な男が、なぜ更に犠牲にまでならねばならなかったのか。幼稚園児の私は理解に苦しんだ。

 が、今となっては、ルリオはむしろ幸運であったのだと思ってしまう。なぜなら、誰にも相手にされずに余ってしまったような男に、男としての見せ場、死に場所が与えられたのだから、これ以上の幸運はなかったのではないだろうか。しかもルリオはそれを活かす事ができた。哀しい悲劇である事に違いはないが、それでも救いのある話だったと思う。ルリオが悲惨な境遇にあったと言っても、それは周りが悪いわけではない。まわりはただ普通に、自分の愛するものとして魅力的な人間を選んだ。それは人として当然である。ルリオは、この当然の事に気がつかなかったのか、あるいは気がついていながらどうしようもなかったのかは知らないが、己を磨かなかった。魅力的な人間、能力のある人間になろうとしなかった。だから、命を賭すしか認めてもらう術がなかった。もちろん、生まれつき劣った人間、要領の悪い人間もいる。だがそんなものは当人の問題であり、克服せねばならない事なのだ。

 だが幼稚園児がそんな事まで考えるはずもない。人は誰でも、大人になったら結婚して、子供ができて、パパになって、ママになって、そうして次の家庭を作っていく。そう信じて疑わなかった年頃である。実際には、ドロップアウトして、その人としてのシアワセのルートからはずれてしまうルリオのような人間が、シアワセになった人間達の影に多数存在しているのであるが、彼がそう言う事に気がつくのはもっとずっと後である。そしてマサカ未来の自分がそちらのドロップアウト側に所属していようなどとは、夢にも思わなかったのである。

 童話と言うものは得てして残酷なものだ。「本当は恐ろしいグリム童話」とか言う本があったが、そんなもん読まなくても、自分達が子供の頃に聞かされた童話だって充分残酷だったはずだ。それは人の世界がいかに残酷で理不尽なところであるかを、子供達に教えている。

 このペペペペランの話を読んで更に数年たって、小学生の頃。私は「青い鳥」を読んだ。これは有名なので読者の方々も知っていると思うが、この話のエピソードの一つに「生まれて来る前の世界」がある。そこにはこれから生まれてくる子供達の魂が、現世行きの船に乗る為に並んでいるのである。そしてそこの子供達は、「発明」や「偉業」、「才能」や「能力」といった、この世に生まれるにあたり持ってくるものを手に持っている。チルチルとミチルは、そんな子供達の群れの中に今度生まれてくる自分達の弟を見つける。自分達の弟は、一体何を持って生まれてくるのか尋ねてみると、それは「病気」であり「不幸」であった。いったいなぜそんなものをもって生まれるのか、チルチルは弟に尋ねる。すると彼はこう言う。「幸福を何も持っていけない魂は、不幸を持っていかなきゃならないんだ」。

 これもまた、小学生の自分には到底理解できないエピソードであった。しかし、こんなにも残酷で、こんなにもリアルな話を子供に聞かせて良いのか。教育委員会は何をしているのだ。エロやグロを規制してる場合ではないと思うのだが。それともこれらのエピソードについて質問された時、教師達は子供に納得のいく説明をしてやれるというのか?

 その後に、彼は活字から離れ、漫画をいろいろと読むようになった。そこにあったのは「努力・友情・勝利」であり、主人公は必ず報われ、運命は常に自分の力で切り開いていた。だが、そういったご都合主義に愛想をつかしていた当時の私のニヒリズムの元凶は、幼き日に読んだ童話たちにあったように思う。読者諸君、将来自分が子供を持つようになったら、彼らに読ませる童話は厳選した方が良いと、老婆心ながら忠告しておく。っていうか、「魁!男塾」あたりを読ませておけば間違いあるまいと思う。

 

注釈:

かれこれ二十年近く前・・・こう書くと遥か昔の様に思えるが、サザンや長渕はすでにデビューしていたのであるから、どすげえ。

TAKEXの創作・・・「アマデウス」を紹介する時も、こうやって断っておけば良かった。

ルリオ・・・筋肉少女帯の「風車男ルリヲ」より名前を拝借した。ルリヲには首がないそうだが、ルリオにはあるので安心。

イレギュラー・・・今回二回目の「イレギュラー」。TAKEXのボキャブラリーの貧困さを物語っている。

特攻・・・「Vガンダム」のラストでもじいさん達が特攻するシーンがあるが、泣いたね。特攻は漢のロマンであろう。

「なんて理不尽なんだろう」・・・幼稚園児がこんな単語を知っていたわけではない。ようは、このような感想を持ったと言う事である。

普通に・・・この世で一番残酷なものは、普通の人間の普通の感覚である。自分が普通じゃなかった場合は特にね・・・。

そう言う事に気がつく・・・大人になっても気がつかない人間、気がつく必要がない人間もいるけどね。なんか今回グチっぽいな。

この話のエピソードの一つ・・・「青い鳥」はけっこういろいろヴァージョンがあるので、私が読んだのとエピソードの内容が違う事もあるだろう。ちなみに、このエピソード、原作ではエピローグの後に書かれていたそうである。

「努力・友情・勝利」・・・子供騙しだと思うが、大半の子供は騙された。(あたりまえだ)

老婆心・・・別に私が老婆だというわけではない。

「魁!男塾」・・・たぶん、民明書房の間違った知識を覚えてしまうだろうが責任は取らない。

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9/22、補足
 この話、おそらくもう入手は不可能だろうからアマデウスの時みたいな恥はかかないだろう・・・と思ったら妹が押入れの奥から探し出して来やがった。 まだ家にあったとは知らなかった・・・。で、もっかい読んでみた。やべえ。マジで怖いぞ、この話・・・。俺の記憶より遥かに怖い話だ・・・

 主人公の少年の名前はロンでした。よわむしロン。まあ、だいたいの設定は記憶通りだったのですが・・・アクシデントがちょっと違う。隕石はすでにペペペペランに衝突してしまって、それを修理したのがロンだった。だけど、これ。ロンが勇気をふりしぼったとか、そういう描写は一切無し。泣きべそをかきながら修理した、と書いてあるだけ。どうやら、「余り者」のロンに選択権はなかったらしい・・・。で、さらに怖いのはその後。ペペペペランは、ロンをそのまま宇宙空間に置き去りにしてしまう。無限の闇と永遠の静寂以外に何も無い無の世界。そこにたった一人で置き去りにされてしまったロンは、嘆き悲しんだ後、気がふれてしまう。そして宇宙空間でただ一人、歌いつづけるのだった・・・

 ・・・何が言いたいんだこの話は!?子供に見せる絵本だぞ!?で、作者は谷川俊太郎だった。レコードがついてて、歌つき。私は今でもこの歌、歌えます。読みたい人はTAKEXまでメールください。「ペペペペラン読みたいぞ」係まで