僕に踏まれた街と僕が踏まれた街 <前編>
@大学入学 〜その理想と現実〜
大学生活。それは彼にとって待ちに待ったものであった。野郎しかいない男子校にウンザリしていた彼にとって、同じキャンパス内に女子がたくさんいるというのはまさにパラダイスに見えたのだ。思えば、当時の彼は完全に浮き足立っていた。もともと女のコとの話し方なんて知らない彼が、周りの女子たちに嫌われるのにそんなに時間はかからなかった。どうも、自分でも知らないうちに「女子と話す時のタブー」をスベテ犯してしまっていたようである。夏休みが来る頃には、彼の環境は男子校時代とさほど変わらなくなっていた。
まあ、それはおいといて。入学してスグ、彼は一人の女の子を好きになった。最初は自分でもそれが分らなかったが、今にして思うとそうだったんだと思う。だが、彼女には既に彼氏がいた。まあ、それは仕方がない。高校時代から付き合ってる彼氏がいたとしてもそれは不思議ではない事だ・・・。と思ったら、ちょっと違った。彼女は大学に来てから大学の側で一人暮らしをしていたが、引っ越して来てから入学式までのホンの数日の間に、同じアパートの男とできていたのだった。
これには彼も「ハア?」と思った。 ウチの大学の入学式が4/3、彼女が越して来たのは3月の末・・・そんな一週間足らずの間でそーなるもんなのか?俺は今まで男子校だったから知らなかったが、そーゆーもんなのだろうか??と思った。・・・「一人暮らし」。彼の中で一つのキーワードが回った。そりゃ、一人暮らしなら寂しいだろうし、くっつくのも早いだろう。ちなみに彼の大学は「同棲率日本一」になった事がある、と先輩に聞かされていた。どーやってそんな率を出したのかは知らんが、説得力があった。なにせ彼の大学はド田舎にあり、まわりになーんも無かったので、もうする事といえば恋愛くらいしかなかったようである。
しかし、それは大学の側で一人暮らしをしている者達だけ。実家からはるばる通っている人間には縁の無い話であった(実際、彼は四年間この大学に通っていたが、実家組と一人暮らし組が付き合う、という事は皆無と言って良いくらい無かった)。だから実家組はいかに大学に依存せずに、地元や自分の中に世界を築けるか、が重要であったが、彼はドップリと大学に依存してしまっていた。もともと、不遇な高校生時代を高校のせいにするような男である。また次も環境に責任転嫁する事は目に見えていたのだ。
入学早々、この大学のイヤな環境に気がついた彼。そんな時、上記の女子がまた別の男を部屋に泊めた、と知った。彼はとりあえずその女の部屋のドアを一発どつくくらいしかできなかった。そして、「このままじゃアカン」と思い、なんか部活に入る事にした。この時点でじつはすでに「競技麻雀研究会」なるサークルに所属していたのだが、そこは野郎ばっかだった。ここはサークルに出会いを求めねば!と後ろから蹴りでも入れたくなるよーな理由で部活をかけもちしやがる事にこの男は決めた。
しかしもう既に五月。今から新入部員として入っても乗り遅れる事必至。どうしたもんかと思っていたら、学園祭実行本部が「新入部員募集!!」のどでかい看板を掲げていた。この男は高校時代にも学園祭の実行委員のような事をしており、それもけっこう楽しかったからコレでいいかな、と思った。そうして、学園祭本部室のドアを叩くのだった。
A学祭本部 〜苦難と克服〜
しかし、もともとが不純な動機である。物事がうまく行こうハズもない。夏ごろには、その組織でも彼は女子から拒絶される事となった。この組織での拒絶のされ方は割と徹底しており、彼と一番仲が良かったデビット先輩(仮名)も「あの時の伊藤君はもう終わりだと思った」と後に述懐している。
だが、それでも彼はまだ「なんとかなる」と思っていた。学園祭実行本部は学園祭の為の組織だ。きっと学園祭がすべて解決してくれる。皆で一つの事を成し遂げた感動、それが皆を一つにしてくれるだろう・・・と。
・・・甘かった。当時一年だった彼はまだ知らなかったのだが、むしろ学祭の後の方がこの組織は分裂するのだ。今までは学祭の為に我慢してたけど・・・ってヤツだろう。彼のケースの場合はそれは関係なかったかもしれんが、とにかく学祭後も状況はあまり変わらなかった。もちろん、最悪の状況からはいくらかマシになっていたのだが、ある3人のグループからは依然として徹底して嫌われていた。だが、彼には理由が分らなかった。後の彼からは想像もできないポジティブさだが、彼はこの状況をなんとかしようと動いたのだ。そのグループの中ではOと言う女子がリーダー格だった。最終的にはOを落とさねばならぬが、たぶんまだ無理だ。というわけで外堀から埋めるべく、周りの二人とコンタクトを取った。で、聞くところによると・・・
「私もねー、別にそんなに伊藤を嫌わなくても良いと思うのよー」
・・・ハ?君ら、普段俺に対してなにしてる?と彼は思ったが、ここは大事な友軍。ああこいつらは自主性がないんだな、と思うだけに留めておき、なんとかOとコンタクトが取れるように動いてもらった。そして、いやがるOをなんとか引っ張り出す事に成功する。そして、話し合う。
さて、今の私としての意見を書こう。彼は馬鹿な事をしている。人間、理解しあえないヤツとは理解しあえないものなのだ。彼の行動は、むしろ逆効果になる事の方が多いだろう。が、この時の彼の行動は功を奏した。なんと、Oと和解する事に成功したのだ。その後の環境は、その話し合いの前とはうって変わった、と彼は感じた。ただ普通になっただけなのだが。そして彼は思った。「人間、誠心誠意ぶつかればなんとか理解してもらえるものだ。これからも俺はそうやって生きて行こう」と。やがてその思いは打ち砕かれるのだが、そんな事を当時の彼が知るよしも無かった。
Bミスコン 〜その達成まで〜
さて、彼は二年生になった。学祭でも彼は張りきっていた。二年生と言えば、学祭の組織では中心となる学年であった。一番自由にできる学年だ。彼は学祭本部の中でも企画を担当する局に所属していたが、彼は是非とも実現したい企画があった。それは「ミスコン」であった。
ミスコンなど珍しくも無い大学もあるだろうが、彼の大学は「教育学部」がメインのせいもあってか教授も学生も非常に固く、ミスコンなど夢にも思えなかったのだ。実はこの企画、去年も出したのだが、まわりの猛反対にあい当然流れた。
だが、二年となった彼は諦めなかった。一年の頃、彼は同じ大学の別のキャンパス(埼玉と神奈川なので、普段は交流は無い)でミスコンを見た。そちらのキャンパスは彼が通っていた方とはまったく空気が違っていたので、毎年ミスコンを行っていた。そのミスコンの後半で、ミス参加者たちがウエディングドレスで登場するシーンがあった。 「キレイだ」 と彼は思った。言葉を失った。とにかく、美しいと思った。これはもう、わがキャンパスでも行うしかあるまい、と思った。
そんな思いもあり、自由にできるのは今年だけだ、という思いから、そう簡単に諦める事はできなかった。
案の定、今年も堅物の学祭役員達から猛反対にあった。ハッキリ言ってこのまま普通にやってたら確実に今年も流れる。そう思った彼は、もうなりふりかまわなかった。まず、企画書をいきなり書いていって叩き付け、熱意をアピール。そして新しく企画局に入ってきた一年生たちを抱きこんでおき、「一年生には一年生で企画を一つまかせよう」と企画会議で説きまずその案を通し、そして一年生企画にミスコンをやらせる、とまあメンドくさいプロセスをふみようやく実現可能となった。それでもまわりの連中は難色を示したが、企画者である彼+一年生二人でミスコンをやる、というとこまでこぎつけたのである。まったく、今の私が見習いたいくらいアグレッシブだ。
さて、なんとか実現にはこぎつけたものの、その後も難航は続いた。まず、周りの反対を押し切って成立させた企画のため、予算がほとんど与えられなかった。もう、スズメの涙程度の予算しかなかったのだ。もともと彼は、別キャンパスでのミスコンでウエディングドレスに心打たれてこの企画を立ち上げていた。が、その予算では到底ウエディングドレスは揃えられそうに無い。人数分のドレスはなんとしてでも揃えたかった。
とりあえず、電話帳で貸衣装屋を調べ、電話してみる事にした。・・・そして、彼らの予算では参加者の人数分どころか一着も借りれない事が判明した。予算の問題はいかんともしがたい。だが、調べて見ると他の企画はほとんど金がかからないであろう内容なのに予算をキッチリ押さえている。彼は「俺らの予算は金がかかるんじゃー!しかもオメーらの企画より集客が見こめるんじゃー!だから予算をこちらへ回せ」と交渉を試みるも、当然決裂。逆に「予算内でなんとかしろ」という指示まで頂いた。
これは八方塞というヤツである。彼についてきてくれた後輩たちも、「ウエディングドレスは諦めましょう」と言いだした。いや、ダメなのだ。彼の中では「ミスコン
= ウエディングドレス」なのだ。「一着だけならなんとかなるんじゃないですか?」と後輩。いや、それもダメなのだ!参加者がみんなウエディングドレスを着てこそ壮観なのだ!これもゆずれん!「じゃ、なんとか自作できませんかね?」と後輩。それもダメだッ!キレイなドレスが並ぶから良いのだッ!自作ではあの豪華さは出せんッ!!
あれもイヤ、これもイヤ、もうただダダこねてるガキである。だがそのダダをなんとかしてしまおうとするのが若さだ。すでに後輩からも見限られそうになっていた彼だったが、まだ諦めなかった。更に何店かの衣装屋に企画を持ちかけ、なんとか一店話を聞いてくれる店を見つけた!さっそくその衣装屋に足を運ぶ。
その店はおばちゃんが責任者だったが、なんかそのおばちゃんの息子はアメリカの大学に留学していて一年に一回も帰って来ない、あなた達を見ているとまるで息子みたいだ、となぜかしんみりした話になる。しかし、これは使える!学生っぽさをアピールし、このおばちゃんをなんとか味方に引き込もうとする。また、この時は後輩と一緒に来ていたのだが、おばちゃんが「せっかくですから着て見てはいかがですか?」と言ってくださったので後輩に着させて見る。
・・・・うおおおおお!!馬子にも衣装ッ!!!(Y、読んでたらゴメン)
こりゃイケる!ホレそうだ。もう、こりゃなにがなんでもドレスを貸して頂かねばッ!!!
おばちゃん 「で、ご予算はいかほど・・・?」
彼 「・・・えと、その、ぼそぼそ・・・くらいです・・・」
おばちゃん 「・・・それだと難しいかもしれませんねえ・・・」
彼 「・・・やっぱ難しいですか?」
おばちゃん 「あのですねえ、貸衣装というのはお客様にお貸しした後、クリーニングに出すんですが・・・ウエディングドレスとなると、そのクリーニング代もバカにならないんですよ。で、そのご予算ですと一着のクリーニング代にもならないんです・・・」
・・・マジかい。想像以上にウエディングドレスの壁は高かった。しかしここで諦めるわけにはいかぬ!今更「ダメだった」なんてのは絶対に許せなかった。彼的に。で、掟破りの交渉にでた。学園祭実行本部では学祭のパンフを発行しており、これに広告を募り、それで収入を得ていた。
その広告の一番良い場所、表紙裏の1ページを差し上げますから、あとは企画の中でもこのお店の宣伝をさせて頂きますから、それでなんとか!と持ち掛けてみた。おい、いいのかキミ!!外部から広告をとって来るのは渉外局の仕事、そしてパンフを編集するのは編集局の仕事だ。キミは企画局員で、しかも局長でもなんでもないヒラではないか!!逆さにしたってそんな権限、1ミリも持ってないぞ!!しかし、彼は思いきり独断でその条件を提示してしまい、なんとか了承までこぎつけるのだった。
後はもう、学祭本部内部で頭を下げまくった。たまたま、毎年パンフの表紙裏に広告を載せていた企業が今年から撤退しており、なんとかスペースは確保できた(もしそこが空いてなかったらどうなったんだろ)
。そんなシュラバの中でも、当時の企画局長であったジュリア(仮名)という女に「キミも責任者として一回貸衣装屋に顔を出したまえ」と適当な理由をつけて連れていき、彼女にもウエディングドレスを着せてその姿を拝むと言う余裕のあり様。まったく、この文章を書いている男と同一人物とは思えない。
さて、なんとか、なんとかドレスも五着揃える事に成功した。(貸衣装屋は赤が出まくったと思う。ホントにあのおばちゃんにはお世話になりました。) あとはもうなんの心配もない・・・と思ったら、さらなる難関が待ちうけていた。参加者が集まらないのである。もう本祭まで一ヶ月を切った、という時期になっても一人も参加希望者が集まらない。チラシを配り、講義の後で宣伝し、ツテも頼りまくったが無理。もともと友達は少ないし。だが参加者が集まりませんでした、ではすまない。昼休みと放課後、サークル棟の部室を一部屋一部屋周り、勧誘しまくった。そして本祭直前になっても4人しか集まらず、やむを得ず本部役員から一人参加させて、なんとか予定人数の5人にたどりつかせるのだった。(ちなみに本番直前で一人ドタキャンし、結局四人で企画は行った。)
もう、とにかくゴリ押しの連続である。周りに迷惑かけまくった。後輩の一人は、彼の知らない所で泣いていたらしい。あとで人づてに聞いた。ちなみにその後輩は本番直前で彼にブチキレて帰る直前までいった。そのくらい、なりふりかまってなかった。とにかく、ミスコンを成功させない事には学祭本部に俺の居場所はねー!そう思って暴走しまくった。そして、ミスコン本番の時がやってきた。「もしこれで客が集まってなかったらどーすんだろ?」と思いながら舞台の準備をしていて、フト後ろを振り向くと・・・・そこにはものすごい数の人がいた。ミスコンを見に来た人たちだ。他の企画よりも明かに多くの人が、ミスコンを見に来ていた。その瞬間、彼は「勝った」と思った。
結果、ミスコンは成功に終わった。それでもいくつかのトラブルは起きたが、なんとか無事、成功させたと言って良いだろう。この成功はデカかった。その次の年は、ミスコンはアッサリ企画会議を通り予算も遥かに多くもらえたのだ。まわりで反対してた連中もおとなしくなった。そしてなにより、彼には自信がついた。「俺はまわりの反対、逆境を乗り越え、ミスコンを成功させたぜ!!」という思いが、彼にかつてなかった自信を与えた。そして、「どんな事でも、諦めずに頑張れば成し遂げられない事は無いのだ」と、まるで少年漫画のような結論まで出していた。
しかし人生とは不思議なもので、得意絶頂の時こそ突き落とされるものなのだ。彼の自信がそのまま持続できれば、あるいは今の筆者ようなダメ人間にならずにすんだかもしれない。彼を暗黒へと突き落とす闇は、もう彼の目の前にポッカリと口を開けていたのだが、そんな事を彼が知るよしも無かった。
続く