クライマー・クライマー

 以前、このコーナーで書いたが、私は高校時代は山岳部に所属していた。山岳部と言うとどうもマイナーな部活動らしく、その活動内容などがあまり知られていないようなので、今回は山岳部の話をしよう。

 山岳部にも、大会やインターハイがあるという事を、知らない人は多いと思う。国体、高体連の大会が共にあるのだが、高体連の大会は毎年6月に東京都予選が行われていた。私の高校は毎年それに出ていた。一年目、私は選手として参加はしなかったのだが、友人のTが出ていた。ヤツはまだ入部したての一年であったが、その存在感から既に山岳部では中心的存在となっていた。そして、見事関東大会の出場権を数年ぶりに我が高がゲットする事ができた。っていうか、実は東京都はレベルが低いので、ちょっと頑張ればどこでも関東大会には出場できるのであるが・・・。

 さて、一年目はそんな感じで何事もなく終わった。波乱は二年目にやって来た。まずはチーム分けである。4人で1チームなのであるが、ウチの高校では主力をAチーム、おまけがBチームとして、8人が競技に参加していた。私は、Bチームであった。それは別に問題無いのであるが、同じBチームに私とは犬猿の仲で有名なHがいた。もう、私とHは事あるごとに対立しており、チームワークなど絶望的に思われた。しかしまあ、メインはAチームであるので、Bチームなどどうでもよいであろう。と、私は思っていた。
 さて、そんなある日。Hから私に電話がかかってきた。土曜の夜で、私は確かFF5かなんかをプレーしてたと記憶している。

H「明日、裏高尾(大会の会場)行こうぜ」
TAKEX「ハ?なんで急に?」
H「だっておめー、Bチームはもう諦められてるんだぞ?悔しくないか?」
TAKEX「はあ・・・まあ・・・(別に悔しくないが)」
H「じゃ、決まりだ。両国駅に8時な。」

あっけにとられているうちに、明日の登山が確定してしまった。そして二人で裏高尾に行ったのであるが・・・もともと仲の悪い二人、話題は無いし、初めての山で道には迷うしで、さんざんであった。
 で、次の週。今度は部として裏高尾へ下見へやってきた。皆は初めてであるが、私とHは二回目であり、勝手が分っている。ふむ、こりゃ、先週Hと二人で来たのは無駄ではなかったか?と思っていたら・・・。その後、チームの再編成が行われ、私はAチームに編入される事となってしまった。これは、私の能力が買われたわけではなく、私とHの仲があんまり悪いのでやむを得ずの処置であったらしい。Hには悪いが、私にはラッキーであった。なにせ他のメンバーを見ると、AチームとBチームではフェニックスチームとビックボディチームくらい実力差がある。こりゃ、労せずして関東大会出場権ゲットだぜ!!・・・と甘く見ていた。

 で、大会当日。この大会は一泊二日で行われ、二日目がメインの競技登山である。まあ、ようはタイムを競い合うと思って頂いて構わない。ここはかる〜くBチームをブッチぎってやろうと思っていたら・・・チームメイトのK、スタート直後に吐血!・・・ではなく、鼻血とゲロを一緒に吐くという器用なマネをしてみせ、皆を焦らせる。・・・なんて悠長な事態ではない。体調を崩しているのは誰の目にも明らかだ。しかし、ここでリタイアする事はBチームに敗北する事を意味する。それだけは避けねばならん。Kもまだ頑張れると言うので、病人にムチ打ち競技続行(オニだ)。しかし、そんな状態で競技になるはずもない。途中、Bチームにも追い抜かれてしまう。
 さて、ここでこの大会のルールについて少し補足説明をしておこう。メインの登山競技の他に、幕営、装備品、ペーパーテストなどその他の競技が一日目に行われていた。で、そちらの点数ではAチームが勝っていたであろう、という推測があった。つまり、この登山で多少Bチームに遅れをとったところで、総合点ではAチームの勝利であろう・・・という望みがまだあったのである。
 そして、閉会式、成績発表の時がやってきた。・・・Aチーム、まさかの敗北であった。狂気乱舞するH。・・・ヤツの情熱の勝利・・・そういう事にしておいてやろう、と思った。


 さて、私が二年のこの年、上記の高体連の大会の他に、国体の大会にも参加する事となった。まずは東京都予選からであるが、こちらは高体連の方より更にマイナーらしく、参加高が全部で二校しかなかった。で、もう一校はリタイヤしたので、完走しただけで我が高が関東大会へ参加できる事になってしまった。
 ここからは大変である。国体、即ち国民体育大会だけあって、役員の気合の入り方が違う。我々は毎週山へ連れていかれ、東京都からコーチまでつく始末である。東京都の金で飲み食いできたのは良かったが、ふだん練習などしていない為にカナリきつかった。ちなみに、選手は、私とT、そしてSの三人であった。この三人、私が知る限り最高の駄目人間トリオである。後にも先にも、ここまで駄目な連中はなかなかいない。

 さて、大会当日。コースもルールも、高体連の大会とは比較にならないぐらいハードである。競技は二つあった。重い荷物を背負って登山のタイムを競い合う「縦走」と、登山コースの至るところに設置されているプラカードを見つけ、その場所を正確に地図に記入する「踏破」である。一日目は「踏破」であった。これは、なんども下見をしていたためになんとか分る。が、ゴール直前になって、一箇所、発見しそびれたポイントがあった事が判明した。ポイントとして出されそうな場所はだいたい分る。問題は、そのポイントに設置されたカードがなんであるか?である。アルファベットで記入するのであるが、まだ埋まっていないのは「E」と「F」であった。Eか?Fか?二者択一である。

T「どっちだと思う?」
TAKEX「・・・E!たぶんEだ!」
T「よし、Eだな!!」

そして結果発表。件のポイントは、「E」が正解であった。よし、これで満点だ!・・・と思ったら。
T「いや〜、伊藤君の事だからハズすと思って、Fって書いちゃった」
・・・何ィィイイイーー!!それはキミ、俺の事をよく分っていると思うが・・・そりゃあねえぜセニョリータッ!

 もう、早くもチームワークバラバラな状態で、一日目は終了した。夜は宿が提供されるのだが、他の県の参加者たちは皆カナリ気合が入っており、筋肉マッサージなどに余念が無い。卓球台で遊んでいたのは我々東京都チームだけであった。その上、Sなどは久しぶりの女子たちに興奮してしまい、「ここから女子の部屋が覗ける」などと言い出し壁を見つめる始末。見せてもらったが、ぜんぜん覗けない。穴なんてないのである。男子校の哀しさを見たエピソードであると言えよう。(ちなみに、Sはこの後、女子がいなくなった隙に女子の部屋に忍び込み、ふとんの感触を楽しむというフェチズム一直線の荒業をやってのけた。現在はアメリカに留学しているのだが・・・大丈夫か、S。俺も今ならやりたい。)

 さて、二日目の「縦走」である。これは、一人20キロ近い荷物を背負って山道を駆け抜けるのであるが、かなりキツイ。夕べ遊んでいた我等三人など言わずもがなである。そして、ついにSがグロッキーとなる。理由は、後発の女子隊の声が聞えたから、情けなくなったとか。ここまで女子に惑わされる男も珍しい。TはSの面倒を見るから、俺は先に行け、という。・・・俺だけ先に行ったって、3人でゴールしないと結局無効じゃないか・・・と思ったが、とりあえず俺一人でもゴールしてやろう、と思い走る。
 そしてゴールへとたどり着く。なぜか意外な表情を見せる東京都スタッフ。
スタッフ「いやあ、一人リタイアしたって聞いた瞬間、皆てっきり伊藤くんの事だと思ってたよ」
・・・いやまあ、別に良いんですけどね。結局、東京都はリタイアとなり、総合点で東京都はビリであった。
1000万都民の皆様、申し訳ありません。っていうか、こんな競技があった事自体、誰も知らないと思うけど。
ただ、ブービーの某県とは僅差であり、一日目に「E」と書いておけば東京都はブービーだったのに!
とTとモメたが、すげえ低レベルな争いをしていたものである。


 私も三年生となった。高体連の大会に参加するのも、この年が最後である。昨年はまさかの屈辱にまみれたが、今年は違う。なにせ国体に参加してきた事もあり、自信もついていた。この大会、上位2チームはインターハイに出場できるのであるが、今年はインターハイを狙える!と思っていた。
 だが、競技は一人でするものではない。1チーム四人のうち、私とTは良いとして、残り二人は後輩で編成する事となった。しかしまあ、それでも寄りぬきの後輩たちだ。俺とTが頑張ればなんとかなるか・・・?と思った。
  が、なんとかならなかった。この後輩のうちの一人と私が、これまた仲が悪かったのだが、登山競技中にケンカするという最悪の事態。インターハイにこだわるあまり、後輩にプレッシャーをかけすぎた私の失策であった。なんとかゴールするものの、結果は惜しいところで関東大会止まり。そうして、結局毎年未消化のまま、私の高校山岳競技時代は幕を閉じたのだった。


いかがだったであろうか。今回書いたのは大会に関する事だけで、他にもふだんの登山や合宿にもいろいろとエピソードがあるのであるが、長くなるので割愛した。もしこれを読んでいるアナタが学生なら、あなたの学校にも山岳部はあるかもしれない。興味を持ったら、是非彼らのドアを叩いてみよう。たぶん、変人が多いので、友達になるといろいろ面白いかもしれないが、後悔する事になっても筆者は責任はとらない。

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