正攻法でゴー

裏技---「正式には公開されていない操作方法によって有効な結果を得ること」
      つまり、正攻法ではないということ。


1.
「やっぱりテーマに沿ったテキストを書く時に、冒頭にテーマの定義を載せる、と言うのは普遍的方法よねー」
彼女------真木利枝のとても回りくどい言葉(彼女の言葉はいつも回りくどい。村上春樹をよく読むからなのだろうか?)に僕は驚いて本から顔を上げた。驚きは痛みに変換されて何故か指先に到達する。その痺れに似た痛みに鳥肌を立てながら、僕は彼女の言葉のを必死で反芻した。
テキスト? テキスト。文章と言う意味の英単語。しかし、僕のようなインターネット上のスペースに毎晩文章をアップしている人間には別の意味を持つ。近しい者の口に上った時は特に。
「へ? どういう意味?」僕は平静を装って訪ねる。
「これ」
彼女はそう言うと、手早くマウスを操作しブラウザの「戻る」ボタンをクリックした。すると青い背景のシンプルなページがモニタに表示される。そのページの上部に大きく表示されているタイトル画像。その色合いと形を見ただけで、僕はその意味を取ることが出来た。
テキストサイトチャンピオンシップ。日本名はテキストサイト選手権だったか。略称はテキコン(テキストサイトチャンピオンシップとテキストサイト選手権の何処をどう略せばテキコンになるのか常々疑問であったが、今はそんなことを気にしている場合ではない)。その企画サイトを、僕は知っていた。とてもよく知っていた。なぜなら、僕はそのテキコンに、何故か、と言うか自主的に、過去2回ほどの参加していたからであった。

サイトを持つものは自分のサイトが近しい者にバレてしまうことを極端に嫌がる。理由は様々であり、その嫌がり方も様々だ。多くの場合、サイトバレする(あるいはサイトバレの危険が近づく)と人はそのサイトを閉じる。この対処方法の是非は問わない。サイトが身内にバレることを嫌がる精神の是非も同様に問わない。とにかく、僕もサイトがバレたら閉鎖を選ぶ人間であると言うことを明確にしておこう。

僕は嫌な汗の出始めた背中を極力気にしないようにして、利枝ちゃんがどれくらい気づいてしまったのか、探る。
「え? 何コレ? なんのサイト?」自分でも悲しいくらいに声が上ずっているのがわかった。「テキコン? これに真木さんも参加してんの? え?」
「違ーう。これに参加しているサイトがテキストサイトってヤツなんでしょう?」
マズイ・・・! だけど確か彼女はネットはするけどテキストサイトは見ない人だったはずじゃ・・・?
「え? 何そのテキストサイトって?」
「やだなー大窪君ちの本棚に『テキストサイト大全』って本があったじゃーん。侍魂とかーろじぱらとかー」
おいおいおいおいおい。人の本棚勝手に見るなよ。確かに人柄を判断するのに本棚は重要な手かがりになるけど、そーゆー裏技的な方法で人柄を見ようとするなよ。もっとこー正攻法な感じで、正統的に、お互いに向き合ってだな・・・などと言えるはずもなく。
「あーそのテキストサイトか! へえこんなサイトもあったんだ! 知らなかったな〜」
「でね、この『裏技』てテーマに参加してるテキストが面白いんだって。冒頭に『裏技』の意味を書いて、あと他の文章は『正攻法』についてのことしか書いてないテキストあってね・・・」
「うわああああああああああ!」
突発的に、僕は声を上げた。隣の席の男が迷惑そうな眼でこちらを見ているが気にしている場合じゃない。おいおい。そのテキストって言うのは・・・・・・
彼女は訝しげな眼でこちらを見上げながら、「『正攻法』についてのことしか書いてないテキスト」をモニタに表示させた。それは見紛うことなき僕が出展したテキストなのであった。
「・・・あ、あ、えっと、あ・・・っと、うん、面白いねー」
「そうでしょう? 冒頭に『裏技』についての意味を書く、と言うのもテキストを書くうえでの普遍的手法、つまり正攻法なわけ。だからこのテキストは全て正攻法で書かれたテキストなわけで、『裏技』と言うテーマに正攻法のテキストを書くということは・・・」
説明を続ける彼女。僕はその殆どを聞き流していた。そうだよ、利枝ちゃん。大当たりだ。そのテキストで書きたいことを全部わかってくれたんだね。ありがとう、利枝ちゃん。やはり君はとってもクレバーで聡明でステキな女性だ。でもちょっと頭が良すぎるんじゃないかな・・・。


2.
僕は「あ、急用を思い出した!」と言う至極ベターな方法で利枝ちゃんと別れ、漫画喫茶から出た。僕から誘っておいて(「割引券があるんだけどー」なんて言うこれまた普通の方法で)急用だなんて無茶苦茶失礼だけれど、クレバーで聡明でステキでとても優しい彼女はいつもの微笑みで「じゃあまたねー」と言ってくれた。これでまた僕は彼女のことが大好きになってしまったわけだけど、そんなことより(いや、僕が彼女が好きな理由も大事だけれど)、問題は彼女が僕のサイトに気づきかけていると言うことだ。嗚呼昨日の僕の馬鹿野郎め。なんで普通に映画に誘わなかったんだ! いつも普通であること普遍的であること正攻法的であることを信条としている僕らしからぬ選択じゃないか! あー・・・どーするか・・・?
いっそのこと、「これが僕の作った文章だよ・・・こんな男でよければ、付きあってもらえないかな?」等と言って告白するか? アホかよ。馬鹿かよ。キザすぎる・・・と言うか明らかにまともじゃない。『神様なんて信じない僕等のために』の菊池さんのようなテキストを書ける人ならばともかく、僕のような普通で普遍的で正攻法的なテキストしか書けない人間がそんなこと言ったって格好がつかないじゃないか。あーどうしよう。
等とない知恵を絞って考えているうちに、いつの間にか僕の住むアパートに着いてしまった。家賃が1万5000円と言う破格の安さを誇るこのアパートは、それなりに新しく立派だ。家賃が1万5000円で結構新しいアパートってどんなの? と彼女が言うから一度だけ連れてきたのだが・・・あの行動が僕を窮地に立たせるとは・・・うう人生万事塞翁が馬、と言うか一寸先は闇と言うか一寸の虫にも5分のソウル・・・違うぞ。混乱しているな僕。
僕は自分の部屋に入り、本棚に入れてあったテキストサイト大全をベッドの下に隠した。芸のない隠し場所だが、正攻法こそ1番成功しやすいと言われることだし。
僕は、正攻法が1番なんだよ、と呟いてベッドへ横になった。裏技は確かに劇的な効果を生みだすかもしれないけれど、しかしそれが成功するとは限らない。低い成功率に賭けるよりも、正攻法でコツコツやっていくほうが僕は好きだ。まあ正攻法も成功するとは限らないけれど。しかしもっとも信頼のおける方法だからこそ正攻法は正攻法となりえたわけだし、裏技は裏技なのである・・・。


3.
何故人はサイトバレを恐れるのか? 自分の違う一面を見られるのが恐ろしいからか? しかし「ネット上の自分なんて氷山の一角の削りカス」と言い放った男もいる。ネット上の自分なんてそんなもので、つまりバレたとしてもそれほど困るものではないのではないか? 大体、見られて困る一面はネット上に公開するべきではないのではないか? と言うか、別の一面を見られた所為で壊れてしまう関係など捨ててしまえ・・・。
等とまともな思考をどれほど展開したところで僕がサイトバレを恐れなくなるわけはない。そんな自分にため息を吐きながら、僕は利枝ちゃんにメールを送った。内容は大手テキストサイトのアドレス。僕の零細で弱小なサイトとはまったく関わりのない、巨大で強大なオールマイティーなサイトのアドレス。彼女はこれからテキストサイトにのめり込むだろうから(凝り性なのだ)、今のうちに僕のサイトとはまったく違うタイプのサイトを紹介して、僕のサイトから眼を逸らさせる。証拠を多く残すことによって相手をミスリーディングさせると言うこの手法は、既に奸計とも策略とも言えない正攻法。しかし正攻法ゆえに人は他愛もなく引っ掛かる。いや、引っ掛かると言う表現はまるで僕が彼女を騙しているみたいだけど、実際状況を僕の有利な方に持っていこうとしているわけだから、同じようなものだ。

しかし困ったことに僕の脳裏には昨日思いついた「これが僕の作った文章だよ・・・こんな男でよければ、付きあってもらえないかな?」作戦が一日中掠めている。意外と僕は賭けをしたがる性格だったらしい。しかも分の悪い賭けを。気づくと自分のサイトのアドレスを彼女に送ろうとしている。なんて大馬鹿野郎なんだ、僕は。しかし、先程大言した通り、サイトがバレて嫌われるのだったら、僕はその程度の人間だったと言うことだし、僕と彼女はその程度の関係だったのだと言える。あー。つまりは僕がネット上で180°性格の違うキャラクタを演じているのが問題なんだよ!

テキストサイトと言うファクタが有るとはいえ、「自分と言う人間の全てを見てしまったとき、好意を抱いている相手はどういう反応をするのか?」と言う、古くさい、今まで語り尽くされ、悩み尽くされ、考え尽くされ、答えも出し尽くされた古典的な命題。しかしそれが古典的、普遍的であるがゆえに人は、僕は悩む。まともに、真っ向から僕は悩む。


4.
さっさと決着をつけてしまうことにした。スガシカオの歌のように告白は来年の4月ぐらい設定していたのだが、そうも言っていられまい。さっさと告白して、そこで断られようが何されようが構わない。もし仮にOKだったとして、その後で利枝ちゃんが僕のサイトを見つけてしまいその結果「大窪君ってこんな人だったの? ひどい信じてたのに嗚呼ガッテム!」なんて事になったとしても構わない。僕がその程度の人間で、彼女との関係もその程度だったってだけだ。ネットで演じている僕じゃなくて、本当の(と信じている)今の僕で勝負をつけたかったのだ。
潔いなあ僕。カッコイイね。惚れちゃうね。僕は薄ら笑いを浮かべて彼女にメールを送った。友人に紹介された店(ヘビーメタルディはないよな、と訪ねると友人は訝しげな顔をした。スガシカオぐらい聴け)の住所と、大事な話があることを書いて。まあここまで書いてしまったらなんの話かバレてしまっただろうが、まあこういう正攻法な感じに勝負を仕掛けるのが僕の持ち味だ。バレてしまっていたとしても、構わない。

待ち合わせの日。待ち合わせの時間より1時間ほど速く、僕は店についた。いやはや、この間から今日までよく記憶がない。今も気を抜くと倒れ込んでしまいそうだ。緊張しすぎだ。嗚呼約束の時間まであと・・・1分? オイオイ? 僕は50分ほどタイムスリップしてしまったのか? 人間って凄いなあ・・・って違うだろ。
と、僕が胸中でベタベタな独りノリ突込みをした時。約束の時間丁度に、真木利枝ちゃんは現れた。


心臓の鼓動は16ビート。いや、32ビート? あるいは64。とにかく僕の心臓は馬鹿みたいに速かった。僕は必死でそれを押さえつけ、散々脳内で繰り返した言葉-----「好きです付き合ってください」------を言おうと口を開いた瞬間。
「あ、あのさ」
「あ、あのね」
グッド・タイミング。ラブコメチック・スタンダート・シチュエーション。こんなにシンクロして口を開けるなんて。ここまでベタベタな男だったとは・・・。驚愕。愕然。
とりあえず、レディ・ファースト。僕は先を譲った。「え? 何?」
「いや、大窪君からどうぞ?」彼女も僕に先を譲ろうとする。
・・・『ラブコメチック・スタンダート・シチュエーション』でいくと、この先2人は譲りあって「何よ!」「なんだよ!」と言い争いになり、しかし最後には笑いあってハッピィ・エンド、と言うことになるんだろうけれど、流石のぼくもそこまでベタベタで都合のいい展開になるとは考えられない。僕は意を決して口を開いた。
「好きです付き合ってください」・・・言ってしまった・・・!
その瞬間。外を騒音(多分カーステレオを最高に設定した馬鹿な車)が通り過ぎた。僕の言葉は、馬鹿な車の馬鹿な音楽に馬鹿な感じで掻き消された、らしい。
彼女が「へ?」と、本当にわかっていない顔で僕を見返していたからだ。
失敗だ。もう言えない。あんな科白言えるはずがない。勇気のない僕の精一杯は、ありがちに終わった。さよならさ。いつもの風に吹かれて。
僕は無言で彼女に発言を許すジェスチャを行う。
すると彼女は。
「好きです付きあってください」と。
先程の僕とまったく同じ科白を。

僕は先程の彼女と同じように、「へ?」とわかっていない顔をした。

5.
と言うわけで、僕の告白は、まともなのかそうじゃないのか、ベタベタなのか斬新なのか、スタンダートなのかスタンダートではないのか、正統的なのか正統的ではないのか、正攻法なのか裏技なのか、さっぱりわからないままに終わった。しかし僕は彼女が大好きであり、僕を彼女は好いている。これはつまり、正攻法なカップル。正統派なアベック。真当な僕等。ベタベタな2人。まあこれはこれでいいじゃないか。

・・・さて。僕はパソコンに向かって、一息ついた。そろそろテキコンの管理人さんからのメールが来ているはずだ。今度僕が参加するリーグのテーマは「愛」。中途半端な裏技に賭けることはせず(正攻法でいけばそれなりにOKだってことは彼女とのやり取りで学んだ)、真当に普遍的に正攻法にこのテーマに取り組もう。正攻法に。まったくの正攻法に。


イヤッホウッ!


<Let's notURAWAZA>is HAPPYEND!